フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
塩の沙漠で 核実験 魔導炉の臨界実験!
「おかえりなさいませ、あなた」
「ただいま、ルゥルアさん」
「まずはお風呂からですか? お食事にしますか? それとも……」
「ふふ、お風呂からかなあ」
ハッシャーシュの部族の本拠地たる高原地帯の領主館というか大使館というか
転移なのでプライベートスペースまで直通できるのは楽で良い。
いま私はだいたい週に一度ペースで塩の沙漠で魔導炉の臨界実験を行い、そのフィードバックによる炉と術式の再設計と、それらのレポートの作成や
はっきり言って普通なら実機を弄りながら行えるペースのサイクルではないのだが、そこはそれ。
我々は魔導師であるからして。
私の場合は、虚空の箱庭で走らせている基底現実エミュレータを時間加圧してやれば、再設計やレポートといった、データ成果物だけで済むデスクワークは瞬時に終えられる。
……まあ、その結論データを実存としての私自身が咀嚼して理解するためには一定の時間が必要なのだが。
エミュレータ内で再現されたコピー意識体と記憶を同期すれば、そのような理解のための手間は無くなるのだが、魂への負荷が高い。頻繁に行えることではない。ゆえにコピーとの同期はいざという時に備えて、回数を抑えて温存する運用だ。
虚空の箱庭で演算した再設計結果を実機へ反映するのも、私の宇宙戦艦並の魔力量なら魔法チートのゴリ押しでなんとかなる。
普通なら部品作成から魔導刻印に組み立てまで何週間も何ヶ月もかかるようなことだが、私なら数時間だ。
触媒を用意しない分、魔導行使には世界を騙すためにより精緻な術式論理構築と余分な魔力が必要になるが、魔力だけなら有り余っているからな。
そのお陰で閉鎖循環魔導炉の完成度は驚くべき速度で高まっている。
魔導航空艦に比較的安定した先行試作型を搭載できるようになるのも、そう遠くないだろう。
少なくとも空中で魔導航空艦ごと “アワレ、爆発四散!” とはならないはずだ。最悪でも乗員が避難する時間くらいは稼げるようになるだろう。
まあ、私の方は魔法チートフル活用でサイクル回してるからそれで良いのだが、信じらんねえのはこのペースに着いてこられてるウチの上司だよ。
いくら
上限が見えない。
やばすぎんだろ、あの外道長命種………。
「………あなた。愛しいあなた、マックスさん。あの爆発の実験は、まだ終わらないのですか?」 巨大な真珠光沢の蠍尾を私の腰に巻き付けたルゥルアさんが、眉を八の字にして苦言を呈する。「天を焦がすことは、この辺りの信仰的にも宜しくないですし………」
この高原の地の特徴である、抜けるような青い空は、その地で暮らす民に、天空を司る神格を主神に据えた神話を発展させた。
その天をキノコ雲とともに揺るがす私は、まあ控えめに言って大逆者といったところか。
とはいえ、あれだけの爆発を
「次からはもっと大人しくやるようにするよ」
剥き出しの炉を大気中で臨界させた時のデータは大体揃ったし。
今度は都市部での実運用に近い形で、封じ込め用の結界を備えた建造物を造成して、それに据え付けての実験になるだろう。
………いや、テロを受けた時に備えて、外殻の耐久試験が先か? アグリッピナ女史にも相談して決めるか。
「………はい。いくら人の住まぬ塩の荒野といっても、もう少し配慮していただいた方がよろしいかと………それにまた家畜が逃げただのなんだのと陳情も来ますよ、きっと」
現実の話をすれば、ルゥルアさんが言うように、臆病な羊だのは逃散してしまう問題もあるね。あれだけドカンドカンとやっていれば当然だが。
群れる動物の中でも特に扱いやすいように品種改良されてきた家畜の気質というのは、イコールで
周りが右に行ったから自分も右に行く、という集団としての管理しやすさは、パニックの伝染しやすさとトレードオフだ(パニックにならない方が個々の家畜としては管理しやすいが、群れとしてはパニックになりやすさも使いようというわけだ)。
「そのときはまた、逃げた家畜を探して集める魔法を込めたベルを貸してやれば良いんじゃないかな」
そんなこともあろうかと、逃げた家畜を再び集められるような魔導具は準備しているのだ。
