フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
東方征伐戦争において動死体兵器が運用されていた件について、マックスくんは結婚準備を理由に帝国政府への報告を遅らせて時間を稼ぎつつ、魔導院の落日派に情報提供し、穏便な対処の検討と着地点の模索を促していた。
タイムリミットは、マックスくんの上司であるアグリッピナ女史がウビオルム伯爵領の視察から帰ってくるまで。恐らくは春か夏か、そのくらいだろう。

マックスくん「流石に見なかったことにはできないし、ウビオルム魔導宮中伯に隠し立てもできない。学派への義理立てもあるから落日派で対処を考えてもらう時間は作るけど、それ以上は抗命罪だか背信罪だかに問われそうだし、いくらなんでもそこまでは付き合えない……。首謀者と思われる屍戯卿は人間的に尊敬できる人だが、思想的には相容れないから庇うモチベーションも上がらないし……」

 


25/n 東行の波紋:動死体兵器案件-3(屍戯卿の末弟子、聴講生ゾフィ)

 

 やあ! 婚約者(ルゥルアさん)の「行ってしまうんですか……早く帰ってきてくださいましね……」という甘やかで切ない声を振り切って久しぶりに帝都に戻ってきた私だ。

 そう、ライン三重帝国で魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)を拝命しているマックス・フォン・ミュンヒハウゼンだよ。

 

「帝都ベアーリンよ、私は帰ってきた!!」

「……ふふふ、首を長ぁくしてお待ちしておりましたわ、おかあさま…………」

 

 〈空間遷移〉の魔法を使い遙か東の砂塵の地から、懐かしき帝都ベアーリンへは魔導院地下の工房へと舞い戻った私を待っていたのは、我が脳髄で孕んで頭蓋を割って生まれた娘にして戸籍上の妹である、極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)のターニャ・フォン・ミュンヒハウゼンだった。

 ターニャには巡検(フィールドワーク)ということでトンネル掘りに着いてきてもらっていたが、大陸横断トンネルの方はひと段落したので、道中の魔宮や使徒などのことも含めてレポートにまとめて単位の足しにしてもらうべく、実は一足先に魔導院に戻ってもらっていたのだ。

 いつ頃から戻らせていたかと言うと、具体的には、最初に動死体のサンプルをひとつ確保できたときから。巨蟹鬼スティーの戦化粧のために極光を宿した鱗粉を提供してくれたあと、ターニャにはスティーの出撃を待たずに、キャプチャーした動死体兵器のサンプルをノヴァ教授に渡しに帝都まで戻ってもらっていたのだ。

 

「いやぁ、面倒な役目を済まないね、ターニャ」

「全く以ってそのとおり面倒ごとでしたわ! あとで埋め合わせしてくださいましね、おかあさま」

「できる限りで考慮しよう」

「約束ですわよ?」

 

 “薄暮の丘” に連れていくのでなければ、一晩中ダンスでも、金髪や碧眼を捧げるのでも何でも構わないさ。

 かなりの面倒を掛けた自覚はあるしね。

 お疲れさま!

 

「本当にひたすらに面倒でしたわ! 少し人目が無くなれば屍戯卿の一派の下っ端がポンポコ襲撃してきましたのよ!」

「あー、やっぱり? まあ心配はしてないけど、一応は同じ学派学閥なんだから、殺しちゃいないよね?」

「ええ、抜かりありませんわ。きっちり伊達にして帰しました。

 おおかた私を人質にするなりしておかあさまに譲歩を迫るつもりだったのでしょうけれど、それは私を嘗め過ぎです」

 

 まぁねえ。

 

 見た目こそ虹色ふんわりオーロラロリって感じなターニャだが、その本質は極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)

 しかも魔導師としての鍛錬と研鑽を積み、己の持つ光波と電磁の権能を自在に操り応用するときた。

 高位妖精の出力と権能に、魔導師の思考と悪辣さが加わってとんでもない事になっている。

 沙漠への東行に際して、道中で襲ってきた神の使徒たちを雷霆の魔導で屠ったことは記憶に新しい。

 

 であれば、師を想うが故にこらえきれずに暴走した末端の聴講生程度をあしらうことなど、朝飯前だろうさ。

 

 見た目で侮ったのかもしれないけれど、不在の私に対する手札にしたいなら、ターニャを襲うのは悪手も悪手だ。

 聴講生程度ではターニャに勝てるはずもない。

 

