ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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少し長くなってしまいましたが、切りの良いところまで投稿させて頂きます!
皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m





個性『  』①

 

超常黎明期。『個性』に振り回され、世の中が混乱していた頃、『個性』を奪い与える『個性』を以て裏社会を支配した闇の帝王-オール・フォー・ワン。

その黄金時代(ゴールデンエイジ)。誰もが闇に潜むナニカを恐れた。数多の涙と血が流された。

雄英時代、歴史で習った。暗黒の時代。繰り返してはいけないと思った。

 

「皮肉ですねぇ。よもや私が、彼の二番煎じになろうとは・・・」

 

暴力による支配など望まない。けれど、恐怖に寄る支配に優る抑止力が無いとするのなら、ギロチンの刃を諸人の首元に突きつける事に(いな)は無い。

 

「殺されたくないのならば、清く正しく生きれば良い。人を傷つける事なく幸せになり、他人の幸福を妬むこと無く祝福できる人間に成れば良い。何も難しくないし、簡単な事であるはずです」

 

社会常識として存在する“善性”。

それを外れる“悪性”を何と呼ぶかは、誰だって知っている。

 

「それが出来ないのなら、(ヴィラン)と同じです。死んだって良い」

 

私は気絶させたスターアンドストライプを越えて歩みを進める。

極東の島国である日本の(ヴィラン)が大国アメリカの№1ヒーローを破った場面は、それなりにセンセーショナルだったことだろう。カメラが映す今の映像。私の姿は少なからず画面の先に居る人々の心を動かすだろう。それを自覚しながら、歩みを進めて言葉を続ける。

独り言では無い。

私の言葉が多くの人々に届いて欲しいと切に願う。

 

「悲惨なニュースが流れる度に、思うことが有る筈です。悲劇を喜劇として嗤うのでは無く、どうか被害者遺族の悲鳴(こえ)に耳を傾けて欲しい。理不尽に奪われた。もう二度と返っては来ない。いずれ、(おのれ)の身に起こるかも知れない恐怖に身を震わせて頂きたい」

 

そうすれば気がつける筈だ。

弁護など必要ない。

加害者に人権など要らない。

更生の余地など、最初からない。

あったとしても与えてはならない。

人が再び、殺されてからでは遅いのだ。

 

「・・・私は、誰も彼もを殺して回ろうというワケではありません。スターの様な例外もある。殺す人間は選ぶと約束しましょう。私の中の天秤はギロチンという“個性”であっても揺るぎはしない。彼女が生きて居ることがその証明。それを以て、どうか退いて頂きたい。もう・・・貴方と戦いたくは、ない」

 

「・・・・・・・・・それは出来ない相談だよ。()()

 

筋骨隆々の大男。何故に靡く二本の触覚。

二度と見られないと思っていた平和の象徴。

 

「・・・歩き続けた。夢を抱いて歩き続けた。首台正義としての人生を終えても歩き続けた。ムーンビーストとして歩き続けた。その道の先に立っていたのは、やはり“貴方”でした。残念ですが・・・わかっていたことです。貴方を相手に勝ち逃げなど、許される筈もない」

 

偉大なる脅威、オールマイトが全盛期の姿で私の前に立ちはだかっていた。

 

「オーバーホールが言っていた通りですねえ。彼の言葉には最後まで嘘が無かった。壊理さんの個性『巻き戻し』、そして個性『オーバーホール』によってチカラを取り戻した貴方が私の前に立つことを彼は変えることの出来ない未来として語り、そして、運命に抗うチカラを私にくれた」

 

右腕を横に伸ばしギロチンの刃を形成する。その切れ味はやはり切れ味の良い包丁程度までに堕ちている。誰一人として殺す事なく(ヴィラン)を倒す無敵のヒーロー、オールマイトこそが私の天敵。

全力を以てしても五分間しか伍することの出来ない相手。以前までなら、それでも良かった。オールマイトのマッスルフォームには時間制限が存在していたことを私は知った。

しかし、今は違う。全盛期を取り戻したオールマイトには時間制限がない。

どう足掻いても勝てない相手。天敵だ。

 

「しかし、それは以前までの話です」

 

右腕に形成したギロチンの刃に更に“個性”を足していく。

『筋肉増強』『歯刃』『剛筋』『巨大化』『耐久』etc...

