ヒロアカの完結が目前と言うことで急ぎ文章を書き上げての投稿です。
単行本派なので今後がとても楽しみです(^^)
皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
四人の乱戦。しかし、実態は三つ巴の戦い。緑谷出久と死柄木弔が共闘態勢にある以上、ムーンビーストとオールマイトの二人は無闇矢鱈に動くことは出来ない。
急いた攻撃を防がれれば、残る一方から攻撃を受けるのは明らか。
此所での定石は、待ちの姿勢。誰が焦れて先に動き出すかという我慢比べ。
そのことをオールマイトは言わずもがな、強個性ではなく戦闘経験によってトップ
待てば、焦れて動き出すのは戦闘経験に乏しい緑谷出久と死柄木弔のコンビだっただろう。
それを理解し、それが定石と捕らえながら、三つ巴となった
「死柄木ッ、弔ァアアアア‼」
正義執行。最早、語る必要も無いムーンビーストの行動原理。正義を掲げる彼が動き出さない理由はなく、その理由は理屈を優に凌駕しえる。
故の咆吼。振るわれるギロチンの刃を前に死柄木弔が両腕を突き出す。五指を開いた彼、独特の迎撃の構え。個性『崩壊』によるギロチンの破壊を目論むその両手は、しかし、悪手。
個性『ギロチン』の特性が死柄木弔を前に十全に発揮される以上、死柄木弔の指先がギロチンに触れて刃を崩壊させる前に、その刃が両腕を切り落とす。
攻撃を防がれたのなら、残る一方から反撃を食らうだろう。
しかし、それは悪には防ぎえぬ刃。その一刀は一切の矛盾無く敵を討つ。
死柄木弔の
「チッ」
思わず漏れた舌打ちにはムーンビーストの様々な感情が込められている。緑谷出久はオールマイトと同じく個性『ギロチン』の特性上、ムーンビーストにとって相性の悪い相手。
加えてムーンビーストには将来を嘱望されるヒーロー志望の少年少女の腕を切り落とすなんて真似が出来るはずも無く、思わず力を抜いてしまった。
「薄皮一枚の
悪態は己についたもの。加えて彼は背後から迫る脅威を諦める。
攻撃を繰り出して、防がれた。ならば、最初からわかっていたとおり、残る一方からの攻撃がくる。
オールマイトの拳に背後から襲われ、ムーンビーストは木っ端の様に吹き飛んだ。
「すまない。が、よもや卑怯とは言うまいね。正直、私にもあまり余裕がないんだ」
「・・・イテテ、そういう冗談は笑顔を消してから言って頂きたいモノですねぇ」
「君の方も私の拳をイテテで済まさないで欲しいかな」
世代を経る毎に複雑化する個性。いずれ人の身では個性を抑えられなくなる。個性的である事が社会生活を脅かす日が来る。世界を終末に導くとする個性終末論。
ムーンビーストはその最先端とも言える存在。人殺しを正当化した正義の使者。
その肉体は複雑化した個性『ギロチン』に追いつくため、既に正常な人体の強度を超えていた。
「何時まで笑っていられるかッ、見物ですねぇ!」
「君が諦めるまでさッ!」
無敵のヒーローと殴り合う最悪の
だからこそ、二人は同時に足を踏み出した。
子供では踏み込めない大人の戦い。
足りない力と経験をお互いに補い合うと決めた。
二人の視線が交差し、緑谷出久は頷き、死柄木弔は口角を吊り上げた。
「行けッ!緑谷ッ!足場は
死柄木弔の言葉とは裏腹に、彼の手が触れた地面が『崩壊』を始める。連なる崩壊。その崩壊は、地面に立つ自由を奪う。オールマイトとムーンビーストは崩壊の連鎖から逃れる為、互いに空中への跳躍を選択した。
緑谷出久と死柄木弔は互いにオールマイトとムーンビーストを見続けていた。その二人が見いだした最強と最悪に共通する僅かな
オールマイトは脅威的な
空。それはアメリカ№1ヒーロー、スターアンドストライプでさえ
そこに緑谷出久は個性『黒鞭』と個性『発頸』、そして個性『ワン・フォー・オール』を以て踏み込むことが出来る。
複合個性による擬似的な飛行。それはオールマイトでさえ成せなかった。
「そうかい・・・次は、君の番だということか」
オールマイトは自らより高く跳ぶ弟子を見て、一瞬だけ目を瞑った後、白い歯を見せて
「緑谷少年!君に任せる‼」
跳躍による擬似的な飛行では届かない場所に行った弟子への短い言葉。緑谷出久は勢いを失い地上へと降下して行くオールマイトを振り返る事なく、更に上だけを見て大声を張り上げた。
「はい‼」
複合個性による擬似的な飛行。それは以前の
本気ではあった。しかし、全力では無かった。その事実に緑谷出久の身体は僅かに震えたが、
決して折れぬ『正義の心』。
緑谷出久が見上げる先にそれを教えてくれた男がいた。
「諦めませんねぇ。あの人があの人なら、君も君だ。未だに私を救おう等と、おこがましいにも程がありますよ」
ムーンビーストの背から生えた刃の翼。羽ばたき無く空中を飛ぶ姿はまるで天使だと緑谷出久は思った。
そうだ。彼はこれから人を超える
「トガヒミコと約束しました。貴方を、誰にも、殺させない。貴方自身からも、貴方を救ってみせます」
「・・・まったく、本当に嫌になりますねぇ。あの人の
閉じられていた眼が開き、金眼が少年を見下ろす。
愛は捨てた。夢は破れた。ただ一つだけ残った
緑谷出久には、そうとしか見えない。疲れ切った大人の視線に晒されながら、少年は叫んだ。
