フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
沙漠の蠍の国ホラサーン首長国は魔法チート転生者マックス何某の全力の内政(NAISEI)により歓喜のうちに収穫の時期を迎えていた。彼は身重の妻であるルゥルア・ハッシャーシュとイチャつくと、様々な伝手で集めた朽ちた神器の修復を行い、“もったいないおばけ” 信仰の功徳を積んだのだった。
 


30/n 密偵ロタール(マックス何某)の暗躍準備-2(パピヨン卿とセーヌ王国談義 / 青年アバター設計)

 

 雪もちらつくようになったライン三重帝国は帝都ベアーリンにて。

 

 私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンは、西の大国セーヌ王国出身である落日派の魔導師(マギア)黒揚羽(クロアゲハ)蝶蛾人(プシケ)パピヨン卿の工房の応接間に招かれ、彼からセーヌ王国についての話を聞いていた。

 蝶仮面(パピヨンマスク)に黒蝶の翅の怪人は、今日も優雅だ。

 

「──── まあ概略はこんなところか。特に帝国人だと気づかれるような言動の癖に絞って教えてほしいということだったが、役に立ったかい」

 

「ありがとうございました、Mgr.(マギア)パピヨン。非常に勉強になりました」

 

「とはいえそれ以前にもっと王国語を覚えないと話にならないがね。君もまだまだ発音に甘いところがある。本格的に師事したいなら、国許から連れてきたうちの使用人の中から適当な者を派遣しようか」

 

「それは助かりますね! 下町言葉なら西で適当な密入国者の()()()()()いいのですが、上流階級の事情となるとその手ではなかなか手に入りませんし」

 

「では手配しておこう。貴族街にある君の反物と染物の店に向かわせればよいかね?」

 

「はい、それで構いません。報酬は後で調整させていただければ。……しかし、御国のことを私にそれほど簡単に知らせても良いものなのですか?」

 

「隠すようなことは知らせていないから安心したまえよ。とはいえ君もまあ熱心だな、東の沙漠の次は、西の方にも商売の手を広げるのか」

 

 感心して黒茶を飲みながら、パピヨン卿はそのすらりと長い脚を典雅な動きで組み直した。

 

「手広くやって困るものでもありませんし」

 

「ふむ、同期する分身を使えるが故の、持てる者の余裕というわけかな。私など、魔導の探求だけで手一杯だというのにな。……いや、君がそれらの利益を落日派全体に還流してくれているお陰で、帝国政府の軛から離れた研究もできるのだから、それは僻みというものだね。私も負けずに精進せねば」

 

「いえいえ、適材適所というものですよ」

 

 謙遜してみせるマックス何某に、パピヨン卿はニヤリと笑って忠告する。

 

「その妖精好みの幼い顔に誤魔化されるものばかりだと思わない方が良いぞ? 公費簿外の予算を君に依存することへの危機感を持っている者もまた多いのだから」

 

「それは既に方々で言われますよ。市井への技術還元や金儲けは、どちらかと言えば払暁派の領分ですからね。政府の仕事も多くやっていますし。穴掘りや天候調整などなど」

 

「落日派らしくない、とでも言っているのが居るのか? 君ほどに人類という規格から逸脱し始めている魔導師も少なかろうに」

 

「それがどちらかと言えば神の奇跡によるものだから、なのでしょうね」

 

「はたから見れば、そうか。だが確か、実態はほとんど、異郷の腐朽の神の使徒を魔導で調伏して己の身体と共生させているのだろう? 少しは君の信じる神の奇跡も借りているのは事実だろうが」

 

「ええ、まあ、概ねは。とはいえ、本当に最後の重要な1ピースを我が神の神威に頼らねばならぬのは、私の未熟の致すところというのに違いはありませんが」

 

「向上心は果てしなく、といったところか。やはり君もまた、落日派ベヒトルスハイム閥に相応しい魔導師だよ」

 

「恐縮です、Mgr.(マギア)パピヨン」

 

 ニヤリとした笑みを交換し合ったところで、応接間の扉を叩く音。

 時間だ。

 

「有意義な話をいただきまして恐縮でした」

 

「なんのなんの。……ああ、そういえば」

 

 パピヨン卿が不意に問う。

 

「君の上司のウビオルム伯……いや、あえてスタール教授と呼ぼうか。彼女もセーヌの出身だったろう。そちらにも聞いたのかい? 御当主に連れられてセーヌ内外を相当遊歴しているだろうから、きっとためになると思うが」

 

「あー」

 

 そう思うじゃん?

