フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

112 / 160
 
◆前話
巨蟹鬼セバスティアンヌは如何物喰(いかものぐ)い。巨大鰐だって食べちゃうぜ。あと武を極めた仙人に師事する拳士でもあるのだ。
 
仙猫娘師父「セバスティアンヌよ、お主は魔種であるにゃ。ゆえにもっと己の身体のことを知らねばならんのにゃ。魔晶に刻まれた力……重力操作、障壁作成、構造強化、僅かながらの水の生成、眷属産卵と、その眷属との精神感応、それに後付けにゃが外氣供給契約に、呪縛した小雷妖に、呼気精製の宝貝と如意鉄棍……? 盛り沢山にゃね?? ともかく仙の道は己というひとつの宇宙全ての掌握から始まるのにゃ」
巨蟹鬼弟子「はい師父(スース)!」
仙猫娘師父「本能に定められた術式を解体し、自在に振るうのにゃよ。やがては己の内から、外へ、にゃ。全ては宇宙の理解にゃ。その中には魔素の集積という魔晶が本来持つ機能も含まれるのにゃ。それを自在にすることは、お主が狂さぬようにも必要なことにゃ。己の宇宙を、世界という宇宙と同化させるのにゃよ」
巨蟹鬼弟子「師父も己の全てを掌握なさっているということですね」
仙猫娘師父「当然にゃ。霞を食って生きるには、内腑の動きを自在にできなくてはならんにゃ。心の臓さえも意思一つで止められるようになって初めて、ようやく仙の階に立てるのにゃよ。お主の重力操作の如き業も、世界と一体化すれば魔晶要らずで自由自在にゃ。ほれ、このように、にゃ」*1
そう言って仙猫娘師父はまるで1枚の羽毛のように軽やかに舞い上がったかと思えば、そのまま巨蟹鬼弟子(セバスティアンヌ)の肩に着地し、まるで大龍にのしかかられたかのような重圧を加えてきた。たまらず擱坐する巨蟹鬼弟子を見て、仙猫娘師父は、にゃははと笑うのであった。

*1
◆仙人:東の伝説。生まれながらの長命種だったり、人類種が修行の末に登仙したり。ライン三重帝国の世界に仙人が存在するというのはいまのところ独自設定。仙人は、ある意味では落日派の目指す先のひとつの形とも言えるかも知れない。あるいは帝国開闢時代のかつての落日派の元となった会派のルーツは実は東の道士たちにあったりして?




27/n 穏やかなる日々-4(電界25次元の女王(〈みえざるひかり〉) 極光の半妖精タチヤーナ(アウロラ・アールヴ ターニャ)の場合)

 

 亜空間。

 異相次元。

 基底現実とは異なる次元に存在する、世界と世界の狭間。

 ()()()の世界。

 

 その不可思議な虚空の世界に、高速回転する巨大な円盤群と、その上に浮くひとつの都市があった。*1

 

 上位階梯の存在から魔法に関する権能を与えられた転生者………をベースに “もったいないおばけ” の手によりリサイクルされて再誕した魔導師である、マックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンがその魔法の力で作り出した、虚空の都市だ。

 彼は不安定な亜空間を自身の魔法の力で切り取り、安定・隷属化。

 そこに基底現実のトンネル掘りで得た残土やその他のゴミを再利用して基礎となる陸塊を形成、拡張。

 さらに各種の建物や工場、研究施設を作り上げつつ、真砂のように尽きない悪党どもや魔物たちを原材料にした人造人間(ホムンクルス)を住まわせて、ひとつの都市経済圏を作り上げた。

 

 とはいえ群盗山賊のような居なくなって後ろ暗くない人材というのも、流石に短期間で無限に湧いて出る訳ではない。真砂のように尽きずとも、狩り尽くせば瞬間的に真空状態にはなるのだ。

 他にも各地の都市のスラムに趣味の布教用として子実体クローンの分身を派遣して、身寄りのない遺体を弔うついでに断りを入れて虚空の箱庭に転送し、人造人間(ホムンクルス)の素体としてリサイクルしたりしているが、それでも求める数が充足はしない。

