フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
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マックスくん沙漠の帝王ルートのヘンダーソンスケールへの派生条件は、ずばり、ルゥルアさんの心が折れてるかどうか、です。信仰心が折れて動死体な姉マリヤムを侍らせることを認めてしまうことにより、ルゥルアさんは意気阻喪し、政務能力などに極大のマイナスがかかります( “特性:懺悔する背教者” 等によるバッドステータス)。その結果、マックスくんがハッシャーシュの土地を主体的に治めることになり、やがては帝王ルートに派生します。
一方で現状はルゥルアさんの心が折れてないので、中東地域の政務は彼女に任せています。つまり、中東地域の統治として表立っているのはあくまでハッシャーシュ氏族であり、ハシシ=ミュンヒハウゼン家ではないわけです。魔導炉臨界実験地域も、ハッシャーシュ氏族から
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◆前話
みんなでお風呂に入りました! 風呂から上がって執務を終えたあとの寝所でのこと? それはご想像にお任せしますが、
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(※注意:書籍版5巻の展開のネタバレがあります)
「ようこそウビオルム魔導宮中伯。そしてドナースマルク侯。魔導副伯として、また、
私ことマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンは、2人の
「ぜひとも、我が妻たるルゥルア・ハッシャーシュの治めるこの土地の素晴らしきをご覧いただければ」
ここは帝国とこの中東地域を直通させる
乾いた高原の地であるハッシャーシュ氏族の土地に口をあけた、地の底を貫く大陸横断トンネルの出口である。
「出迎えご苦労さま、
嫣然と微笑む
彼女は煙管を吸って挑発的に煙を吐き出し、
最小限の供回りだけつけて、転移魔導でこの場へお出ましだ。
それに対して答えるのは、柔和な顔つきの長命種の男性。
「
彼はドナースマルク侯グンダハール。グンダハール・ヨーゼフ・ニコラオス・フォン・ドナースマルク侯爵。*1
慈善家や篤志家として名望高い帝国の侯爵で、長命種の男性だ。
そしてアグリッピナ女史の政敵にして、彼女の不倶戴天の敵でもある。趣味嗜好が異なり過ぎて、同じ天を抱けない、という文字通りの意味において。
ドナースマルク侯は帝国建国時に開闢帝についた小王の一人に仕えていた貴族であり、帝国建国以前からの貴種にして古豪。
一人称に古語が残るのは、その時代から生きている彼のこだわりなのだろうか。
ドナースマルク侯は帝国開闢からの家柄でもあることから、帝国の経済、政界に深く根を張っている。
……だが、まあ、ここに至るまでにアグリッピナ女史とドナースマルク侯の間では、既に衝突が起こって、その結果、格付けが完了している。
すなわち、数ヶ月前に起こったウビオルム伯爵領を巡る策動で、ドナースマルク侯は、アグリッピナ女史に叩きのめされたのだ。
ゆえにアグリッピナ女史は、格下を呼ばわるように “グンダハール” と口に出し、ドナースマルク侯はいつかまた己の策謀が敵手たる彼女の頸に掛かるまではと臥薪嘗胆の心意気を込めて “フォン・ウビオルム” と呼ぶのだ。*2
私もその時の衝突の余波のおこぼれに与り、激突の舞台となったウビオルム伯爵領の裏切り者であったリプラー子爵家の屋敷に詰めていた人員をほぼ丸ごと
まー、いくら陰謀策謀を巡らせても、圧倒的な暴力の前には無意味よね。暴力はパワーだぜ。
アグリッピナ氏を脅しつけてどうにかしたいなら、五大閥の長クラスの魔導師か、極まって戦闘に特化した高僧を持って来なくちゃ。
ドナースマルク侯も長命種として、雷霆の魔術を扱えるほどの手練れだが……。
まあ、言っちゃあなんだが、その
さてそれはそれとして、このお二人(+その従僕)を視察にご案内せねばね。
お仕事おしごと。
ウビオルム伯の従僕である
君はドナースマルク侯の従者である
というかエーリヒ君はかつての敵と肩を組むことに戸惑っているみたいだが、アグリッピナ女史もドナースマルク侯も貴族なんだから、案件や時流によっては敵対もすれば協力もするさ。
殴りかかる準備をしつつも笑顔で握手するのが貴族ってもんよ。
まあ今回の視察は、アグリッピナ女史は閉鎖循環魔導炉関係で、ドナースマルク侯は大陸横断トンネル関係ということで、目的が違っていたから、本来は別日程にするはずだったんだけど。
え? なんでそれで同じ日に政敵同士で顔合わせることになったのかって?
