フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
初投稿です。原作小説1巻のネタバレがあります。
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── ああ、もったいない、もったいない。
── こんな上等な素体を、損切りして捨てるなんて。
── 損切りついでに他の案件の踏み台扱いとは……上位世界のクライアントのお考えは分かりかねる……。それとも別口がかち合ったのか……。
── おかげでこちらの商売も成り立っているから歓迎だがねえ。
── しかし、もったいない、もったいない……。
── これもまあ、中身は腐っているが、ガワは立派なもんだ。
── 世の中、エコにいかないとねえ。リサイクルだよ、リサイクル。この場合はリユースだっけ?
──
── さて、こっちの中身の方はどこで拾ったんだったか……まあいいか。じゃあまた他にも使えるモノを拾いに行かなきゃなあ。
── さあ次の場所を回らないと……ああ、もったいない、もったいない…………
目覚めたら虚空に在った。何もない。虚無だけがある。
ここはどこだ、などということは考えもしなかった。
なぜなら現在進行形で死にかけていたから。
── なにもない、ということは。
── 空気すらないのだ。
「かっ……!?」
実際には声は出ていないだろう。
なにせ、ここには声を伝える空気がない。
骨と肉を伝わって耳に響いたのだ。
すぐに息を止める。
だが長くは持たない。
息を、しないと……。
そう願ったとき、身体の中から
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次の瞬間。
「──っはぁっ、はぁっ、はぁっ──……!!」
はぁはぁと自分の荒い呼吸の音だけがする。
パニックになったら死ぬぞ、と。
冷静に。
冷静に。冷静に。
冷静に。冷静に、冷静に、れいせいに――。
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精神が
それでようやく、私は周囲を見る余裕ができた。
深呼吸。
「すぅーー、はぁああーーー。えっと、なにが、どうなって……?」
周りは何もない。
本当に、何もない。
いまは不思議と空気を吸えているが、さっきまでは空気もなかった。
杖を握っているのにも今、気が付いた。
なぜか身体は傷だらけだ。前歯は折れ、顔は酷く腫れ、刺されでもしたのか腹に穴が開いている。
そしてそれを不思議と冷静に俯瞰する己がいることに気づく。痛みにパニックになってもおかしくないのに。
治さなければならないな、というのも同時に強く思った。─── また、何かが引きずり出される感覚。
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……傷が治った。
なんなんだ?
再び周りを見る。
真空で、光もない暗黒で、ということなら、宇宙にでも放り出されたのかと思ったが。
そういうわけでもなさそうだ。
もしここが宇宙なら星の光くらいあるだろうが、それすらもないのだから。
「……いや、うちゅう、ってなんだろ?」
何かがちぐはぐだ。
【父さん、酸素欠乏症にかかって】……?
酸素欠乏症? 酸素ってなんだ? 誰の父さんの話だ?
なんだ、なんなんだ。
ここはどこだ?
いや、そもそも……。
「私は、今までどこで何をしていたんだ……?」
知りたい。
知りたい。知りたい。知りたい!
知らなければならない。
焦燥感。
「私は、私は……何者なんだ。さっきから何が起こってるんだ」
そう
だからこの
そのための術式を
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瞬間。暗転。
「あーそーゆーことね。
一瞬で脳直でぶち込まれた情報を咀嚼して、そうつぶやく。
まず、この身体について簡単にまとめると。
この身体は魔法チート転生者。上位世界の神様(悪魔かも?)による加護のおかげで魔力無限で、
でも本来的に
上位の魔導師には魔力と才能頼りのゴリ押しなど効くはずもなく、サクッと次元の狭間に投棄されたところに、“もったいないおばけ”が別の魂注入。
「うわっ、この身体のもとの持ち主、ひょっとしてクズ過ぎ?」
しかもそれまでの経緯もひどい。
転生して生まれた故郷で魔法の師匠の女
出世欲出して代官のところに勤めるも1年で辞めて魔導師としての栄達を求めて都に。当然これまでの縁を捨てて、だ。
