彼女とおなじ学科だからと言ってすべてが同じ授業だとは限らない。
ほんとに仲のいい学生同士やカップルは履修科目を同じにしたりするのだろうか。
それでも私と彼女が出会ったのは、彼女がうちの大学に編入してきた時であり、すでに私も履修手続きは終わっていた。
そう、だからそうそう同じ授業に当たるとは思っていなかったのだが、
「こんなことってあるわけ?」
次の日もその次の日も、彼女は私と同じ講義に存在しており、そして当たり前のように隣に座る。
「こういう偶然ってあるものね」
彼女は特に気にしていない様子だが、大学内でこんなにも一緒に行動することになるなんて思わなかった。
そして、そう思っているのは私だけじゃないみたいだ。
「ねぇねぇ、2人って知り合いなの?」
「もともと仲良かった感じ?」
大学には、高校までのように明確にクラスというものはないけれど、必修科目というものがある限り、同じ学科の人が集まる講義は存在する。
そしていま、私たちはその必修科目で私たちに興味を持った人たちに囲まれていた。
といっても囲まれているのは、私じゃなく月華のほうだった。
「去年は学科にいなかったよね?転科とか?」
「てかこんな美人同じ大学内にいて見逃すはずなくね?」
「とりあえず、親睦会でもしようよ」
隣に座る彼女は、どの受け答えにも返している様子もないのに、勝手に話が進んでいるようだ。
「………」
普段人前では表情をあまり動かさないが、彼女が私を見つめる目は『どうにかして』と助けを求めているようだ。
周りの人に翻弄されててちょっと可愛い。もう少し見ていたい気もしたけれど、
「ごめんなさい、今日はこの後二人で用事があって」
特に何か約束しているわけではないが、私の方をみたということはそういうことだろう。
「そうなの、ごめんなさい。また機会があったら」
そういって二人で人の群れから立ち去る。多分その機会が来ることはないだろうと私は思うけれど。
「ありがとう、絵里」
「どういたしまして」
彼女が注目されていることはこの数日間でひしひしと伝わっている。隣を歩いていても、集まる視線が以前より格段に増える。
「やはりちゃんと自己紹介するべきかしら」
なんて少し的外れなことをぽそりとつぶやく月華。
「違うわ、皆あなたに興味があるのは本当だけど、そうじゃないの」
「…?何が違うの?」
「あれはね、いわゆる『ワンチャン』を狙っているのよ」
容姿に惹かれ興味を持っているのは間違いないが、その奥にあるものはもっとほかの『欲』である。
「…『ワンちゃん』?…わんわん…」と言い、犬のようなポーズをとる。
(…!っく、…可愛い…)
思わず口をおさえて顔をそむける。急な愛嬌に不覚を取ってしまった。これだから無自覚美人はたちが悪い。
「…犬ではなくて、その後の交流を狙っているのよ」
「私もお友達、つくるべきかしら」
「あれはお友達以上を望んでいるのよ」
彼女も作ろうと思えば、友人や恋人なんてすぐ作れるのではないかと考える。
「そう。でも私には絵里がいれば十分だわ」
「…っ、驚いたあなたもそういうこと言うのね」
ほんとに驚いた、心臓に悪い。いい顔してそんなこと言わないでほしいわ。
「絵里は、私のこと友達とは思ってくれていないの」
なんて少し悲しそうな顔をする。
「そうね、迷子のお世話だけじゃなくて、お友達として…ね?」
「まだ大学に慣れていないだけよ。それに、私も絵里のお世話をするわ」
海外にいた歴もながい彼女は、私よりも学力は高い。大学の課題やテストなどお世話になることもあるのかもしれない。
「それもそうね、お互い様ということで。それじゃ、どこかお出かけにでも行きましょうか」
「そんな約束していたかしら?」
「さっきいったじゃない、『二人で用事がある』って」
そういって彼女の手を引いてあるいた。
◇◆◇
いざお出かけしようと誘ったが、特に予定も立てていなかった。
電車でひと駅にある大型ショッピングモールに買い物でもいこうかしら、と頭のなかで考えていると。
「絵里!」
聞きなじみのある凛とした声が私たちの背後から聞こえた。
声のした方へ振り返ると、そこには真っ青な髪の清楚で強かな女性が立っていた。
まさに大和撫子という言葉があてあまる。そして彼女の姿にはよく覚えがあった。
「海未じゃない!ひさしぶりね」
「はい、お久しぶりです。大学に入学してからどこかで会えないかと思っていたのですが、やっと会えました。うれしいです」
「改めて入学おめでとう、私も会えてうれしいわ」
受験期に同じ大学を受けたいと相談があってから、連絡を取ることはあったが互いに忙しい身でなかなか会うことはできていなかった。
「ちょうど、今日の講義が終わったところで、もしよかったらこの後…」と隣の彼女を見たところで海未は言葉を止めた。
「なるほど、先約がありましたか。すみません」
私もそこで一緒にいた月華の方に目を向けると、気にせずどうぞ、といった顔で私たちを見ていた。
「そうね、今からどこかに出かけようとしていたのだけど…」
「それでしたら、今日のところは…」
といって海未が退こうとすると、
「一緒にいきます?」と月華が提案した。
「「いいの(ですか)?」」
ほぼ同時に声が重なる。
「私は気にしないわよ。代わりに私もひとり友人を呼んでいいかしら」
私以外にも友達いたのね、なんてことを考えていたら、
「絵里今失礼なこと考えたでしょ。でもそうね、大学じゃなくて高校の友達だから大体あってるわ」
心を読まれたのだろうか、すごい。
「絵里、口に出ていましたよ。では、ご一緒させていただきます。えーっと、」
「白雪月華よ。」
「白雪先輩ですか。綺麗な名前ですね。私は園田海未と申します。絵里は高校の時の先輩で…」
「月華でいいわ、あと先輩も。敬語も外してもいいのよ?」
「それでは、月華さん。敬語はどうしても…癖みたいなものなので」
海未はすごく礼儀正しいのね、なんて私を他所に二人の会話が続く。そろそろ仲間に入れてほしい。
「ほら、絵里。行くわよ、私の友人が車で迎えに来るって」
車をもつ友達……どんな人なのだろう?
海未の顔を見る限り、私と同じことを考えているようだけど。
「あと10分もしたら、着くそうよ。それまで門の前で待っていましょう」
月華は海未と会ってから少し機嫌がよさそうな気がする。
海未とは何やら、高校の時の話をしているようだ。それに学年は違うとはいえ、同時期に大学に来たのだ。共通点も多いのだろう。
なんだか楽しそうな二人をみて、もやっとする形容しがたい気持ちがあるけれど、私はそれを気にしないふりをした。
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