 特に、遺体の再利用ばかりだと中に入れる魂が足りなくなるため、最近はスラムで闇医者のようなことも始めて、地母神寺院の後ろ盾を受けられないような訳あり娼婦などを相手に堕胎サービスをしたりもしている。もちろん水子の肉体や、その水子に宿る魂が目当てだ。………ときどき娼婦ではなく、火遊びして常ならぬ種で孕んだ/孕ませた市民からの相談もあったりするが。

 

 いよいよそれでも魂の数が足りぬとなれば、比較的新鮮な死体から採取した卵巣と精巣から人工授精的に、いわゆる試験管ベビーを誕生させることも検討中だという。

 だがまあ、死した身体に由来する子供、となると、なんぞ呪術的な意味合いを持って変質することも考えられるので、慎重な検討が必要だ。

 特にこれまでのような悪党や無縁仏、水子の活用とは異なり、試験管ベビーまで行くと、リサイクルの範囲を超えるという意味でも慎重にならざるを得ない。そういう信仰の観点で、マックス何某としても一線を超えると感じているのだ。……彼の中の魔導師の魂は「いけいけ、いったれー」とか言ってるが。

 

 ちなみに雙尾蠍(そうびかつ)のマリヤムのように、死の穢れの濃い者から生まれる子供の場合にも似たような呪詛変質の懸念があるが、それはきちんと聖堂で祝福すれば問題ない程度に減衰すると考えられている。

 それはそもそも、赤子とは無垢な者である、という概念によるリセット作用が一つ。さらに聖堂で施す洗礼や祝福により穢れを祓えるというのが一つ。そこでさらに、妊娠中から潔斎しておくなりしておけば、もっと安全性は高まるようだ。

 

 逆にやり方によっては、そのような穢れの性質を保ったり強めたりもできるようなので、どのような子が欲しいかにもよるのだろうが。

 とはいえそれも限界がある。神の落とし子でさえもその強力な権能を維持できるのは数世代ということであれば、ましてやヒトの穢れ程度をや、というところであろうか。

 

 であれば死体の精子と卵子から生まれる試験管ベビーについても同じように祝福や洗礼を施せば問題ないと思われるが、やはりそちらに手を付けるにはマックス何某自身の信仰の問題が大きいところである。

 受精卵から創り出すのと、既に育ったものを再利用するのには違いがある。

 具体的には、“もったいないおばけ” の管轄の範囲か、そうでないか、ということである。

 

 マックス何某本人の気分の問題と言ってしまえば、それまでではあるが……。

 しかし信心の問題こそが、信仰者にとっては重大問題だ。

 

 いまでは子実体クローンの量産も可能になるメドが立ったので、本当に切羽詰まったらそちらに舵を切ることになるだろう。試験管ベビーではなく。

 

 

 

 

 さて、虚空の箱庭では、時間加圧できる現実再現エミュレータにより高速で試行を繰り返し、研究を加速させ、文明を発展させることに成功している。

 最近は大陸中西部の黒き海から湧く石油を用いた化学合成製品を活用できるようになったのと、この世界版の電子工学や電気工学も発展してきつつあるため、かなり西暦世界の近現代に近くなっている。

 

 某金髪の従僕垂涎の情報処理端末である “ぱそこん” の開発もその一環。

 魔導宮中伯アグリッピナ女史及び、無血帝マルティンⅠ世陛下には献上済みで、彼らの幕僚には非常に好評をいただいている。

 なお処理速度が上がっても、その分多くの案件が降ってくるだけなので激務なのは変わらない模様。

 他の貴族からの引き合いも多くあるが、値段を吊り上げることで出荷数を絞っている。“カヴィール(塩沙漠)の蠍の国” における身内には優先的に回すが。

 

 

 

 その高度情報処理端末の本場でもある虚空の箱庭において、もっともそれらの機器が集中した場所がある。

 

「ターニャ、何か面白いものは見つかったかい?」

 