そりゃアグリッピナ女史からの御下命だから仕方あるめえよ。理由? どうせドナースマルク侯を煽りたかったとかそんなんだよ、きっと。……これだから
「ドナースマルク侯におかれては、遠路はるばるお越しいただき誠かたじけなく。道中の魔導
転移でやってきたアグリッピナ女史とは違って、ドナースマルク侯は、実は帝国から大陸を半分ほど横断するトンネルを通ってこちらに来てもらったのだ。鉄路は全線には引けてないので、途中からは魔導動力のトレーラーでね。
ご本人たっての希望で、トンネルによる移動を体験したいということと、途中は敷設中の線路の様子から、黒海の巨大氷床上の石油化学工場群や、車両の整備施設、隧道管理施設、地底の岩塩鉱床なども見学したいとのことだったからね。
こちらとしても拒むことはない。帝国経済界において非常に大きな存在感を持つドナースマルク侯の御理解を得られれば、とんとん拍子に帝国全土に穴を掘るのを進められるようになるだろうからね。
そういう意味ではアグリッピナ女史が、ドナースマルク侯と視察の日程を合わせたのも、あながち単に彼女が煽りカスであるがゆえだけではないのか。
ウビオルム伯爵領のケルニアは陸路と河川交通の要衝だし、この機会にドナースマルク侯とも事前に話を通しておけば、隧道方伯たる私に帝国の公共事業としてトンネルを掘らせて方々と繋げさせるにしても選択肢は大きく広がる。
実際に大陸横断トンネルと、この中東の地の発展具合を見たドナースマルク侯であれば、その話に乗ってくるであろうことは、アグリッピナ女史でなくとも容易に想像できる。
むしろドナースマルク侯の方から限定同盟の提案があるだろう。この段階から彼と彼女が手を組み、帝国を覆う地下鉄道のネットワークの青写真を描ける意義は大きい。
航空艦事業を取り仕切るウビオルム伯アグリッピナ女史。
帝国全土に単なる
そして大規模隧道事業を取り仕切り、運河すら簡単に通せるほどの桁外れの土木工作能力を持つ隧道方伯たる私ことマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン。
内政家である無血帝マルティンⅠ世陛下の治世の傾向を考えても、今後の空路・地下道による流通活性化と帝国経済の伸長の加速を考えても、ここは組んでおくのが正解だ。
まずは帝国経済というパイを大きくするのは、この場の誰にとっても正義であるのだから。
アグリッピナ女史は、やがてその成長する市場の中から頭角を顕した有能な官吏を見出して家督を譲って隠居し、存分に書に
ドナースマルク侯は、大きくなるパイを自分の勢力に取らせる謀略を巡らせるため。リソースはなんぼあってもいいですからね。
そして私は、発展した経済が産む余剰リソースを誘導し、より多くの捨てられるべきモノどもを救い、さらなる探求を進め、その隙間に自らが信じる神の教えを広めるため。
経済成長は、正義だ。
「それではご案内します。あちらに乗用の魔導車両を用意していますので────」
そうやって私が移動用の車両へと歩み出したそのとき。
──── ピシャーン!!
と、雲ひとつない青空から雷光が落ちて、私を灼いた。
これすなわち、天罰である。*4
「………案内役が物理的に蒸発して消えたのだが」
「待っていればすぐに復活するでしょう。心配するだけ無駄ですよ、グンダハール」
「この辺りの最高神の神罰を受けたのに、かい?」
目の前で雷に
まあ無理もない。
神罰が目の前に落ちるのも相当な珍事だし、そこから復活するのだとすれば、それも相当だ。
「いやはや、御見苦しいところを」
果たして、アグリッピナ女史の言った通り。
隧道方伯にして魔導副伯であるマックス何某は、復活した。
いや、この場合は、
彼の足元から沸き上がった細かい菌糸が寄り集まり、また、肉体の経絡があった場所からにじみ出た魔素が肉体を形作って、彼は再誕した。
この地に満ちる多くの
そのような宗教的なアウェーの土地にすら神罰を下した、この地の天空最高神の力は凄まじいが、マックス何某を完全に滅ぼすには至らなかった。
荒野の再生という、彼の神の信仰の実践により功徳を積み重ねているマックス何某にとっては、肉体に纏わりついた常駐魔導や神の恩寵を、異教の最高神の神罰が貫いたとしても、そのダメージは許容範囲内であった。それら常駐魔導や加護によって威力が軽減され、装備していた形代の呪符によりホムンクルスへ何割か衝撃を流せたおかげもあるが。
共生菌である “冬虫夏草の使徒” の菌糸を伸ばして地に張り巡らせることでバックアップにしているし、身体の経絡に埋め込んでいた亜空間の内蔵魔導炉にも、神罰による魔導破却を免れるための緊急遮断機能と、制御副脳によるバックアップ機能はある。
