長くなってしまったので二分割です。
次回で原作開始前のお話は終わる予定です。
皆様の暇つぶしになれば幸いです(^^)
———ウサギ、ウサギ、なに見て跳ねる。十五夜お月さん、見て跳ねる———
建物のどこからか流れる音楽に耳を傾ける。決戦の日は近い。私はその日、過去の
私の
その決断に否は無い。あの人に恋した日から、あの人の全てを受け入れると決めている。
例え、私の事を受け入れてはくれなくとも、良いと思える。故に恋は盲目だ。
一週間後の十五夜の夜、私は雄英高校陣営全員を敵に回して戦うことになる。
名だたる
身が震える。魂が叫ぶ。決別の日は近い。月に向かって跳ばねばならない。
「———故、このような所で捕まる訳にはいかぬのです。誰であろうと、何であろうと、今の私を止められるなど、夢にも思わぬほうが賢明でしょう」
大手TV局『日月放送』の本社ビル。
正面玄関から堂々と侵入を果たした私は直ぐに通報されてヒーロー達に囲まれた。そのやって来たヒーロー達を千切っては投げながら、目的を果たす為に
今の私にとっては有象無象かに思われたヒーロー達の中にステインの好きそうな者がいた。
「確か貴方は“シンリンカムイ”でしたか?いやはや、中々に良いものをお持ちだ」
日月放送のコメンテイター控室に続く廊下に陣取ったのは、先日、デビューを果たしたばかりの新人ヒーロー。
彼は私の足を止めるに足る
樹木を模したコスチューム、仮面の下の目は焦りを感じさせながらも正義の光を帯びて見える。
右腕から生やし伸ばした樹木の根の様なもので廊下を覆い、私の行く手を遮りながら、その先の部屋に居る人々を守っている。
「よもや貴様ほどの大物に、デビューしたての私の名前が知れていようとは…」
「存じておりますとも、デビューを果たしたヒーローの顔と名前、そして個性を把握することは
シンリンカムイ‐個性『樹木』。
身体そのものを樹に変化させることができる。四肢の先から樹の根を伸ばし操る事で、
個人運営のヒーロー情報サイトに乗っていた情報を思い出しながら、私は懐より、こんな事もあろうかと持参した
シンリンカムイの顔色が目に見えて変わる。
「樹なのですから、弱点は炎。哀しいものです。貴方を応援するヒーローファンが、貴方の弱点を教えてくれる。燃やせば、よろしかろう?」
「貴様ッ!止せッ!建物内でそんなものを使えばどうなるか、わかるだろう‼関係のない市民まで巻き添えにするつもりかッ‼危ないだろう‼」
「確かにッ!?それは危ない‼善良な市民を巻き込んでしまう!」
「…なあッ!?」
私はシンリンカムイの至極真っ当な指を受けてスピリタスとフィリピン爆竹などと言う危険物を窓の外に投げ捨てる。
シンリンカムイは私の奇行を眼を白黒させながら見ていた。
「…貴様は何がしたいのだ?」
「正義執行したいのです。私は貴方が行く手を遮る先にある部屋で、閉じこもっている者に用があるのです」
シンリンカムイからは血の匂いがしない。
出来ることなら話し合いで解決できないかと対話を試みる。
「その先にいるのは、貴方が守る価値のある者ではない。この局のキャスターでありながら、過激な発言で人気を集め、今や各放送局に引っ張りだこなコメンテイターにまで上り詰めたあの男は…貴方が庇うほどの者ではありません。ですから、退いてください」
「…その者と貴様に、どんな因縁があるかは知らない。いや、お前の
話し合いは平行線にも成らなかった。認めよう。私は論破されている。
しかし、だからと言って一歩でも下がる理由にはならない。
私を論破した?それは貴方の考えですよね?
———ああ、まったく私が道を譲る理由足りえない。
「
「その狂言、もはや聞かぬッ!