 

「此所まですれば・・・私の刃は貴方の命に届き得る」

 

歪に巨大化したギロチンの刃。それを見たオールマイトの顔が曇る。

彼は何かを堪える様にしながら、口を開いた。

 

「君の姿が、オール・フォー・ワンと重な(ダブ)って見えるよ。私は少年のそんな姿、見たくはなかった」

 

オールマイトは私を憐れんでいる。

その事実に心がさざ波を立てていた。

 

「少年、少年と!何時まで私を子供扱いする気ですかねぇえええ‼エンデヴァー(現№1ヒーロー)は敗れ!スター(星条旗)も堕ちた‼最早、私を止められるのは貴方の他に誰一人として存在しない‼それでも貴方はッ、私を少年と呼びますか‼」

 

「勿論さ。私は君を魔王だなんて呼ばないよ。私は君を・・・止めに来たんだ。首台少年」

 

「ッ⁉揺るぎませんねぇ、貴方はッ!ではッ、これを見ても尚ッ、同じ言葉が聞けるのでしょうかねぇ‼」

 

上空を飛ぶ報道ヘリに放つ飛ぶ斬撃。音速を超えた速度のそれは容易く報道ヘリを落とし、中のリポーターとカメラマンは地面に叩きつけられる。・・・無論、血の匂いがしない彼らを殺す気は無かった。地面との衝突の瞬間に他の“個性”でフォローする気だった。

しかし、気が付けばオールマイトが狙っていた報道ヘリを担いで遠くへ不時着させていた。

 

「・・・は?」

 

そして、次の瞬間には再び私の前にたっていた。

瞬間移動。ではない。只の超スピードだ。

そうだ。思い出した。()()()のオールマイトは北海道から東京までを数十秒で移動することが可能だったのだ。

 

「もう君に誰も傷つけさせる気はないよ」

 

「チィッ!多少、速いくらいで!いい気にならないで頂きたい‼」

 

個性『ギロチン』に加え、組み合わせた個性の数は実に十以上。その全てが凶悪な敵の持っていた個性だ。特に“血狂い”マスキュラーの個性『筋肉増強』と“災害”ギガントマキアの個性『剛筋』と『巨大化』の組み合わせは比類無きパワーとスピードを産む!

 

その威力は全盛期のオールマイトにも匹敵する‼

 

「・・・と、思っていたのですがねぇ」

 

冷や汗が頬を伝う。

振り下ろしたギロチンの刃が、片腕で手首を掴まれ止められた。

 

「無理な個性の掛け合わせは、身体への負担が大きい。言っただろう?誰も傷つけさせる気はないよ。()()()()()()()

 

スターは言った。オールマイトは誰も傷つけずに悲劇を吹き飛ばすことの出来るヒーローだと。その“優しさ”は”甘さ“ではなく()()だと。その言葉に偽りはなかった。

 

「…事ここに至り、尚も()()()()()()()()()()()貴方には、尊敬の念を抱かずにはいられません。そして、それは私だけではないのでしょう。キャスリーン・ベイトという少女がスターダムを駆け上がったように、貴方の大きな背に憧れて走り出した少年少女が世界には数多くいる」

 

オールマイトは伝説だ。足りない部分など何一つない完成されたヒーローだ。

その黄金時代(ゴールデンエイジ)、全盛期の彼に及ぶ部分など私には何一つない。

 

「だが、しかし、()()()()()、貴方では照らせぬ闇がある」

 