 とはいえ、だ。

 

「別に屍戯卿が命じてターニャを襲わせたわけではなかったのだろう?」

「ええ、それは確認が取れています。寧ろ屍戯卿からは、丁寧なお詫びをいただきましたわ。

 やはり下っ端の暴走だったようですわね。……ああいえ、“熱心な信者” の暴走、でしょうか」

「親の心子知らずというか何というか……。大人しく沙汰を待つのが最善だとわからんのかねぇ」

「分からないんでしょうねぇ……」

 

 心象を悪くしても仕方ないというのにね。

 イエローカードが出ているときに、さらに反則行為重ねたらレッドカード出されてもおかしくないのだし。

 どうもそれを分からない輩が居たらしい。

 視野が狭いというか、狂信で目が曇っているというか。

 

「同じミュンヒハウゼンの係累として、ヘルガ嬢の方には襲撃は?」

「それはありませんわね。他閥の、しかもライゼニッツ卿の直弟子に手を出したら、それこそ穏便に済むものも済まなくなりますわ」

「その程度の分別はあったか」

「まあ流石にそのようですわ」

 

 実力行使を伴うほどの学閥内の内紛というのも相当だと思うけどね。

 それだけ屍戯卿が慕われていて、本人もカリスマがあるということだろうけれども、そんな向う見ずなのが配下だと大変だネ。

 

「で、()()は?」

 私が工房の床を指差す。

 

「実力行使がダメなら搦め手で、ということだと思いますわ」

「む~~、む~~~、んん~~~」

「搦手、ねえ。いったい何をするつもりだったのかい? キミは」

 

 むーむー言って床に転がされてるのは、紐で口も全身も雁字搦めにされた白衣姿の少女だった。

 私も知っている少女だった。

 

「ねえねえ、何したかってん? ゾフィ氏」

「むぅ〜〜!! むむぅむむーー!」

 

 というか、ゾフィ(もこっち)だった。

 屍戯卿の一派に所属する聴講生で、ライン三重帝国物流ネットワーク研究会改め、帝国トンネル公団(仮)の中核メンバーの。

 

「見てくださいおかあさま、この喪女(もじょ)を。自己改造して魅力値高めて(ボンキュッボンにして)きてますわよ。

 きっと、おかあさまに色仕掛けに来たに違いありませんわ!」

 

 かーっ、卑しか女ばい! と言わんばかりのターニャは、屈み込むと、前に見た時よりも豊満な肉体になっているゾフィの乳を横からパチンとひっぱたいた。

 

「んんーー!!?」

 

 全身を縛る紐によって絞り出されるように強調されたゾフィの巨乳がたゆんと揺れた。

 ふむん、これは肉体改造(外科)をやってますわ。

 完成度的にはゾフィが自分でやったのではなく、誰か先輩にでもやってもらったのだろうかね。

 出来栄えが彼女自身の腕前を超えているように思える。

 いや、あるいはゾフィも研鑽して腕前を上げたのかもしれない。

 

「このこのこの! こんな駄肉をぶら下げて! 落日派のクセして増設部位に詰めたのが脂肪だけとか恥ずかしくありませんの!?」

 叩く、叩く、叩く。

「ンッ、ンッ、んぅっ?! んぅッッ?!」

「どうせ詰めるならもっと高機能なものを詰めなさい!」

 

 ああ、それは私も思った。

 単なる豊胸手術で満足してるようじゃあ、まだまだだ。

 人体に諸々を仕込むためのスペースは限られてるんだから、無駄遣いは良くない。

 ……いやゾフィも成長期だし、外科的にではなくホルモン分泌弄って育てた、という可能性もあるか。

 

「それにおかあさまは結婚を控えてらっしゃるのですから色仕掛けなど無駄ですわよ」

「んぅっ!?」

 

 最後にバチーンと叩いて鬱憤が晴れたのか、ターニャは「はあ、スッキリしましたわ!」とゾフィから離れた。

 

 まあね。

 婚約者(ルゥルアさん)への義理立てもあるから、そもそも浮気はしないつもりだ。

 色仕掛けなど無駄無駄ー!

