フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
言うほど “穏やかな日々” を送っている訳でもなかったマックス君。例えば虚空の箱庭で過ごしていたらどこかの誰かが亜空間に不法投棄した一兆度の火球に焼かれそうになることも。だけど
(前話の後書きに、一兆度の火球の攻略難易度について追記しました。
ともかくこれで、マックス君は期せずして超巨大恒星級のダイソン球*1を獲得できてしまったので、新たな妖精郷である電界25次元の開発も捗りますのことよ。
娘に甘いマックス何某「しかたないなあ、ターニャは。はいどうぞ」
新たなる妖精女王ターニャ「わあい、大好きですわ、おかあさま!」
28/n いい日旅立ち……に至るまで-1(魔導航空艦不時着事件)
娘でもある
親馬鹿と言っていただいて構わんよ?
自覚はある。
一兆度の火球に焼き尽くされそうになった時は焦ったが、なんとか現存するすべての分身体の力を結集して、さらに向こう半年分の主系統の内蔵魔導炉の全力稼働分の産出エネルギーを前借りしてようやく封じ込めが出来た。
封じ込めた火球のエネルギーを今後利用できるようになったから、結果オーライということにしておこう……。転んでもただでは起きない、それが “もったいないおばけ” の信徒としての心意気。
私たちは新たな太陽を手に入れたのだ! ……世界中の太陽神系の神々に知られたら呪われそうだな。虚空の箱庭のある異相次元は、何処の神の主権でもない公海のようなものだから大丈夫だとは思うが。
封印時の無茶の反動で半年後まで主系統の内蔵魔導炉は延々と過去にエネルギーを送り込むだけの機関と化している。副系統は生きているが、それだけでは心もとない。面倒事は勘弁だ。
その間は副系統の内蔵魔導炉を使い倒しつつ、予備として副々系統を増設しないと。
火球封印時の前借り分の過去転送が終わる半年後には、全力稼働の反動でガタがきてるだろう主系統の内蔵魔導炉のメンテナンスもしなければならない。
火球を捕縛封印する過程で解析も進んだし、今後は不意に虚空に現れる火球に悩まされることもないだろう。
類似の並行世界からの次元の裂け目発生の確率分布を魔法で弄って、安全な地点に誘導できるようになったからね。
今はターニャは、彼女自身が掌握している “電界25次元” と名付けた最新の妖精郷を発展させるため、微小な自我のない妖精を基底現実において捕まえている。
それを育てて自我を得るくらいの力を付けさせて、名付けをして自分の妖精郷の住人としてリクルートする仕組みを作ろうとしているようだ。
要は青田刈りとか光源氏計画とかそういうアレだ。
きっと一朝一夕にはいかないだろうから、数十年単位はかかる事業になるだろう。
並行して既に力ある妖精のヘッドハンティングも進めているとか。
「まず狙い目はあの
「へえ、ターニャはグレムリンを嫌っていると思ってたけれど」
「アレの実力の高さは認めているんですのよ、おかあさま。それに新しい領野の概念を司る妖精であれば、他の妖精女王や妖精王から略取したことにもきっとなりませんもの」
「略取て」
「まだまだ私の妖精郷・電界25次元は弱小ですし、目をつけられないように立ち回らないと。だからグレムリン以外の子たちは、きちんと生まれたての有象無象の小さなときから育てて大きくしようと思ってますのよ。それならきっと大丈夫ですわ」
「だといいけど」
むん!、とやる気を漲らせるターニャに私ができることは、兄として親として後押ししてやることだろう。そしていざ既存の他の妖精郷との間で何かあったときに加勢してやるくらいか。
「それはそれとして魔導院での講義や研究もしないとですけれど。
中途半端で終わらせるのは勿体ないですし、
「真面目。でもまあターニャは分身できないものな。忙しくなるね」
「株分けした同位体をあちこちに派遣できるおかあさまを基準にしないでくださいまし」
それはそう。
なんなら私はそのうち魔導院の分院すべてに分身体を派遣するつもりでいるからね。