「おかあさま。この広大な亜空間ですもの、そうそう変わったものは見つかりませんわよ」

 

「そんなことはないと思うけどねえ」

 

 そこは宇宙船を地上から管制する司令室のような場所であった。

 

 いや、“ような” ではなく、この大部屋は、まさしくその通りの機能を持っていた。

 極光の半妖精ターニャと、魔法チート転生者マックスが、この司令室に集まってくる情報をその一角で吟味している。

 周囲にはモニタを前に情報処理をしている人造人間(ホムンクルス)が沢山配置されて、それぞれ業務に(いそ)しんでいる。

 

 そのモニタには、暗黒だったり虹色だったりに歪んで渦巻くこの亜空間の景色が映し出されていた。

 それも無数に。

 ひとつとして同じ光景はなく。

 

 

 

 

 異相次元探査船団、フォアランナ部隊。

 ここはその管制センターなのだ。

 

  “ダンタリオン” という知識を司る悪魔の名を冠した異形の探査艇により構成される、この虚空の亜空間を調査するチーム、それがフォアランナ部隊だ。

 前へ進む者(フォアランナ)という部隊名を与えられた船団は、虚空を揺蕩う()()()()がないか探し、もし何モノかが見つかればそれを採取し持ち帰ることを命題としている。

 

「というか異相次元探査艇ダンタリオン全機、すべておかあさまのクローンと同化しているのですから、わざわざ管制司令室に足を運ばなくてもよろしかったのでは?」

 

 常にライブ中継状態ですわよね? とはターニャ。

 彼女は彼女で、司令室のゲスト席で、勝手に観測データをザッピングしているところだ。

 

 そしてターニャの言う通り、異相次元探査艇ダンタリオン各機は、主機(エンジン) 兼 パイロットユニットとして、マックス何某の子実体クローンを搭載している。

 さらに言えば、機体の全機能を十全に発揮するため、また、機体スペースの有効活用のため、搭載されているクローン同位体は、四肢を切断した上で機体に直結されている。*2

 機体側にも生体素子として、“冬虫夏草の使徒” の菌糸が添加されており、異相次元探査艇ダンタリオンそのものと、マックス何某の子実体クローンを完全同化させる仲立ちになっている。

 

 そのためフォアランナ部隊の各機は、マックス何某の分身体そのものでもあるのだった。

 

 それなら確かに、ターニャが言う通り、直接情報を受け取っているだろうマックス何某がこの司令室に足を運ぶ必要もなさそうだが。

 

「いやいや、リアルタイムであれだけの情報を全部処理するのはしんどいから……。それに司令室で統合して処理してやった方が、注目すべき点も明確になったりするし」

 

 確かに機体制御や魔導炉の調整を初めとして、広域探査魔導の発振、獲得情報の空間超越通信といった主要な機能の維持だけでも、相当の容量を消費している。

 取得した情報を転送する時点で、組み込みの機器による機械的な処理はいくらか加えているが、それ以上の解析は難しいのが実際だ。

 

「子実体クローンも、そこそこコストが重いから無制限に作れるわけじゃないんだよ?」

 

「今は、でしょう? 研究と研鑽を続ければ、いつかはどうにでもなるのではありませんか、おかあさまならば」

 

「だけどそれは今ではないんだよ、ターニャ」

 

 コストの問題が解決すれば、万能ユニットとしてのマックス何某を、1機体に2体載せるタンデム方式にもできるのだが。

 今はそれは出来ないのだ。

 具体的には、子実体クローンを増やすことは、“冬虫夏草の使徒” の方へと実存を傾かせる行いに当たるため、やりすぎると主従が逆転して、取り込んだ使徒に乗っ取られかねないのだ。マタンゴ!!

