フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
 帝国政府に対して、婚約者である中東の沙漠の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の白き巫女、ルゥルア・ハッシャーシュ嬢との婚姻の届けを出した、我らが魔法チート転生(マックス・フォン・)者マックスくん(ハシシ=ミュンヒハウゼン)
 マックスくんは届け出その他のために帝都に戻ったついでに、東方征伐戦争時に落日派ベヒトルスハイム閥の一員である屍戯卿一門がやらかした動死体案件の尻拭いのために、派閥一同で奔走する羽目になってしまった。特に帝国貴族中に秘密サロン経由でバラまかれた屍戯卿の『作品』の回収は手間であり、最終的にその多くがマックスくんとその妹である極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)タチヤーナ(ターニャ)が手掛けた電子機械的な合法魔導具に秘密裏に置き換えられることとなった。
 屍戯卿の一門は秘匿技術を学閥に取り上げられたうえで解体され、幾人かの研究員が責任を負わされて追放されてしまった。屍戯卿自身も研究費の返上その他のせいで暫く貧乏暮らしとなりそうだ。さて、彼/彼女もこれで大人しくしてくれればいいのだが……。

マックスくん「それはさておき、魔導宮中伯(アグリッピナ氏)からの御下命である、閉鎖循環魔導炉の実験地の策定や、後背となる研究都市の造成も手を付けないとね。
 もちろんその途上で、婚約者……いや、妻たるルゥルアさんのハッシャーシュ氏族の土地を富ませるのも忘れちゃならない。──── さあ、忙しくなるぞ!」

 


26/n 実験魔導炉と沙漠開拓と……-1(空に見事なキノコの雲)

 

 塩の沙漠を閃光が走り、爆圧が地表を嘗め、次の瞬間には爆心地に生じた真空に向かって急激に大気が流れ込んで強風が吹き、そして衝撃波が音の壁となって地上を駆け抜けた。

 同時に極大の熱放射が地上に立つものを熱し、炎上させる。

 大気は持続的に超々高温によって加熱され、吹き上がる上昇気流により、爆心地ではまるでキノコのような形の巨大な雲が形成されていく。

 

「おぉ、空に見事なキノコの雲……」*1

 

 キノコ雲を手庇(てびさし)で望み、“らーいーや ら らいよら” などと呟く私は、ライン三重帝国魔導院は落日派ベヒトルスハイム閥所属の魔導師にして、帝国政府で隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)及び魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)に任命されている、マックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンであーる。

 我ながら自己紹介が長いとは思うが、帝国貴族にしてはまだ短い方だ。

 

 帝国から中東地域まで未踏地域である山脈や黒い海の下を延々と掘削して作ったトンネルを管理することが決まったため、隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)という新たな官職を授けられたりもした。

 近年稀に見るスピード叙爵である。

 

 ちなみに方伯というのは、侯爵(領邦君主)宮中伯(大臣)と同程度の権限(=伯爵に優越する権限)を持つ爵位であるから、成人したての若造相手にしては大抜擢ということになるだろう。

 ……いや、大規模な隧道の作成ノウハウと、実際に大陸横断規模のトンネルを作った実績を鑑みれば、方伯への叙爵も妥当なのかもしれないが。

 まあ、配下となる隧道(ずいどう)管理組織は構築中なので、隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)と言ってもまだ名前だけだけどね。

 

 また、無事に今上皇帝陛下たる無血帝マルティンⅠ世陛下が斡旋してくださった縁談が実って、官職だけでなく、姓も少し長くなった。

 ハシシ、の部分がそれにあたる。

 ミュンヒハウゼン男爵家からは独立して分家を立てた形だ。

 

 隧道方伯への抜擢も、結婚して新しく家を興した私への、マルティン先生からの御祝儀という面もあるのかもしれない。

 

 その結婚のお相手だが、東の沙漠の暗殺部族の頭領にして蠍の神に仕えるアルビノの伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)、真珠の甲殻を持つ巨大サソリを背負ったような立ち姿の銀髪美人、ルゥルア・ハッシャーシュさんだ。

 気立て良し。器量よし。さらに螫蠍神(せきかつしん)に仕える巫女として内政もできる(この砂塵の地では、巫女/神官は指導者層であり、政治経済は神殿を中心に回っている)という超有能な奥さんである。

 所領は帝都から見て僻地も僻地になるが、それは私の場合は開発の余白にも繋がるのでむしろ願ったりかなったりというところ。

 

 ハッシャーシュの部族は、以前の東方征伐戦争にて、いち早く帝国に寝返って周辺部族の情報をもたらした功績がある。

 そのため、帝国政府としても下にも置けない扱いをする必要があるとかなんとか。

 

