フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
ライゼニッツ卿「はぁ~生き返るぅ~~」(死霊ジョーク)
初秋の雨の日。
私ことマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンは、帝都にある帝城の南の出城 “
ここは魔導院に籍を置く貴種の足となる騎獣たちが世話されている場所である。
ウビオルム伯アグリッピナ氏も、伯爵に任じられる前からここを利用している。
つまり、その丁稚から従僕になったエーリヒくんの馴染みの厩舎でもあるわけだ。
あ、ちなみにライゼニッツ卿の愛馬であるユニコーンも居るぞ。あの方は永久処女だから実際相性は良い。
「さぁて、うまく会えると良いけれども、と」
私はここに、門出にあたってウビオルム伯から軍馬2頭── カストルとポリュデウケスという名の悍馬だ── を下げ渡されたエーリヒくんに会いに来たのだ。
確か今日あたりが出発予定日だったはずだからね。
エーリヒくんは年季が明けて、故郷へ凱旋すると聞いている。
そしていよいよ念願の冒険者になるのだという。故郷の幼馴染と連れ立って。
せっかく下げ渡されたお馬さんを置いてくわけもなし── この時代の馬は現代における自動車に相当するようなものだと思ってもらえればいいだろう。例えるなら農耕馬は軽トラやトラクターで、乗用馬は普通乗用車。エーリヒくんが下賜された軍馬は、言うならば高級スポーツカーだ。老いてるから型落ち扱い、くらいにはなるかもしれないが。なお維持費も高級スポーツカー並だ── 、ここで張ってれば会えると踏んだわけだ。
え? 普通に会えばいいんじゃないか、って?
いやー、私も
ほら、今は至尊の座に座ってらっしゃる
厩舎内を見渡すべく、ひょっこりと顔を差し入れてみる。
「んー、えーと、ウビオルム伯のお馬さんは……ああ、所有者変わったから、
見渡してみるが、特に魔導的にピンを打ってるわけでもないので、よそさまの家のお馬さんなんか分かるはずもなく。
私自身は、必要な時は自走式の馬無し箱馬車を走らせつつ、
それを言ったら、妻のルゥルアさんからは、 『名馬は三重帝国の重要な輸出品目ですのに、沙漠に派遣された帝国大使がそんなんで良いんですか?』 と苦言を呈されてしまったが。確かに自国の主要輸出品目もよう知らん大使とかダメだが。セールストークの一つもできるように勉強せねばならんか、とも思うが、私の場合は虚空の箱庭やハッシャーシュの地で自走式の魔導車両の生産に手を付けている身でもあるわけで、帝国の馬の商売には、どこかで真っ向からケンカ売る可能性が濃厚な立場だったりもするし。悩ましいところだ。
とはいえ流石にライゼニッツ卿の愛馬の
……目があった途端に、『汚いものを見た』とばかりに唾を吐き捨ててそっぽ向かれたが。*1
と、世話をしていた馬丁がこちらに気づいたようだ。
馬丁はおずおずと私の方へと近づいてくる。
「……どうかなさいましたか? 御用がありましたら承ります」
ふーむ。貴族なんだか神官なんだかって感じの風体の男が何でこんなところに? って顔をしてるねえ。
まあ聞いてみるのが早いか。
「ああ、ウビオルム伯の従僕だった者に用があってね。門出に当たって餞別の一つでも、と」
──── それで、そのケーニヒスシュトゥールのエーリヒは来ているかい?
「あ、来た」
「え、マックス? じゃなくて、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿? どうして
「やあやあ、餞別渡すのと連絡事項伝えるためにね。あと今はお忍びだからマックス呼びで構わんよ」
「そういう訳にもいかないでしょう……。方伯閣下相手にそんな口を利くわけには」
「“ふん、下賤な冒険者に礼儀など期待しとらんよ。楽に話すと良い”……とか言うとテンプレっぽくないかい?」
なあそうだろう、
私だって今は多少いい装束を着てるけど、爵位を示すものは身に着けていないからね。エーリヒくんが砕けた口調でも咎める人も居るまいよ。
それに君と私の仲だ、無礼打ちになんてしやしないさ。
「であればそこで完璧な礼儀で対応するのもまたテンプレートでしょう」
「まあそういうことにしておいてあげよう。それで、だ」
これを、と。
私は
「なんとなく悪意あるルビを振られた気がするのですが……」
「気のせい☆」
「そうですか。……そうですか?」
「そうそう。
それはそれとして受け取ってくれ給えよ?」
「はい、
私がエーリヒくんに渡したのは、ちょっとした小洒落た袋に入れたポーション瓶だ。
「ご名答。なんと驚け、“若返りのポーション” だ」
「ええっ!!??」
エーリヒくんがぎょっとした目で包みを見るのが愉快である。さぷら~いず!
