ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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念願の水着回ですが、レディ・ナガンとエリちゃんより、おじさん達の出番の方が多いです。
またキャラ崩壊があります。ご了承ください。
(´・ω・`)

皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m


個性『オール・フォー・ワン』

「海に行きましょう!いえ、あるいは海で生きましょう‼」

 

「ていッ」

 

レディ・ナガンとステインに連絡を取り、呼び出した公園にてニコニコ笑顔で(ヴィラン)・イン・サマーを提案した私の後頭部をレディ・ナガンは殴打した。

謂れ無い暴力に屈することなく笑顔を崩さない私に対して、レディ・ナガンは心底呆れた様に言う

 

「何処の世界に夏を満喫する(ヴィラン)が居るっていうのさ。馬鹿も休み休み言え」

 

「否、(ヴィラン)であるからこそ、欲望を我慢するべきではないのです。私は海に行きたい。そして、麗しき貴女の水着姿が見たいのですッ!ねえッ、ステイン‼」

 

我関せずという態度で鳩に餌を上げていたステインに同意を求めるが、彼は面倒そうに私を一瞥した後、レディ・ナガンに目を向けて、いつもの溜息を吐く。

 

「…ハァ…興味ない…」

 

「それはそれでムカつくな、おい」

 

レディ・ナガンの理不尽な暴力がステインを襲うッ!

が、ステインは首を動かし後頭部への攻撃を避ける。レディ・ナガンは舌打ちしつつもそれ以上の追撃は行わない。

 

おかしい。私が拳を避ければ、次は足が出ると言うのにレディ・ナガンはステインに対して些か甘いように思う。まさか、レディ・ナガンはステインの事が好きなのだろうか。

なんて男の趣味の悪い女性なのかと慄きつつ私はスマホを取り出した。

 

「では、そういう訳ですのでタクシーを呼びますね。水着は道中で買っていきましょう」

 

「待て、勝手に話を進めるな。タクシーも呼ぶんじゃないよ。私は海になんて行かないからな!」

 

「おやおや、強情ですねえ。私がこんなにも頭を下げているというのに」

 

「頭なんて一ミリも下げてないだろ!ステイン、あんたも黙ってないで何か言え!」

 

「…ハァ…諦めろ。こいつは見た通りに強情だ。…俺は、もう諦めた。お前もそうしろ」

 

「なんでさッ!」

 

レディ・ナガンとステインの仲睦まじい様子を微笑ましく思いつつ、スマホで連絡を取った人物に現在位置を伝える。

私達を海へと連れて行ってくれるタクシーは五分も掛からずに到着した。

二台の黒塗りの高級車(ベンツ)が公園の前に停まる。出てきたのは如何(いか)にもな格好をしたヤクザと、黒い布マスクをした治崎だった。

 

やって来た治崎に向けて手を振れば、治崎は目を細めながらに此方へとやって来る。

 

「…ムーンビースト、何の用だ?」

 

「おや?用件なら電話でお伝えした筈です。私達を海に連れて行って頂きたい。極道なのですから、プライベートビーチくらいは持っているでしょう?」

 

「…本気か?本気で、そんなことで俺を呼び出したのか?」

 

治崎の声色が何故か低くなる。

私が勿論ですと笑顔で頷けば、治崎は殴りかかってきた。

それを()なしつつ治崎が降りて来た一台目の車を見れば、空いているドアの奥に小さな少女の姿を確認することが出来た。

 

その少女の名は壊理(エリ)。姓は無い。死穢八斎會の組長の孫娘であり、今は治崎が預かり面倒を見ていることから、対外的に“治崎壊理”と名乗る事もあるというが、本当の姓では無いので私は壊理、もしくはエリさんと呼んでいる。

彼女は治崎が目論んでいる極道復権の策の核にして、治崎曰く“神の領域”に踏み込む個性を宿した存在。

治崎は彼女を使って人体実験の様な真似をしようとしていたようだが、私との衝突の後に少しだけ考えを改めたらしい。

私はそれが可笑しくて仕方ない

 

「ほら、貴方とてエリさんを連れて来ているではありませんか。大方、海に行くと知られて、連れて行って欲しいと強請(ねだ)られたのでしょう?アハハ、随分と甘くなりましたねえ。()()()()()

