皆様の暇つぶしになれば幸いです(^^)
“平和の象徴”。
たった一人で其処まで上り詰めた
名実ともに
「来年から此処で働く新人の私が来たー!よろしくお願いしますッ‼」
オールマイトの同僚となる他の教職員への掴みの挨拶はばっちりと決まり、ぼさぼさの頭と無精ひげに上下スエットという浮浪者の様な見た目の男性教諭‐相澤消太‐ヒーロー名“イレイザーヘッド”以外から温かい拍手で迎えられた。
来年度より、オールマイトが雄英高校にヒーロー科の教職員として働くことは部外秘であり、今はまだ伏せられている。それはオールマイトが第一線から退くという情報が裏社会に流れれば混乱は避けられないだろうという予想と、そして、闇社会の権力者がオールマイトが在籍することになる雄英高校に自分の息のかかった者を送り込もうとするのを未然に防ぐための判断だった。
だから、本来ならこうしてオールマイトが雄英高校が夏休み期間に入りある程度、人が減っているとは言え事前に挨拶にやって来ることは“合理的ではない”と相澤は思う。
しかし、同時にコレはオールマイトの雄英高校職員へ向けての挨拶と
「HAHAHA!そういうわけさ!みんな、彼は凄いヒーローだけど先生としては新人だから、色々と助けてあげて欲しいのさ!よろしくね!」
雄英高校の校長‐個性『ハイスペック』により“人間以上の頭脳”という個性が発動したネズミである根津校長がそう締めくくりオールマイトの顔見せは終わった。
そして、ここからが本題。
雄英高校の教職員は全員がヒーローとして名を馳せている。その中でも更に選りすぐられた教職員のみが会議室へと集められた。
その中には勿論、教職員としては新人だがヒーローとしてはナンバーワンのオールマイトの姿もある。
「さて、それでは
会議の音頭を取るのは根津校長。この会議の為に自慢の毛並みを磨きに磨き上げていて、“今回こそは”という意気込みに満ち満ちている。
その思いを汲み取りつつ根津校長の隣に立つ香山睡は、18禁ヒーロー“ミッドナイト”として機器を操作しスクリーンに
スクリーンに映るのは街中を歩く長い金髪と赤い眼鏡を掛けた男の姿。盗撮されたとみられるその画像が
「
ミッドナイトは先日、自宅近くをランニング中に花屋の店先で見知らぬ店員から渡された
“
差し出し人は勿論、ムーンビースト。彼から
「相変わらず、ふざけた真似をしますね。完全に俺たちは舐められている」
イレイザーヘッドがそう言うと、隣にいたプレゼント・マイクは苛立つ気持ちには同意しつつも
「苛々すんなヨ!俺っち達は奴に舐められるだけの実績を積み上げて
プレゼント・マイクは軽い口調でそう言うが、その目は笑っていない。それはこの場に集まった教職員全員が同じだった。彼らはプロヒーロー、それも雄英高校の教職員として次代のヒーローを導くに足る実力者達である。そんな彼らがムーンビーストを犯行予告がありながら、これまで三度も取り逃がしているという事実。
いや、それ以上に嘗ては生徒として接していた彼の凶行を未だに止められていないという事実が重く圧し掛かっている。
「一度目は手心があったかも知れねぇ。二度目は気負い過ぎたかも知れねぇ。けど、三度目はミッドナイト以外、奴が逃げるまで現場にも辿りつけなかったんだZE。…俺っち達の完全敗北だ。…俺らがシャンとしてりゃ、奴に罪を重ねさせずに済んだ」
プレゼント・マイクの言葉に重い沈黙が会議室を支配する。
その状況を合理的では無いなと言いながら、イレイザーヘッドが打ち破る。
「俺たちは反省会をしに集まった訳じゃありません。合理的ではない過去の話は無しにして、これからの話を進めましょう。四度目は無い。次こそは奴を捕らえなきゃ、ヒーロー失格どころの話じゃなくなりますよ」
「
努めて明るく言うプレゼント・マイクに答えて元気よく上がった手は筋骨隆々だった。
「ハイ!ハイハイハイ!」
「はい!オールマイト!」
「まずは私にムーンビーストについての情報を深く共有させてほしい!いや、根津校長から頂いた資料には目を通しているのだが…それを読んでも彼が君たちを出し抜き三度も逃げきっているという事実は、信じがたい。何か理由があるのかな」
「確かにッ!こいつはソーリー!自信満々で座ってるから、アンタが初参加だってことを忘れてたZE!コーチョー!」
プレゼント・マイクが根津校長の方を向く。
根津校長は隣にいるミッドナイトを一瞥した後、頷きながら小さな口を大きく開いた。
「そうだね。まずはオールマイトの為にムーンビーストについての話を、いや、この学園でヒーローを目指していた
それはヒーローを夢見た子供が、ヒーローには成れなかっただけの話。
取るに足らない挫折の話だ。
ただ周りがそうだったから、流されるままに“将来の夢はヒーローです”と作文に書いた。
