フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
塩の沙漠で 核実験 魔導炉の臨界実験!
 


26/n 実験魔導炉と沙漠開拓と……-2(お風呂にします!)

 

「おかえりなさいませ、あなた」

 

「ただいま、ルゥルアさん」

 

「まずはお風呂からですか? お食事にしますか? それとも……」

 

「ふふ、お風呂からかなあ」

 

 ハッシャーシュの部族の本拠地たる高原地帯の領主館というか大使館というか複合神殿(ジグラット)というかへと転移魔導で戻ってきて、愛妻ルゥルアさんに迎えられているのは、私ことライン三重帝国隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)にして魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)、マックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンだ。

 転移なのでプライベートスペースまで直通できるのは楽で良い。

 

 いま私はだいたい週に一度ペースで塩の沙漠で魔導炉の臨界実験を行い、そのフィードバックによる炉と術式の再設計と、それらのレポートの作成や魔導宮中伯(アグリッピナ女史)によるそのレビューを受け、それを実機に反映してまた臨界実験をするというサイクルをこなしている。

 はっきり言って普通なら実機を弄りながら行えるペースのサイクルではないのだが、そこはそれ。

 我々は魔導師であるからして。

 

 私の場合は、虚空の箱庭で走らせている基底現実エミュレータを時間加圧してやれば、再設計やレポートといった、データ成果物だけで済むデスクワークは瞬時に終えられる。

 ……まあ、その結論データを実存としての私自身が咀嚼して理解するためには一定の時間が必要なのだが。

 エミュレータ内で再現されたコピー意識体と記憶を同期すれば、そのような理解のための手間は無くなるのだが、魂への負荷が高い。頻繁に行えることではない。ゆえにコピーとの同期はいざという時に備えて、回数を抑えて温存する運用だ。

 

 虚空の箱庭で演算した再設計結果を実機へ反映するのも、私の宇宙戦艦並の魔力量なら魔法チートのゴリ押しでなんとかなる。

 普通なら部品作成から魔導刻印に組み立てまで何週間も何ヶ月もかかるようなことだが、私なら数時間だ。

 触媒を用意しない分、魔導行使には世界を騙すためにより精緻な術式論理構築と余分な魔力が必要になるが、魔力だけなら有り余っているからな。

 

 そのお陰で閉鎖循環魔導炉の完成度は驚くべき速度で高まっている。

 魔導航空艦に比較的安定した先行試作型を搭載できるようになるのも、そう遠くないだろう。

 少なくとも空中で魔導航空艦ごと “アワレ、爆発四散!” とはならないはずだ。最悪でも乗員が避難する時間くらいは稼げるようになるだろう。

 

 まあ、私の方は魔法チートフル活用でサイクル回してるからそれで良いのだが、信じらんねえのはこのペースに着いてこられてるウチの上司だよ。

 いくら長命種(メトシェラ)が種族的に優秀だとはいえ、彼女はさらにその中でもひと握りの天才にあたるのだろう。

 上限が見えない。

 やばすぎんだろ、あの外道長命種………。

 

「………あなた。愛しいあなた、マックスさん。あの爆発の実験は、まだ終わらないのですか?」 巨大な真珠光沢の蠍尾を私の腰に巻き付けたルゥルアさんが、眉を八の字にして苦言を呈する。「天を焦がすことは、この辺りの信仰的にも宜しくないですし………」

 

 この高原の地の特徴である、抜けるような青い空は、その地で暮らす民に、天空を司る神格を主神に据えた神話を発展させた。

 その天をキノコ雲とともに揺るがす私は、まあ控えめに言って大逆者といったところか。

 とはいえ、あれだけの爆発を見聞(みき)きしてなお私に真っ向から挑戦できる神殿や部族も、まあ、今のところは居ないようだ。狂信者の襲撃はあるし、真っ向からではなく搦手や暗闘はあるがね。ホムンクルスの素体提供あざーッス!(※なお何度か襲撃が成功しかけたりはした。理不尽神器や伝来魔導具による初見殺しは恐ろしいね。)

 

「次からはもっと大人しくやるようにするよ」

 剥き出しの炉を大気中で臨界させた時のデータは大体揃ったし。

 今度は都市部での実運用に近い形で、封じ込め用の結界を備えた建造物を造成して、それに据え付けての実験になるだろう。

 ………いや、テロを受けた時に備えて、外殻の耐久試験が先か? アグリッピナ女史にも相談して決めるか。

 

 