 

「チッ、その汚い口を閉じろ。殺すぞ」

 

「貴方に私が殺せないから、私達の友情は成立しているのですよ」

 

「…狂人が、相変わらず、言葉が通じないらしい。こんな奴の仲間なんて、お前らも大変だな」

 

治崎がステインとレディ・ナガンを見る。ステインは「…仲間ではない」と治崎を睨みつけ、レディ・ナガンは肩を(すく)めていた。

 

治崎は諦めた様に私達から視線を外し、後ろの「二台目の車に乗れ」と言って自分は壊理の待つ一台目の車に乗り込もうとした所で、横からレディ・ナガンに蹴り飛ばされた。

 

「イテェッ!?なにをする!?」

 

「私がその子の横に座るから、あんたは後ろに行きな。私をあんな男達と並んで座らせようとか、ふざけてるの?」

 

「くそ、なら、お前はこの車の助手席に座れ。俺はエリの隣に…イテェッ、なんで蹴るんだ!俺に触れるなよ!」

 

「バーカ、これからこの子の水着も買いに行くんだろ?あんたに事前にこの子の水着を用意しておく甲斐性(かいしょう)がない事はわかってんだ。なら、女には女同士の話があるのさ。あんたが入り込む余地はないよ」

 

レディ・ナガンはそう言って後部座席に入り壊理の横に座るとドアを閉める。そして、運転席に座るヤクザに「早く車を出せ」「治崎は入れるな」と脅迫している。

治崎が乗りたかった車は無情にも走りだした。

 

私はそれを呆然と見送るしかなかった治崎に優しさから声を掛ける。

 

「治崎、そろそろ車を出しますから早く乗ってくださーい」

 

声を掛けられて此方を振り返った治崎は、治崎の部下からハンドルを奪い取り運転席に座る私を見た所でブチ切れた。

 

「なんッ、でッ!お前が運転するんだよッ‼ハンドル握るならッ、手袋をしろおおぉッ‼」

 

此方に鬼の形相で駆けてくる治崎を笑って流す。後部座席ではステインが足を組んで座り、溜息を吐いていた。助手席に座る治崎の部下の顔色は悪い。

こうして私の楽しい夏は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

(ヴィラン)・イン・サマーが開催した海岸は残念ながらプライベートビーチでは無かった。死穢八斎會はプライベートビーチを所有しておらず、代わりにあまり人の居ない穴場のビーチに連れていかれた。

そのビーチへの入り口に黒塗りの高級車を止めて如何にもな格好をした死穢八斎會の組員たちに見張らせることで人の出入りを制限しているので、ビーチに人影は少ない。

遠くに地元民と思しき老夫婦と子供連れの二組居るだけだった。

 

私は一応、サングラスで人相を隠しつつ「…今日は赤字だ」と店主が絶望する海の家で、かき氷を買ってきて先ほどまでオールマイトの砂像を作っていたステインとビーチに来る道中のドライブで疲れ切っている治崎に渡す。

 

「やはり夏と言えば、かき氷ですよねえ。後半になり溶けたものを喉に流し込む快感は、もうたまらない!」

 

ステインは渡したかき氷を見て、私を睨む。

 

「…おい。黒いぞ…なにをいれた?」

 

「店主にシロップを全部かけて頂きました!いちごメロンぶどうレモンすいかブルーハワイ味です!アハハ!」

 

「…ハァ…ガキか、いや、ガキだったな」

 

ステインは溜息を吐きつつかき氷を食べ始める。

治崎は疲れた様子で何も言わずかき氷を受け取る。

潔癖の気がある彼の事なので、何かしら文句を言ってくると思ったのだが、意外なことに何も言わずにかき氷を食べながら、レディ・ナガンと手を繋いでステインの作ったオールマイトの砂像をキラキラとした眼で見上げている壊理を見ていた。

 

私は揶揄うように治崎に声を掛ける。

 

「それ程までに、あの少女は魅力的ですか?」

 

治崎は横目で私をジロリと睨みながらに答える。

 

「エリは特別だ。そこらの人間、何百人分の価値がある。お前の様な狂人に、壊される訳には行かないんだよ」

 