シンリンカムイの両腕から伸びる樹の根が迫る。炎は捨てた。この攻撃は私の身を縛って余りある。
しかし、私のギロチンはそれら全てを
「なっ!?全て、一太刀で!?」
「…貴方は強い。けれど、私はもっと強い。その差を決めるもの。それこそが、正義なのです。
私はシンリンカムイに迫る。
樹の根を伸ばすのに
「
シンリンカムイを気絶させて、先を急ぐ。そして、シンリンカムイが守っていた扉を開ければ、部屋には数人の人間がいた。その中に目当ての人物を見つけた。
思わず零れる笑みを抑えずに部屋の中に入る。
怯えている善良な市民の中に吐き気を催す邪悪はいた。
「ムーン、ビースト。…クソ、クソクソクソの役にも立たねえなあッ、あのヒーロー‼なんだってんだクソ‼おいッ、他のヒーローは何やってんだよ‼俺を助けろよ‼助けねえと炎上させるぞ‼ヒーロー‼助けろよー‼殺すぞー‼」
その男の首を掴み持ち上げる。
「がふぃッ…やめ、やめへ、ころりゃ、ないでぇ…」
このまま首を締め殺せたのなら、どれほど心地よいのかと考える。
絞首刑がこの国の死刑制度に取り入れられていることから解るように、しっかりとした手順を踏めば絞殺は苦しみの少ない殺害方法足りえる。
しかし、私の様な素人がやれば苦しみを伴うだろう。
それでは駄目だ。シンリンカムイが言っていた様に、
「私の正義を
これは私刑ではなく、正義である。
「あ、あひ、あ、
その時の私がどれ程に凄惨な笑顔を浮かべていたかは鏡が無いので解らないが、男は失禁をしながら失神した。
私はその汚らしいソレを引きずりながらに部屋を後にする。
処刑の日取りは決まっている。今ではない。
『日月放送』本社ビルでの用事を終えた私は、そこから逃げた。
十五夜を一週間後に控えた日に起こったムーンビーストによる『日月放送』本社ビルでの誘拐事件。
誘拐されたのは元『日月放送』のキャスターであり、現在は過激な発言で人気を集めるコメンテイターの
白昼堂々と行われた犯行に何人ものヒーローが駆けつけたが、ムーンビーストを捕らえることは出来なかった。
そのことに関して『日月放送』ではヒーローの怠慢があったと、即日のニュース番組で報道したが、むしろ、世間ではヒーロー達に対する擁護の声が目立っていた。
その要因として、今までのムーンビーストの犯行では確実に死人が出ていたことがあげられる。
ムーンビーストは現れれば必ず“悪”と決めた相手を殺害して、
難家コメンテイターが攫われはしたが、ヒーローの怪我人を数名出しただけで他に負傷者はいない。
それを世間はヒーローの功績として称え、難家コメンテイターの救出へ期待を寄せていた。
そして、大手TV局での誘拐事件という派手な事件の裏で同時進行的に起きていた十二の誘拐事件に関しては、今はまだ世間は知らない。
それを知らせたのは、事件が起きた二日後に雄英高校教師‐ミッドナイトの元に遂に届いたムーンビーストからの
———三日後の十五夜から、十三の罪人を引き、残る二つを貴女に御見せしたく。余子浜の海にて———
余子浜市にある海を望む
場所は決まった。雄英高校は全力を以ってムーンビーストと対峙する。
しかし、それはムーンビーストとて同じ事。積み重ねた努力と掛け替えの無い仲間と共に、彼は満月の夜に正義を刻む。
「香山先生。今宵も月が綺麗ですね」
そして、やはり開戦の号砲は、愛の告白としてヒーロー達に告げられた。
「夢がありました。学生時代に思い描いた青臭い
私は冗談を口にしながら根津校長を伴いやって来た香山先生を見る。
しかし、どうやら香山先生と根津校長には私の冗談が通じなかった様で反応がない。
ただ静かな瞳で私を見ていた。
それを見て、彼らもまた“これが最後”だと気づいていると悟る。
ならば、もはや冗談を言える時間は過ぎているのだろう。無論、私が香山先生に向ける恋心が冗談ではない以上、冗談とは根津校長を連れてきたことに対する苦言である。
“狙い通り”と、私は内心ほくそ笑む。
「香山先生。根津校長。お久しぶりです。お元気そうで何よりです。私ですか?勿論、元気ですとも。私は元気が取り柄だと、最近はよく言われるのです。笑顔ですよ、笑顔。これが一番大事でしょう?」
