轟姓になりたくないのでヒーローになりました 作:紅ヶ霞 夢涯
〈轟炎司〉
二次予選のチーム編成が発表された時、勝ちを確信したのは俺だけではなかっただろう。むしろ、俺と氷叢が組んで負ける姿など思い浮かぶ筈もなかった。それは氷叢も同じだったと思う。
互いに互いが足を引っ張ってしまっている現状。しかし、周りからそう見えているのだとしても………俺はそうは思えなかった。
(俺だけが何も出来ていない!)
攻守と補助にも優れる氷叢の“個性”と違い、俺の“個性”は攻撃特化。今のように防御に回らざるを得ない状況だと、必然的に後手となるし出来ることも限られる。
「クソっ」
どうする。もう防御………いっそ、この状況の打破を氷叢に丸投げするか?馬鹿な。ジワジワと削られるだけだ。攻勢に転じる必要がある。
(B組め…去年に引き続き、今年も結託するとは)
卑怯と言うつもりはない。そういう戦法があるのは十分に承知しているし、それだけの相手と思われていると考えれば悪い気はしない。
だが………こうも上手く向こうの思い通りだと、はっきり言って腹が立つ。どうにか反撃しなければ。
(どうする?どうすれば現状を引っくり返せる?)
「ーーーそのまま。炎を絶やさないで下さい」
背中から聞こえた言葉の意味を問う間もなく、氷叢は空中へと飛び上がった。
〈轟炎司〉
サッと体を洗い終えた俺は、サウナの中で過ごしていた。“個性”柄、熱に耐性があるが同時に熱を溜め込む体質でもあるせいか、昔からサウナには長く入る。
「悪くない」
一人、そう呟いた………いや、それは一先ず置いておくとしよう。感想は後で氷叢に直接伝えるとして。
「このままでは、マズイ」
今日は俺の誕生日で、氷叢がそれを祝おうとしてくれていることは分かっている。十分にそれは理解している。………だが。
(だからといって、甘え過ぎだろう)
飯やら施設の利用料やら全て、氷叢が支払った。それとなく欲しいものを聞き出すことには成功したが、何を勘違いしたのか………俺がそれを、氷叢に隠れて購入する前に。
「意外と少女趣味?いや、まさか。でも轟さんに妹なんて………親戚の女の子用でしょうか」
などと独り言を呟いて、俺が止める前に買い物を済ませてしまっていた。多分、あれらは俺の家に配送するつもりだろう。頼むから止めてくれ。
このままでは、相談に乗ってくれたアイツにも何を言われるか分かったものではない。
「どうにかせねばな」
とはいえ、今日中にどうにかするのは無理難題。それが出来るのなら、とっくにやっている。氷叢は俺を頑固者だと評したことがあるが、氷叢にも間違いなく同じ一面がある。絶対にある。
「また今度、今日の礼がしたいとでも言って呼び出すか」
そうすれば、自然に誘える筈だ。今の氷叢の好みを探ることも出来たし………大丈夫だ。問題ない。何とかなる。
………さて。勧誘の件を、どのタイミングで切り出すべきか。俺から切り出すのは答えを急かすようで、氷叢から言い出してくれないかと期待していたのだが。
「それにしても」
正直、氷叢がいない状況では独立にも手間取ると思っていた。しかし予想に反して、独立の準備は順調だ。それでも、どこか漠然とした不安があるのは。
「それをいつだって拭ってくれた、お前がいないからなのか」
いつだって俺が気づいていないことを指摘し、俺に足りない部分を当たり前のように補ってくれた。戦闘面は勿論、それ以外でも。
「………………………そうか」
今日を氷叢と過ごして、久しぶりに色んな表情を見た。それを二年前、雄英高校を卒業した日に失ってしまったもの。氷叢に俺と再び会うつもりがなければ、恐らく二度と俺の視界に入らなかった光景。
それを俺は、もう一度………当たり前にしたい。
(これ以上、待ってどうする)
既に二年前に、そうして失敗している。それに俺から切り出すのが、筋というものだろう。
サウナから出て水風呂に入り、露天風呂へと向かった。吹く風がどことなく心地よい。
ふと、湯気の向こうに人影が見えた。まぁ、さっきまで誰とも遭遇しなかったことが不自然だ。誰かしらはいるに決まっている。
何も言わないのも失礼かと、軽く頭を下げて口を開こうとする。
「丁度よかった、ミカ。少し聞いて欲しいこ、と………が」
あまりにも聞き馴染みのあった声音に、思わず顔を上げた。
………………………上げて、しまったんだ。
温泉宿での展開
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√A ラッキースケベ
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√B 宿のオーナーと対談
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√C ライバル?登場