フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

119 / 160
 
◆前話
不肖の弟子(アグリッピナ氏)に振り回されて疲労困憊のライゼニッツ卿の癒しは、可愛い愛弟子(ヘルガ嬢)お気に入りの丁稚(エーリヒくん)の尊み絡みエピソードを聞くことだったりする。
ライゼニッツ卿「はぁ~生き返るぅ~~」(死霊ジョーク)

 


29/n さらば悪友(とも)よ、また会う日まで-1(金の髪へ餞別を)

 

 初秋の雨の日。

 

 私ことマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンは、帝都にある帝城の南の出城 “鴉の巣(クレーエス・シャンツェ)” との異名をとる帝国魔導院の本院からほど近いところにある厩舎に足を運んでいた。

 ここは魔導院に籍を置く貴種の足となる騎獣たちが世話されている場所である。

 

 ウビオルム伯アグリッピナ氏も、伯爵に任じられる前からここを利用している。

 つまり、その丁稚から従僕になったエーリヒくんの馴染みの厩舎でもあるわけだ。

 あ、ちなみにライゼニッツ卿の愛馬であるユニコーンも居るぞ。あの方は永久処女だから実際相性は良い。

 

「さぁて、うまく会えると良いけれども、と」

 

 私はここに、門出にあたってウビオルム伯から軍馬2頭── カストルとポリュデウケスという名の悍馬だ── を下げ渡されたエーリヒくんに会いに来たのだ。

 

 確か今日あたりが出発予定日だったはずだからね。

 エーリヒくんは年季が明けて、故郷へ凱旋すると聞いている。

 そしていよいよ念願の冒険者になるのだという。故郷の幼馴染と連れ立って。

 

 せっかく下げ渡されたお馬さんを置いてくわけもなし── この時代の馬は現代における自動車に相当するようなものだと思ってもらえればいいだろう。例えるなら農耕馬は軽トラやトラクターで、乗用馬は普通乗用車。エーリヒくんが下賜された軍馬は、言うならば高級スポーツカーだ。老いてるから型落ち扱い、くらいにはなるかもしれないが。なお維持費も高級スポーツカー並だ── 、ここで張ってれば会えると踏んだわけだ。

 

 

 

 え? 普通に会えばいいんじゃないか、って?

 

 

 

 いやー、私も隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)にして魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)として役職付きになったものだからサ。

 地下(じげ)の友人と会うにはこうやって偶然を装った方が後腐れがないし妙な勘繰りもされないのさ、お互いにね。

 ほら、今は至尊の座に座ってらっしゃるマルティン先生(こうていへいか)も、前はふらっと有望な魔導院の聴講生をパトロンとして見初めに来たりしていたわけだし、お忍びでの徘徊は貴種の嗜みということで。

 

 

 厩舎内を見渡すべく、ひょっこりと顔を差し入れてみる。

 

「んー、えーと、ウビオルム伯のお馬さんは……ああ、所有者変わったから、(もと)、ウビオルム伯のお馬さん、か。まだ居るかしらん?」

 

 見渡してみるが、特に魔導的にピンを打ってるわけでもないので、よそさまの家のお馬さんなんか分かるはずもなく。

 私自身は、必要な時は自走式の馬無し箱馬車を走らせつつ、馭者(ぎょしゃ)役のホムンクルスに馭者席から馬車馬の幻影を出させて()かせているように見せかけてるだけだし、馬のことは未だによく分からんのだよな……。

 それを言ったら、妻のルゥルアさんからは、 『名馬は三重帝国の重要な輸出品目ですのに、沙漠に派遣された帝国大使がそんなんで良いんですか?』 と苦言を呈されてしまったが。確かに自国の主要輸出品目もよう知らん大使とかダメだが。セールストークの一つもできるように勉強せねばならんか、とも思うが、私の場合は虚空の箱庭やハッシャーシュの地で自走式の魔導車両の生産に手を付けている身でもあるわけで、帝国の馬の商売には、どこかで真っ向からケンカ売る可能性が濃厚な立場だったりもするし。悩ましいところだ。

 

 とはいえ流石にライゼニッツ卿の愛馬の一角馬(ユニコーン)は分かる。

 ……目があった途端に、『汚いものを見た』とばかりに唾を吐き捨ててそっぽ向かれたが。*1

 

 

 と、世話をしていた馬丁がこちらに気づいたようだ。

 馬丁はおずおずと私の方へと近づいてくる。

 

「……どうかなさいましたか? 御用がありましたら承ります」

 

 ふーむ。貴族なんだか神官なんだかって感じの風体の男が何でこんなところに? って顔をしてるねえ。

 

 まあ聞いてみるのが早いか。

 

「ああ、ウビオルム伯の従僕だった者に用があってね。門出に当たって餞別の一つでも、と」

 

 

 ──── それで、そのケーニヒスシュトゥールのエーリヒは来ているかい?

