轟姓になりたくないのでヒーローになりました   作:紅ヶ霞 夢涯

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6話

 体育祭が終われば、次に行われるのは職場体験。体育祭での結果を見たプロヒーローが興味を持った生徒に指名が入り、指名が入らなかった生徒は学校側がピックアップするヒーロー事務所から体験先を選ぶことになる。

 

「今年は轟くんと氷叢さんに、プロからの指名が偏ったのさ!」

 

 根津先生の言葉は、当然と言えば当然のこと。今回の体育祭で、私と轟炎司以上に派手で目立つような活躍をした生徒はいない。

 

 軽く根津先生から職場体験の説明がされた後、ヒーロー名を考案するプロセスに移った。それに特に文句はないが、何故に発表形式でやる必要があるのか。

 

「私のヒーロー名は『グレイシア』です」

 

 サラッと書いてサクッと紹介した。私みたいに一発で決まった人は少ないが、それでも次々に皆のヒーロー名が決まっていく中で、難しい顔をしてペンを動かさない男が一人いた。

 

「意外ですね、轟さん」

 

 昼休み。轟炎司の正面の席が空いていたので、彼と相席して話を振りながら昼ご飯を食べる。

 

「何がだ」

 

「ヒーロー名ですよ。貴方のことですから、既に決めているのかと思いました」

 

「やかましい………これからの自分を表す名だぞ。簡単に決められるものか」

 

「なるほど。確かに貴方の意見も、分からなくはありませんね」

 

 しかし様子を見た限り、既にいくつか候補はあるみたいだが。その中に『エンデヴァー』はないのだろうか?

 

「折角ですし、見せてくれませんか?ほら、他人との意見交換で、何かいいアイデアが浮かぶかもしれませんし」

 

 彼自身ピンとくるヒーロー名が浮かばなかったのか、渋々とだが一冊のノートを手渡してくれた。

 

 それをパラパラと適当に捲り、どうにか苦笑することに成功。思わず真顔になるところだった。

 

(〇〇ヒーロー・誰それ、みたいな感じの構造はもう考えてる訳か。そんで肝心のヒーロー名だけど)

 

 まず、〇〇ヒーローの部分から。

 

 〇〇に入る言葉が色々と書かれていて、一番上に熱血。しかしこれは自分でもなしと思ったのか、線でかき消されている。他には燃焼、炎熱、火炎、業火、灼熱などがある。

 

 そして誰それの部分。こっちも〇〇ヒーローと同じく、彼の個性を表すかのような文字が羅列されていた。が、その中にエンデヴァーはない。

 

「………個性は、イメージしやすいと思いますよ」

 

 そう言った私の反応が我ながら微妙だったのは、『フレイムヒーロー・エンデヴァー』という未来の彼を知っているからだろう。

 

 

 

 

 

 週末。私はとあるヒーローが所有している、巡視船のある港を訪れていた。

 

「よく来てくれたな!今回もよろしく頼むぜ、グレイシア!!」

 

「此方こそ。よろしくお願いします、セルキー」

 

 ゴマフアザラシという個性を持つ、海難ヒーローの一人。彼とは独立してからヒーローネットワーク(HN)を通じた、チームアップ要請で知り合った。

 

 初めて会った時に彼の相棒(サイドキック)として活躍する女性の姿がないことに、密かに驚いたのを今でも思い出す。

 

(まだ、シリウスいないのね)

 

 セルキーの放つ音響を聞き取る相棒、シリウス。セルキーとシリウスをセットで考えていたから、多少の戸惑いがあったものだ。

 

 沖マリナーという船の操舵室に案内され、そこで今回のチームアップ要請について話し合う。

 

「今回、アンタにチームアップ要請をしたのは、ある敵を捕まえるためだ。………『クラーケン』、って敵名は聞いたことあるよな?」

 

「えぇ。ニュースで見聞きしましたし、資料も頂きましたから」

 

 最近、巷を騒がせる自身をクラーケンと自称する敵。その個性は異形型と発動型が融合したような、巨大な蛸に変化するというもの。

 

 そのクラーケンという輩は、これまで何隻もの旅客船や貿易船などを沈め、物的にも人的にもかなりの被害を出している。

 

 当然、警察もヒーローも動いたが………捜査も難航しているようだ。

 

(まぁ、仕方ないのかもしれないわね)

 

 何せ、海は広い。そしてクラーケンがそもそも、まだ日本の領海にいるかすら定かでない。もしかしたら、既に国外へ逃亡しているかもしれないのだ。

 

(かもしれないけど、流石にないか。すぐに国境の警備が固められたし、突破されたならHNに情報も載るだろうし)

 

 さっき確認したが、そういう情報はなかった。まだクラーケンは国内にいるのだろう。

 

「そこで、俺の出番って訳だ」

 

 得意気な表情をするセルキーに、頷いた。彼を単純に表現するならば、自由に動き回る音響探査器そのもの。その捜査可能範囲は、他の海難ヒーローと比べても突出していると言っていい。

 

 それが私が彼の事務所から、チームアップ要請を受けている理由だ。

 

「それじゃ、俺は早速潜る。何かあったらすぐに連絡するから、いつでも動けるように頼むぜ!」

 

「はい、任せて下さい。索敵はお願いします」

 

 セルキーはグッ!とサムズアップすると、甲板に出て海に飛び込んだ。

 

(さて、どう時間を潰すかな)

 

 操舵室に待機してもいいが、私は巡視船の操縦など出来ないので、はっきり言って邪魔になる。いつでも動けるようにと言われたので、私も甲板で待機することにしよう。

 

(クラーケン、か。すぐ見つかればいいんだけど)

 

 資料は見た。事前に蛸についてネットで調べて、どんな事が可能なのかもある程度の予想を付けた。未だに捕まってないことからして、並の敵ではないということも理解している。

 

 ーーーそれでも、私なら会敵して三十秒程度で捕らえられるだろう。

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