上空からプロペラ音が聞こえてくる。オールマイトが不時着させた報道ヘリとは別のヘリが飛んできて、私たちの頭上で旋回を始めた。オールマイトの表情に緊張が奔る。

余子浜スタジアムで私が行ったセンセーショナルな演出を思い出しているのだろう。

地上波で流れた人体と車が融合した奇怪なオブジェ。悪の醜悪さを表した()()は、実に世間からの好評を得ることが出来たと私は考えている。

 

「世間は目を逸らさずに、見るべきだ。罪を、悪を、フィルターを外し、どうか直視してほしい。子供の悪戯で人が死んだ時、悪戯をした子供は“悪魔”だ」

 

旋回するヘリコプターから吊るされた()()()が揺れている。

頭陀袋(ずだぶくろ)を被せられ、一見()()かは分からない。

しかし、オールマイトなら分かるはずだ。

そのヒーローコスチューム、白銀の鎧に見覚えがある筈だ。

 

アレがナニカを理解して。

ソレがダレかに気が付いて。

オールマイトから表情が抜け落ちた。

 

「………ありえない。君に、そんなことはできない筈だ」

 

「何故?何度も雄英生徒を助けているから?彼が相澤先生の教え子だから?私と後継が一緒に食事をする仲だから?いいえ、そんなことが正義執行しない理由にはならないと何度も言っているではありませんか」

 

ムーンビーストはヒーローではない。

ムーンビーストはダークヒーローでもない。

老若男女の区別なく。子供であろうと殺す。

ただの危険思想を持つイカれた(ヴィラン)だ。

 

「オール・フォー・ワンを斃した時、雄英生徒の中にいる裏切り者の存在を知りました。許せないですよねぇ。彼は(ヴィラン)連合に情報を流すことで、その活動に加担していた」

 

会話の中でオールマイトの視線はずっとヘリコプターに吊られる死体に向けられている。

本当ならば今すぐにでも飛んでいきたい筈だ。しかし、私はそれを許さない。ギロチンに込める力を片時も緩めない。振るわれるギロチンの刃を押さえているこの状況で、彼が私の手首を離せば、たとえオールマイトであっても只では済まない。

だから、あともう少し。あともう少しだけ見ていて欲しい。

 

誰も彼も見て聞いて知るべきだ。

それには無論、オールマイトも含まれている。

 

「たとえ脅されていたとしても、その罪は許されるべきではありますまい。故に私のギロチンは、一切の矛盾なくその頸を刈り取った」

 

旋回するヘリコプターにつるされていた死体から、頭陀袋が落ちてくる。切り取った首を針金で胴体と繋げ、ヘリの動きと時間経過で落下するように細工をしていたのだ。

落ちてきた頭陀袋がグシャリと嫌な音を立てて地面にぶつかった。オールマイトの視線が地面に広がる赤色に向かう。そして、頭陀袋の隙間から除く金髪をオールマイトが見た瞬間、私は上空へと投げ飛ばされていた。

 

突然の天地逆転。しかし、私は直ぐに状況を理解する。空中で姿勢を整え、前を向けば眼前には迫りくる拳。喰らえば昏倒確実な拳を(すん)でで(かわ)す。

次に繰り出される蹴撃を同じく蹴りで返せば、僅かな拮抗の後に私は吹き飛ばされビルの壁に背中から衝突した。

 

「カッハ、はは、ハハハ、ハハハハハ」

 

吐き出す血に笑いが混じる。

オールマイトがようやく私を(ヴィラン)として見ていた。

 

「そうです…。それでいいのです…。貴方がヒーローで、私は(ヴィラン)だ…。貴方が助けるべき少年はもう、どこにもいない。さあッ、どうか刮目して頂きたい!私の言葉にッ、耳を傾けて頂きたい!この世界にはッ、息をしていてはいけない人間が数多くいる!」

 

目には目を歯には歯を、罪には罰を、人殺しは殺してしまおう。

 

「たとえそれが信念によるモノだったとしても、たとえそれが脅されてやった事だとしても、こんなつもりじゃなかったとしても、考えが足らなかった結果だとしても、間接的であっても、遠回しであっても、誰かの命が奪われ、涙が流れたのなら、正義執行を以てその悲劇を拭わねばなりますまい!」