今のところは “もったいないおばけ教” の布教伝道を進めるために、各地のスラムへの派遣を優先しているけれど。
もっと “冬虫夏草の使徒” との癒合共生と支配の段階を進めて、子実体クローンの数も増やしたいところだ。
「魔導院と言えば、ハッシャーシュの地の
「魔導炉研究の中心にしたいという構想でしたか」
「そうそう。それに魔導炉研究を重ねていたおかげで、この間の一兆度の火球を抑える術式だって上手くいったのだし。何が役に立つか分からないものだね」
閉鎖循環魔導炉の外殻に刻まれている術式の研究が、火球を閉じ込めるために使った熱量魔力変換術式や、増殖式結界、ベクトル反射結界の熟達に役立ったのだ。
そうでなければ、一兆度の火球の封印は覚束なかった。
そしてもし封印に手間取っていれば、せっかく造り上げた虚空の箱庭の研究産業都市が、リサイクルのしようもないくらいに蒸発して消滅していただろう。
「魔導炉といえば」
はた、と思いついたターニャが話題を変える。
「魔導航空艦に載せる閉鎖循環魔導炉の量産試作の製作指導の方は上手くいったのですか?」
「……ターニャ、いくらここが虚空の箱庭で防諜に気を使わなくていいとはいえ、極秘プロジェクトなんだから軽々に口に出すものではないよ」
「あらごめんあそばせ、おかあさま」
「まあ外では漏らさないと信頼しているけどね。
それで、閉鎖循環魔導炉の件だったか。諸々は帝国政府の……というか、ウビオルム魔導宮中伯アグリッピナ氏のプロジェクトチームに引き継いでいるよ」
最も危険な、超臨界状態の炉の暴走に関するデータの洗い出しのための、実物を使った実験や、暴走リスク回避のための術式のブラッシュアップは、魔法チートともったいないおばけの加護によって製造工程を短縮できる私が担当した。
各工程のレビュアーはアグリッピナ女史だから実際安心。能力は最上級だからな、あのひと。
とはいえそのまま量産まで私がやってしまうと、ノウハウが全く帝国政府に渡らなくなってしまうので問題だ。
それゆえ、量産試作以降の工程からはもっと多くの者が関わるチームに引き継がれた。
だってやだよ私、ただでさえ大規模トンネル造成が短期間で可能な魔導生物〈
送り込まれてくる刺客は素体としてリサイクルできるから私を狙ってくる分にはある程度ウェルカムだが、妻である
……ふっ、守るものができたせいか丸くなったものだね、私も。
まあ、私とアグリッピナ女史で、量産に当たって絶対に秘匿すべき部分と、ある程度解析される前提の部分は切り分けたし。秘匿すべき部分はアグリッピナ女史がさらに手を加えた上でブラックボックス化しただろうから、本当の意味で閉鎖循環魔導炉の秘密を知ってるのはアグリッピナ女史だけなんじゃないかな、いまは。
あの人も私を全面的に信頼しているわけじゃあないから、最後の最後の部分は自分で仕上げることにしたわけだね。
ええと、それで確か、帝国政府のプロジェクトチームに引き継いだあと……。
「量産試作された閉鎖循環魔導炉は、もう初期稼働試験を終えて、移設実験がてら、既存の魔導航空艦の魔導炉と換装されたくらいのはずだ」
「既存の魔導航空艦、というと、帝都上空まで飛んできていたアレですか」
「そう、危うく
確か名前は魔導航空艦 “アレキサンドリーネ号”。
前帝である竜騎帝アウグストⅣ世陛下の妻、つまり前皇后陛下の名を冠する魔導航空艦である。国家予算で盛大な惚気をばら撒くのは良いのか? 名称は一応公募? そうか……。
で、そのアレキサンドリーネ号だが、それは機体に強化魔導や抗重力術式や斥力障壁をこれでもかと張り巡らせ、魔導のゴリ押しで空を飛ぶものだ。
つまり逆説、魔導炉からの魔力供給が切れて魔導術式の作用が失われれば、即座に機体は剛性や靭性の不足によりバラバラに弾け飛んで墜落することが約束されているわけだネ。
いまアグリッピナ女史が設計している新たな魔導航空艦は、空気より軽い気体を詰める気嚢を併用することで、より安定的に空を泳げるように改良予定なのだとか、何かの折に聞いたような気がする。あれは魔導炉の制御術式のレビューをしてもらっていたときの雑談だったか……?