 

 

 

§

 

 

 

「あ、来た」

 

え、マックス? じゃなくて、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿? どうして厩舎(ここ)に……」

 

「やあやあ、餞別渡すのと連絡事項伝えるためにね。あと今はお忍びだからマックス呼びで構わんよ」

 

「そういう訳にもいかないでしょう……。方伯閣下相手にそんな口を利くわけには」

 

「“ふん、下賤な冒険者に礼儀など期待しとらんよ。楽に話すと良い”……とか言うとテンプレっぽくないかい?」

 

 なあそうだろう、冒険者志望(Lv1ファイター)

 私だって今は多少いい装束を着てるけど、爵位を示すものは身に着けていないからね。エーリヒくんが砕けた口調でも咎める人も居るまいよ。

 それに君と私の仲だ、無礼打ちになんてしやしないさ。

 

「であればそこで完璧な礼儀で対応するのもまたテンプレートでしょう」

 

「まあそういうことにしておいてあげよう。それで、だ」

 

 これを、と。

 私は金髪の無職(ぼうけんしゃワナビ)に餞別を差し出した。ふっ、無職ネタでいじれるのは今だけだからな……!

 

「なんとなく悪意あるルビを振られた気がするのですが……」

 

「気のせい☆」

 

「そうですか。……そうですか?」

 

「そうそう。

 それはそれとして受け取ってくれ給えよ?」

 

「はい、(つつし)んで。……これはポーション、ですか?」

 

 私がエーリヒくんに渡したのは、ちょっとした小洒落た袋に入れたポーション瓶だ。

 

「ご名答。なんと驚け、“若返りのポーション” だ」

 

「ええっ!!??」

 

 エーリヒくんがぎょっとした目で包みを見るのが愉快である。さぷら~いず!

 

 だがまあ種明かしと行こう。

 

「ただし馬用」

 

「う、馬用……? カストルとポリュデウケスに、ということですか?」

 

「ウビオルム伯から下げ渡された軍馬、たしかそこそこ歳がいってただろう? これから長く冒険者稼業に付き合わせるつもりなら、少しくらい若返らせといたほうがよかろうよ。君にとっても、彼らにとっても」

 

 だいたいエーリヒくん用の若返り薬なわけないじゃん?

 君は成人したばかりなんだから。まだ十分若いよ。

 

 それに君に直接投資するのは別に餞別に限らず他のタイミングでも良いし。

 そして君って、君本人よりも、こういう周囲への進物の方がグッとくるタイプだろう?

 

「用法容量の説明書はその小袋に入れてあるが、少しずつ水桶に混ぜて飲ませるか、小皿にとって舐めさせてもいい。他の馬で実験したときは好んで飲んでくれたし、そのカストルとポリュデウケス? も嫌がりはしないと思うよ」

 

「……ハシシ=ミュンヒハウゼン卿、この度の御心遣いはまことにかたじけなく」

 

「良い良い、ケーニヒスシュトゥールのエーリヒよ。君と私の仲ではないか」

 

 君は友誼に(あつ)く、借りを忘れない(たち)だと信じているよ?

 何かあったら利用させてもらうけれど、まあ、それはお互いさまということで。

 キャラ紙のコネクション欄に、この私、隧道方伯にして魔導副伯のマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンの名を刻んでおくことだな!! 間違ってもエネミーにカテゴライズするなよ? 頼んだぞ? フリじゃないからな?*2

 

 

 

「それで、だ。餞別は渡したから、次は業務連絡だな」

 

「業務連絡」

 

「うむ。エリザちゃんが魔導院の聴講生デビューしたことで、君は晴れてウビオルム伯の従僕としての年季が明けたわけだが」

 

「ええ。長く苦しい道のりでした……」

 

「となると、今は無職な訳で。まあ将来冒険者になったとしても、煤黒(インフラレッド)から始まるわけだ」

 

「インフラレッドとか仰らないで下さいますか? 卿に言われると不吉なので」

 

「はいはい、ZAPZAPZAP。まあつまり何が言いたいかというとだね、未来のボウケンシャーよ」

 

 一拍おいて続ける。

 

「貴方は召喚型売店(キオスク) “きのこのお店” の常連ではありましたが、それは多分にウビオルム伯爵家の家宰相当としての地位を考慮してのものでした。つまり」

 

「つまり?」

 

与信(よしん)が下がります」

 

「与信!?」

 

 与信が下がるとどうなる?

