轟姓になりたくないのでヒーローになりました 作:紅ヶ霞 夢涯
〈轟炎司〉
氷叢冷が勝利宣言をした直後に放たれた、恐らくは彼女の現時点での最大出力。それは熱を溜め込む体質である筈の俺に、確かに冷たさを感じさせた。
(だが………)
炎を放出し続けながら考える。何故かは分からないが、この氷は俺のフィールドにある柱には向かっていない。
察するに、柱を壊すより俺を倒すことを選んだのだろう。
「舐めるなッ!」
真っ向勝負というなら望むところ。身体の芯にまで届きそうな冷気に、全力で放出する炎で対抗する。
最大火力で、最高温度。しかし、体を包む冷気を振り払えない。
(ならば、火力を上げるまで!!)
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
そうして氷叢の個性を防ぎ続けて、どの程度の時間が経ったのか。五分………というのは言い過ぎかもしれないが、体感的にはそんな気がした。
やがて、攻撃の勢いが僅かに弱まった。その瞬間を逃さずに、防御中も右腕に溜め続けていた炎を即座に放とうとした直前。
俺の背後で、次々に柱が倒壊する音がした。
あのエンデヴァーから直々に、
「………何故、とお聞きしても?」
「食事の時にも言った、救助・避難・撃退。これはヒーローに求められる基本三項目だが、ほとんどのヒーロー事務所では一つに方針を定めている」
「そうですね。私も強いて言うならば、避難よりの撃退という感じですし」
私が最初に
そんな中で私がどうやって評価と儲けを稼いでいるかといえば、個人経営事務所な点と他所のヒーローが敵退治をしている最中の避難誘導を積極的にやっている点。
それから轟炎司との食事中にも言ったように、海難系ヒーロー事務所からのチームアップ要請。特にこれのお陰で私の活動範囲は広いので、様々な地域の人々から認知されている。
あと一つ主な活動に加える仕事もあるのだが、今は置いておこう。
「俺の事務所では、その三項目すべてを行う」
「………『つもり』や『予定』を付け加えない辺り、強気な発言ですね」
しかし、それがどうして私を彼の建てる事務所に誘うことに繋がるのか。
「社屋の場所は都心部を考えているが、他県への出張なども積極的にやっていく。そこで、お前だ」
どこでだ。首を傾げながら続きを促す。
「救助・避難・撃退。何をするにしても、お前がいれば活動の幅が広がる。その場でやれること、そして出張先の選択肢もな」
「………買い被りですよ」
それにしても、ちゃんと色々と考えた上での勧誘なようだ。けど。
(活動の幅が広がる、ね。それはエンデヴァー事務所のメリットであって、私にとってのメリットじゃない気がする)
既に私のヒーローとしての活動は幅広い。その分だけ忙しくはあるけど、一応は仕事を捌くことは出来ている。
(敢えてメリットを上げるなら、事務所に所属=人手が増える、くらいかな)
ただ事務所の規模が大きくなるのは確約されている訳だから、もしかしたら給料はかなり高いかもしれない。
(あ、いや違うか)
私の言う『活動の幅』は言い換えると『活動範囲』。現場でやることはほぼ変わらないが、彼の構想するヒーロー事務所なら『活躍の幅』も広がることだろう。
(何だろ。轟炎司の事務所であることを除けば、めちゃくちゃ好条件な気がしてきた)
デメリットがたった一つであるのに対し、メリットが多い。しかも就職した暁には、副所長ときた。
「それに貴方の事務所で副所長なんて、私に務まるとは………」
「買い被りなものか。謙遜も過ぎれば嫌味だぞ………二年間も個人でヒーロー事務所を経営してみせた手腕、ヒーロービルボードチャートでも上位に食い込む実力。並のヒーローには出来ん」
とりあえず謙遜すれば、即座に否定された。
別に自己評価を低く見積もっている訳ではないが、だからって『私TUEEEE!』みたいな態度は良くない。ので、程々な謙遜というか下手というか、そういう態度を忘れてはいけない。
「………光栄で、とても魅力的なお誘いです」
これは本当。これ程までの好条件で雇ってくれるヒーロー事務所なんて、そうそうないだろう。
「ですが、ごめんなさい。お断りします」
だが、断ることにした。それは勧誘してきたのが轟炎司だからというのが一番の理由だが、もう一つ。
(一度の拒否で引き下がる程度の勧誘なのか、それともそうじゃないのか気になる)
ーーーあと、たった一度の勧誘で頷いたら、何だか軽い女に見られそうで嫌だった。