「………はい。いくら人の住まぬ塩の荒野といっても、もう少し配慮していただいた方がよろしいかと………それにまた家畜が逃げただのなんだのと陳情も来ますよ、きっと」

 

 現実の話をすれば、ルゥルアさんが言うように、臆病な羊だのは逃散してしまう問題もあるね。あれだけドカンドカンとやっていれば当然だが。

 群れる動物の中でも特に扱いやすいように品種改良されてきた家畜の気質というのは、イコールで集団暴走(スタンピード)しやすさでもあるから。

 周りが右に行ったから自分も右に行く、という集団としての管理しやすさは、パニックの伝染しやすさとトレードオフだ(パニックにならない方が個々の家畜としては管理しやすいが、群れとしてはパニックになりやすさも使いようというわけだ)。

 

「そのときはまた、逃げた家畜を探して集める魔法を込めたベルを貸してやれば良いんじゃないかな」

 そんなこともあろうかと、逃げた家畜を再び集められるような魔導具は準備しているのだ。

 

「結局誰も刻限通りに返さなかったアレをまた、ですか………」

 

「貸し出しの際の魔導契約書はきちんと働いたようだし、平気平気。問題ないさ」

 時限式で引き寄せ転移の魔導が発動するようにした魔導貸出票を書かせていたのだ。貸したベルが壊れてない限りは手元に戻せるようにしてあったというわけ。普通に待ってても返ってこないのは織り込み済みだ。

 

 まあ、貸し出した先は非定住者で、身内とも言えるハッシャーシュの民たる伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)では()()からね。その位の保険はかけてるさ。

 最近はこの地への流入者も多いのだ。

 

 ……まだ今は人造人間(ホムンクルス)の労働者の方が多いが、そのうち移住者の人口が逆転するだろう。

 ホムンクルスには、抱えている各業務の引き継ぎ相手を見つけて、後継として育てるように言ってあるし、その引き継ぎが終わればホムンクルス連中は虚空の箱庭に引き上げさせるつもりだし。

 

 しかしまあ、この “土地の再生” というのは、とてもやりがいがある。

 もったいないおばけに仕える身としても功徳が積めるし言うことなしだ。

 もちろん、帝国の国力と自分の魔導と沙漠の人口密度の薄さを背景に、帝国内よりかなり自由にかつ無茶苦茶にやらせてもらってるというのも理由だが。ああ、外交内政をルゥルアさんに任せられるというのも大きいね。

 

 

「運河や農地の様子も問題なさそう?」

 

「今のところは特に。ああ、子供が水路に落ちたのを救助したりはありましたので、落ちやすそうなところは手すりが必要かもしれませんね」

 

 私はこのハッシャーシュの地に、そこらの家よりも胴体が太い穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)に大きな溝を掘らせて河と成し、それよりは小型の穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)を使って用水路を張り巡らせ、さらに地下には排水管を整備した。排水系にはメンテナンスのために、帝都地下下水道にて飼われている巨大粘液体から株分けしてもらったスライムを放っている。*1

 いまは初夏を迎えるこの高原の地は、区画整理と整地後、湛水からの水抜きを経て、さらに品種改良済みアイスプランツ系の植物を栽培しては収穫して塩分や過剰なミネラル成分を回収し、急速に土地を塩害から回復させているところだ。

 塩害が比較的軽かった区画では、肥料を撒いて、品種改良済ゴムタンポポを栽培し始めたりしている。黄色い花の絨毯はなかなか壮観で、せっかくなので早速養蜂も手がけ始めた。

 

 ……ああ、サバクトビバッタ系の大繁殖からの蝗害には注意を払っておかなくちゃな。

 虚空の箱庭でのシミュレーションでは、高確率で蝗害が発生していたからね。

 場合によっては私の体内に巣食わせている “冬虫夏草の使徒” を限定解放して、蝗害を “カビさせて” 鎮圧することも視野に入るだろう。*2

 

 

「果樹園の方も順調そうですし、実がなるのが今から楽しみです!」

 

「ルゥルアさんの、たってのお願いでしたものねー」

 

 虚空の箱庭から移植した果樹の定着も順調らしい。

 虚空の箱庭の圃場はある意味無菌化されていたから、こっちで病害菌にやられないか様子はよく見る必要がある。なお無菌化にあたって、植物の根の共生菌(多くの植物は、根の先に、自前の根毛より細い共生菌の菌糸を纏わせて、栄養や水分の吸収効率を上げている)の不在が問題になったので、冬虫夏草の使徒から分化したものを使っている。

 