 魔導宮中伯であるアグリッピナ女史は、隣国セーヌのフォレ男爵スタール卿の娘なので、向こうの世情にも通じてらっしゃるはず、だと。

 

 だがセーヌ王国のフォレ男爵スタール卿と言えば、諸国漫遊が生態の旅道楽で有名でもある。旅から帰ってきたら王の代替わりが終わっており、「え、あいつ、いつ死んだん?」と平然と宣ったという逸話は、帝国にも伝わっているほど。

 

 フォレ男爵スタール卿は、長命種(メトシェラ)らしくセーヌ王国でも旧い家の当主であり、広大な領地と、旅によって結んだ縁を生かした事業で大変に儲けていらっしゃる。

 まあ、端的に言って大富豪なのだ。

 アグリッピナ女史が栄達に興味がなかったのもさもありなん。仕送りだけで普通に相当高度な研究の費用を賄えるし、魔導院への多額の寄付もフォレ男爵スタール卿が行っていて相応に便宜も図ってもらえる状態であれば、わざわざ教授位になってまで責任を増やしたくはないのも道理である。

 

 一方、アグリッピナ女史が書痴(ビブリオマニア)なのは、そんな親にさんざん引き回されて諸国を巡った反動も少なからずあるだろう。「もう旅はこりごりだよー ><」と宣ったかどうか知らないが、彼女は怠惰に物語に耽ることを至上命題としている。

 物語中毒、というわけだ。

 

 そうすると、フォレ男爵スタール卿は、重度の放浪癖の根底に、『生の経験』中毒とでも云うものを患っているのかもしれない。

 子は活字で物語を追うことに興味が向かい、親は自らが経験することそのものに興味が向かった、のだろうか。

 

 この世界における長命種(メトシェラ)の度し難きは、そういった不老の人生に飽きぬための極まった趣味嗜好にある。

 逆に言えば、そこに価値を提供できるなら長命種(メトシェラ)連中とも良い関係を築ける可能性もあるのだが。

 ほら、ライゼニッツ卿に愛らしい少年少女を極力自然に引き合わせるようなものだ。

 

 

 

 で、アグリッピナ女史にセーヌ王国の話を聞けるかどうか、だが。

 

「どうもウビオルム伯がフォレ男爵に連れ回されていた時期は、セーヌ王国内は粗方巡った後だったらしく。彼女は国許(くにもと)よりも帝国含む諸国に居た時間の方が長いそうで」

 

「……あー。確かにかの御仁であれば、そういうこともあるか」

 

 プライベートな話にもかかわるので、手土産に虚空の箱庭産の流行本── 看板系看板娘マイコニドシリーズの誰かが纏めた金の髪のエーリヒくんの七転八倒エピソード集── *1を渡してバーターで聞き出したのだが、セーヌ王国の世情にかかる話はロクに出てこなかった。

 それ以前にアグリッピナ女史が知っているセーヌ王国の情報というのは、少なくとも20年以上前の情報になるわけで、それ一本を頼りにするのは心もとないという事情もあり、こうしてパピヨン卿を頼ることになったわけだ。

 

 なおフォレ男爵スタール卿との繋ぎを取って今後の貿易でもご助力いただけないかとアグリッピナ女史に聞いてみたが、そもそも彼女でも生半には居場所を把握できないらしく、繋ぎを取るのは難しいとのことだった。

 ……成層圏越えの弾道軌道の宇宙旅行や、穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)の掘削限界深度を攻めた際の超深度垂直隧道など、繋ぎを取れればフォレ男爵スタール卿の興味を引けそうなタマはあったのだが……。残念だ。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

「ま、まあ、こうしてパピヨン卿に頼ることも出来ましたし、どうにかなるでしょう! このたびは機会を設けていただき感謝しております」

 

「構わないさ、同じ閥のよしみだとも。……さて、次は君の妹御のターニャ嬢との魔導談議の予定だが……何なら君も参加するか?」

 

「まことに残念ながら次の予定がありまして」

 

「そうかい、なら仕方ないか」

 

「はい、それでは失礼します。パピヨン卿」

 

 そうして私は和やかにパピヨン卿の工房を辞した。

 

 

 

§

 

 

 

 さぁて、帝都の方の分身には、社交その他の帝都でしかできない仕事をさせつつ。

 蠍の国ホラサーン首長国の方の子実体分身でも、それはそれで重要な仕事をしなくてはならない。

 

「というわけで、ルゥルアさん。そろそろ臨月のところ悪いけれど、手伝ってもらえるかな」

 

「ええ。マックスさん。喜んで」

 

 夫婦の寝室にて、身重の体を寝台の上に伏せるようにしているルゥルアさんに問いかければ、彼女は幾分か消耗した表情ながらも、明るく答えてくれた。

 ずっしりと全身にのしかかる十ツ仔の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の胎児の重さは相当であろうに。

 やはり胎児を孕んだスペースにより肺が圧迫されるのか、呼吸は浅く、言葉は短く途切れている。

 

「そんなに、心配、なさらずとも。きちんと、産める、ように、出来ている、のですから」

 

「まあそれは分かっているのだけれど」

 

「であれば、どっしりと、お待ち、ください、まし、ね」

 

「はい」

 

 いやだってほら、『再誕』ではない純粋な『()()』は、実は我が神の権能が微妙に及ばない範囲だからさ。

 もちろんお産に当たって万全は期するけども、やはり心配なんだよね。

 ヒト種(メンシュ)と違って、伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)のお産は母体への負荷は軽いとは聞いているんだけど、それでも……ね。

 

 

「それより、も。今日の、本題、です」

 