 

「それで一体全体、何の用なんだい、ゾフィ氏」

 流石に拘束は解かないが、物流ネットワーク研究会のよしみで、猿轡状態の紐は外してやった。

 念のために抗魔導術式で覆って、妙なことをさせないようにはしておく。

 

「ぷはっ! い、いたいけな乙女にこんな仕打ち! 酷いじゃないか!」

 

「工房への侵入者相手の仕打ちとしては穏当な部類だろうさ」

「くっ、きっとあんな事やこんなことをするつもりなんだろう?! 破廉恥漢め!」

「んー、ただのヒト種(メンシュ)は弄り飽きてるしなあ……」

 

 私の興味を惹きたかったら、もっとリサイクルし甲斐のある感じになってくれ。

 ほら、こう、ドラゴンと相討ちになったりとかそんな感じで? あるいは実験の失敗でどうしようもないくらいに壊れ果てるとか?

 それに口では嫌がってても、セリフは棒読みだし、本心では逆に私に改造される(手を出される)のを望んで巻き込もうっていう打算的な感じなのが……こう……。

 

「萎える……」

「 」

 

 いやだってどーせ私に負い目作らせて、砂漠の動死体案件を帝国政府に伝える時に、少しでも有利になるように動いて欲しいとかそんなんだろ?

 打算ありきだと思惑に乗るのは警戒せざるを得ないし、もともとゾフィは屍戯卿の宗派の信徒だから宗教者的には手を出しづらいし……。

 

「上手くダメコン(ダメージコントロール)できれば別に屍戯卿(シュマイツァー卿)が失脚するほどのスキャンダルじゃないだろう? 軟着陸させるために工作する時間は十分あげてるんだし、教授を張ってる人種ってのは、そもそもこの程度で揺らぐような生易しいもんじゃないだろうに」

 

 魔導的にも政治的にも化け物だからこそ、教授なんて地位が与えられるのだ。

 しかもシュマイツァー卿は教授位に加え、貴族位を与えられるほどの功もある。

 

 落日派ベヒトルスハイム閥としても、せいぜい、実行者に含まれる研究員を1人か2人放逐して終わりというのを落としどころにしたいだろうさ。本音としては「敵国兵士の死体を再利用したところで何を大袈裟な」と落日派一同としては思っているだろうし、穏便に収めたいはず。

 もちろん敵国の兵士を動死体にして活用しちゃってたのは、帝国のメンツを酷く損なったし、現地を誤魔化すためのカバーストーリーの流布なんかで実費負担も今後生じるだろうが、教授の首を差し出す程のことでは無いと派閥としては思っているはずだ。

 まあ帝国政府への報告前に── つまりは他の貴族の介入を許す前に── 、諸々全ての処理を終えて、その後のリカバリーにも全面的に政府に協力するのが大前提になるし、屍霊術の濫用が二度と出来ないように厳しい監視はつくだろうが、そのくらいならやりようは幾らでもあろう。

 

「…………まさか、余罪があったんではあるまいね?」

「ギクゥッ」

「おいおいマジかよ」

 

 なんてこった。

 大前提として『動死体兵器は東方征伐戦争のときだけ使っていた、今はヤってない』というのが満たせないとなると、話は変わって来るぞ?

 

 例えばだが、東方征伐戦争のときに繋がった貴族たちから、継続的に動死体兵器の発注が来ているとか。

 しかもその材料が、敵国の兵士や野盗のような重犯罪者(※死罪になるのが明らかな者)だけじゃなくて、無辜の民が含まれていたとか、奴隷的に引き渡された債務者が居たとかだと、かなりマズイ。帝国は三皇統家の月喰み大狼グラウフロック公爵家が戦奴の出自を持つことから、奴隷制や人身売買は厳しく禁止されているのだ。

 いやまあ、あくまで善意の第三者として、提供された材料(死体)の出元は知らなかったとシラを切ることもできるかもしれないが……かなり無理筋だろう。

 

 死体は語る、というが、落日派の屍戯卿とその一派とあろう者たちが、提供された死体を加工する過程でその来歴を読み取れないというのはあり得ないからだ。

 違法な入手経路の死体だと知ってて加工したと見なされるのは確実だろう。

 それにおそらく取引の記録もどこかに残っているだろうから、そちらから辿られる可能性もある。私みたいに〈空間遷移〉で飛び回って自前で群盗山賊連中を潰して調達したりしてない限りは、移送などの際に幾つもの人の手を介するから、そういう記録は残るものだ。

 