 

殺人を肯定する正義。

復讐と言う名の正義。

 

「矛盾を孕んだ私の正義。否定するのなら、構いません。貴方の拳を以て、どうか否定して頂きたい」

 

ビルの壁から地面に落下し、砕けたアスファルトとガラス片が周囲に散乱する中で私はゆっくりと迫りくる偉大なる脅威(オールマイト)を見る。

 

「ようやく本気の貴方が来ましたねぇ!オールマイト‼」

 

私はこれから、(ヴィラン)として最強のヒーローに立ち向かう。

 

「ヒーローとしての貴方を超えて初めて、私は新たなる“象徴”になれる‼」

 

これが私の最終章。

これが、私が正義の象徴になる物語だ。

 

 

 

夜の帳が下りる。今宵、月の獣は再び英雄に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供の頃、虐待されてたんだ」

 

ある日、マックのハンバーガーを片手に死柄木弔が唐突に語りだした話は緑谷出久の今後の人生において大きな影響を及ぼすものだった。

 

「ヒーローに成りたいって言う度に庭に放りだされて、謝るまで家には入れて貰えなかった。“ヒーローの話をしてはいけない”っていう、父親の決めたルールがあったんだ。普段は優しいおじいちゃんやおばあちゃんもその時だけは止めてくれなくて、庇ってくれたのは母親だけだった。でも、欲しかった一言だけは…最後までお母さんにも言ってもらえなかったな」

 

“個性”を持たずに産まれた緑谷出久の人生は決して恵まれたものではなかった。世界総人口の約八割が“個性”を持って産まれる社会で“個性”を持たずに産まれるということは、普通ではないということだ。排他され、蔑まれ、いじめられる。生まれながらにして人は平等ではない。それが齢四歳でしった社会の現実。

しかし、それでも緑谷出久が前を向いて来られたのは、憧れのヒーローが居たからだ。

それがもしヒーローに憧れることも許されない家庭に産まれて居たらと考えて、緑谷出久は唾を呑んだ。

それを見て死柄木弔は口元を歪めた。

 

「お姉ちゃんが居てさ、ヒーローに成りたいっていう俺の夢を応援してくれたんだ。お父さんに内緒で一緒に姉弟(してい)ヒーローに成ろうって。今思えば、お姉ちゃんは頭がよかったよ。お父さんの前では将来の夢はおよめさんって言ってたし、俺もそうしていれば叩かれずに済んだんだろうな」

 

ハンバーガーを食べ終えた死柄木弔は「でも、ダメだった」とソースで汚れた指先を舐めながらに笑う。

 

「ヒーローって、カッコいいだろ?」

 

緑谷出久は頷いた。

それを見て死柄木弔は話を続ける。

 

「でも、お父さんにとっては違ったらしい。お父さんの母親がヒーローだったらしいんだけど、他人を助ける為に捨てられたって叩かれた時に言ってたんだわ。他人を助ける為に、家族を傷つけるのがヒーローだって、スゲー怖い顔してた。お父さんにとってヒーローはカッコよくなかったんだって、今ならわかるぜ。叩いたのは絶対に許さねぇけどな」

 

「…ヒーローに憧れたのに、どうして(ヴィラン)に成ったんですか」

 

「おい、敬語。ヤメロつったろ。今の俺たちは対等な立場だ」

 

「あ、…ごめん」

 

「簡単に謝んなよ」

 

死柄木弔は頭を掻きながら立ち上がり、緑谷出久の横に腰を下ろす。

正面ではなく横並びで話す心理には、相手との距離を縮めたいという思いがある。

 

「五歳になって初めて“個性”が発現した。で、暴走した。個性『崩壊』、俺はこの手でお姉ちゃんに触れちまった」

 

「―――ッ‼それって、まさか…」

 