 知らんのか、取引上限額が下がり、掛け払いが出来なくなる。

 

 流石にうちもちゃんと与信とかは設定してるんだぜ。

 扱ってるものが日用品から戦略兵器までだから、下手な相手に売って内乱幇助とかになっても不味いしな。

 ……まあ、誰ぞから横流しされたとかまでは知らんが……。*3

 

 

「そらオメー、伯爵家の家宰相当と、単なる無職の小倅が同じ与信なわけねーだろ」

 

「それは、そうなんですが……」

 

「だから顧客ランクが下がって商品ラインナップも減るし、利用可能サービスも制限がかかるようになる。それを伝えたかった」

 

 とはいえエーリヒ君個人の戦力評価は生きてるから、凡百の冒険者志望よりは相当上のサービスは提供可能だ。

 だがそれはあくまで個人戦力評価な訳で、今までみたいに伯爵家の事業規模での利用を継続するには足りないねえ。

 頑張って与信を上げてくれたまえ。

 

「し、承知しました」

 

「本来であれば君の担当のマイコニド・アルファ嬢から伝えるべきだったが……」

 

 バッドニュースだから伝えづらいとちょっぴり難色を示されてねえ。

 慕われてるねえ……。

 

 まあある意味私は彼女たち “きのこのお店” の看板系看板娘(コミュニケーション・インタフェイス)たちの上司でもあるのだし、そういう面倒を巻き取るのも仕事だから良いんだが。

 

「……?」

 

「……ま、今後とも御贔屓にってことさ。君のことだから、コンビニみたいでイージーモードになり過ぎるとか言って縛りプレイするつもりなのかもしれないが、たまにはマイコニド・アルファ嬢に顔を見せてやってくれたまえよ」

 

「はい、そのようにいたします」

 

 

 

 じゃあこれで渡すものは渡したし、伝えるべきは伝えたし。

 

「さらばだ、ケーニヒスシュトゥールのエーリヒ。また何処かでそのうち会うだろうさ」

 

「ええ、おさらばです。ハシシ=ミュンヒハウゼン卿」

 

 

 

「…………」 「…………」

 

 

「ぷふっ」 「ハッ」

 

 真面目腐って地位を意識した遣り取りに、お互い自然と失笑してしまう。

 

「ふはははははははははっ! やめやめ! らしくもない!」

 

「ハハハハハハハ! ええ、まったく」

 

 

 まったく。まったく、だよ確かに。面倒なことだねえ、貴族になるってのは。

 だが最後までこの調子、というのも、なんとも締まらないものを感じるよ。

 私たちはそういう仲ではなかったはずだろう? もっと気安くいこうぜ?

 

「………ふふふ、じゃあね、エーリヒくん。我が悪友(とも)よ」

 

「ああ、また会う日まで、だ。マックス、我が悪友(とも)よ」

 

 そうそう、こんな感じで良いんだよ。こんな感じで。

 

 私は去り際にエーリヒくんの横を通るときに手を掲げ、軽くお互いの掌をパシリと打ち合わせた。

 振り返りはしなかった。

 

*1
◆一角馬から見たマックス何某:中の魂の欠片三つはいずれも異性を知っているためユニコーン的にアウトだし、身体の方もリサイクル前は故郷の女たちを弄んだ下郎だし、リサイクル後はルゥルアさんとやることやって十つ仔が生まれるしで、やはりお眼鏡には適わない。その上、共生している “冬虫夏草の使徒” の菌糸から滲み出るフェロモンは、ユニコーン的に非常に鼻につくらしい。端的に言うとビッチ臭いらしい。なおその匂いでお馬さんその他家畜を手軽に発情させられるので、マックス何某は家畜の種付け師(繁殖させたい動物をやる気にさせて交尾を見守る係)が天職だったりする。

*2
◆エーリヒくんのキャラ紙のコネクション欄:魔導院関係者(ライゼニッツ卿、アグリッピナ氏、マックス何某など)はだいたい、『コネクション/エネミー』判定なんだよなあ、残念ながら。恩も多いし頼りになるコネクションだが、その一方でコスプレさせられたり、無茶な業務を投げられたり、妙な新製品の実験に巻き込んできたりと、エネミーフラグも積み上がっているためそのような判定に。また、彼女らは基本的に倫理観が磨滅している魔導師である上に、重度の生命礼賛主義者の死霊だったり、神話生物を体内に飼ってる外道だったり、邪神に仕える魔法チート転生者だったり、ヒロイックな性質ではないこともその判断に拍車をかけている。

*3
◆虚空の箱庭産の物品の横流し:売る相手は選んでいるが、フロント企業的な商会から反社会勢力(マフィアのみならず、反帝国で独立志向の土豪とか含む)への横流し・転売までコントロールできるかというと、怪しいところ。結構ヤバい戦略級の物品などが流れるとえらいことになる。……ピコーン!!(WEB版の屍戯卿の代替要素としてマルスハイム会戦のフラグが立つ音)




 
マックス何某「また会う日まで!」(インターバル期間の定めはない)(神出鬼没のスラムの日曜神父)(つまりマックス何某が本気になればその期日は明日でも明後日でも可能だろうということ……)
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。