私は何時も通りに笑ってみせる。香山先生は何故か苦し気に顔を歪めていた。
代わりに根津校長が小さな口を大きく開いて返事する。
「HAHAHA!君が元気で僕らは、とっても嬉しいのさ!手心を加えずに済むからね!ムーンビースト、今日こそが君の年貢の納め時なのさ!雄英高校が全力で君を捕らえるよ!」
「アハ、いつも通りに、香山先生以外が私の元に辿り着けぬように、変わらぬ妨害工作はしているのですが、いやはや流石と言いましょう。貴方の頭脳はやはり恐ろしい」
私の築き上げたネットワークは多岐に渡る。
闇のブローカーである
そして、表社会にも私の正義に共感し“声なき善意”を向けてくれる人々が居る。
私の信者などでは到底ないが、彼らの力も私を後押ししてくれている筈だ。
それでも今宵は香山先生以外の先生方も私の元に辿り付いた様だった。
視界の外に数人の気配を感じる。その中には懐かしい匂いが幾つもあった。
全ては目の前の小さなネズミの仕業であることは、言うまでもない。
根津校長の個性『ハイスペック』。
その全容は計り知れない。
「根津校長。本来、裏方に徹するべき貴方までもが姿を現したのです。本気で私を捕らえる気なのでしょう。しかし、それは私とて同じ事。…今宵の私は、
両の手を広げて腕にギロチンを形成する。
細目を開き月下の元に金眼を晒す。
口元には笑みを携えたままに私は決意を口にする。
「返事を聞きに参りましたッ!最早ッ、待てぬ身の
「香山先生。“
「ッ、ごめんなさい。
「ああ、あああッ、アハッ、アハハ!アハハハハ‼…あァ、やはり貴女は素晴らしい。掛け値なしに最高の
香山先生が涙を流しながら、私を睨みつけている。
その瞳に宿る覚悟に胸を打たれる。心臓の鼓動が死ぬのではと思うほどに高鳴っている。
私の中に“正義”にも劣らぬ感情が湧き出る。
が、しかし、その思いが報われることは、もう無くなった。
これでようやく私は“愛”を振りきれる。
私の“正義”が、“復讐”のみに純化する。
「———では、始めましょう。私を捕らえると、本気で言ってくれるのでしょうッ‼香山先生ッ、
「ええ、根津校長の言う通り、貴方の悪夢は今日で覚めるのよ!“ムーンビースト”‼」
香山先生が此方に向かい駆けてくる。
彼女の個性は強力だ。決まれば私は一瞬のうちに眠りに落ちてしまうだろう。
ならば、どうする?距離を取るか?否、それでは駄目だ。後退など、この夜には相応しくない。
故に狙うは一瞬で香山先生の意識を奪う事に他ならない。ギロチンの峰打ちで気絶させようと私は駆ける。
気絶させた後は、優しくベンチにでも置いておこう。その際、あわよくば柔らかで美しき肢体に触れられないものか。いや、身体に傷一つ付けない様に細心の注意を払うのだから、少しくらい触れても問題ない筈。
———その邪な考えを打ち抜く様に、私の
常人であれば卒倒する攻撃を成した人物は見ないでも解る。
ヒーロー名‐“スナイプ”。個性『ホーミング』。
彼が600m以内の視認した標的に投げたものは、外れることは無い。
雄英陣営が誇る遠距離戦闘の専門家。私との相性は悪い。
姿が見えない以上、ギロチンで攻撃する術がない。
「しかしッ、威力が低いッ‼我慢できぬほどではありませんッ‼」
「一瞬の隙が出来れば、良いのよ‼」
香山先生の右手には鞭。左手には扇子が握られている。個性『眠り香』の匂いが迫って来る。
嗅げば昏倒。横から鞭での拘束。なら、上に跳ぶしかない。上空でスナイプに狙われるだろうが、痛い位なら耐えられる。
そう考えた空への逃避を後ろで手を組み立ったままの根津校長のつぶらな瞳がジッと見ていた。
「うん。やはり予想通りの動きなのさ」
その言葉の意味を考える間もなく、夜空へと跳ねた私の目の前に満月にも勝る“黄金の輝き”が人の形をして現れた。
荒々しい金髪。筋骨隆々の男。口元に浮かぶ笑みは私の比ではない、力強さに溢れている。
見紛う筈もなく彼こそが
「オール、マイトッ!?何故ッ、貴方が此処に!?」