まあいい。ともかく、その魔導が切れたら機体がバラバラになるとかいう魔導航空艦アレキサンドリーネ号は、これまでの燃料バカ食いする代わりに高出力な従来型の大型魔導炉から、閉鎖循環魔導炉という何世代か技術Tierをすっ飛ばしたオーパーツに換装され、試験飛行に駆り出されているくらいだったはず。
「魔導炉の移設のあとの試験航空ということで、段階的に航続距離を伸ばしていくとは聞いてるな」
「ああ、最初から組み込み型で建造したならともかく、後付けで換装したのでは、移設の際にどんなトラブルが発生するか分かったものではありませんものね」
「そういうこと」
単体テストで上手くいっても、結合テストで上手くいくとは限らないからね。
それでも何が起こっても、アグリッピナ女史も長距離試験飛行には同乗してると聞いているから酷いことにはなっていないはずだけど。
うちから技術指南に回した
そもそも、そうそう酷いことにはならないと思うんだけどな、そうならないように慎重に段階踏んで試験してるわけだし。
「そういえば魔導宮中伯が乗られるということは、従僕のエーリヒさんも乗っておられるのですよね? エリザのお兄さまの」
「そうなるねぇ………」
うーん、エーリヒ君が試験航空に乗ってるって聞いた途端に不安になってきたぞぉ。
試練神に目をつけられている疑惑のある転生者が乗った試作の魔導航空艦。
これは、約束されたトラブルの予感………!
一方そのころ魔導宮中伯の従僕である金髪も艶やかなるエーリヒは。
魔導炉の不調によって人類未踏領域に不時着する羽目になった魔導航空艦の死守を
「死守って、一人でですか!?」
「そうなるわね。炉の復旧の面倒を見させる技術者や、復旧後の航行のために乗組員は残していくけど、でも彼らは戦闘員ではないし、航空艦は籠城できるような構造ではないものね」
アグリッピナ女史が航空艦の貴賓室で
「彼らと
「ですが、それならばせめて最高責任者であるウビオルム伯には残ってもらわなければ士気がもたないのではないですか。あ、いえ、せめて名目上だけでも」
「ええ、別に私の不在を告げる必要はないわ。私は朝まで
自室であることには違いはない。航空艦内の割り当てられた部屋ではなくて、帝都の工房の自室だが。
いやお前は睡眠も不要な
不時着は、魔導炉の出力不安定による、複数基の同期不良。
および、そこから派生する飛行関係の術式の不安定化。
魔力生産自体がダメになったわけではないから、機体剛性は維持されている。
これは、もともと新型魔導炉の出力に余剰があったから、一基でも機体の維持が可能になっていることも影響している。
周辺は人跡未踏の辺境領域。
不時着前にアグリッピナが魔導航空艦の魔導炉から借りた魔力も使って、魔導を打ち込んで、耕して、薙ぎ払って、不時着用のスペースを空けたから、きちんと平らな場所に降りられている。
だが、その時の魔法行使と、そもそも垂れ流しになっている魔導炉の魔力が、この人跡未踏の森に潜む何らかの怪物の気を引いてしまった可能性はある。その危険度は、まったくもって見通せない。
魔導炉の復旧と調整に技術者たちは奔走しており、それには夜を徹して朝まではかかるのだという。
そして
魔導炉出力を流用した防御兵器も幾つか備え付けられているが……。
「砲手の経験を積んだ乗組員って居ませんでしたよね……?」
「新兵器の、その試験運用だというのに、それを扱える人間が居ると思う?」
居る訳がない、と。
それはそうか。
新兵器だものな……。
「航空艦に備え付けの物理障壁だって展開するのだから、そんなに妙なことにはならないでしょう」
そりゃあ出てくる相手が熊程度なら問題ないでしょうよ。熊程度なら。
アグリッピナ氏監修の試験飛行で不時着を余儀なくされる事態が発生するという時点で厄いのだ。この先は何が起こっても不思議ではない。
「別に無傷で、とまでは注文付けないわ。船体の損傷は航行可能な程度であれば許容範囲。乗員は……仮に拉致されるくらいなら口を封じること」
やれないとは言わせない、と紺碧と薄柳の
「………承知いたしました。ご期待に沿えるよう奮励努力いたします」
まあそりゃ落ちるよねって(約束された悲運の不時着)。
アグリッピナ氏は帝都の工房に戻って、単に休んでいるだけかもしれないし、あるいは不時着する羽目になったのは誰かの謀略のせいではないかと裏を洗っているのかもしれない。
あとエーリヒ君の持ち物の中には、マックス何某から「困ったときに地面に植えると良い……」と無理やり持たされた何か干し茸のようなものが入っている。マックス何某曰く「ゲームのダンジョンの中でショップメニューを開けるようにするための使い切りアイテムとかそんな感じ」とのこと。いったいなんだろね?(棒)