 

「というわけで、解析するなら中央に演算リソースを集中させた方が良いんだよね」

 

 異相次元探査艇ダンタリオン。

 探査艇であるそれは、何らかの未知と接触する可能性が極めて高い。場合によってはそれら未知の脅威により危害が加えられロストする危険もある。

 そうでなくとも、不慮の事故で信号途絶ということも十分考えられるのだ。

 

 そんなロスト上等な機体を、無闇に高級化するのも考えもの、というわけだ。

 

 

 

 

 と、談笑していたそのとき。

 ある機体の観測データに大きなノイズが走った。

 

「………あら、またエネルギー乱流の壁ですのね」

 

「異相次元の嵐、と仮称しているアレかぁ………」

 

 光り輝くエネルギーの壁が迫ってきて、異相次元探査艇ダンタリオンのシールドにぶつかる。

 揺れる画像、乱れる通信。

 機体のダメージを反映してアラートが響き、即座に再生プロセスが走り始める。

 

 そして遅れて、他の探査艇や、この司令室を置いている虚空の箱庭にも順次、高エネルギー乱流が到達した。

 このエネルギー乱流は、地震波の広がりのごとく、震源というか爆心から放たれているような挙動を見せている。

 

「………揺れが収まりましたわね。やはり、これまで観測してきたデータからしますと、これは超巨大な爆発の余波だと思われますの」

 

「その爆発の中心点での推定発現温度は、水の融点を零度、沸点を百度と定義した場合に、なんと一兆度………恒星系を破壊して余りある威力だ」

 

 一兆度の火球。

 それが遠く離れた場所に現れて、そして炸裂したことによる余波。*3

 

「光の速さで百何十年と進んだ先が爆心地と思われるのに、それだけ離れてても防御無しでは探査艇ダンタリオンごと蒸発しかねない威力があるとかインチキですわよねえ」

 

「虚空の箱庭がこれまで無事だったのは、たまたまこの爆風が発生する周期の谷間だっただけかもしれない」

 

「フォアランナ部隊を各方面に飛ばす前に、箱庭がこの異相次元の嵐に見舞われていたら、けっこう危なかったかもしれませんわね」

 

「幸いにして純粋物理の現象だから、なんとか結界で対処ができたけれど」

 

「最初に嵐に遭遇したフォアランナ部隊の第一派遣小隊はあらかた蒸発してしまいましたものね」

 

「あれは勿体なかった……。だが、かろうじて結界展開が間に合った機体があったおかげで、虚空の箱庭の方でも準備が間に合った。そこはファインプレーだよ、まったく」

 

 どうやらエネルギー乱流である “異相次元の嵐” の発生によって、この虚空の箱庭の周辺は相当に物騒な状態になっているらしい。

 

「まあ、今なら虚空の箱庭の超至近距離にその異相次元の嵐の爆心地が現れたって平気さ。余裕で耐えられるね。そうなった想定でシミュレートもして、練習もしたわけだし! 絶対に問題ないさ! どんと来いってもんだよ!」

 

「あっ。おかあさま? そんなこと言うと………」

 

 

 そうだね死亡フラグだね。

 

 

 

 

 

 

 直後。

 極光の半妖精ターニャの懸念が的中する。

 

 

 虚空の箱庭の至近と言っていい距離に、ソレは現れた。

 一ミリ秒にも満たない時間で発生した次元の裂け目から、恐ろしく悍ましいとしか言いようのない、膨大なエネルギーが解き放たれたのだ。

 

 不可避の爆発!!

 

 その温度は一兆度!!

 

 全てを焼却して余りあるエネルギーである。

 

 

 

 だが、魔法チート転生者であるマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンは、既にその対抗策を構築していた!

 未来視系の危機感知術式がトリガーとなって、無意識下でマックス何某の身体を動かす。

 もしもの時に備えて装填され、準備されていた術式が、手順に従い解放される。

 

 

「熱量変換結界展開! ベクトル反転結界展開! 時空積層歪曲!」

 

 

 

 熱魔変換超速自己複製術式(ほしをのみこめひろげるな)

 

 有向量反転結界重展開術式(てんのひかりをとじこめろ)

 

 時空間歪曲鈍化積層化術式(ときのめいろでまどわせろ)

 

 

 