「来年から雄英で教師をすることになってね。新人なんだ。よろしく頼むよ」
「はは、アハハ!こちらこそッ!よろしくお願いしますねえ‼」
「
混乱の中でも経験則を元に無意識に動く身体を制御してギロチンを振るう。
オールマイトの拳と私のギロチンの交差は一瞬、勿論、私が打ち負ける。
私は空中で殴り飛ばされ、海浜公園から1キロ離れた場所にある野球場『余子浜スタジアム』まで飛んでいったのだった。
確かにムーンビーストは一介の
しかし、ただ強いだけなら雄英教師陣はとっくにムーンビーストを捕らえる事が出来ていた。
(ムーンビーストを捕らえようとすると、必ず邪魔が入るのさ。彼は、目に見えぬ誰かに常に守られている)
彼らは決してヒーローの邪魔はしない。けれど、些細な善意を以って彼を助ける為に動いている。
例えば、ムーンビーストの元に駆けつけようとするヒーローに助けを求めて足を止める。
例えば、ムーンビーストとの戦闘中に偶々日課の散歩で傍を通る。
ヒーローへの公務執行妨害とはいえない些細な行為が、ムーンビーストを助ける。
(なら、そんな介入の無い場所で、ムーンビーストを捕らえるしかないのさ)
ムーンビーストを吹き飛ばして直ぐにオールマイトはミッドナイトを抱えて同じ方向に飛んでいく。向かう先は余子浜スタジアム。其処には雄英教師陣が待ち構えており、周囲は警察とヒーローによって包囲されている。スタジアム内に些細な善意が入り込む余地はない。
「満月の夜に君は堕ちるのさ。…さようなら、首台君」
全ての図面を描きながら、戦闘能力のない根津校長は小さな足取りで余子浜スタジアムへの道のりを歩く。
自分が到着した時には全てが終わっているという確信をもって、つぶらな瞳には大きな満月が映っていた。
余子浜スタジアムまで吹き飛ばされた私は受け身を取りつつ地面をゴロゴロと転がり勢いを殺す。牧師服が土で汚れ、懐にしまっていた煙草を落としてしまったが、大きなダメージは無い。
完全に手加減をされた一撃だった。一度、拳を交わしたからこそ分かる圧倒的な実力差。
今の私ではオールマイトには逆立ちしたって勝てないだろう。
「…オールマイトにその気があれば、あの一撃で決められていました。何故、手加減をしたのか?その疑問は、なる程、口にするべきではない様だ」
立ち上がり周りを見れば、雄英の教師陣に囲まれていた。
その中で学生時代に一番、言葉を交わした記憶のあるプレゼント・マイクの方を向いて声を掛ける。
「彼は、貴方たちに花を持たせる気でいるらしい。優しいですねえ。それを弱さと指摘できない己の弱さが情けない。しかし、お陰で生き延びた。ありがとうと言いましょうか?プレゼント・マイク」
「
口元では笑みを浮かべながらもサングラスの下の目は欠片も笑っていないプレゼント・マイクに同意する様に周りの教師陣の圧が強まる。
私を囲むのはプレゼント・マイクを含めて四人の雄英教師たち。
その人選を考えたのは、間違いなく根津校長だろう。見事に私の弱点を容赦なく付いている。
彼らからは濃い血の匂いがしない。私に彼らは殺せない。
ただし、
「枷を、掛けられてしまいましたか。この場にイレイザーヘッドが居ないのが、本当に上手い。先ほどの強がりをお許しください!この状況ッ、まさしく前門の狼ッ!そして———
私の背後にオールマイトがミッドナイトを抱えて空から落ちて来た。
———後門に竜、ですか。
私は追い詰められている。
それなのに、笑い声が零れてしまうのは何故だろう。
答えは勿論、私の中にある。
「…
「そいつはどういう意味だ?」
「アハ、アハハ、アハハ!私の言葉に意味など求めないで頂きたい!全ては時間稼ぎかも知れませんッ!例えば、そうッ、私を閉じ込めた気でいる
大仰に両腕を開き空に浮かぶ満月を見上げながらに言う。気分は舞台に立つ俳優。
そして、スポットライトは当てられる。上空にヘリの音。
意図せぬ第三者は
「…彼らは、事件があればヘリを飛ばしてやってくる。被害の拡大など、考えもせず、信念に囚われているからです。
≪此方ッ、余子浜スタジアム上空より日月放送がお送りします!