魂自体は “もったいないおばけ” の加護によって神罰から守られて保全されているから、菌糸と魔導で相互に補完して新たな肉体を創り上げることは造作もない。
「さて、気を取り直して参りましょうか。次は星が降ってくるかもしれませんからね、そうならないうちに移動します」
それに彼に天罰が落ちるのも初めてではない。
手練の戦闘僧が率いる一団に狙われるよりも対処は分かりやすいことであるし。*5
「徐々に慣れてはきましたが、流石に消耗しますのでね」
次こそは受け流したい、と彼は決意するも、流石に最高神の神罰。
マックス何某が奉る守護神格のテリトリー内ということで威力が弱まっているだろうとはいえ、完全にいなすことはできなかった。
……逆に、完全にいなして無傷でしのぐよりも、一度は肉体を滅ぼさせた方が相手の神の溜飲も下がるというものかもしれない。追撃がないというのはそういうことだろうか。
「さてそれでは、まずは領主館……と言いますか、
丸ごと再生させた衣服を軽く払って、マックス何某が乗用魔導車へと先導する。
「おお、貴公の細君にしてこの地の首長、ルゥルア・ハッシャーシュ卿に御目通りせねばな」
「帝都の夜会でも挨拶させていただいたけれど、良い縁に恵まれたようで良かったわね」
「ええ。縁を結んでいただいた陛下には感謝しておりますとも」
方伯受爵と結婚披露のために開かれた一連の夜会には、ウビオルム伯もドナースマルク侯も招待されていた。
そこで見た真珠の甲殻を持つ
まるで巨大な
「美しいだけでなく、聡明で気丈な自慢の妻です。おかげで私は趣味に邁進出来て楽をさせてもらっています」
「あら、魔導副伯としての仕事もしてもらわなくてはならないわよ? あとでグンダハールは抜きで例の実験場を案内して頂戴ね」
「はい、もちろんです。ウビオルム伯。そのために御足労いただいたのですから」
流石に秘中の秘である閉鎖循環魔導炉の実験場はドナースマルク侯には見せることはできない。
……あの手この手で情報を奪取しようとしてくるドナースマルク侯の手の者とやり合う羽目になるだろう
「それ以外ならドナースマルク侯にお見せできるところも多くありますから、御心配なく。きっとご満足いただけると思いますよ」
「それは楽しみにしておくとしよう」
「ええ。広大な小麦の畑、油を取るための大豆の畑、伸縮するゴムが取れるタンポポ畑、綿花、さとうきび……そしてそれらの農産物の加工場予定地。きっと一日では回れませんので、お好きなだけご滞在いただければ」
「ああ、そうさせてもらうとも。できれば噂の巨大使い魔を用いた運河造成の現場も見たいところだ」
「はい、もちろん。
「期待しよう。ああ、当然、魔導副伯としてだけでなく、隧道方伯としても帝国は貴公に期待している。陛下が伯爵に優越する新たな役職を新設なさったということはそういうことだ。もちろん
「ええ、肝に銘じますとも」
それぞれが帝国でも上位の権力を持つ彼らは、一見和やかに笑い合った。
だが貴族とは、笑顔で笑い合って、その裏でいつでも殴りかかれるように準備をするもの。
彼らの従者である
書籍版追加キャラのドナースマルク侯、大陸横断トンネルによる東方直通交易とか、その技術を使った流通網整備とか、そんなんあったら絶対最初期に乗ってくるよね、と思うなど。こういう腹に一物を抱えた貴族どもを制御しなければならない皇帝陛下は大変でござるなあ。玉座は拷問椅子などと宣うのもむべなるかな。
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原作WEB版更新されてます! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/276/ セス嬢とミカくんちゃん好き。そういえば額冠に鏡台……完全に嫁入り道具なので、発端(陽導神の落とし子に見初められた)を考えると冬至祭りのときにはとても素晴らしいセス嬢の御姿が見られるのでは?? そしてミカくんちゃんというか、造成魔導師ってやべーよね、って。騎竜と合わさると、相手からしてみれば、輜重路に突然敵の工兵隊が大勢ポップするみたいなものだからやってられない……。帝国と仲が悪いぽいセーヌ王国では対抗戦術が検討されているのだろうか?(奇跡で固めたユニットを待ち伏せさせて魔導師を殺ればやがて人材が尽きるだろうということで積極的に人的資源を狙うとか? 魔導師ユニットは育成に時間がかかる上に素養持ちが限られるのが弱点……だけど、それは魔導師を殺しうるユニットも同じ弱点抱えてるだろうし、どうなんだろう)