 私が婚約の挨拶にこの沙漠まで赴いた時にもいろいろとあった。

 その際、東方征伐戦争時に動死体にされていた彼女の姉、黒曜の甲殻を持つ戦士マリヤム・ハッシャーシュ女史を “もったいないおばけ” の奇跡で再誕させて二股の蠍尾と蜉蝣(カゲロウ)の如き翅を持つ亜種 “雙尾蠍(そうびかつ)” として眷属に加えたりもした。

 

 まあ、妻であるルゥルアさんと、義姉であるマリヤム女史についてはまたあとで紹介しよう。

 

 

 

 

 今はそれより、目の前で燃え上がる灼熱の火球と、そこから伸びるキノコ雲についてだ。

 

 核実験?

 いいえ、閉鎖循環魔導炉の実験です。

 

「……魔素の汚染がひどいなぁ。原理的に放射性物質が出ないのは救いか」

 

 閉鎖循環魔導炉というのは、以前私が魔導院の聴講生として入院する際に、魔導院本院の建物、鴉の巣(クレーエス・シャンツェ)ごと吹き飛ばしかけたやつ……の改良版だ。

 その吹っ飛んだ奴は、落日派ベヒトルスハイム閥で私が師事しているノヴァ教授が実験を取り仕切っていたもので、火龍の心臓を模した炉心の中に、あらゆる概念全てを燃やし尽くす火種を閉じ込めて無限のエネルギーを得る、というものだ。

 なお当然のように爆発した。……実態は実験炉の解体その他を面倒がって機密保持のためプラス暴走時のデータ取りのために故意に吹き飛ばしたっぽいのだが。

 

 それで晴れて、実験の主導権は帝国政府に移り、このたび、魔導副伯としての私の上長に当たるあの外道長命種(メトシェラ)、アグリッピナ・フォン・ウビオルム魔導宮中伯のプロジェクトチームがその実用化に当たることになったのだ。

 アグリッピナ女史はその天才的なセンスにより、爆発した前期型(火龍心臓型)閉鎖循環魔導炉のデータの中から、熱力学法則を部分的に破るデータを見出し、それを魔導式として構築することに成功したという。

 

「……まあ、暴走爆発時には、天地開闢級の熱量が発生していても不思議はないし、その時に、世の法則が一時的に混沌とした状態に戻るのもあり得るか……」

 

 凄まじいのは、その時の情報を克明に記録していた我が師匠、ディーター・フォン・ノヴァ教授の腕前か。

 あるいは、記録されたその混沌としたデータの中からピンポイントで熱力学的法則を破る術式を見出すアグリッピナ女史の天才性か。

 ……この場合は両方だな。

 

「エネルギーがエネルギーを生むという、100%以上の効率を叩き出す永久機関は、通常の空間では実現不可能。されど、限定隔離された空間内を術式で満たし、その法則を歪めることで投入された以上のエネルギーを得られる空間を作り出す……うーむ、なんとも冒涜的だぁ」

 

 神の定めた法則を破り冒すという、魔導の本懐ここにあり、というところか。

 なお、増大し続けるエネルギーゲインを取り出し続けないと臨界するという仕様上の弱点は健在である。

 

 臨界したらどうなるか?

 それは私の視線の先にある火球とキノコ雲が答えである。

 被害が都市の一つで済めば(おん)の字と言ったところか。

 

「立方体の筐体の強度を超えて内部のエネルギーが高まり過ぎれば、途端に外殻が破綻して内部の歪んだ法則が漏れ出して、周辺のエネルギーを際限なく増幅する。しかも、内部の術式も相当無茶して物理法則を歪めているから、常に世界の修復力とのせめぎ合いで安定しない……と」

 

 安定運転のためには、教授級の魔導師の全力管制が前提になるというのは、普及量産に当たって非常にネックになるのではなかろうか?

 負担を軽減するためには筐体内部の管制術式の自動化が必要で、そのためのデータ取りにこうやって私が塩の沙漠の何もないところでドッカンドッカンやってるわけではあるのだが。それでも限度はあるし。

 

「まー、管制装置を何とかする算段も、ウビオルム伯ならあるのかもしれないが」

 

 例えばだが、私は自分の身体にオーパーツじみた縮退炉系の魔導炉(構造物自体を亜空間に魔導要素のみで顕現・維持させその内部で質量を融かす系の炉)を幾つも組み込んでいるが、その制御は自身の要素を複製した副脳を用いている。

 似たようなアプローチはアグリッピナ女史も考えているだろう。

 

「……まさか私に魔導炉の演算装置に身を落とせとは言ってくるまいな?」

 