「結局誰も刻限通りに返さなかったアレをまた、ですか………」
「貸し出しの際の魔導契約書はきちんと働いたようだし、平気平気。問題ないさ」
時限式で引き寄せ転移の魔導が発動するようにした魔導貸出票を書かせていたのだ。貸したベルが壊れてない限りは手元に戻せるようにしてあったというわけ。普通に待ってても返ってこないのは織り込み済みだ。
まあ、貸し出した先は非定住者で、身内とも言えるハッシャーシュの民たる
最近はこの地への流入者も多いのだ。
……まだ今は
ホムンクルスには、抱えている各業務の引き継ぎ相手を見つけて、後継として育てるように言ってあるし、その引き継ぎが終わればホムンクルス連中は虚空の箱庭に引き上げさせるつもりだし。
しかしまあ、この “土地の再生” というのは、とてもやりがいがある。
もったいないおばけに仕える身としても功徳が積めるし言うことなしだ。
もちろん、帝国の国力と自分の魔導と沙漠の人口密度の薄さを背景に、帝国内よりかなり自由にかつ無茶苦茶にやらせてもらってるというのも理由だが。ああ、外交内政をルゥルアさんに任せられるというのも大きいね。
「運河や農地の様子も問題なさそう?」
「今のところは特に。ああ、子供が水路に落ちたのを救助したりはありましたので、落ちやすそうなところは手すりが必要かもしれませんね」
私はこのハッシャーシュの地に、そこらの家よりも胴体が太い
いまは初夏を迎えるこの高原の地は、区画整理と整地後、湛水からの水抜きを経て、さらに品種改良済みアイスプランツ系の植物を栽培しては収穫して塩分や過剰なミネラル成分を回収し、急速に土地を塩害から回復させているところだ。
塩害が比較的軽かった区画では、肥料を撒いて、品種改良済ゴムタンポポを栽培し始めたりしている。黄色い花の絨毯はなかなか壮観で、せっかくなので早速養蜂も手がけ始めた。
……ああ、サバクトビバッタ系の大繁殖からの蝗害には注意を払っておかなくちゃな。
虚空の箱庭でのシミュレーションでは、高確率で蝗害が発生していたからね。
場合によっては私の体内に巣食わせている “冬虫夏草の使徒” を限定解放して、蝗害を “カビさせて” 鎮圧することも視野に入るだろう。*2
「果樹園の方も順調そうですし、実がなるのが今から楽しみです!」
「ルゥルアさんの、たってのお願いでしたものねー」
虚空の箱庭から移植した果樹の定着も順調らしい。
虚空の箱庭の圃場はある意味無菌化されていたから、こっちで病害菌にやられないか様子はよく見る必要がある。なお無菌化にあたって、植物の根の共生菌(多くの植物は、根の先に、自前の根毛より細い共生菌の菌糸を纏わせて、栄養や水分の吸収効率を上げている)の不在が問題になったので、冬虫夏草の使徒から分化したものを使っている。
そういえば、
“
まあ、この東方の砂塵の地でも、少し前に結婚披露宴ということで周辺部族を盛大に招いて宴をやったので、そのときに招待した輩が噂を広げてくれたのだろう。
あ、ちなみにハッシャーシュ(帝国読みではハシシ)の氏族名は、かつてここに川が流れていた時代に、
意味を当てるとすれば、草刈屋とか、草束屋とか、そういう感じだ。
そんなこんなで、伝説じみて水が豊かで緑も豊かな地が急に現れたという噂を聞きつけた、耳聡く冒険心にあふれた者たちが、早速この地にやってきている。
もちろん、移ってきた彼らに物資を売ろうとする商人たちも。
まったく、沙漠の民も商人たちも逞しい。
しかしそうなると、遊牧騎馬民族に出自を持つ人々も相当やって来ることになる。差別するわけではないが、どうにも彼らについては、所有の概念が緩いのではないかという懸念が拭えなかった。
やはり都市定住者と遊牧移住者の間の軋轢は、ある程度は避けられない。
彼ら遊牧民は生活様式上、持ち運べるものが限られているし、移動生活だと生活空間を区切るのも難しいので、身に着けているもの以外はほぼ共有財産みたいな扱いだとも聞いた。
「まあ、魔法のベルも含めて、
「はい、任されました!」
話を、逃げた家畜を集める魔導具の貸し出しに戻すと。
そんな暮らしをしている者たち相手なので、貸したものが返ってこないというのは十分に考えられたのだ。彼ら狩猟遊牧民の理論だと、旅人も野鹿も同じ “獲物” というカテゴリーなようだし。いやそれは言い過ぎか?