だがまあ種明かしと行こう。
「ただし馬用」
「う、馬用……? カストルとポリュデウケスに、ということですか?」
「ウビオルム伯から下げ渡された軍馬、たしかそこそこ歳がいってただろう? これから長く冒険者稼業に付き合わせるつもりなら、少しくらい若返らせといたほうがよかろうよ。君にとっても、彼らにとっても」
だいたいエーリヒくん用の若返り薬なわけないじゃん?
君は成人したばかりなんだから。まだ十分若いよ。
それに君に直接投資するのは別に餞別に限らず他のタイミングでも良いし。
そして君って、君本人よりも、こういう周囲への進物の方がグッとくるタイプだろう?
「用法容量の説明書はその小袋に入れてあるが、少しずつ水桶に混ぜて飲ませるか、小皿にとって舐めさせてもいい。他の馬で実験したときは好んで飲んでくれたし、そのカストルとポリュデウケス? も嫌がりはしないと思うよ」
「……ハシシ=ミュンヒハウゼン卿、この度の御心遣いはまことにかたじけなく」
「良い良い、ケーニヒスシュトゥールのエーリヒよ。君と私の仲ではないか」
君は友誼に
何かあったら利用させてもらうけれど、まあ、それはお互いさまということで。
キャラ紙のコネクション欄に、この私、隧道方伯にして魔導副伯のマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンの名を刻んでおくことだな!! 間違ってもエネミーにカテゴライズするなよ? 頼んだぞ? フリじゃないからな?*2
「それで、だ。餞別は渡したから、次は業務連絡だな」
「業務連絡」
「うむ。エリザちゃんが魔導院の聴講生デビューしたことで、君は晴れてウビオルム伯の従僕としての年季が明けたわけだが」
「ええ。長く苦しい道のりでした……」
「となると、今は無職な訳で。まあ将来冒険者になったとしても、
「インフラレッドとか仰らないで下さいますか? 卿に言われると不吉なので」
「はいはい、ZAPZAPZAP。まあつまり何が言いたいかというとだね、未来のボウケンシャーよ」
一拍おいて続ける。
「貴方は召喚型
「つまり?」
「
「与信!?」
与信が下がるとどうなる?
知らんのか、取引上限額が下がり、掛け払いが出来なくなる。
流石にうちもちゃんと与信とかは設定してるんだぜ。
扱ってるものが日用品から戦略兵器までだから、下手な相手に売って内乱幇助とかになっても不味いしな。
……まあ、誰ぞから横流しされたとかまでは知らんが……。*3
「そらオメー、伯爵家の家宰相当と、単なる無職の小倅が同じ与信なわけねーだろ」
「それは、そうなんですが……」
「だから顧客ランクが下がって商品ラインナップも減るし、利用可能サービスも制限がかかるようになる。それを伝えたかった」
とはいえエーリヒ君個人の戦力評価は生きてるから、凡百の冒険者志望よりは相当上のサービスは提供可能だ。
だがそれはあくまで個人戦力評価な訳で、今までみたいに伯爵家の事業規模での利用を継続するには足りないねえ。
頑張って与信を上げてくれたまえ。
「し、承知しました」
「本来であれば君の担当のマイコニド・アルファ嬢から伝えるべきだったが……」
バッドニュースだから伝えづらいとちょっぴり難色を示されてねえ。
慕われてるねえ……。
まあある意味私は彼女たち “きのこのお店” の
「……?」
「……ま、今後とも御贔屓にってことさ。君のことだから、コンビニみたいでイージーモードになり過ぎるとか言って縛りプレイするつもりなのかもしれないが、たまにはマイコニド・アルファ嬢に顔を見せてやってくれたまえよ」
「はい、そのようにいたします」
じゃあこれで渡すものは渡したし、伝えるべきは伝えたし。
「さらばだ、ケーニヒスシュトゥールのエーリヒ。また何処かでそのうち会うだろうさ」
「ええ、おさらばです。ハシシ=ミュンヒハウゼン卿」
「…………」 「…………」
「ぷふっ」 「ハッ」
真面目腐って地位を意識した遣り取りに、お互い自然と失笑してしまう。
「ふはははははははははっ! やめやめ! らしくもない!」
「ハハハハハハハ! ええ、まったく」
まったく。まったく、だよ確かに。面倒なことだねえ、貴族になるってのは。
だが最後までこの調子、というのも、なんとも締まらないものを感じるよ。
私たちはそういう仲ではなかったはずだろう? もっと気安くいこうぜ?
「………ふふふ、じゃあね、エーリヒくん。我が
「ああ、また会う日まで、だ。マックス、我が
そうそう、こんな感じで良いんだよ。こんな感じで。
私は去り際にエーリヒくんの横を通るときに手を掲げ、軽くお互いの掌をパシリと打ち合わせた。
振り返りはしなかった。
マックス何某「また会う日まで!」(インターバル期間の定めはない)(神出鬼没のスラムの日曜神父)(つまりマックス何某が本気になればその期日は明日でも明後日でも可能だろうということ……)