轟姓になりたくないのでヒーローになりました 作:紅ヶ霞 夢涯
一方では炎を、そしてもう一方では冷気を同時に発生させることより、。轟炎司の側のフィールドに彼が思っている以上の熱が流れるようにした。そしてその事に私が彼を冷やしていたので、彼は気づくことはなかったのだ。
というか、冷やしてなかったら危なかったように見えたのは気の所為か。
「つまり、氷叢さんの頭脳勝ちということなのさ!」
「………………………………………………なるほど」
首に掛けられた銀メダルを見ながら、根津先生の言葉に短く応える轟炎司。全く、決勝戦でのテンションは何処へやら。獰猛な笑みはすっかり鳴りを潜め、いつも通りの仏頂面がそこにはある。
「そして氷叢さん、優勝おめでとう!」
「ありがとうございます、根津先生」
根津先生は鼠であるためメダル授与が出来ないので、別の先生によって金メダルが首に掛けられる。
「決勝戦、見事だった。私も最後の技は途中まで、轟くんを狙った攻撃だと勘違いしてしまったくらいなのさ!」
「恐縮です。しかし、今回はルールに助けられたような形での勝利でしたので………次は、今度こそ正面から彼を倒します」
「既に次を見据えているのかい。素晴らしいのさ!!」
まぁ、向上心を表すような発言はしておくべきだろう。一応、ヒーロー科に在席している訳だし。
あと普通に、勝ってみたいとも思う。
横から「抜かせ!」とか「次は俺が勝つ!!」とか言ってくる轟炎司を無視して、その年の体育祭は幕を閉じた。
諸々と好条件が重なる勧誘を蹴った私を、轟炎司はしつこく誘い続けることはなかったが、別れ際にこう言ってきた。
「事務所の詳細を後日送る。それを見て考え直すなら、いつでも連絡してくれ」
そうして手渡されたのは、破られた手帳のページに書かれた彼の現在の連絡先。それを何となく眺めながら、かつてのクラスメート達に一斉メールを送る。
まず、二年間も連絡を断ったことに対する謝罪。そして軽い近況報告を書き、最後に多忙なので今後も連絡を取り合うのは難しいということを加えた。
それから今朝やっていた書類の仕上げを済ませ、寝る準備を終わらせてベッドに横になる。轟炎司との久々の邂逅のせいで精神的に疲れた感じはあるが、回らない寿司はいい気分転換になったと思う。感謝。
(一応、お礼とか考えた方がいいわよね)
不本意とはいえ、かつて手放したエンデヴァーとの伝手を再び得られるチャンス。適当に高級寿司屋と見合う物を送って、今後は程々な付き合いが出来れば万々歳だ。
そんなに都合よく事が運ぶかどうか微妙だが、車中での会話から轟炎司は私をかなり高く評価している。私からどんな風に接触するにしろ、無下にすることはないだろう。
(………そういえば)
カレンダーを見れば、もう七月末。夏真っ盛りということもあり、海難系ヒーロー事務所からのチームアップ要請が多い時期だ。
そして八月に入ればすぐに、轟炎司の誕生日がある。
(………………………いやいやいやいや)
何を考えているんだ、私は。というか、よく覚えていたな。最後に誕生日を祝った日は、もう二年も前のことなのに。
(でも、まぁ)
………それ以外にタイミングも思い浮かばないし、とりあえず八月八日の予定は空けれるように調整しよう。