フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
きのこのお店の看板娘のマイコニド・アルファちゃんは、
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不時着して魔獣に襲撃されて……と、そのあいだ魔導航空艦アレキサンドリーネ号の中も大変だったという話。
名もなき乗組員視点です。
※珍しく連日更新なので昨日の分見てない方はそちらもどうぞー。
帝国の技術の粋を集めた、空を征く船。
その運用に携われるというのは、非常に名誉なことだ。ワクワクする。
たとえ口外法度で、しかも墜落の危険があったとしても。
どんなことが起ころうと、辛くはない!
「うわあああああっ!? 今度は何だよぉおおおお!!??」
ごめん嘘。
やっぱつれぇわ……。
「いてっ、ぐえっ、ひぎぃっ!?」
魔導炉の同期不良で不時着した魔導航空艦アレキサンドリーネ号の再稼働のためにと出力同期術式の再チェックをしていた俺を襲ったのは、激しい揺れだった。
傾いた船内を転がり落ちて、あちこちをぶつける。
何回転かしつつ、どうにか壁の手すりにつかまった。
「勘弁してくれよ、俺は理論派で、実践は苦手なんだ……。あいててて……」
前に帝都上空でお披露目したときに危うく墜落しかけたというときの教訓で、あちこちに手すりが増設されていて助かった。
それに苦手なりにとっさに肉体強化が間に合って良かった。だが俺がまがりなりにも魔導師でなければ、頭を強く打って死亡していてもおかしくなかったぞ。
それほどに急な動きだった。いまも船内は傾いたままで、足元の方で、すっ飛んでいった金属製の小物がくゎんくゎんと墜落音の残響を出している。
いったい何だったんだ?
「うぉお、わわわわ……っ!?」
そして今度は一気にまた船体が水平に戻り始めた。
ずぅん、という音とともに、床が水平にまで戻った。
た、助かった……?
「いや、助かってない!!?」
アレキサンドリーネ号は、船体の魔導強化が切れたら一巻の終わりだぞ!
さっきの傾きと揺り戻しで何処かが損傷したかもしれないのに、誰が無事で誰が脱落したかも分からねぇ!
少なくとも自分の担当分のチェックはしねぇと!!
この欠陥設計船がよぉ!!
「はわ、はわわわわ……」
急げ急げ。
少なくとも自分のできる範囲は見ねえと。
そんで全体が見れる司令室に報告を上げないと。
……状態走査術式が刻まれた備え付けの魔導具を起動。
返ってくる結果は全て、“異状なし”。若干怪しいところはあるが正常値の範囲内のようだ。
ほっと一安心だ。
伝声管を通じて司令室に報告。
「し、司令室! こちら出力調整担当! 現在、こちらの把握できる範囲では異状なし! 繰り返す、異状なし!」
というかそもそも船体全体の状態を司令室で把握できるようにしとけよな!!
ああいや、試作艦だからその辺は仕方ないのか……。改善要望として挙げておこう……。
魔導を駆使すれば実現できるだろ。
後継艦の製造コストがさらに跳ね上がる?
知らんな。
こんだけ馬鹿みたいな出力の魔導炉積むんなら魔導具をこれでもかと満載して有効活用すべきだろ。
なお司令室からの返答は、念のため目視でも確認されたし、だ。
「分かるけどさあ……」
船体の状態確認の魔導具も試作品だから見落としが無いとは限らない、と言われればその通りだ。
そして見落としがあればどうなるか、考えるだけでぞっとする。
であれば最後に頼りになるのは五感だけだ。
あと、艦内放送で『魔獣の群れの襲撃を受けていること』と、『その迎撃にウビオルム伯の懐剣が出ている』ことが情報共有された。
落ち着いて職務に邁進すべし、とも言っていたな。
それができたら苦労はしねえ、と言いたいが、いまこの船に乗っているのは選りすぐりの精鋭だ。
近衛出身の奴らはそれくらい問題ないだろうし、俺みたいなデスクワーク系の魔導師でも、沈静化・集中力向上の術式くらいは修めている。
水夫系の奴らは奴らで、今も残っている奴らは帝都上空での墜落未遂も経験しているもんだから、それこそ俺みたいなひょろっちいのより覚悟が決まっているしな。
今のところ艦内を進んでいる限りでも、パニックになっている様子はない。
「……っていうか、半端ねえな、“ウビオルム伯の懐剣”」
見たところせいぜい成人してるかどうかくらいの年齢に見えたし、顔も幼げで可愛い系だったが、ヒトは見た目にはよらないものだ。
物見用の窓から見えた光景には度肝を抜かれた。
何せ一面の炎!
その炎に焙られて焦げて縮こまっていくアリの魔獣の群れ。しかも
近衛魔法兵にも比肩するんじゃないか? きちんと魔導を修めればあるいは戦闘魔導師としても大成するだろう。
「払暁派の秘匿術式かねえ……。やはり払暁派はやることが派手だ」
その上で剣技に優れた霊体の召喚使役に、本人の剣の腕前も斬撃を飛ばせるほどの極上級ときたもんだ。
年齢も本当に見た目通りなんだかどうか。
落日派の
少なくとも装備には副伯の息がかかってそうだよな……。あの呪われてそうな肉々しい鞘だとか。
懐剣殿自身が、払暁派と落日派によって造り上げられた秘密兵器、とかいう可能性は──── まあ無さそうか。
あんだけ善良で苦労性な人品だからな。魔導師、あるいは魔導院の産物っぽくはない。
俺も頼りにさせてもらってるし。
……そうなるとあの
それはそれで恐ろしいな……。
むしろそっちの方が理解不能みを覚える。
いやまあ、天才ってのは居るところには居るもんだと知ってるがね。
「って、なんだ?」
一通り船内を回って、目視と己の耳で異状がないことを確認して司令室にも報告した後。
「いやに静かだな。もう外は終わったのか?」
いくら懐剣殿でもあれだけの魔獣の群れをこの短時間で撃退しきることは無理だと思うが。
そもそも魔獣らの目当ての魔導炉は出力垂れ流しのまま健在なわけだし。
それともウビオルム伯がお出ましなさって魔導炉出力を流用した結界でも張ってくださったのか?
もとの持ち場に戻る途中で、俺は物見用の窓から外を──── 見ようとして、何も見ることは叶わなかった。
「……え。なんだこれ、白い布……?」
窓の外をまるで
これが外の音を遮っていたのか。
ちょっと退けられないかと物見窓のロックを解除して手を伸ばす。*1
ひんやり、しっとり。
そして独特の生ぐさい感じの、腐朽臭。
「うわぁ……」
これ、なまものだよぅ。
しかも触ったとたんに魔力持ってかれたし。
「ええ?? 今度は船全体が巨大粘菌にでも食われつつあるのか? まさか」
勘弁してくれよぉ………。
懐剣殿、早く助けてくれぇ!?
◆魔導航空艦の出力同調術式調整担当の魔導師(オリキャラ)
一人称は俺だが性別は女。たぶん中天派の研究員。アヌーク・フォン・クライスト(マックス何某の同期。TS趣味者)の先輩かもしれない。技研と呼ばれるアグリッピナ氏のプロジェクトチームに参加できるくらいには優秀で、将来を嘱望されてもいる。なおこの直後に物見窓から見えている範囲の菌糸膜にマイコニド・アルファの営業スマイルがいきなり大映しになってくっそ汚い悲鳴を上げることになる。
マイコニド・アルファ「人類種由来の魔力を規定量以上徴収したのを感知したのでご案内に参りました。いらっしゃいませ、当店のご利用は初めてでしょうか?」