轟姓になりたくないのでヒーローになりました 作:紅ヶ霞 夢涯
〈繰糸琉生〉
僕は雄英高校ヒーロー科、B組で委員長をしている。学年で見ても成績、実力共に秀でているという自覚はある。そもそも雄英高校のヒーロー科であるという時点で、優秀さは証明されているというもの。
(けど、まぁ………)
上には上がいる、というか。やはり高い壁というものはある訳で。
轟炎司と氷叢冷。A組の中心である彼と彼女は、突出した実力を持っている。あの二人が同じチームとか、ふざけるな………と、思ったけど。連携が苦手なのは驚いた。
「でもさぁ」
その連携が十分に出来てないときに、周りをB組で結託して囲んで袋叩きにしていた筈なのに………攻めきれなかった。地力の差というものなのか、本当に嫌になる。
しかも、どういう原理なのか氷叢冷は空を飛び始めた。そのせいで、轟炎司の枷がなくなった。氷と炎の広範囲攻撃により、既にB組の連携は崩された。もう轟炎司と氷叢冷の相手を諦めた奴らは、早々に自陣の棒を守りに行くか別の相手を探して突撃している。
「で、どうするの繰糸君?完全にアタシ達、ロックオンされてるけど?」
B組の副委員長である、宝玉魔里香が尋ねてくる。それは逃げるか、それとも攻めるかという問い掛け。当然、答えは決まっている。
「相手してやるさ。さっきの一斉攻撃で、あいつらが一番多くポイントを持っているだろうし。全部掻っ攫って、僕らが一位で二次予選を突破だ」
それに、ここで逃げ出すような格好悪いヒーローなんて目指してない。
(Puls Ultra………乗り越えてやるさ)
「君も、それでいいよね?」
もう一人のチームメイトに声を掛ける。
「えぇ、構いません。彼ら程の実力者であれば、相手にとって不足はない」
システィリア・サーシス。ヒーローの本場、アメリカ合衆国からの留学生。
(見ていろ、轟炎司に氷叢冷)
今日、ここで僕らが勝ってやる。
動悸が激しい。頭の中がぐるぐる回っている。“個性”で身体を冷やしているのに、火照りが収まりそうにない。心臓がうるさい、いっそ止まれ。止まってしまえと、そう思う。
(なんで、どうして)
女湯の筈なのに轟炎司が、とか。その………何を、どこまで見られてしまったのだろう、とか。色々と気にすることはあるし、頭に浮かんできてはいるけど………だけど、それ以上に。
「なんでっ、私っ」
私は悲鳴をあげなかった?あまつさえ、私は何を口走った?
(だって、だって轟炎司が………急にっ)
綺麗だ、なんて。本音が溢れてしまったように言うから。それを、慌てて彼が否定するから。
ーーー違うの?
思い出して、また顔に熱が集まってきた。もう足を動かすことも億劫で、廊下の壁にもたれて蹲る。
「はっ………」
彼の裸体が頭から離れない。別に雄英高校で一緒に訓練していた時にも、彼の上半身裸くらい何度も見た。二年の時も三年の時も、海に行って互いに水着姿も見せあった。だっていうのに………本当に、どうして今更。
「こんなに、ドキドキしているの」
しばらく顔の赤みが引きそうにない。
「ーーーよぅ。お前さんにしては、風呂を上がるのが早かったな」
その声が聞こえた次の瞬間には、もう攻撃を仕掛けていた。“個性”を発動し、先を尖らせた氷柱を複数飛ばす。
その全てが、時空軌跡に届く前に粉々となった。
「………今の、もしかして本気だった?」
「本気でやられる心当たりがあるのでは?」
冷汗を流す彼に少しだけ溜飲を下げる。まだまだ八つ当たりには足りないけど、今はそれどころじゃない。
「どうして、こんなことを?それに改修工事の件、事前に報告がありませんでしたが?」
「そう細かいことを気にするな。老人のお節介だ」
私は時空軌跡を………元指定敵予備団体『月鬼會』の會長である男を睨みつけた。