「過ぎた話を、引きずりますねえ」

 

私は苦笑する。確かに私は一度、あの少女を殺そうとした。壊理からは人を殺した血の匂いがしたのだ。

話を聞けば、壊理は個性を暴走させて父親を殺した疑惑が有るらしい。

私が血の匂いを感じたと言う事は間違いなく、彼女はまだ物心(ものごころ)つく前に父親を殺しているのだろう。

 

だから、私は正義を叫んで壊理を殺そうとして、治崎に阻止されたどころか、私に同行していたレディ・ナガンにも止められ、二人掛りでボコボコにされた。

 

以来、治崎は彼女に対して過保護になった。

そして、壊理は治崎に懐いた様だ。

治崎の実験にも進んで協力していると言う。

 

壊理は(さと)い少女だと思う。幼いながらに治崎を()()()として認めて、進んで実験に協力している限りはそこまで()()い事をされないと理解している様だった。

治崎もそんな少女の姿勢は気に入っているのか、出来るだけ負担を掛けない様にしているらしい。

 

極道の孫娘として生まれた壊理は、どちらにせよ真っ当な世界で生きる事なんて出来ないと私は思う。加えて治崎でさえ恐れる個性を持つなら、なおさらだろう。

彼女が真っ当に生きる道はない。

なら、私の様な危険人物から身を守る為に治崎の様な男の保護下に居ると言うのは、悪くない選択だろう。

所謂、Win‐Win(ウィンウィン)な関係。

 

壊理が私達の方を見ている。

私は笑顔で手を振った。

壊理は怯えてレディ・ナガンの背に隠れた。

レディ・ナガンが私を睨む。

解せない。

 

私達のそんなやり取りを横で見ていた治崎は、食べ終わったかき氷のゴミをビニール袋に纏めていた。ステインからもゴミを受け取っている。

私も食べ終わったゴミを渡すと文句も言わずに受け取ってくれた。綺麗好きは伊達ではない様だ。

 

そうして、後片付けをした治崎は先ほどの苛立った視線ではなく、冷たい視線で私を見ながらに一人の男の名前を口にした。

 

「“オール・フォー・ワン”」

 

唐突に思える文字列に驚くべき点はない。

 

「お前が俺やエリ、レディ・ナガンを殺さない理由について俺なりに考えた。ステインは別として、俺たちは、お前が殺さずにはいられない対象の筈だ。それなのに、殺さない。何か理由がある筈だ。それが分からないんじゃ、身体が痒くなる」

 

「…」

 

私は何も言わずに治崎の話を聞く。

ステインも海パン一丁でナイフを研ぎながら、静かに話を聞いていた。

 

「オール・フォー・ワン。裏社会の全てを支配していたという闇の帝王。…俺たちの世代じゃ都市伝説扱いだが、オヤジや老人達は確信をもって(おそ)れてる。オールマイトと戦った傷が原因で死んだという死亡説が噂されて尚な」

 

砂浜に立つオールマイトの砂像に目を向ける。

気が付けば壊理と同じ年頃の少年少女が砂像の周りに集まっていて、レディ・ナガンが子供を連れた親と会話をしていた。

 

伝説の英雄の英雄譚に登場した、その巨悪の存在は知っていた。

その実在をレディ・ナガンに確認もしていた。

 

「もし実在するのなら、お前にとっては決して見逃せない悪なんだろう。そして、噂が真実なら個人で立ち向かえる相手じゃない。だから、お前は仲間を欲した」

 

「…」

 

「ヒーローと共に捕らえるんじゃ、意味は無い。あのオールマイトですら、一度は取り逃がした相手だ。タルタロス(監獄)にブチ込まれた所で、なにか手を打つ可能性がある。いや、お前としては捕らえるのではなく、殺さなきゃいけないんだろ。正義の為にな」

 

「…」

 

「だから、お前は俺たちを欲した。巨悪を殺す悪を欲した」

 

治崎の言葉に自分の中で“ちぐはぐ”だった積木がストンと綺麗にハマった様な感じがした。

 

「…アハ、アハハ、やはり貴方は頭が良い。私でも気付けぬ事に気付いて見せた」

 