だが、貸し出し時点で、持ち逃げしてもどうせ牧草地を移動すれば捕まらないだろうからってタカを括って、あからさまにこちらを
なので、そうなっても良いように善後策を講じておいたというわけだ。
「一応、あなたの魔法のおかげで貸し出していた “失せもの探しの
そいつは買った側はご愁傷さまだね。善意の第三者ということで罪には問わないでおいてやるが、別に補填してやる義理もないから放置だな。
「それはまた運が悪いやつがいたものだね。でもまあ買った方の自業自得だよねぇ、持鈴に刻まれた紋章にだって気付いてただろうに」
得体の知れない相手が持ち込んだ、紋章入りの魔導具の売り買いなんて良くできるよなあ。
この辺でも、印章の文化はあるだろうに。*4
………あ、そうだった。
今更の紹介になるが、ハシシ=ミュンヒハウゼンの家を立てる時に、自分の紋章を決めたのだ。*5
紋章官にリクエストしたのは、蠍や線路のモチーフを含み、ミュンヒハウゼン男爵家の分家と分かるようにすること。詳細はプロにお任せだ。
ちなみに何を思ったか、帝都の紋章官が蠍型装甲車(巨大なメタリックな蠍の歩脚部分が車輪になっている)が線路上を爆走している図案を構成要素の一つとして提案してきたりもした。
流石に前衛的すぎたので却下したが。
パースが効きまくってカッコ良かったんだけどね。
色味もこっちから無限と言えるくらいの合成色素を提供したから、紋章官も “これまでにない
最終的には、ハシシ=ミュンヒハウゼン家における私の紋章は、
その山の左右から伸びる線路上に
さらに
細かな特徴は他にもいろいろあるが、大まかにはこんなものだ。
「ああ、ベルを返さなかった輩には二度と貸し出さないようにね」
流石に二度目はない。ブラックリストに載せて貸出禁止措置だ。
「ええ、それは勿論そのように」
ルゥルアさんも異存はないようで何より。
「そうだ、うちの魔導具を勝手に売り払ったやつの居場所はあとで占っておくから、掴まされたっていう商人に伝えておいてほしいな」
「……お優しいのですね?」
「モノは返ってきているし、うちがわざわざ手を下すまでもないけれど、
まだまだこの世界だと自力救済がメジャーなのよねえ、野蛮で困ったことに。
私とルゥルアさんは雑談をしながら、館の中を進む。護衛の
使用人として召し上げている
その時に、外套を彼ら使用人に預けることも忘れない。
外で灰や埃を盛大に浴びているからね。
〈清拭〉の魔術で綺麗にしているので実際には灰や埃はもう落ちているのだが、洗ってもらった方が気分が良い。
ああ、もちろん実際に洗濯する者たちは、魔導を仕込んだ衣服の扱いを熟知しているとも。
外套や上衣、それに下着まで、私は術式を仕込んでいるからね。
そう簡単に素人には扱えないのだ。
と、湯殿まで進む廊下の途中に、幼年学校的な御仕着せを着た
いまは授業や手伝いの合間の休み時間かな?
そして幼い彼ら彼女らが立ち止まって見ているのは、廊下の壁に掛けられた、ルゥルアさんを描いた大きな肖像画だ。
「……白姫さま、きれー」 「ホントになー……」 「すごい綺麗……」 「私もいつかこういうの着たい」
そうだろう、そうだろう。
その肖像画は帝都で婚姻のお披露目と、
つまりまあ、ウェディングドレス姿なルゥルアさんなわけだね。
描いた画家は、生命礼賛主義者にして払暁派のトップであるあの
私が卸している発色の良い合成染料もふんだんに使わせているから、非常に鮮やかだ。
なにより、そう、モチーフが良い。
真珠の甲殻。
純白の装束と、胸元を飾る宝玉。
鋏などの鋭角を隠す白狐のファー。
結い上げられた銀髪と、表情が伺えるほどに薄いヴェール。
幸せそうな微笑みの美女。
「面映ゆいですね………」
横で照れてるルゥルアさんは、絵画よりも可愛いね!
ちなみに私を後ろから抱きしめた構図のものなんかもある。
妖精好みの背丈で成長が止められている私は小柄なのだ。
そしてその連作の一部はライゼニッツ卿の屋敷にも納められている。ライゼニッツ卿のたっての望みによって。そうだね、おねショタだね。
恥ずかしがるルゥルアさんを引っ張って子供たちの脇を抜け、大浴場へ。
服を脱ぎ裸になって、しっぽりするべく浴室の扉を開ける。
浴槽には贅沢に薔薇を浮かべており、ローズの香りが鼻腔を擽る。
しかして湯煙の向こう、そこには先客の姿が。
「おん?