彼はそんな子供だった。だから、当然に雄英高校ヒーロー科への入学試験にも落っこちた。
その結果を首台正義は当然のものとしてショックも無く受け入れた。
大した理由も無くヒーローへの道を歩こうとした。大した信念もなくヒーローに成ろうした。そして、たとえヒーローに成っても大した目的がある訳でもなかった。
だから、自分はヒーローには成れない。
その事実を受け止めつつ、それでも雄英高校普通科に入学したのは彼なりの家族への恩返しだった。
何も考えずにヒーローに成ると言った自分を応援してくれた両親。そして、そんな自分に憧れを向けてくれた弟。彼は家族を愛していた。
だから、家族をあまりガッカリさせない為に雄英高校の普通科に入学してヒーロー科への編入を目指す姿勢を見せた。
そして、気が付いたことがあった。首台正義にはヒーローへの熱意は無かったが、ヒーローに成れる才能はそれなりにあった。おそらく熱意を持ってトレーニングを積んでいれば雄英高校ヒーロー科に入学できた位には優秀だった。
それに気が付いた彼はどうしたものかと考えた。
自分には才能が有るのだからヒーローに成るべきかと考えつつも、そんなことで
そんな気持ちで学園生活を送る中で、彼は遂にヒーローを目指すに足る答えを得た。
一目惚れだった。その人を眼にした瞬間に電撃が身体を走り抜けたのだと、彼は後日、当人を目の前にして訴える程に、鮮烈な初恋をした。
———香山先生!今日もトレーニングをお願いします‼
動機が不純であることは誰の眼にも明らかだったが、雄英高校で“普通科の怪物”と噂されかけていた逸材が熱意を宿した事に教職員たちは苦笑しつつも応援を始めた。
当人である香山睡‐ミッドナイトとしても青臭い恋心に答えるつもりは無かったけれど、さっぱりとした彼の好意は気持ちの良いものだったので、生徒だからとあしらいつつもトレーニングには付き合いアドバイスもした。
そうして首台正義は教職員たちの
そして、訪れた編入試験の日。
ミッドナイトが試験官を務める事になった試験の日、彼は登校して来なかった。
その日の朝、閑静な住宅街にふらりと現れた
首台正義が担ぎ込まれた病院に担任の教師と共に駆け付けたミッドナイトは其処で目を覆いたくなるような光景を見た。
———香山先生!貴女に恋をしました‼
顔を合わせれば何時でも飛んできた溌剌とした声は無かった。
———僕は貴女の隣に相応しいヒーローに成ります‼
まるで青春映画に出てくる主人公の様な台詞を恥ずかしげも無く出す口からは、聞きたくない怨嗟の声がブツブツと漏れていた。
———香山先生!睡さんって呼んでいいですか!学校では先生って呼べ?学校以外なら良いんですね!ぎゃあ!?痛いッ、叩かないでください!体罰ですかッ、訴えますよ!それが嫌なら、僕と付き合ってください!なあッ、個性はずる…い…ぐぅ…。
担任の教師からの呼びかけに答えは無い。しかし、自分の声には反応してくれたことに安心したミッドナイトは、次の瞬間に少しでも安心してしまった事を後悔した。
———香山先生!今日は“月が綺麗ですね”!…あれ?通じてませんか?先生が何時も僕を子供扱いするから、今日は大人な告白をしてみたのですが?夏目漱石ですよ!知りませんか?“月が綺麗ですね”の意味は、アイラブユーです‼
キラキラとした好意を向けてくれていた綺麗な金色の瞳は、暗い汚泥の様な闇に覆われていた。か細く自分の名前を呼んだ首台正義をミッドナイトは抱きしめた。
教師と生徒という関係でありながら、こんなことをするべきではないと文句をいう者がいるのなら、殴り飛ばそうとミッドナイトは思った。
今はこうするしかないのだ。こうでもしないと次の瞬間に彼は砕けてしまうと確信した。
そして、首台正義が眠りに落ちる時までミッドナイトは彼を守る為に抱きしめ続けた。
首台正義という生徒の身に起きた悲劇については次の日の職員会議で話し合われた。
其処で決定したことは首台正義の心が癒えるまでの間、彼を休学扱いにすること。
そして、もし彼が再び学園に戻ってきたのなら、ヒーロー科で受け入れるということだった。
特に後者はミッドナイト及びに彼のトレーニングに付き合っていた教職員が強く訴えた事だった。
ミッドナイト達はヒーローであるからこそ、首台正義が再び立ち上がることが出来ると信じていた。きっと悲劇を乗り越えてヒーローに成れると信じた。
そして、その信頼は決して間違ったものではなく、首台正義は確かに悲劇から立ち上がってみせた。
一人の女性を愛する為にヒーローを志した少年は、愛する心はそのままに悪を滅する正義のヒーローに成りたいと心から願った。
———僕を悲劇から引き揚げてくれた先生達の様に、僕も悲劇に泣く誰かを助けてあげられるヒーローになります!