「そっから先は、正直、よく覚えてない。気が付けば当たり一面が崩壊してて、周りにはいくつも肉片が転がってた。そして、目の前にはお父さんが立っててさ。俺、助けて欲しくて手を伸ばしたんだ。そしたら、高枝切りバサミで叩かれた。はは、不思議だよなぁ。そこだけは鮮明に覚えているんだぜ」

 

意図せずして家族を殺してしまった五歳の少年。

凄惨な悲劇に緑谷出久が同情しそうになる中で、死柄木弔がそれは心外だと言いたげに顔の前で手を振った。

 

「おい、勘違いするんじゃねぇぞ。俺は同情して欲しい訳じゃねぇ。お前の質問に答えてやっているだけだ。俺がどうして(ヴィラン)に成ったのか、だろ?きっかけは、この後なんだ」

 

死柄木弔は笑いながらに言う。

 

「頭を叩かれた俺は、明確な殺意をもってお父さんに触れた。死ねって、叫びながらな。その瞬間、途方もない快感が全身を貫いたんだよ」

 

「え…ど、どうして?だって、そんなの…おかしいよ」

 

「ああ、それが普通の感性だよな。多分そこが普通の奴と普通じゃない奴との分水嶺(ぶんすいれい)なんだろうぜ。家族を殺した事への罪悪感よりも、俺の夢を否定し続けた奴らが死んだ事への喜びの方が勝っちまった。お母さんもお姉ちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんも、たぶん、お父さんのことも、好きだった筈なのにな」

 

そこから先は坂から転げ落ちるだけだったと死柄木弔は語った。

誰かが手を差し伸べてくれていたら、どこかのタイミングで止まれたかもしれない。

しかし、家族を殺してしまった少年に手を差し伸べてくれるヒーローはおらず、代わりに少年に手を差し伸べたのが闇の帝王‐オール・フォー・ワン。

その後の死柄木弔の人生がどうなったかは想像に難くない。個性『崩壊』という危険な力とオール・フォー・ワンによる悪の英才教育を経て、死柄木弔はこうして此処にいる。

 

「これが俺が(ヴィラン)になるまでの物語だ。次はお前の番だぜ。緑谷、お前はどうしてヒーローになろうと思ったんだ?」

 

「僕は、ありきたりだけど、オールマイトに憧れて―――

 

死柄木弔に促され緑谷出久は語り始める。そして、自らのオリジンを語り終える頃には緑谷出久から死柄木弔への敬語は完全に抜けていて、二人の距離は縮まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後のマクドナルドというまるで級友(クラスメイト)との放課後の様なシチュエーションで死柄木弔と語り合った事を思い出しながら、緑谷出久は個性『変身』を解いたトガヒミコを伴い、ビルの屋上からムーンビーストとオールマイトの戦いを見守っていた。

複数の個性を合わせた複合個性と圧倒的なパワーによる攻撃の応酬は、正しく神野でのオールマイトとオール・フォー・ワンの戦いを彷彿とさせるモノで、世間にはムーンビーストこそが魔王の後継に見えている事だろうと緑谷出久は思う。

 

「ムーンビーストさんは、この状況を望んでいたんだ。衆人環視の中で最高のヒーロー(オールマイト)と戦って勝つことで、平和の象徴を越える正義の象徴に成ろうとしている」

 

「たとえ勝ち目が無くとも・・・ですね」

 

「・・・うん」

 

トガヒミコは唇を尖らせていた。負けるとわかっている戦いに挑んでいるムーンビーストのことが面白くなくて仕方なかったのだ。ムーンビースト贔屓のトガヒミコの眼からみても、彼の劣勢は明らかだった。複合個性による初見殺しで拮抗しているように見せてはいるが、手品の種は無限には無い。いずれ限界がくる。その時がムーンビーストの最後だと言う事くらいは彼女にもわかった。

 

「神父様は死ぬ気なのです。それも後ろ向きな気持ちじゃ無くて、前向きに死のうとしているから始末が悪いのです。勝てたらいいなじゃ無くて、勝つつもりで戦っています。勝てないって理解している自分を(ダマ)しながら・・・馬鹿なのです」