お前、中世チックな世界で
そんで上京して魔導院の門を叩いたが、入門にあたって激詰めされて―― 魔導院は学術機関であり研究機関であるため魔法の体系化が真骨頂なのになんとなくで魔法を使ってるから肝心の理論部分が説明できないとか致命的―― 心折れて。
いやいや院試よりはまだぬるい程度の詰めで心折れてって、マジかお前。人間強度が足りてないだろ。
故郷に帰るも代官や荘の長の顔に泥を塗って、村の呪医や娘らの青春を貪って投げ出して女衆を敵に回してるやつに居場所があるはずもなく。
かといってかつての称賛を忘れられないのでチヤホヤしてくれるところを求めてさすらっていると、あれよあれよという間に力こそ全てな裏稼業に入ってしまって。
「少しでもまっとうな魔導師になるべく努力しときゃあ違っただろうに……」
だがそうはならなかった。そうはならなかったんだよ……。
何も努力せずに称賛を得ることに慣れてしまった精神は、一から積み上げることに耐えられなかった。
魔法に関する才能のすべてを与えられていたのだから、まっとうに努力して魔導師としての研鑽を積めば、魔導院の教授位にまで上り詰められただろうに。
そうでなくても近衛猟兵だとかの魔法を道具として使う方のプロフェッショナルになる道もあっただろうに。魔導院ではなく近衛府の扉を叩いていればまた違ったのだろうか。
「いままでいろんなものを踏み台にして登ってきたが、最後は自分が踏み台に、って感じだな、これは。
そして直接の破滅の経緯はこうだ。
ある辺境の荘── ケーニヒスなんたらとかいう荘だ── で配下が見つけてきた、珍しい半妖精の幼女を浚おうとしたけど。
その半妖精の幼女の兄貴(こっちは普通の
この少年も見目が良いのでついでに攫おうかと手加減して慢心して全力を出さなかったのが
時間を稼がれているうちに、何の因果か半妖精の幼女を珍しがってやってきた
「んで、そこに“もったいないおばけ”がやってきて私の魂をこの身体にぶちこんだ、と」
“もったいないおばけ” ってなんだよ。
何者だ、“もったいないおばけ”。
いやでもそうとしか形容できないんだって。マジで。
この世ならざる者どもも珍しくない。
だから多分、どっかの神の一側面なんだとは思うのだが……まあ、“もったいないおばけ”が居たわけだ。
「身体の方の事情は大体わかった。っていうかあの金髪の少年もただものじゃないよなー、絶対」
この身体の因果を辿って視た過去の情報で見たが、この身体の持ち主がそのとき戦っていたその少年は、まるで主人公みたいだった。
半妖精の妹を守って奮戦。
いよいよこっちがキレて大技準備からの絶体絶命、というところで神がかり的なタイミングで重要NPCぽい援軍。
主人公でしょ、こいつ絶対。
そしてきっと前世の記憶があるって間違いない。
そうじゃなきゃ
すると、こっちは踏み台転生者ってわけか。
魔法チート転生者を倒したんだ。まさかあの少年がただのモブだとは思えない。
「ああいや、主人公だのモブだの、そういう考え方がそもそもイカンのだ」
慢心ダメ、絶対。
何気に元の身体の持ち主の思考の癖の名残があったりするのか?
そらそうか、脳みそはそのままだしな。
「あとはそのあと注入された魂── つまり、私だが」
私の方の来歴は── まあ大したものではない。
結局はこっちは寄せ集めでしかない。
“もったいないおばけ” が蒐集していた異界からの落人やら木っ端の魔導師やら邪神信仰者やら、そういうのの
何のことはない。
まあそれはそれとして。
「生きてるだけで丸儲け、ってなもんだ。再生利用も大いに結構」
しかもこの身体は魔法に関しては破格の才能を与えられている。
不幸なことに元の身体の持ち主は
「せいぜい上手く使ってやるさ」
差し当たっては──。
「この虚空を抜け出すことから始めますかね」
◆魔法チート転生者
WEB版から書籍版になった時に出番が大幅増強された人。ポテンシャルは魔導院教授位。チートの無駄遣い。
(某外道長命種 曰く「魔導院に乗り込んできて先天性の魔法を披露して威張り散らし、三〇分でお引き取りを願われた阿呆」→https://ncode.syosetu.com/n4811fg/24/)
◆異世界人の魂
来歴不明。魔法チート転生者とは別の魂。探索者(CoC)適正アリ。
◆魔導師の魂
来歴不明。生前はギリギリ魔導師を名乗れる程度の力量・学歴。たぶん落日派。
◆邪神信仰者の魂
来歴不明。もったいないおばけに宗旨替え。どっちにせよ邪神信仰に変わりはないと思われる。
◆もったいないおばけ
もったいないおばけ。