フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
マイコニド・アルファ(看板系看板娘)「壁一枚分の厚さがあれば営業できる系店舗、“きのこのお店” を、どうぞ御贔屓に。何でも買取いたしますし、どこにでも出店いたしますわ」
 
マックス何某「上手い具合に店舗召喚用の触媒が流通に乗れば、私たちでは思いもよらないところで召喚されると期待している。拠点づくりの足掛かりにもってこいだし、今回のアリの件のように、未知なる有用な資源との遭遇も期待できる。今のところは魔力を扱える者でなければ起動させられないのがネックだが、そのうち召喚トリガーを魔晶組み込み型にするなどして改善したいところだね」
 
マックス何某「……それはそれとして、初顧客、初受注、初大型案件の初めて尽くしをエーリヒくんに捧げたせいか、マイコニド・アルファ嬢は、エーリヒくんに対する思い入れが強くなってしまったようだ。……だがまあ特に支障はないな! 未来視の効かない特異点たるエーリヒくんをサポートするのは世界存続のためにも重要だからな!」


===

◆マックスくんのオオタケヤドリアリの巣攻略
巨蟹鬼(クレープス・オーガ)の若年個体のうち、特に地下迷路に造詣の深い個体である帝都地下下水道方面統括の『ツギハギちゃん』*1を隊長に、アリ群 対 巨蟹鬼(若年個体)軍が勃発。マックスくんは主に後方支援(ヒーラー)として参加。
制圧後は、巨大な竹を東の沙漠に移植し、アリ由来の植物魔法で急成長させては伐採し、砕いて溶かして竹質パルプとして活用するプロジェクトを立ち上げた。中が空洞なため木材に比べると体積あたりの収率は悪い傾向だが、長年の共進化により魔導を受け付けやすい生態をしている巨大竹と、それに特化したアリ由来の植物操作魔法(魔素栄養変換術式込み)、そして魔素供給源としての魔導炉の組み合わせによって大量のパルプを生産可能になった。
 
マックス何某「丈夫な紙は神。次は段ボールで流通革命だ!!」
エーリヒくん「風情が失われる……!!」
マックス何某「いうてそんな簡単に浸透せえへんやろ」
エーリヒくん「だが帝国臣民は合理主義で新しもの好きだからなあ、どうだろうなぁ……」

 

*1
◆巨蟹鬼 第二世代・統括個体『ツギハギちゃん』:吸血種セス嬢の家出騒動の時に帝都地下の巨大スライムに溶かされた大蟹たちを繋ぎ合わせて賦活させて再誕した個体。永い後日談の世界みが強い。




29/n さらば悪友(とも)よ、また会う日まで-0.5(ヘルガの朝帰り)

 

 秋の日。爽やかな午前。

 魔導院の御用板に群がろうとする聴講生たちの合間を縫って、工房の方へと極力目立たないように歩く少女が居た。

 

「あら。ゆうべはおたのしみだったんですの? ヘルガ」

 

「!! た、ターニャ!?」

 

 その少女。

 冬の日に枯草の上に霜の降りたような髪色が特徴的な、深窓の令嬢といった風情の彼女は、名をヘルガ・ミュンヒハウゼンと言った。ミュンヒハウゼン姓はまだ正式なものではないのでカッコカリとつくが。

 長い年月を封印されていた哀れな霜の半妖精(ライフ・アールヴ)で、たまさか通りがかったケーニヒスシュトゥールのエーリヒによって助けられた彼女は、紆余曲折あって復調し、今はミュンヒハウゼン家に連なる魔導師見習いとして戸籍上の履歴を整えられた上で臣籍を剥奪する処理をされ、五大閥の一つを率いる払暁派ライゼニッツ卿の直弟子として、己の力の管理を万全にして臣籍復帰するべく魔導院に所属して学んでいる。

 

 

「はぁい、ターニャですのよー」

 

 そして急に声をかけられて狼狽したその彼女が振り向いた先には、ふぃよふぃよと重力の軛から解き放たれたかのように浮遊する、オーロラのような少女が居た。

 彼女もまた、ミュンヒハウゼン(仮)の姓を持つ者。

 極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)にして、戸籍の履歴上は── 半妖精は不安定かつ高出力な危険物として、基本的に臣民としての権利を剥奪されるが、魔導に長けて己の力を制御できるようになれば(=魔導師の号を得れば)復籍できる── ヘルガと姉妹にあたる、ターニャ・ミュンヒハウゼンだ。

 

 

「そ、それで、なんのことかしら。これでも私、急いでいるの……」

 

「朝帰り」

 

「ぎくぅ」

 

「フォン・ライゼニッツが大層心配されていましたわよ。きちんと後見人に連絡の一つくらいは入れといてくださいましな」

 

 こちらにまで『居場所を知らないか』と連絡してきて宥めるのが大変だったんですのよ? と、空中で気怠げに溜息をつく極光の半妖精ターニャ。

 