 

「その姿勢を世間に見せる事も、ムーンビーストさんの狙いなんだと思う。大物喰い(ジャイアントキリング)、圧倒的な強者を弱者が倒す番狂わせが社会を沸かせて熱狂させるから、もしも本当にムーンビーストさんがオールマイトに勝てたなら、社会は変わるんだと・・・思う」

 

「良い方向にですか?それとも、悪い方になのでしょうか?」

 

「わからないよ。只、どちらにしてもその社会にムーンビーストさんの居場所は無くなってしまうんだ」

 

「それは、どうしてなのでしょう?神父様が勝ったら、オールマイトに代り神父様が正義の象徴として立つのではないのですか?」

 

「“どんな理由が有れ人殺しは許さない”。”誰で在っても差別はしない“。ムーンビーストさんは勿論、其処に自分も含んでいるから、正義の象徴に成るためにこれまで行ってきた罪を償おうとする筈。たぶん、全部を成し遂げた後、ムーンビーストさんは自らの個性(ギロチン)で自ら命を絶つつもりなんだと思う」

 

「・・・破滅的願望なのですね。やっぱり、神父様は馬鹿なのです」

 

トガヒミコは屋上の(へり)へと一歩踏み出した。

緑谷出久は慌ててトガヒミコの手を握った。それをわかっていたトガヒミコは緑谷出久の手を握り返しながら、犬歯を見せて笑った。

 

「出久君は、私が死んじゃったら泣いてくれますか?」

 

「え、うん。たぶん三年、いや、五年くらいは、立ち直れないと思う」

 

「出久君の時間を五年も貰えるなんて嬉しいのです」

 

「君が生きて居てくれるなら、その、僕の一生は、えっと、君のモノ・・・だったり・・・その・・・するかもしれません。あ、えっと、ゴメン!気持ち悪いよね!」

 

「ううん。とっても嬉しいのです」

 

トガヒミコは緑谷出久の胸に飛び込み、背中に手を回す。そして、「イイニオイ⁉」と言って固まって緑谷出久の耳元へ唇を寄せて囁いた。

 

「出久君。こんな私に、親から悪魔の子だって言われた私に、生きて居て欲しいって言ってくれてありがとう。とってもとっても嬉しいよ。大好きだよ。()()()()()、私は神父様にも知って欲しいのです」

 

トガヒミコにとってムーンビーストがどのような存在であったか。

出会いは血に塗れ、共に歩く道には死体が転がっていた。裏切る為の潜入だった。

それでも彼と過ごす日々の中でトガヒミコは本心から笑うことが出来た。

自分と同じ金髪。赤い眼鏡の下の閉じられた瞳。口元に張り付いた胡散臭い微笑み。

誰に対しても優しい彼の口から自分に向けて放たれる言葉はどこか辛辣だったが、確かに温かさがあったとトガヒミコは信じている。

 

少女はその背中に居もしない兄の姿を重ねていた。

 

「出久君、私、神父様に生きていて欲しいのです」

 

それを彼が望んでいないことを少女は誰よりも知っている。それでも助けを求めて囁かれた小さな本音(こえ)に緑谷出久の身体の硬直が溶ける。

緑谷出久。彼は助けを求める女の子の声に奮起するごく普通の男の子だ。

 

「大丈夫。僕が居るから」

 

そして、彼はいつの日にかオールマイトを超える最高のヒーローになる少年だ。

緑谷出久はトガヒミコを強く抱きしめた後、肩を押してその身を離した。

そして、地上で戦うオールマイトとムーンビーストに視線を向けて屋上の縁へと三歩踏みだし、地上へと向かう。

 

屋上から落下していった緑谷出久に向けて、トガヒミコは叫んだ。

 

「出久君!また三人でッ、中華屋さんに行こうね‼」

 

「うん!」

 