しかし、そんな願いは、再びあまりにも呆気なく砕かれる事になる。
首台正義の復学が決まってから、暫く後に彼の家族を惨殺した
その
既に連続殺人の容疑で全国指名手配されていた
疑念は疑惑を呼び、メディアは惨劇を悲劇ではなく喜劇であるかのように面白おかしく騒ぎ立てた。
“
その文字を見た瞬間、ミッドナイトは感情のままにテレビを殴りつけて破壊した。
そんな事実はどこにもなかった。首台家はムーンフィッシュとは何の関係もなく、彼女の大切な教え子はムーンフィッシュの本名も知らない。
それなのに世間の一部、無論、ほんの一部の過激なメディアのキャスターは言った。
“あの家族は殺されても仕方なかったと思いますよ”———と。
そこで首台正義の初恋は終わった。
それで首台正義の願いは終わった。
そして首台正義の正義は始まった。
“復讐”を———不器用だけれど優しかった父と、厳しいけれどどこか抜けていた母と、可愛くて仕方の無かった弟。家族の尊厳を取り戻す為に“復讐”する。
“報復”を———大切な家族の死をお茶の間の暇つぶしに変えた者たち全てに捧げる“報復”を誓い、本当の正義の在り方を示すと誓う。
“逆襲”を———
首台正義は、そうして月に狂った獣に成り果てた。
《この個性を知った時、僕は正義のヒーロー“ジャスティスマン”になるしかないと思いました!》
とって付けた様な言葉は、やはりハリボテにしかならなくて、ヒーローを目指した少年は、ヒーローには成れなかった。
彼が最期に学園を訪れた時の事をミッドナイトは今でも忘れられないでいる。
綺麗な金眼は瞼の裏に仕舞われていた。純粋無垢な笑顔は張り付けたような微笑みに変わっていた。
現代社会に絶望しただろう彼は、しかし、それでも変わらない楽し気な声色で月を背にして言った。
———今宵も月が綺麗ですね。香山先生、どうやら僕には大人になる時が来たようです。…出来ることなら、貴女に大人にして欲しかった。
答えに困る言葉に返事を返せなかったミッドナイトを置いて、彼は一人で笑った。
———アハ、アハハ、アハハ!なんて、貴女を困らせるのもこれで最後に致しましょうッ!これまでに感謝をッ!これからに正義の祝福をッ!見ていてください!
ミッドナイトは直ぐに理解した。
この瞬間、手を伸ばさなければ彼がとても遠くに行ってしまう事。
そして、その手がもう届かない程に彼が離れて行ってしまった事を理解した。
月に獣が跳ねている。
けして、届かぬと理解しながら何度も何度も跳ねている。
全ては変わってしまった。世間知らずの少年は変わり果てた大人になった。
しかし、それでも彼女にはその懸命に足掻く姿が、青臭く美しいモノに見えてしまった。
だから、ミッドナイトは最後に彼を引き戻すことの出来た機会を失ってしまう。
それを見て彼は言った。
———ありがとう。と。
その夜、首台正義は死んだ。
そして、ムーンビーストが生まれたのだった。
根津校長から話を聞いたオールマイトは強く拳を握りしめていた。
ムーンビーストの誕生の切っ掛けとなった悲劇自体は、幾ら
しかし、そうはならなかった。
そして、訪れた第二の悲劇はオールマイトでも掻き消すことの出来なかっただろう。
やり切れないと歯を食いしばるオールマイトに根津校長は言う。
「彼が未だにミッドナイトに執着しているのを、犯罪心理学者は後悔の念の表れだと評していたのさ。けれど、僕はそうは思わない。彼はきっとこれまで犯した犯罪に何の後悔もないよ。定めた目的の為に粛々と努力を積み上げているに過ぎないのさ」
「…だから、我々は彼を捕らえねばならないと?」
「そうさ。それが僕らの役目。彼を助けられなかった僕らに残された、唯一のしてあげられることさ」
根津校長は椅子の上に立ち上がり会議室に集まった職員全員を見渡しながらに言う。
「
決戦の日は近い。
その日、月の獣は地に堕ちるだろう。
一方、その頃、
照りつける太陽。青く輝く海。
白い砂浜には、黒い水着の美女(レディ・ナガン)と可愛らしい白い水着の少女(治崎壊理)もいる。
完璧と言える
惜しむべきは砂浜に乗りつけられた車は黒塗りのベンツであり、どう見ても堅気ではない連中も一緒にいると言う事と、一度見たら忘れないだろう
なぜ、こんな
時間を少しだけ巻き戻さなければならない。
主人公の生い立ちを考えるのが一番難しい。
特に狂気的なキャラは難しい。いっそ生まれながらのシリアルキラーにした方がいいのかも知れません。
オールマイト&雄英陣営との対決フラグが立ちました。
多分、勝てないと思います(_ _;)諦め