海に大きな波が立ち、砂浜に立つオールマイトの砂像に波が押し寄せる。しかし、それでも砂像は倒れずに立っていた。

ステインが隣でナイフを舐めながらドヤ顔をしているのが見ないでも分かる。

 

私の中には一つの予感があった。

いずれ大きな争いが起こるという予感だ。

正義と悪。光と闇の戦い。その戦いが起きた時、私はヒーローと(ヴィラン)の何方の側に立つべきだろうかと考えた。

答えは直ぐに出た。

ヒーローに成りたかった、あの頃の()は、もう居ない。

私は(ヴィラン)だ。

復讐という正義の為に女子供も差別なく殺す者だ。

では、(ヴィラン)として“オール・フォー・ワン”という巨悪に与するか?

それは無い。それだけは絶対にない。

 

必要なのはヒーローでも(ヴィラン)でもない、第三勢力。

 

「私は正義を成すのです。ヒーローが正義で(ヴィラン)が悪。そんなあやふやな善悪、御伽噺に登場する様な正義ではありません。絶対にして唯一無二、誰もが認めざる得ない“完璧なる正義”。やられたのだから、やり返す。奪われたのだから、奪うのです。命とは何をしても償えぬ。故、引き算にて天秤を正す。復讐こそ正義」

 

私は治崎を見る。いや、治崎だけじゃない。

眼を開いて金眼を晒し、治崎や壊理、レディ・ナガンとステインを見ながらに言う。

 

「その為なら、私は心割かれる思いで悪を吞みましょう。ヒーローでは倒せない。(ヴィラン)であっては戦えない。そんな巨悪を殺す為、悪を喰らう悪であろうではありませんか。アハ、アハハ、アハハ!そうですッ、私は遂に見出したッ!私が歩むべき道をッ‼」

 

治崎により思いがけず舞い降りた天啓(てんけい)に身を震わせて立ち上がる。興奮した声が抑えられない。レディ・ナガンと会話をしていた親子が何事かと驚いて此方を見ている事にも構わず身を捩る。

 

「事が済んだ暁には貴方たちも正義の名の元に殺しましょうッ!そして、私もまた斬首台(ギロチン)に架けられるッ‼素晴らしい!ギロチンの刃が落とされた時に人々は知る事になるでしょう!この世に正義はあったのだとッ‼」

 

その時にこそ聖ペテロ十字(逆十字)は“正義の象徴”になるに違いない。

 

「人を殺した人はッ、例外なくッ、人に殺されねばならない!正義しっこ—ブベラッ!?」

 

決め台詞の途中でレディ・ナガンのゴム弾が顔面に直撃して私は砂浜に倒れた。

ビーチに出現した狂人()という少年少女のトラウマ案件を「悪は滅した!」と格好良くて麗しいポーズを決める事で茶番に変えたレディ・ナガンには、感謝してもしきれない。

私としても善良な市民を怖がらせるのは本意ではない。

 

正気を取り戻した私は細目に戻して笑いながら、治崎に言う。

 

「そういう訳ですので、貴方達には是非協力をしていただきたい」

 

「ハッ、最後に殺すが協力しろか。やっぱりお前は狂ってやがる。だが、オール・フォー・ワンが目障りなのは俺も同じだ。奴が消えれば日向も日陰も支配者はいなくなる。…次の支配者は、死穢八斎會(俺たち)だ」

 

治崎は野心の宿る瞳でそう言った。

 

ステインは溜息を吐きながらに俺を見る。

 

「…ハァ、本物の英雄(オールマイト)が倒せなかった相手を、お前が倒せるとは思わないが…見届けてやる」

 

“正義の心”が疼かないからと、理由を付けて殺さなかった間に、何時の間にか、私は得難い仲間を得て居た。

 

「アハハ!ありがとうございます!」

 

必ず殺すと誓った相手である巨悪。おそらく対決の時はまだ遠い。

ならば、その間に私にはやらなければならないことがある。

 

既に香山先生の手元に届いているだろう最後のラブレター。

 

中秋の名月。十五夜に私はやり残したことを終わらせて、オール・フォー・ワンとの戦いの準備を始めると決めた。

 

 

 

 




あと数話で原作前のお話は終わらせたいと思っています。
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