 そういえば、(ちまた)では “山の向こうに、楽園のような土地があるらしい” と噂になっているとか。

 “山の老人(アサシン)” の伝説かな?*3 いいえ、このハッシャーシュの土地のことです。

 まあ、この東方の砂塵の地でも、少し前に結婚披露宴ということで周辺部族を盛大に招いて宴をやったので、そのときに招待した輩が噂を広げてくれたのだろう。

 

 あ、ちなみにハッシャーシュ(帝国読みではハシシ)の氏族名は、かつてここに川が流れていた時代に、茅葺(かやぶき)用の上質な草束を刈って商っていたことに由来するので、大麻とは直接の関係はないぞ。

 意味を当てるとすれば、草刈屋とか、草束屋とか、そういう感じだ。

 

 そんなこんなで、伝説じみて水が豊かで緑も豊かな地が急に現れたという噂を聞きつけた、耳聡く冒険心にあふれた者たちが、早速この地にやってきている。

 もちろん、移ってきた彼らに物資を売ろうとする商人たちも。

 まったく、沙漠の民も商人たちも逞しい。

 

 しかしそうなると、遊牧騎馬民族に出自を持つ人々も相当やって来ることになる。差別するわけではないが、どうにも彼らについては、所有の概念が緩いのではないかという懸念が拭えなかった。

 やはり都市定住者と遊牧移住者の間の軋轢は、ある程度は避けられない。

 彼ら遊牧民は生活様式上、持ち運べるものが限られているし、移動生活だと生活空間を区切るのも難しいので、身に着けているもの以外はほぼ共有財産みたいな扱いだとも聞いた。

 

「まあ、魔法のベルも含めて、()められない程度に差配してくれればいいよ。この辺りの機微はルゥルアさんの方が詳しいし、お任せで」

 

「はい、任されました!」

 

 話を、逃げた家畜を集める魔導具の貸し出しに戻すと。

 

 そんな暮らしをしている者たち相手なので、貸したものが返ってこないというのは十分に考えられたのだ。彼ら狩猟遊牧民の理論だと、旅人も野鹿も同じ “獲物” というカテゴリーなようだし。いやそれは言い過ぎか?

 だが、貸し出し時点で、持ち逃げしてもどうせ牧草地を移動すれば捕まらないだろうからってタカを括って、あからさまにこちらを()めてるやつばかりだったらしいしな……。まあ家畜ごと移動してるわけだから期日までにこちらへ返すのが手間というのは分かるが。

 

 なので、そうなっても良いように善後策を講じておいたというわけだ。

 

「一応、あなたの魔法のおかげで貸し出していた “失せもの探しの持鈴(じれい)” は全てこちらの手元に全て戻ってきました。………転売していた不届き者が居て、それと知らずに買い取っていた商人と一悶着ありましたが」

 

 そいつは買った側はご愁傷さまだね。善意の第三者ということで罪には問わないでおいてやるが、別に補填してやる義理もないから放置だな。

 

「それはまた運が悪いやつがいたものだね。でもまあ買った方の自業自得だよねぇ、持鈴に刻まれた紋章にだって気付いてただろうに」

 

 得体の知れない相手が持ち込んだ、紋章入りの魔導具の売り買いなんて良くできるよなあ。

 この辺でも、印章の文化はあるだろうに。*4

 

 ………あ、そうだった。

 今更の紹介になるが、ハシシ=ミュンヒハウゼンの家を立てる時に、自分の紋章を決めたのだ。*5

 紋章官にリクエストしたのは、蠍や線路のモチーフを含み、ミュンヒハウゼン男爵家の分家と分かるようにすること。詳細はプロにお任せだ。

 

 ちなみに何を思ったか、帝都の紋章官が蠍型装甲車(巨大なメタリックな蠍の歩脚部分が車輪になっている)が線路上を爆走している図案を構成要素の一つとして提案してきたりもした。

 流石に前衛的すぎたので却下したが。

 パースが効きまくってカッコ良かったんだけどね。

 色味もこっちから無限と言えるくらいの合成色素を提供したから、紋章官も “これまでにない自然色(プロパー)が使える!” と張り切って……。

 

 最終的には、ハシシ=ミュンヒハウゼン家における私の紋章は、台座意匠(コンパートメント)*6として山を貫く隧道(トンネル)と線路を横から見たような図案を敷き。

 その山の左右から伸びる線路上に支持意匠(サポーター)として2匹の蠍を配し、中央の山に被るように置かれた盾をその2匹の向かい合った蠍が尾と鋏で支える形になった。*7