 迫る熱量を魔力に変換する術式を走らせ、熱を喰らいながら自己複製する結界によって爆発が広がる以上の速度でその周囲を覆った。

 

 さらに物理現象を上書きする概念級の術式を結界に付与し、広がろうとする熱量を反射させて結界内に閉じ込めた。

 

 そこに重ねて安全装置として、時間の流れを遅くする空間を結界周囲に捻じ曲げて積み上げて、仮に内部の結界が破綻したとしても、外に影響が届くまでに時間稼ぎができるようにした。

 

「はあああああああッ!!!」

 

 発生し膨張する熱量に負けそうになるたびに、マックス何某は、全分身体の魔導炉から魔力を前借りし、それを補填した。

 すべての分身体の体内の魔導炉を直列励起。発生するエネルギーを、時間遡行術式で未来から現在に送り込むことで前借りとする。瞬間的なエネルギーゲインは、半年分の全力駆動の過去転送集約と引き換えに、通常の約2000億倍にまで達した。

 やがて火球の膨張と、前借りしたエネルギーを触媒に封印対象の熱を魔力に再生利用する反射結界が拮抗し……ついには安定した。

 

 

「は、ははは。間に合った……どんなもんだい……!」

 

 刹那の時間に行われた、見事な封殺術式であった。

 それを為したマックス何某は、その刹那の間に憔悴しきってしまっていたが。

 いくらこの事態に備えてシミュレートをしたことがあったとはいえ、一歩間違えればすべてがご破算になっていたのだ。無理もない。

 

「見ろ、ターニャ! 太陽を、いや、宇宙を捕まえたぞ! もったいなくも無駄に散るはずだったエネルギーを、捕まえた! 破壊にのみ使われるはずだったこの力を、再利用できる! 有効活用できるんだ! ふはははははははッ!! もったいないおばけの加護ぞあれ!!」

 

「…………」

 

 信仰の力が満ちていくのを感じる……!*4 とマックス何某が打ち震える中で、話しかけられた方のターニャは上の空だ。

 

 そんなターニャを、マックス何某は(いぶか)し気に見た。

 

「ん? ターニャ、どうした?」

 

「………呼んでる………」

 

「は? あ、ちょっと待って、それはまずい爆心地に空間遷移の門を繋げると熱が溢れ……ッッ!!?」

 

「行かなきゃ」

 

 ふらふらと夢遊病患者のように〈空間遷移〉の魔導を発現させたターニャ。

 繋げた先は、先ほどの一兆度の火球が現れた、その爆心地。

 結界によって封印されたそこは、いまだに熱と光が吹き荒れる恐ろしい場所だ。

 

 

 そんなところに風穴を開ける形で〈空間遷移〉の門を開いたのだからさあ大変。

 光とも粒子ともつかない未分化なエネルギーがその穴から漏れてビームのようになって出てくることになる。

 

 同時にターニャは、身体の相を妖精側にずらし、物理ダメージを無効化。

 さらに、極光の妖精(アウロラ・アールヴ)としての電子と光波の権能を、魔導によって補強して、溢れるビームを吸収した!

 

「いかなきゃ……いやはてのもんが、しまるまえに……」

 

 そして〈空間遷移〉で空いた小さな隙間の向こうに、吸い込まれるように消えた。

 

 

 

 一方残されたマックス何某だが。

 

「んぎぃッ!? 空間直結、熱量吸収ッ! 次元閉鎖ァッ!!」

 

 虚空の箱庭に残されたマックス何某は、被害が広がらないようにターニャが開けた次元の裂け目から漏れ出たエネルギーを、時間遡行術式も併用して全て自らの内蔵魔導炉へ回収し、裂け目自体を閉じた。

 

 巨大すぎる熱量を突っ込まれた内蔵魔導炉が悲鳴を上げて暴走しかけるが、内蔵魔導炉に附属する魔導副脳を全力稼働させてなんとか宥める。

 なお、メイン系統の魔導炉が、先程の火球封印のため半年間は全力稼働で過去に出力を転送するよう制約されているので、これにはサブ系統の魔導炉を使っている。

 