「貴方は本当にッ、こんな
家族。
初恋。
親友。
そして、愛した人。
言葉で止まるには無くした者が多すぎた。捨てた者が多すぎた。
「・・・個性『ガトリング』
ヒーローを殺した。
「・・・個性『歯刃』
「・・・個性『凝血』」
親友を殺した。
「・・・個性『ライフル』」
最愛を殺した。
「個性ッ、個性ッ、個性個性個性個性個性個性個性個性個性個性個性個性‼」
積み上げた死体の山。
骸で作った道の果て。
断罪の果てに彼が求めたものは贖罪ではない。
ただひとえに―――
「『
―――を求めた。
その顔が、緑谷出久には、助けを求めている様に見えたから―――彼が握る拳は一番星よりも輝いていた。
死柄木弔は地面に大の字で倒れながら、夜空でぶつかり合う蒼と緑の光を見上げていた。
死柄木弔の四肢は砕かれ、真っ直ぐに伸びている指は一つとしてない。オールマイトにして其処までしなければ成らなかった死闘。
それでも尚、彼の口元から笑みが消える事は無く、只、眩む視界で夜空を見ていた。
「俺は負けちまったが・・・勝てよ。緑谷、出久」
地上へ降りた後、死柄木弔との三分三十四秒にも及ぶ死闘を制したオールマイトは託した弟子の緑の軌跡を目で追いながら、言った。
「大丈夫。緑谷少年、いや、
「・・・」
オールマイトの言葉に死柄木弔が返事をすることは無かったが、二人が目で追う輝きは同じ色をしていた。
高層ビルの屋上で治崎壊理は義兄の手を握りながらにぶつかり合う蒼と緑の光を見上げていた。
「廻さん。ムーンビーストさんが、勝つのかな」
オーバーホールは手を握り返しながら、言う。
「俺たちに誇れるような勝利はない。奴に言った言葉に嘘はない。この敗北は、奴も初めからわかっていたことだ。だから俺は、奴に、アイツに、
オーバーホールは付けていたペストマスクを外した。
不快に感じる筈の外の空気を、今だけは吸っておきたいと思えた。
「壊理、目を逸らすなよ。今夜がアイツの最後の夜だ。だが、
「うん」
極道の復権。その夢に
目を覚ますと見たくもない顔が目の前にあった。鋭く尖った犬歯。腫れぼったい目元。黄色い瞳と縦長の瞳孔。
後頭部に感じる温もりと柔らかさで、現在、トガヒミコに膝枕をされているという無様な状況であることがわかった。
直ぐに起き上がろうと身体に力を込めたが、残念ながら力が入らない。
それで私は負けたのだと理解ができた。
「よもや、オールマイトではなく、後継に負けるとは、思いませんでしたねぇ」
「神父様!落ち込まないで欲しいのです。あっちで出久君も気絶していますし、凄く惜しかったのです」
「下手くそな慰めですねぇ。というか、貴方は何時までこうしているつもりですか?早く彼氏の介抱に行かれては?」
「出久君の傷は神父様のモノより、ずっと軽いのです!それに出久君は血塗れが一番カッコイイから大丈夫!」
何が大丈夫なのか私には欠片も理解が出来ない。呆れる私の頬が雨水で濡れた。
雨が降ってきたのかと見上げれば、トガヒミコの頬を涙が伝っていた。
「・・・トガヒミコ。どうして貴女が泣くのですか?この勝負、後継の勝ちではありませんか。貴女の望んだ通りの結果でしょう」
「私は、別に、神父様が負ける姿を見たかったワケでは、ないのです」
オールマイトの打倒という私の集大成に後継を嗾けて水を差しておきながら、涙を零す複雑な乙女心が私には欠片も理解が出来ない。
しかし、何故だか彼女の泣き顔は見ていて気持ちのいい物では無いと思った。
「泣き止みなさい。トガヒミコ。確かに私は負けました。私には、結局、何も変えることができませんでした」
彼女の涙を拭おうと思ったが、残念ながら腕が上がらない。
だから代わりに私は言葉を続ける。
「家族を殺され、社会への復讐を誓い。初恋を忘却し、親友を殺しました。同胞の手を振り払い、正義を謳った。そして、愛した人と無垢な命すらないがしろにして尚、社会は何も変わらなかった」
私のやり方が間違っていたと言う事なのだろう。
人一人の力では、社会は変えられない。
変わるべきは己だったと言う事なのだろう。
「最初から最後まで、先生方の言葉こそが正しかった。
許す。許せない。
その狭間を恐れること無く生きるべきだったのだろう。
私は失敗した。
「だから、トガヒミコ。貴女は私と違う道を行きなさい。社会を憎み
この子に涙は似合わない。
似合うのはきっと―――とびっきりの笑顔だ。
「貴女は初恋を忘れず、友達を大切になさい。そして、愛した人と幸せな家庭を築くのです。この私にして、成せなかった。偉業を貴女に託します。
罪を忘れろなどと、恥知らずな事を私は言わない。
けれども、それでも、一度くらいは、
「貴女が幸せに成る日まで、誰かが貴女の罪を赦さずとも、この私が、このムーンビーストが、貴女の罪を赦しましょう」
「だから、渡我、被身子。貴女は世界一、幸せな女の子になりなさい」
彼が最後に言った言葉は呪いの言葉の様な言葉だとトガヒミコは思った。
同時にどうしようも無く湧き上がる憎しみを消し去る為の聖句のようにも思えた。
だから、渡我被身子は涙を堪えながら精一杯に笑って言った。
「神父様。おつかれさまでした」
この日、
誰も殺されない夜の最初で最後の死者だった。
次回、完結です。