 盾意匠(エスカッシャン)の中はミュンヒハウゼン男爵家の意匠をベースに、分家の証として転輪の意匠を加えてある。*8

 さらに台座意匠(コンパートメント)の下に、標語(モットー)として『深淵にこそ誉れあれ』と、落日派の会派哲学を刻んだ。*9

 

 細かな特徴は他にもいろいろあるが、大まかにはこんなものだ。

 隧道鉄路上(ずいどうてつろじょう) 大蠍支持(おおさそりしじ) 転輪飾盾(てんりんかざりたて)………とか言うと格好がつくかもね。

 

「ああ、ベルを返さなかった輩には二度と貸し出さないようにね」

 流石に二度目はない。ブラックリストに載せて貸出禁止措置だ。

 

「ええ、それは勿論そのように」

 

 ルゥルアさんも異存はないようで何より。

 

「そうだ、うちの魔導具を勝手に売り払ったやつの居場所はあとで占っておくから、掴まされたっていう商人に伝えておいてほしいな」

 

「……お優しいのですね?」

 

「モノは返ってきているし、うちがわざわざ手を下すまでもないけれど、()められるのも困る。それにその商人も騙されたままだとメンツ丸つぶれだろうし。自分の恥は自分で(そそ)いで貰うのが一番だろうと思ってね」

 まだまだこの世界だと自力救済がメジャーなのよねえ、野蛮で困ったことに。

 

 

 

 

 私とルゥルアさんは雑談をしながら、館の中を進む。護衛の巨蟹鬼(クレープスオーガ)が通れるくらいに大きく高く作られた廊下は広々としている。

 使用人として召し上げている伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の子供たち(行儀見習いというか、基礎教育の合間にお手伝いしてもらっている程度だが)や、事務官として配置している帝国人ベースの人造人間(ホムンクルス)たちとすれ違いつつ。

 

 その時に、外套を彼ら使用人に預けることも忘れない。

 外で灰や埃を盛大に浴びているからね。

 〈清拭〉の魔術で綺麗にしているので実際には灰や埃はもう落ちているのだが、洗ってもらった方が気分が良い。

 

 ああ、もちろん実際に洗濯する者たちは、魔導を仕込んだ衣服の扱いを熟知しているとも。

 外套や上衣、それに下着まで、私は術式を仕込んでいるからね。

 そう簡単に素人には扱えないのだ。

 

 

 と、湯殿まで進む廊下の途中に、幼年学校的な御仕着せを着た伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の子供たちが(たむろ)しているな。

 いまは授業や手伝いの合間の休み時間かな?

 そして幼い彼ら彼女らが立ち止まって見ているのは、廊下の壁に掛けられた、ルゥルアさんを描いた大きな肖像画だ。

 

「……白姫さま、きれー」 「ホントになー……」 「すごい綺麗……」 「私もいつかこういうの着たい」

 

 そうだろう、そうだろう。

 

 その肖像画は帝都で婚姻のお披露目と、隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)の受爵のお祝いに開いた一連のパーティでの衣装を描かせたものだ。

 

 つまりまあ、ウェディングドレス姿なルゥルアさんなわけだね。

 

 描いた画家は、生命礼賛主義者にして払暁派のトップであるあの死霊(レイス)、ライゼニッツ卿のお抱えだから腕も確かだし。

 私が卸している発色の良い合成染料もふんだんに使わせているから、非常に鮮やかだ。

 

 なにより、そう、モチーフが良い。

 

 真珠の甲殻。

 純白の装束と、胸元を飾る宝玉。

 鋏などの鋭角を隠す白狐のファー。

 結い上げられた銀髪と、表情が伺えるほどに薄いヴェール。

 幸せそうな微笑みの美女。

 

「面映ゆいですね………」

 

 横で照れてるルゥルアさんは、絵画よりも可愛いね!