その声に力強い頷きを返して、緑谷出久はオールマイトとムーンビーストの戦いに横槍を入れる。

 

 

 

突然の介入。

 

「緑谷少年⁉」

「おやおや、後継」

 

空から落ちてきた緑谷出久。

そして、同時に地面をひび割れさせながら現れたのは()()()()

 

「ヒロインとのキスは済んだのか?ヒーロー」

「き、キスなんてしないよ⁉まだ二人で遊園地に言って手を繋いでクレープを半分こもしてないんだから‼」

 

肩を並べて親しげに話す二人にオールマイトは目を見開き、ムーンビーストは目を細めた。

 

「これは・・・どういうことなのですかねぇ。後継、何故貴方が、(ヴィラン)の隣に立つのですか?」

 

ムーンビーストから発せられる殺気に唾を飲みながらも、緑谷出久はその問いかけに覚悟を持って答えた。

 

「ムーンビーストさん。僕は貴方の物語を、台無しにしに来ました」

 

緑谷出久の言葉を死柄木弔が笑いながらに続ける。

 

「先生も死んだし、年寄り(ロートル)はもう引っ込んでいて欲しいんだよなぁ。あんたらの戦いは余子浜で決着してんだろ」

 

「どういう意味、ですかねぇ」

 

死柄木弔は笑いながらにムーンビーストとオールマイトを見て、緑谷出久は覚悟を持って二人に拳を突き出した。

 

「この戦いを終わらせに来ました」

「あんたらの物語はもう終わってるって気がつけよ」

 

 

 

「「ここから先は僕(俺)が最高のヒーロー((ヴィラン))になる物語です(だ)」

 

 

 

ムーンビーストを介して交わらなかった緑谷出久と死柄木弔の物語が混じり合った。お互いにお互いを理解しているとは言い難い。しかし、通じ合った部分は確かにある。

先達を超えるという共通する部分もある。故に築かれた脆くも揺るがぬ共同戦線。

ムーンビーストが存在しなければありえなかった世界線。此所にムーンビーストにとっての最終章でなく、彼らの物語の序章が始まる。

 

緑谷出久は最凶の(ヴィラン)、ムーンビーストを止める為に拳を握る。

死柄木弔は最強のヒーロー、オールマイトを斃す為に五指を開く。

ムーンビーストは状況を理解出来ない苛立ちをギロチンの刃に込める。

そして、オールマイトは自分とは違う道を選んだ少年を見て、悲しげにしながらも微笑んでいた。

 

「僕は貴方を止めます」

「ああ、優先すべきは、正義執行ですかねぇ」

「これ以上、誰も殺させはしないよ」

「全部、ぶっ壊してやる」

 

満月の夜。

最後の戦いが始まった。

 

 

 







オールマイトの黄金時代。

オール・フォー・ワンとの戦いで内臓を損傷する前の肉体の全盛期。そのギャク漫画にも匹敵する程の理不尽さを知りたい人は”僕のヒーローアカデミア-イリーガルス-ヴィジランテ”を是非、読んでください!デク君とは違ったヒーローに憧れる主人公がとてもカッコイイので!そして、ステインの黒歴史を知って欲しい!とてもカッコイイので!



ムーンビーストの最終章。

なんと二度目の最終章。それを止められてイライラ。気分は巡礼の十字行だったのに・・・。



緑谷出久の序章。

死柄木弔との友情を少しだけ育んだ。付き合っている可愛い彼女がいる。その出会いが彼を変え、オールマイトと戦う事も厭わない覚醒をもたらした。プルスウルトラ、彼は最高を超えるヒーローになる。



死柄木弔の物語。

緑谷出久と少しだけ友情を育んだ。原作とは違いオール・フォー・ワンが完全消滅。彼の中でオール・フォー・ワンが恩師のまま消えた事でなんか色々と思うところがあったらしい。トラウマを乗り越えプルスウルトラ。とりあえず恩師の遺志を継ぎ、掲げた打倒オールマイトのために頑張る。

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