 流石にそんなことはないと信じよう。

 ……だがまあ、落日派的には素養のある魔導師の死体があれば、似たようなアプローチは出来るかもしれないな。

 墜ちた魔導師を狩るための粛清部隊なんかが結成されるようなら、いよいよ危うい兆候かもしれない。

 

「そうなる前に魔導電脳の開発を進めるべきか……?」

 

 魔法チート転生者である私と、極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)であるターニャは、亜空間に構える自分たちの工房・虚空の箱庭にて、電子機械的なものの研究開発を行っている。

 魔素遮断素材が開発できていることから、魔導を用いた集積回路的なもののメドも立たなくはない。

 生物模倣工学(バイオミメティクス)的なアプローチと、私の魂の三分の一を占める転生者の知識、そして虚空の箱庭における現世エミュレータによる仮想世界の時間加圧が合わされば、不可能なことはそうそうない。

 

 ましてやこの世界を含む複数の世界を運営する、正真正銘、上位階梯の神から授けられた魔法チートの権能を以てすれば……。

 

「……まあ、実際はクローン作った方が早いんだけどね。とはいえ魔導電脳には魔導電脳なりのメリットがあるかもしれないし、これまで通り研究は進めよう」

 

 

 

 

 私は爆心地へ向けて、歩を進める。

 

 いまだに灼熱と暴風が吹き荒れているが、“冬虫夏草の使徒” との共生により強化された肉体と、魔導による複層的な概念障壁の前には何ということもない。

 

「まずは基底現実に漏洩した法則歪曲魔導術式を消すか」

 

 

 再訂の奇跡(あるべきすがたをおもいだせ)

 

 

 私は魔導消去の奇跡を請願し、反応の大元となっていた魔導術式を消去した。

 それ自体が再生産する熱量で維持されていた術式が解け、熱力学的な法則が通常の基底現実のものへと落ち着く。

 

「……土砂や灰が巻き上がり過ぎているな」

 

 これがあるから面倒なのだ。

 別に巻き上げた灰で氷河期にしたいわけでもないので、この後始末も必要だ。

 

 ……大気中での爆発実験は粗方データ取れたから、次からは地中か、結界内に封じ込めてやるのでも良いかもしれないな。

 

 

 粒子凝集高重力落下術式(はいよつどいてつちくれとなりておちよ)

 

 

 遥か上空まで射程に収めた魔導により、浮かび上がった灰どうしを凝集させつつ、それにかかる重力を強めることで、急速に沈降させる。

 文字通りの()()降りとなるが、別に範囲内には私以外は居ないので問題ない。

 その私も魔導障壁で守っているから、土の粒がいくら落ちてきても平気だ。

 

「それじゃあ最後に、試作閉鎖循環魔導炉の筐体の状態を記録して、『復元』するか……。コスト面の問題がどうしてもあるからなぁ、使えるものは再利用しないと」

 

 

 時間遡行術式(ああもったいない)

 

 再生の奇跡(もったいない)

 

 

 再利用しないともったいないからね。

 現実的なコスト面でもそうだし、私の信仰の面でもそうだ。

 

 逆回しのように修復されていく試作魔導炉を前に、私は腕組みして頷く。

 

「うむ。今日も良いデータが取れた。これをもとにして境界条件を割り出せば、自動制御術式をさらに高精度化できるだろう」

 

 

 

 さてそれではハッシャーシュの部族の本拠地に戻ろうか。

 そちらまで轟音と閃光が届いているだろうけれど、まあ流石にもうみんな慣れっこになったんじゃないかな。何回も同じようにピカッドーンとやってるし。なってると良いな。

 またルゥルアさんにお小言貰うかもしれない。ま、ちと覚悟はしておくか……。

 

「ウビオルム伯もそろそろこちらを視察したいと仰っていたし、その準備もしなければならないか」

 

 人使いの荒い上司だが、わりと好き勝手やらせてもらってたり、彼女の政敵の骸(政敵の配下の暗部人材が主だが、場合によっては首魁本人、それどころかその一族郎党まで込みのボーナスステージすらもあった)を横流ししてもらって人造人間(ホムンクルス)の原材料にしたりしてるから、こちらもきちんと仕事はしないとね。

 

 私は完全修復された試作閉鎖循環魔導炉の筐体を亜空間に格納すると、妻ルゥルアさんの待つハッシャーシュの地へと転移した。

 

*1
空に見事なキノコの雲:夢の島思念公園/平沢進




 
前回の投稿から四半期経ってるのマ??

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◆ダイマ!!
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原作WEB版も王道な冒険の長期キャンペーン始まってて続きがとっても楽しみですのよ!
 
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