 

 

 ちなみに私を後ろから抱きしめた構図のものなんかもある。

 妖精好みの背丈で成長が止められている私は小柄なのだ。

 そしてその連作の一部はライゼニッツ卿の屋敷にも納められている。ライゼニッツ卿のたっての望みによって。そうだね、おねショタだね。

 

 

 

 

 

 

 恥ずかしがるルゥルアさんを引っ張って子供たちの脇を抜け、大浴場へ。

 

 服を脱ぎ裸になって、しっぽりするべく浴室の扉を開ける。

 浴槽には贅沢に薔薇を浮かべており、ローズの香りが鼻腔を擽る。

 

 しかして湯煙の向こう、そこには先客の姿が。

 

 

「おん? (あるじ)殿ではないか」

「む。義弟殿か。失礼、先にいただいている」

 

 先客は2名の美女。*10

 

 一人は専用の深い浴槽に入っている、私の護衛として連れてきている巨蟹鬼(クレープス・オーガ)のセバスティアンヌ。

 部族名と二つ名をきちんと言えば、荒波の女巨人を意味する “ラーン部族” の、上から二つ目の尊称である “津波” のを名乗ることが部族会議により認められた戦士、セバスティアンヌ、ということになる。

 青い肌をより青く上気させ、二対神銀の巨大蟹の下半身を特製サイズのジェットバス風の浴槽(※巨大蟹の下半身側に鰓があるため、酸素供給のために空気を送り込む意味もある)に沈めてリラックスだ。なおその胸部は、大型の人類種であることを考慮してもなお、非常に豊満であった。

 ………サイズ的には、入浴というよりは、こう、機動兵器の入渠という趣きがあるな。

 ちなみに気泡混じりの水は、その分軽くなっているため、人間は沈みやすくなっている。普通サイズの人間がこの巨蟹鬼用のジェットバス浴槽に入ると浮かべずに溺れること必定なので注意だ。

 

 閑話休題。

 

 もう一人は、ルゥルアさんの姉にしてハッシャーシュ部族で一番の戦士マリヤム。もったいないおばけの奇跡により新生した、褐色の肌に黒曜の甲殻、二叉の蠍尾と蜉蝣の脈翅を持つ伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の変異種たる “雙尾蠍(そうびかつ)” のマリヤム・ハッシャーシュである。

 ハッシャーシュの部族の戦士長でもあり、族長のルゥルアさんの護衛も務める戦士だ。

 なお、彼女の胸部は伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の標準程度であり、つまり起伏は控えめであった。

 

 

「セバスティアンヌさんも姉さんも、鍛錬は終わったのですか?」

 

 

 長い銀髪を背の蠍鋏で器用に結い上げて頭の上でまとめながら、我が妻ルゥルアさんも大浴場に入ってくる。

 真っ白い肌と、その背に背負われるようにくっついている大蠍の真珠甲殻が(まばゆ)い。

 なお彼女の胸元は、地を這う種族にしては不釣り合いに豊満であり、身体を抱きしめるように折り畳まれた腹側の歩脚がその双丘を強調するかのように支えている。眼福ッ!

 

 帝国出身ではないために入浴の習慣に馴染みがなかった彼女らも、すっかり風呂を気に入ってくれたようだった。

 

「姉さん、わざと私たちの入る時間に合わせてませんか?? ここ最近、浴場でよく顔を合わせますよね?」

 

「ははは。偶然だとも、ルゥルア。そうだろう、セバスティアンヌ殿?」

 

「ん? いや私はこの後の主殿の政務の護衛に就くからその前に汗を流しに来たのだが。臨界実験は終わったと通信は入っていたしウワップ!? 水をかけるなマリヤム!?」

 

「姉さん?? まさかマックスさんを誘惑しようとか考えてませんよね??」

 

「ハハハ、イヤマサカソンナー」

 

「じゃあマックスさんの方ににじり寄ってこなくても良いですよね? ……セバスティアンヌさん、つまみ上げちゃってください」

 

「心得た」

 

「あっ、こらセバスティアンヌ?! ハサミで尻尾をつまむな!? やめろ降ろせ!」

 

「ありがとうございます、そのまま捕まえといてくださいねー。

 さ、あなた。私の隣(こちら)へどうぞ!」

 

 ………うむ。仲良きことは美しきかな。

 そういうことにしておこう。

 

*1
汚濁の主宰者(きょだいすらいむ):魔導院の傑作。帝都の汚物処理、水の浄化を一手に引き受ける魔導生物。なおマックスくん、アグリッピナ女史、マルティン先生の間で、大陸横断トンネルの下部排水路にもこの巨大スライムを導入し、帝国と東方で粘液体を地続きにすることで、通信媒体にする検討をしている。高速通信媒体でもあり、また大規模な粘菌型コンピュータにもなりうるものであり、今後、帝国全土に管を張り巡らせてそこに住まわせた巨大スライムを繋げられればとんでもない事になりうる。

*2
◆冬虫夏草の使徒による蝗害鎮圧プラン:西暦世界においても柑橘類の害虫であるカミキリムシ類に対して、ボーベリア・ブロンニアティという糸状菌(カビ)が微生物農薬として用いられている。マックスくんは、体内に共生させている冬虫夏草の使徒を活性化させ、サバクトビバッタに特異的な感染侵食性を有する菌類を生産可能である。