「まあ別に何かやましいことがあったとは思っていませんわ。昨日はあのヒト……あなたがご執心のエーリヒさんの壮行会だったのでしょう? 15の成人。ウビオルム伯の従僕としての年季が明けるからと、彼のお家で」

 

 盛り上がって泣き腫らして、酒も入っていたのと合わせて、いつの間にやら寝入ってしまって……つい連絡を忘れてしまった。大方そんなところでしょうとも。

 

 またもターニャは溜息をついた。

 おそらくはエーリヒの家を守る家妖精(シルキー)の宴を邪魔させまいという心配りのせいか、そのシルキーの守りによって弟子ヘルガの居場所が探れなくなっていることに気づいて狼狽したライゼニッツ卿が、ヘルガと同じ半妖精で戸籍上も姉妹であるターニャを訪ねてきたのは昨夜も遅くのこと。

 そして話すうちに『そう心配する事態ではない』と落ち着いてきたのか、愛弟子のヘルガを含むお気に入りの子たちが連絡を忘れるほど友愛を深め合って宴をしているのを想像したフォン・ライゼニッツのテンションがおかしなことになっていったのを思い出せば、溜息の一つも出るというものだ。まったくもって大変だったのだ。

 

「だいたい、ミカに、エリザも一緒で、僧籍の吸血種のお嬢様だってその場に居て、()()()()()()()とも思えませんわ。

 そもそも、エーリヒさんは誰ぞに操を立ててらっしゃるようですし」

 

 ──── あの “桜貝の耳飾り” の、片割れを託されている、故郷の君に。

 これから故郷に戻るエーリヒが、冒険者としての新たな門出をともにすると約束した、幼馴染のアラクネに。

 エーリヒの心の中心には、常にその幼馴染の思い出がある。

 

 

「…………」

 

「あら、あら。そんな沈んだ顔をしないでくださいまし。対抗して、あなただって昨日、己の証を託したのでしょう?」

 

「対抗した、わけじゃ……」

 

(うそ)(おっしゃ)い。ライゼニッツ卿にご相談して、私やマックスおかあさまにも頼って、今の自分ができる最高のものを用意したじゃありませんか?」

 

 エーリヒの壮行会にあたって、ヘルガら参加者は料理と送別の品を持って参じた。

 

 ヘルガが持ち寄ったのは、まず、ライゼニッツ卿直伝の果実ジャム。

 

 そしてマックス何某の婿入り先の砂漠特産の玉葱を使ったサラダを敷いて、己の霜の権能で凍らせて薄切りにしたサーモンのマリネ。……これは流通コストを考えると王侯貴族でも口にできるかどうかの品であるので大層浮いていたのではないかとターニャは老婆心ながら心配していたが。

 

「そしてお待ちかねの餞別。靴に付けてもらうための “雪花の靴飾り”」

 

「…………ぅぅ」

 

「冒険者の靴なんて半ば消耗品ですものね。長持ちさせるなら複数足を履き回すものですし、魔剣の肉鞘によって影に物を収納できるエーリヒさんにとってはそうやって持ち運ぶ数が増えても大して負担ではないですし。

 しかしながら、剣士にとって足元ほど重要なものはないわけで」

 

 もちろん冒険者にとっても、足元は重要だ。

 かつて開闢帝が、軍行動は速度こそが打撃力となるのだ!! と規格化して左右の型が違って足にフィットする近代的な半長靴(ブーツ)を普及させてから、帝国の靴事情は他国に比べて一歩も二歩も先をいっている。*1

 とはいえ、歩けば磨り減るので、半耐久消費財、とでも言うべきだろうか。

 

「これからまだ成長なさることを考えると、靴そのものは贈れません。でも常に足元は万全にしてあげたい、霜柱のような心意気。とっても素敵。だから付けた靴に魔導を付与する靴飾りが最適、という結論になったのでしたわね」

 

「…………」

 

 工房に向けて進むヘルガに並行して飛びながら語るターニャ。

 魔導工房行きのエレベータに乗り込む。

 

「払暁派ライゼニッツ閥のトップと魔導副伯の監修のもと、付けた機能は──── その “雪花の靴飾り” をつけた靴を、滑らず、躓かず、寒さを避け、蒸れず、汚れず、濡れず、しなやかでかつ頑丈にするというもの。そしてもし失くしても返ってくるように肉鞘とも因果の糸を繋いだのでしたか。

 ああ、あと、何かまだ一つ機能があったような……」

 

「もう! わざとらしく言い淀まなくてもいいわよ! ターニャも手伝ってくれたから知ってるでしょう、残り一つは “水虫避け” よ!」

 

 余人に会話を聞かれなくなったエレベータ内で、ヘルガが爆発した。

 

 水虫。

 

 少女が人前で口にするには多少の恥じらいを覚える言葉である。

 