スタジアムの上空に現れた報道ヘリをプレゼント・マイク達は信じられないと言う表情で見ている。第三者の介入を許さない為に彼らは私を此処まで追い詰めたのだ。
それなのに、来てしまった。報道ヘリが来るにしては確かに早すぎる。
私は、笑った。
その声にいち早く答えてくれたのは、やはり香山先生だった。
「ムーンビースト、あなた、まさかッ!?」
「勿論ッ!報道陣の方々には事前に招待状を送らせて頂きました!これは私と貴女の最終章なのですから、多くの方々に見て頂かなくては‼」
そう言っている間に日月放送以外のTV局のヘリも次々とやって来る。
それを見た香山先生の顔が歪む。メディア嫌いを越え、メディアを憎んでいる私がこんな事をするのは信じられないと言いながら、いち早く事態を収める為に動く。
私に向かい駆けてくる彼女にギロチンを向けることに否は無い。
殺しはしない。けれど、今の私は彼女を傷つけられる。恋は終わった。愛は実らなかった。
私の正義は更なる純化を迎えている。
駆けてくる彼女に対して、腕に形成したギロチンを地面に振るう事で土の
「ッ!?」
「この私を振っておきながら、抱きしめたいなどと、虫が良すぎるのでは?」
私の冗談に顔を歪める香山先生の姿に胸が痛くなる。これは良くないと顔を反らす。
今の私に“愛”を思い出す暇はないと前ではなく上を見る。満月の夜に報道ヘリが飛んでいる。
それを眼にする事で心の中に“復讐”の火が灯る。
私の正義が“復讐”へと純化する。
香山先生が返り討ちに遭ったのを見て、プレゼント・マイクの口から
「
ギロチンという個性は近接戦闘しかできない。遠距離攻撃は先ほどの様にギロチンで抉ったものを飛ばすのが精々の貧弱なもの。
故に音の振動による攻撃なんていう遠距離攻撃の
ギロチンを振う。ギロチンの刃は
プレゼント・マイクが驚愕の表情を浮かべた。
「HA、HAHA、こいつはシヴィー、お前、学校に居た時と比べて、どれだけ強くなってんだ?」
「純化している。無駄なものを削ぎ落とせば、強く成れる。では、大事なものも削ぎ落とせば、人はどれほど強く成れるのか?答えは考えるまでもなく、私の“正義”は、どこまでも強く成れるのです。だって、
恋は終わった。愛は実らなかった。残された“正義”は復讐だけだ。
だから、私は誰より強く成れるという確信がある。
ギロチンの刃の色が変わる。
個性『ギロチン』が復讐という正義を糧に成長している。
プレゼント・マイクに続き攻撃を仕掛けて来た教師たちを返り討つ。
ブラドキングの血の刃をギロチンの刃で砕く。
セメントスの操るセメントの濁流を破壊する。
エクトプラズムの分身たちを根絶やしにする。
その全てを三呼吸の間に終えられる程に私は強く成っている。
身体に羽が生えた様な感覚。今を絶好調とするのなら、先ほどまでの私の身体は死んでいた。
それ程までに研ぎ澄まされた感覚。身体に漲るエネルギーを感じる。
しかし、何も不思議な事はない。
私から“愛”という枷が外れたに過ぎない。
人は愛があれば、どこまでも強くなれる。そして、愛を捨てれば、誰よりも強くなれる。
「…場所を変えましょう。此処では先生方を巻き込んでしまう」
私は地面に膝を付く雄英教師陣たちから視線を外し、只一人変わらず立つ
オールマイトは静かだが意志の強い眼で私を見ながらに言った。
「君を前に引けない彼らの気持ちから、逃げ出すことを私が許すと思うかい?」
「私という
私は夜空を飛ぶ報道ヘリに手を伸ばす。
オールマイトが私を止めようと動くが、流石の彼でも、もう遅い。
そもそも、動くのは私ではないのだ。
この場所より3㎞離れたビルの屋上から放たれた銃弾が、空を飛んでいた五機の報道ヘリを打ち落とす。
「なんだって!君には仲間がッ」
「勿論、居ますとも。掛け替えのない大切な人達です」
オールマイトは墜落するヘリから人々を助ける為に跳躍する。オールマイトの実力を考えれば被害は出ない。
そして、これで十数秒の時間が稼げたとスタジアムを後にしようとした私の足に香山先生が縋りついていた。
「ようやく、捕まえた。ねえ、もう…終わりにするの。わかってよ。…まさよし、くん。その、痛ましい夢から…覚めてよ。お願い…やり直しましょう…一緒にッ」
個性『眠り香』が発動する。その香りは人を強制的に眠らせる。
「夢ならば、どれほど良かったでしょう。…私はあの日、編入試験に向かう事が出来た。貴女に相応しいヒーローに成れた。そんな夢を、見られたのなら———
昏倒しかける意識を奥歯に仕込んだ丸薬を嚙み潰し覚醒させる。
それは闇のブローカーである
「…どう…して?」
私の一番の弱点は貴女だ。対処法を用意していない筈がないでしょう。
———夢なら、既に覚めている。私は、ムーンビーストだ」
私は香山先生の手を振り払い、スタジアムの外へと跳ぶ。
背に掛けられた声に応える事はない。
私の“正義”が純化し、覚醒を迎える。
みんな大好き主人公無双モード。
またの名をフラレてヤケになった人。
ふ、フラれるってわかってたし!俺は全然平気だから!
(´・ω・`)
平気だから!(平気とは言っていない