*3
◆山の老人:アサシン教団の伝説。山の奥にある楽園に招かれた若者が、大麻(ハシシ)中毒にさせられて暗殺者に仕立てあげられるというもの。ヨーロッパにおける中東ロマンにも影響を与えている。アサシンの語源。ハシシはもともと広義の草を意味しており、大麻を特定するものではなかった。

*4
◆紋章の文化:封蝋が開発される前は、粘土(封泥)に印章を押していた。遡ると粘土板や、封泥の上に転がして模様をつける円筒印章(シリンダーシール)にたどり着く。メソポタミア文明においてこれら印章文化が確認されていることから、当SSにおける中東地域においても、紋章はともかく印章の文化は存在する(むしろ中東(メソポタミア)地域が元祖の可能性すらある)と想定している。

*5
◆紋章:もともとは個人に紐付くものであり、基本的には同じ時代において、違う個人が紋章をダブって使うことはできない。ただし、その個人が亡くなった場合には紋章の継承が可能であり、やがては家門の紋章となっていった……らしい。

*6
◆コンパートメント(紋章学):中央の盾の構成要素(エスカッシャン)を支えるようにその下に敷かれ、盾を支持する構成要素(サポーター)が立つ土台になる構成要素。木製や金属製の台座のほか、草原や丘などの自然物が描かれる場合もある。マックスくんの場合は、山を貫くトンネルと線路。

*7
◆サポーター(紋章学):中央の盾(エスカッシャン)を両脇から支える構成要素。盾を掲げ、倒れないようにしている。獅子や騎士など、動物や人物が置かれる。稀に植物や無機物が置かれることもある。マックスくんの場合は大サソリ。

*8
◆エスカッシャン(紋章学):紋章の中央に置かれる盾の構成要素。エスカッシャンを含めて紋章の要素は全て、紋章記述(ブレイゾン)によって、何処に何を何色で、など文章で描写される。……というより、紋章記述(ブレイゾン)こそが本体であり、個々の紋章は全て、記述を具現化した二次的な表現にあたる(そのため図としての紋章はある程度の描画揺れが存在し、また許容される)。

*9
◆モットー(紋章学):紋章の中に書き入れられる短い標語。一番下に書かれることが多い。盾の中に書かれることもあるし、一番上に書かれることもある。主には御家ごとの戦場における鬨の声、開祖の武勇、本人の好んだ格言などが書き入れられる。

*10
◆高貴な者の入浴:完全に背景に徹しているので描写はされていないが、子蟹や巨蟹鬼(幼生体)や、使用人たちが洗体のために浴室に居る。




 
今更ですが、当作のこの辺りの話は、原作小説においては5巻と6巻の間の、いわば帝都暗闘編とでも言うべき時系列にあたります(あるいは原作小説6巻のヘンダーソンスケール1.0 ver.0.5(帝都密偵(シャドウランナー)ルート)の前日譚にも繋がる話かもです)。なお、現状ではまだ原作において深くは描写されていないので捏造オリ設定だらけになるかと(このSSは元からその傾向? ええ、まあ、はい……)。
閉鎖循環魔導炉関係についても、航空艦に載せる前に臨界実験の一つ二つはしてるやろということで、マックスくんにその役を割り振っています。次回以降はアグリッピナ氏の東方視察withエーリヒくんとか、ドナースマルク侯配下の百足人部隊との絡みとか、でしょうかね。

===

◆ダイマ!
コミカライズ版第七話! アグリッピナ女史のエントリーだ! → https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19203286010000_68/
原作小説8巻もとても良かったですね! ジーク(ディー)くんとカーヤ嬢とともに、エーリヒ君とマルギット嬢が非常に冒険者らしい冒険をしています。ハック&スラッシュ!! あ、過去に出した戦象人(ガネーシアン)について、同等と思われる獣人種族が言及されていたので、過去話の脚注に少し追記しています。と言っても、戦象人(ガネーシアン)の記述を無くしたわけではなく、当SSではアフリカゾウとインドゾウの違いみたいな感じの類縁関係で扱おうかと。
コミック版第1巻も出ましたね! キャラクターたちの表情が非常に可愛い。とてもかわいい。みんな買おう。中世的な背景の書き込みも素晴らしい。あと途中途中に挟まれるTips的な用語説明も要チェックですぞ!
 
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