「ああもう、いったいどうしたっていうんだ……?」

 

 騒然とするフォアランナ部隊の司令室。

 奇跡的に被害は無かったが、極光の半妖精ターニャは、この場からいなくなってしまった。

 

 己の脳髄で孕んで生まれた娘であるターニャ。

 マックス自ら名付けを行った半妖精のタチヤーナ。

 命名の(しゅ)によって結ばれた絆は、マックス何某に彼女の健在を伝えてきている。

 

 だが。

 

 

「ターニャ。いや、タチヤーナ。君はいったい何を見つけたというんだい……?」

 

 

 いまは、彼女が無事に戻ってきてくれると信じるしかない。

 

 

 

 それにマックス何某にはまだやるべきことがある。

 

「今回、異相次元の嵐の、その爆心地のデータを得られたことで、解析がかなり進んだ。類似する並行世界から同様の一兆度の火球が異相次元に投棄されるイベントが発生しても、その出口を別に誘導することがきっと可能になるだろう」

 

 そう、再発防止である。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 一方で、一兆度の火球の爆心地へと消えたターニャ。

 荒れ狂うエネルギーの奔流を吸収しつつ、しかし自らの相をずらすことで影響を無効化している彼女の、その目の前に、ここにあるはずのないものがあった。

 どんなものもエネルギーに還元され、輪郭を失うはずの世界で、しかしなおも存在するものがあったのだ。

 

 それは『門』だった。

 

 この超エネルギーの中にあってのみ存在を許される、特異な門。

 

 

「開けて。だって、呼んだのは、あなたでしょう?」

 

 

 ターニャの意思に応じて、その門が開いていく。

 

 その先には────。

 

 

 

 

 

「あは。みぃつけた。新しい、薄暮の丘。夏の夕暮れ。薔薇の香る、私だけの妖精郷」

 

 

 

 

 のちにターニャが虚空の箱庭に帰還することにより道が繋がり、電界25次元と命名されることになる、新たなる異相次元。

 妖精女王の名づけに依らず自己を確立した、独立系統の妖精であったタチヤーナがそこを訪れることで、無主地であったその次元は、彼女の色に染められた。

 

 すなわち、新たなる妖精郷の誕生であり。

 新たなる妖精女王、〈みえざるひかり〉タチヤーナの誕生である。

 

*1
◆高速回転する円盤群:角運動量としてエネルギーを補充するフライホイールの超巨大高速化版。昔は都市の天頂方向に浮かべていたが、渇望の剣(エーリヒくんの魔剣)が突っ込んできたことがあり、接触によって削れて出た()()がまるで高射砲の弾のような勢いで降り注いだことがあったため、再発防止ということで天庭方向に再配置された。

*2
◆異相次元探査艇ダンタリオン:四肢切断して機体に直結したマックス何某(子実体クローン)を搭載して、魔導炉 兼 演算装置としている。サイコ・ザク形式とも言える。なおマックス何某は妖精のお気に入りかつ落日派なので、永遠の14歳(幼体固定されている)と言っても過言では無い。機体そのものに冬虫夏草の使徒の菌糸が添加されており、ダンタリオンそれ自体を己の身体と同様に扱うことができる。なお、マックス何某には武術などの才能がないのだが、それと同様に、高速戦闘に対応できるほどのパイロットとしての腕もないため、操縦補助術式を魔法チートの権能で組んでそれに操縦をほぼ任せている自動運転状態がデフォルトである。

*3
◆一兆度の火球:1テラケルビンの火球でも可。どこかの次元の誰かが、炸裂するはずのエネルギーを異相次元に投棄したもの(もしかして:ゼットン)。不法投棄ダメゼッタイ。異相次元の嵐が複数回発生しているのは、曲がりくねった次元回廊を通るうちに小分けにされたのか、あるいは並行世界で無数に類似事象が発生したということなのか。

*4
◆マックス何某の神官レベルの上昇:天体破壊級のエネルギーを凝集して閉じ込めたことで、“終焉と再始の神” の神官としての功徳を積み上げまくった。亜神の域まであとどのくらい??