 今でさえ『禁術である屍霊術の濫用』の咎と、『帝国政府の外交上のメンツを大いに損なった』というので特大ツーアウトなのに、そこにさらに『帝国の無辜の臣民と知ってて動死体の素材にした』まで加わると完全にアウトだ。

 

 まあこれはあくまで例え話。

 実際のその『余罪』とやらの内容は知らんけども。

 

「だ、だからもっと時間が必要なんだよ……。裏工作の時間が足りないんだ。少なくとも所在がわかっている動死体兵器は回収しないと……」

「闇から闇に、か。だがそれをするにしても、規模が大き過ぎる、と」

 

 余罪の内容や規模にもよるが、確かに工作の時間が足りないだろうな……。

 

 いっそのこと魔導宮中伯アグリッピナ女史に頼み込んで、大きな借りと引き換えに揉み消してもらうという手も無くはないが、それやると落日派ベヒトルスハイム閥が五大学閥から失脚しかねないほど大きな借りになりそうだ。

 それはさすがに一教授の首を庇うための許容範囲は超えているだろうな。

 

 こうなってくると、あとは何か大きな功績と引き換えに罪状の減免を願うくらいか?

 それか、魔導副伯(わたし)経由の告発を待つのではなく、それに先んじて屍戯卿自身が動死体兵器を発注してきた貴族連中を内部告発するとかすれば……。

 そうすれば司法取引で、死罪ではなく、放逐・流刑に留めるくらいはまだ可能だろうか。

 

 あとは…………屍戯卿が貴族位も教授位も私財も没収されて放逐されても大丈夫なように、予め何か受け皿(天下り先)を作っておくとか?

 

「あっ、それもあってゾフィ氏が私のところに使いっ走りに来たのか……?」

「そ、そうだよ! 最悪の場合に、私の権限で大陸横断トンネルの関係で先生やみんなを雇うことにしたいんだ! 雇うのがダメなら私がパトロンとして先生に予算出すのを許して欲しいんだよー!」

 

 まあそれは常識の範囲内でやってもらえればとやかくは言わないよ。

 もしも大陸横断トンネルの功績を帝国政府に差し出すことを以て、屍戯卿の罪を相殺してくれとか言われたら、流石に断るが。

 そうでなければ、ゾフィ宛ての役員報酬の使い途なんて、いちいち私が嘴を突っ込むことではないし。

 

 ただ、もし屍戯卿の一派を将来のトンネル公団(仮)で引き取ったら、監視は付けることになるだろうけど。

 

「いずれにしても、我らの領袖(ボス)であるベヒトルスハイム卿の沙汰待ちだ。私が勝手に動くわけにはいかんよ」

「そ、そんなぁ……」

 

 がっくりと意気を失ったゾフィがまた変な方向にヒートアップしてまかり間違ってストリップを始めない(色仕掛けを継続しない)うちに、私は彼女を工房から叩き出すことにした。

 




 
なおこの後、屍戯卿からは丁寧なお詫びの文と手土産をいただいた。

屍戯卿「毎度毎度、うちのがスミマセン……。生かして返してくれたことに感謝を」
マックスくん「大変だと思うッスけど、手綱はきちんと握っといてくださいッス……。たぶんベヒトルスハイム卿(我らが大ボス)はそちらの統制力も見てるッスよ」
屍戯卿「いま一度、徹底するよ……」

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原作web版も更新されてるし、コミカライズ第5話も更新されてるぜ!
コミカライズ第5話(https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19203286010000_68/)はエーリヒくんの初陣、攫われた妹エリザ奪還の話。そして当作の主人公としてリクルートしている仮称マックスくん(ひとさらいのすがた)が見られます(当作では「偽装の帰郷」で金髪碧眼に変化して、ターニャを脳で孕んだあとはそっちで固定されてますが)。仮称マックスくんの戦闘については、うんまあ、初手スリープクラウドでなかった分、まだ有情なんじゃないかなぁ(※仮称マックスくんのスリープクラウドは、熟練度振ってないのか自我の強い大人は昏倒させられない程度らしいですが)。 原作者様のTwitterで「コマの外側」として解説もあるのでこちらも要チェックどすえ → https://twitter.com/schuld3157/status/1613899613463015428
原作WEB版(https://ncode.syosetu.com/n4811fg/263/)は何か順調に神器を集められそうになってますけど、道中表さんがどんな仕事してくれるのかが楽しみではあります。あと、アグリッピナ氏とのダンジョンアタックでの共闘も期待したいところ!

 
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