 帝国で多くの人がサンダルではなく靴を履くようになって、そして決してそれが安価とは言えないために、そこそこ中古の靴が出回ってしまうようになってしまった弊害で、水虫は帝国の風土病のレベルで蔓延した。

 特に見栄え重視の靴を履く貴族や、そもそも泥にまみれて同じ靴を長く履くことの多い冒険者らにとっては職業病ともいえるものだ。

 そのため、画期的な水虫治療薬が開発できれば、一生遊んで暮らしてお釣りがくるほどの財を築けるとも言われている。それに並ぶのは、風邪の特効薬とか毛生え薬とか、そのレベルだ。なお、この “雪花の靴飾り” の魔導具は、治療ではなく予防なので作用としてはそこまで大したものではない。

 

「でも感謝されたでしょう?」

 

「ええ、とってもね!」

 

 付ける靴を問わずに効果を発揮する、靴飾り型の魔導具。

 しかも剣士として最も重要なといって過言ではない足元を守るもの。失せ物への対策まで練られているという至れり尽くせり。

 その上、冒険者の職業病である水虫の予防にまで気を使ったものともなれば……。

 

 データマンチたるエーリヒの驚喜ぶりは、推して知るべし。*2

 

「それに役得もあったでしょう? 他の娘たちの前で水虫なんて口にするわけにはいかないでしょうから、機能の説明の最後に、エーリヒさんの耳元に口を寄せて睦言を囁くようにするよう私 アドバイスしましたものね」

 

「にゅ、にゅううう……た、確かに役立ちましたけどぉ!」

 

 エーリヒが金の髪を掻きあげて片耳を晒して。

 そこに唇を寄せて小声でささやくのは。

 なんだかとってもイケナイことをしているようで妙な気分になったものだ。

 

 ………だが内容は水虫についてだ。

 乙女としては、なんだかなあ、である。

 

 たとえ “雪花の靴飾り” の機能を理解したエーリヒが感極まって、耳打ちのために近づいていたヘルガを思わず抱きしめたとしても。

 ………でも発端は水虫予防なんだよなあ………。となってしまうのだ。

 

「まあまあ。それはとっても熱烈ですわねえ」

 

 くすくすと嗜虐的にターニャが笑う。

 それに合わせて上機嫌にたなびく彼女の虹色の髪からオーロラの燐光が散った。

 

「ターニャ……! 面白がらないで!」

 

「あ。到着しましたわよ、ヘルガ」

 

「人の話を……!」

 

 眦を吊り上げたヘルガが続きを口に出す前に、工房行きのエレベータが目的地に到着した。

 

 

 

 ヘルガはライゼニッツ卿の直弟子である。

 半妖精という不安定な力の塊であるヘルガは、何かあって力が暴走することのないように四六時中監督を受けるべきであるため、ライゼニッツ卿の工房に住まうことを許されている。

 

 ということはつまり、エレベータの到着先は。

 

「話を聞いてもらいたかったら、存分に聞いてもらってくださいましな、ヘルガ。

 あなたの御師匠様──── ライゼニッツ卿は、首を長くしてお待ちですわ」

 

 ターニャが示す先。

 エレベータの扉の前には。

 

 

「良く戻りましたね、ヘルガ。さあ、昨日のことをじっくりゆっくり詳細に微に入り細を穿つように聞かせてくださいましな♡」

 

「ひっ、御師匠様……!?」

 

 眼を輝かせる生命礼賛主義者の死霊(レイス)、マグダレーネ・フォン・ライゼニッツの姿があったのだった。

 

*1
◆帝国の靴事情:原作者様のこちらの「ルルブの片隅」ツイートツリーも参照: https://twitter.com/schuld3157/status/1555890114814885888

*2
◆霜の半妖精の餞別 “雪花の靴飾り”:この靴飾りを装着した靴は、滑らず、躓かず、濡れず、汚れず、蒸れず、しなやかで頑強になり、霜焼けや凍傷を防ぎ、さらに水虫を予防する。また、専用化されているため、何かの拍子に靴ごと失くしてしまっても、肉鞘が構成する影収納空間にこの靴飾りだけはいつの間にか戻ってくるのだという。冒険者垂涎の品。ささやかな大きさの靴飾りで、控えめな見た目なので、一見して魔導具に見えないようになっているのも高得点。文字通りにいぶし銀(魔導強化済み)でできている。靴飾りを選定した理由には、霜の妖精としての加護は地を這うものであり、地面に近い場所に付けるものの方がヘルガにとっては縁を結びやすいという理由もあったりするかも?




 
その後話を聞いたライゼニッツ卿「朝帰りの原因は、みんなで集まって別れを惜しみ励まし合い、感極まって涙とともに同じ寝床で互いを抱きしめたまま寝てしまったから、ですって……!? と、尊い……!!!!」(感極まって薄れる霊体)(昇天間際)(ライゼニッツ卿にはよくあること)(だが更なる尊みへの渇望が彼女を現世に引き止める)

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というわけで原作小説6巻の時系列に突入です。
 
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