「む。義弟殿か。失礼、先にいただいている」
先客は2名の美女。*10
一人は専用の深い浴槽に入っている、私の護衛として連れてきている
部族名と二つ名をきちんと言えば、荒波の女巨人を意味する “ラーン部族” の、上から二つ目の尊称である “津波” のを名乗ることが部族会議により認められた戦士、セバスティアンヌ、ということになる。
青い肌をより青く上気させ、二対神銀の巨大蟹の下半身を特製サイズのジェットバス風の浴槽(※巨大蟹の下半身側に鰓があるため、酸素供給のために空気を送り込む意味もある)に沈めてリラックスだ。なおその胸部は、大型の人類種であることを考慮してもなお、非常に豊満であった。
………サイズ的には、入浴というよりは、こう、機動兵器の入渠という趣きがあるな。
ちなみに気泡混じりの水は、その分軽くなっているため、人間は沈みやすくなっている。普通サイズの人間がこの巨蟹鬼用のジェットバス浴槽に入ると浮かべずに溺れること必定なので注意だ。
閑話休題。
もう一人は、ルゥルアさんの姉にしてハッシャーシュ部族で一番の戦士マリヤム。もったいないおばけの奇跡により新生した、褐色の肌に黒曜の甲殻、二叉の蠍尾と蜉蝣の脈翅を持つ
ハッシャーシュの部族の戦士長でもあり、族長のルゥルアさんの護衛も務める戦士だ。
なお、彼女の胸部は
「セバスティアンヌさんも姉さんも、鍛錬は終わったのですか?」
長い銀髪を背の蠍鋏で器用に結い上げて頭の上でまとめながら、我が妻ルゥルアさんも大浴場に入ってくる。
真っ白い肌と、その背に背負われるようにくっついている大蠍の真珠甲殻が
なお彼女の胸元は、地を這う種族にしては不釣り合いに豊満であり、身体を抱きしめるように折り畳まれた腹側の歩脚がその双丘を強調するかのように支えている。眼福ッ!
帝国出身ではないために入浴の習慣に馴染みがなかった彼女らも、すっかり風呂を気に入ってくれたようだった。
「姉さん、わざと私たちの入る時間に合わせてませんか?? ここ最近、浴場でよく顔を合わせますよね?」
「ははは。偶然だとも、ルゥルア。そうだろう、セバスティアンヌ殿?」
「ん? いや私はこの後の主殿の政務の護衛に就くからその前に汗を流しに来たのだが。臨界実験は終わったと通信は入っていたしウワップ!? 水をかけるなマリヤム!?」
「姉さん?? まさかマックスさんを誘惑しようとか考えてませんよね??」
「ハハハ、イヤマサカソンナー」
「じゃあマックスさんの方ににじり寄ってこなくても良いですよね? ……セバスティアンヌさん、つまみ上げちゃってください」
「心得た」
「あっ、こらセバスティアンヌ?! ハサミで尻尾をつまむな!? やめろ降ろせ!」
「ありがとうございます、そのまま捕まえといてくださいねー。
さ、あなた。
………うむ。仲良きことは美しきかな。
そういうことにしておこう。
今更ですが、当作のこの辺りの話は、原作小説においては5巻と6巻の間の、いわば帝都暗闘編とでも言うべき時系列にあたります(あるいは原作小説6巻のヘンダーソンスケール1.0 ver.0.5(
閉鎖循環魔導炉関係についても、航空艦に載せる前に臨界実験の一つ二つはしてるやろということで、マックスくんにその役を割り振っています。次回以降はアグリッピナ氏の東方視察withエーリヒくんとか、ドナースマルク侯配下の百足人部隊との絡みとか、でしょうかね。
===
◆ダイマ!
コミカライズ版第七話! アグリッピナ女史のエントリーだ! → https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19203286010000_68/
原作小説8巻もとても良かったですね! ジーク(ディー)くんとカーヤ嬢とともに、エーリヒ君とマルギット嬢が非常に冒険者らしい冒険をしています。ハック&スラッシュ!! あ、過去に出した
コミック版第1巻も出ましたね! キャラクターたちの表情が非常に可愛い。とてもかわいい。みんな買おう。中世的な背景の書き込みも素晴らしい。あと途中途中に挟まれるTips的な用語説明も要チェックですぞ!