轟姓になりたくないのでヒーローになりました 作:紅ヶ霞 夢涯
違和感を覚えたのは、去年の体育祭決勝戦。轟炎司に対して、その当時の最大出力で“個性”をぶつけた時だった。
私があの時に
ーーー結論から述べる。
私は氷から発生した冷気さえも操ることができ、その結果………私は、こんなことも可能になった。
『と、飛んだああああ!!??』
実況している先生の言葉と同時に、会場中がどよめく気配を感じた。新技のお披露目でここまで注目が集まると、なかなかに気分がいい。
(さて、とりあえず)
私達を囲んでいる、B組連中を蹴散らすか。
氷の剣を無数と表現できるまでに生み出していく。まぁ、流石に当たっても痛いで済むようにはしてあるけど。轟炎司と違って、最悪でも貫通しない程度に調整するだけだから簡単だ………骨折くらいは、するかもだけど。
「ヴァイスシュナーベル………頭上注意です。気をつけて下さいね」
そして一斉に、眼下へと射出した。
「嘘っ!?」「避けろ避けろ!」「足動かせ!!」「流石にやり過ぎだろっ!」「言ってる場合か!!」「ヤバいって!」「棒を守れ!!」
悲鳴が上がる。慌てふためき逃げ惑う者、棒の周りで防御を固める者。果敢にも私を撃ち落とそうと試みる者。B組の行動は、大まかに別れる………どうするのも、まぁ自由だけど。
「ーーー赫灼熱拳」
轟炎司がフリーだ。
「フレイムヘルズナックル!!」
炎が巨大な拳の形となり、B組に襲いかかる。ジェットバーンを警戒して直線上から外れた者も、それは容赦なく巻き込んだ。
(すっご。手加減を忘れてないといいけど)
見た感じ、火力がエグい。あの技、少し前に教えた技よね………いつの間に完成させてたんだろ?
「包囲の一掃は完了ですね。なら、次は………」
B組の頭を叩く。
割りと大雑把に射出していた氷剣の切っ先を、一人の男子生徒に向けた。そして一気に片を付けるべく、容赦なく殺到させる。
しかし、その大半は空中に現れた糸によって絡め取られた。そして届きそうだった何本かの氷剣は、男子生徒の傍らに立っていた女子生徒により、砕け散った。
「まぁ、流石に防ぎますよね。この程度で倒れられても、興醒めですが」
B組の委員長、
(まぁ、誰でもいいけど)
「覚悟して下さい。今度は此方の番です」
〈轟炎司〉
視線の先には、男風呂にいる筈のない女の姿がある。
「なっ!?」
驚愕し、広がる光景にそこから先の言葉が出ない。普段は黒く染められている銀色の髪が月明かりに照らされ、白い肌は湯気でしっとりとしている。その美しい肢体から目が離せなかった。
「あっ………えっ?」
ようやく目の前にいるのが、俺だと氷叢は認識したらしい。温泉の熱のせいなのか、どこか蕩けていた瞳が大きく見開かれた。そして慌てて胸を両手で隠し、しゃがみ込む。
「違っ、これは!」
だが、氷叢が今更そうしたところで………その、何だ。もう、色々と………ばっちり、見てしまった訳で。今、氷叢が抑えている胸は小ぶりではあるが形が良くて………その先端にある桜色の突起も、見えてしまったし…って。
(何を考えているんだ俺は!!? )
とにかく、何か言わなければと口を開く。しかし、上手く言葉が出て来ない。何を言えばいいのか分からない。あっという間に、顔を赤く染めた彼女から目を離せない。
「………綺麗だ」
やっと出た声は掠れていて。その小さな呟きが聞こえたのか、彼女の肩が小さく跳ねる………………………俺は今、何を口走った???
「あぁっ、いや違う!俺はちゃんと男風呂の方に入ってだな!!?」
思わず大きな声で言い訳をする。そうして今度は自分が赤面する番だった。
「………違うんですか?」
顔は伏せられていて、表情が分からない。それでも、どこか残念そうな響きがあった。聞いたことのない声音と言葉づかいに、また息を詰まらせる。
(なん、だ。それは)
それでは、まるで。
まるで、お前が………俺のことを。
「いや、その………」
「いつまでも見ないでっっっ!」
乱れた口調と共に、巨大な氷塊で視界が覆われた。