 
◆新たなる妖精女王 〈みえざるひかり〉タチヤーナ
極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)タチヤーナが、進化した姿。外見はさほど変化はないが、内包するエネルギーが膨大。妖精女王の名づけに依らずに、ヒトの名づけにより力を得てさらに肉を得て、加えて魔導師の智慧を得た彼女は、通常の妖精の理から外れてしまっている。彼女は自然の化身ではなく、我意の化身であり、邪道の妖精である。彼女は、天地開闢級/宇宙絶滅級の熱量の中にのみ現れる、どこへでも行けるという窮極/弥終(いやはて)の門をくぐり、己の望む次元に辿り着いた。薔薇の香りのする虚無の空間を己の意で染め上げ、彼女は電界25次元の女王として君臨する。
 
〈みえざるひかり〉タチヤーナ「ここを我が妖精郷(キャンプ地)とするッ!!」
 
 
※(注意)今話の門とか妖精郷とか妖精関係はだいたい独自設定ですのよ! たぶん!
※……なお『電界25次元』は、マックス何某の中の転移者の魂が前世のゲーム知識に(あやか)ってシャレで命名したものなので、当然、マザーバイド(出典:R-TYPE)が居たりはしないス。えっ、マックスくんの性質が、“冬虫夏草の使徒” と合わさることでバイド染みてきてる気がするって? ははは、いやまさかそんなことは……。




◆そのころエーリヒ君
新型魔導炉に換装された魔導航空艦の試験飛行に同乗。しかし複数ある魔導炉のうち幾つかが不具合を起こして不時着する羽目に。しかも秘密航行だったために落ちた先は人類未開領域。さらには無事な魔導炉から垂れ流される魔素に惹かれて集まってくる無数の魔獣たち……。果たして搭乗員一同は生きて戻れるのか!? みたいな感じだった様子。スロースターターな魔導炉を再起動から通常出力まで持っていくには数日かかるため、なかなか大変だったとかなんとか。アグリッピナ女史が一緒だったんじゃないかって? 魔導炉再起動までの現場の死守をエーリヒ君に任せて帰ったよ。だってこの程度ならエーリヒ君に任せられると彼女には分かっていたからね。


===

※追記
◆『一兆度の火球』の攻略難易度について
概念級の術式を操れる魔導師なら、比較的攻略は容易と考えています(生き残るだけなら、いつぞやの燃料気化爆弾術式から全周転移門で囲ってエネルギーをスかすやつの再現だけで良いですし。マックス君の師匠のノヴァ教授みたいに因果操作で自分が死なない因果を自分に付与したりでも良いですし)。一方で、一兆度の火球を防げるマックス何某は、原作エーリヒくん亡霊ルート(HS2.0)の長女 “灰の捲き手” ちゃんのティルトウェイトは防げるのか? というと……それは難しいんじゃないかなあと考えています。だってベクトル反射結界とか異相次元潜航回避とかを潰す術式くらい噛ませてるでしょうし、きっと。なのでティルトウェイトに対処できるかは、その魔導戦の軍配がどちらに上がるか次第ですね。
……『一兆度の火球』くんの敗因は、概念級のメタ領域まで及ばず、あくまで物理レイヤーの威力に留まっていたせいなので……。
なのでマックス君でなくても、漂泊卿エーリヒ君(報復型の反射結界で無効化可能と想定)はもちろんのこと、〈概念破断〉を極めた剣聖エーリヒ君(兆しを感じた瞬間に火球の発現地点に斬撃飛ばして起こりの時点で消し飛ばす)も対処可能だし、Exの陽導神収斂派のエーリカ嬢(燃え尽きてから復活するか、そもそも熱を吸収してパワーアップ)も余裕で生存可能だと考えています。妖精狼エーリヒ君や亡霊エーリヒ君は、相をずらして物理無効で生存可能だし。吸血鬼エーリヒ君は、命のストックが減るだけで済むだろうし。

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。