轟姓になりたくないのでヒーローになりました   作:紅ヶ霞 夢涯

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9話

 林間合宿の目的はズバリ、“個性”そのものの強化。私の“個性”は許容上限のある発動型なので、その上限を底上げすることが目的となる。

 

 そしてそれは………体育祭で、優勝を競った男も同様だ。

 

「おおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 轟炎司とある程度の距離を保った状態で向かい合い、お互いに向けて最大出力で“個性”をぶつける。氷と炎が数秒だけ拮抗し、氷が僅かに炎を押し込んだ。

 

(現時点では、私の方が上…で、いいのよね?)

 

 氷は炎、熱で溶ける。それは子供でも知っているような当たり前のこと。だが、しかし、現に私の氷は轟炎司の炎に負けていない。

 

 けど、それは今は訓練中だという前提があるから。それこそ体育祭のような真剣勝負の場面であれば、この男は限界を超えるだろうという、確信にも似た何かがある。

 

(ーーー実際、体育祭の決勝戦で私の最大出力に耐えていた訳だし)

 

 延々と、教師陣からのストップが入るまで同じことを繰り返す。やがて太陽が真上に登る頃に、ようやく休憩時間が与えられた。

 

 その休憩時間でA組もB組も協力して、昼ご飯を作って食べて片付ける。そして本来は身体を休める時間に私は、ある一人の臨時講師として招かれたヒーローと、自主練習の為に移動した。

 

「全く、お前さんな………少しは俺も休ませろってんだ」

 

「横で見て、アドバイスしてくれるだけで良いんです。今日もよろしくお願いします」

 

 そのヒーローの名は、『グラントリノ』。

 

 あの『オールマイト』を育て上げた人物であり、私が職場体験先に選んだヒーローだ。

 

 

 

 

 

 ………クラーケンに、沖マリナーが襲われたときだ。そういえば、あの時メール画面を閉じた覚えがないような気もする。メールを送信した時間も、それくらいだと表示されているから、多分間違いない。

 

(………………………………………………仕方ない、か)

 

 シンプルに、待ち合わせ場所とそこに私が行く時間を打ち込む。というか仮にも誕生日だというのに、『特に予定はない』とか、悲し過ぎないかあの男。

 

 短い内容のメールを送って、そのままパソコンで検索画面を開いた。調べるのは集合場所にした所から近くの、ショッピングモールとその周辺の情報。

 

 仮にも此方から誘った以上、その日の予定は私の方で組まないと。

 

「彼の誕生日を祝うのは、二年ぶりですか………」

 

(さて、どんな一日にしてあげようかな)

 

 まさか再び、こんな内容で頭を悩ませる日が来るなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

〈轟炎司〉

 

 携帯を開いて、メールの受信画面を開く。そこにある氷叢冷からの短いメールを、何度も何度も読み返して深々と息を吐いた。

 

 そして向こうの気が変わらない内にと、急いで返信を送り携帯を閉じる。

 

(去年も一昨年も、そして今年も同じように、予定を空けていて正解だった)

 

 正直………連絡先を渡したとはいえ、氷叢の方から進んで連絡をしてくることはないと思っていた。

 

 何せ、二年間も音沙汰なしだったのだ。いきなり以前のように連絡を取り合うというのは、はっきり言って難しいだろう。

 

 そんな状況で、向こうからのメール。しかも指定された日は八月八日ーーー俺の誕生日。何かしらあると、そう思わず考えてしまう。

 

 例えば、そう。エンデヴァー事務所の副所長として勧誘した件に対する、前向きな返事とか………………………流石に都合よく考え過ぎか。どうしても、期待はしてしまうが。

 

「いや、ちょっと待て」

 

 唐突に予定の埋まった俺の誕生日に思いを馳せて、ふと焦りが生じた。

 

 

 

 

 

 ーーーどんな格好で行けばいいだろうか。

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