 わざわざルゥルアさんに時間を取ってもらったのは、彼女の意見を聞きたいことがあったからだ。

 

「ああ、そうだった。さっさとやってしまおう」

 

「いいえ。じっくり、やりましょう」

 

「ええ……?」

 

 

 で。その “妻に意見を聞きたいこと” とは。

 

 

「もっと、大人の、分身(アバター)を、作るの、でしたら、私に、監修させて、いただき、ませんと」

 

 

 そう、西方辺境への浸透のための、『密偵ロタール』としてのアバターを作成することなのだ。

 

 もちろん、いくらルゥルアさんが相手でも、私が密偵として帝国西方辺境で暗躍することは伝えていない。

 目的は伝えずに、『年齢を上げたアバターを造りたいから意見が欲しい』とだけお願いしたのだ。

 そしたらルゥルアさんも心得たもので、何も聞かずに頷いてくれたというわけ。

 

 いやあ、良くできた伴侶で鼻が高いね!

 

「妖精の作用で金髪碧眼、というラインは変えられないけど、それ以外は恒常性維持術式で容貌を維持するから、なんとでもできると思うよ」

 

 世界の弾性力に抵抗する必要があるから、かなり力押しではあるが。

 

「いくつ、くらい、候補を、出せば?」

 

「んー、最低一つだけど、幾つか出してもらった方が良いかな。そうすればこっちのホラサーン首長国(ハッシャーシュの領域)での運用バリエーションに加えることもできるかも」

 

「であれば、私が、満足いく、まで、つきあって、ください、ましね?」

 

「え、ああ。それはもちろん構わないけど」

 

「言質は、とりました」

 

 おっと?? ちょっと迂闊だったか……??

 でもまあ、それに付き合うくらいの甲斐性は見せとかないとね。

 

「それで、まずはどうすれば良いかな? お姫さま?」

 

「ひげ、です」

 

「ん?」

 

「まずは、何はともあれ、ひげ、です。髭を、生やし、ましょう……!」

 

 帝国から見て東方の沙漠の部族においては、髭を生やして一人前、ということになる。

 ルゥルアさんも、成人したて(15歳)くらいの幼げな私の容貌に不満があるわけではないのだろうが、もし弄れるなら髭は生やさせたかったのだろう。

 

「髭。髭ね。いいね、私も自分に髭を生やしたらどうなるか気になってきた。髭の似合う青年、というのを、まずは最初のコンセプトにしようか」

 

「是非とも」

 

 ………いい感じに目が据わってるルゥルアさんも可愛いね!

 

 おーけー! それじゃあ、やってみよう!!

 

 

*1
◆虚空の箱庭の出版物『魔法剣士エーリヒの受難』シリーズ:虚空の箱庭で業務に従事するホムンクルスやマイコニドシリーズや巨蟹鬼幼生体たちにもプライベートはあり、その私的な時間のための娯楽も虚空の箱庭内では発展している。エーリヒ君に一応「吟遊詩()()()()()()にしてもいいか」と断ってから出版しているこの『魔法剣士エーリヒの受難』シリーズは、マイコニドシリーズが “きのこのお店” で聞き取ったエピソードをもとに幾らか脚色しつつも読み口軽く纏められており、虚空の箱庭内で人気を博している。なおこれを献上されたアグリッピナ女史は内容を読んで爆笑した。ついでに言えば都市圏規模に育った虚空の箱庭で人気ということは、エーリヒくんの〈光輝の器〉の特性による熟練度の蓄積もエライことになっている。




 
◆マックス何某 青年アバター
マックス何某は現時点(見た目15歳)で成長がほぼ止まっているため、IFの姿として、あるいは、変装用に青年期のアバターを設計した。なおルゥルアさんによるデザイン監修は一日では時間が足りなかった模様。そのルゥルアさん監修のデザインの中でも彼女一押しの髭もじゃマックス何某は、西方っぽくなかったので東方でのお着換え用アバターとしてストックされました。なのでそれとは別に、幾つかルゥルアさん監修でデザインされた中から、口髭を細く長く整えた『少し背伸びした御曹司』的なコンセプトのアバターが、密偵ロタールとして西方辺境に投入されます。
ルゥルアさんの目が据わっているのは、周囲にショタコンだと思われているのに辟易してるためと思われます。

ルゥルアさん「ショタが好きなんじゃなくて、好きになったのがショタ(幼体固定魔導師)だったんです……! その二つは全然違います!」
一門衆の人たち「分かってます、分かってますとも」(生温かい視線)
ルゥルアさん「分かってない……!」


===

◆虚空の箱庭から〈光輝の器〉に注がれる名声(熟練度)
エーリヒ君のビルドはマックス何某も知らないので、これは完全に、お互いに意図せずシナジーを発揮しています(エーリヒくん:「なんでこんなに熟練度増えるんだ……? 怖っ」)。エーリヒくんに余剰で生じた経験値は、いろんな高級特性の取得や、基礎ステータスの上昇に使ってたりするんじゃないでしょうかね、おそらく。例えば、〈艶麗繊巧〉と天秤にかけて取得しなかった方の、知力値を判定に足すような特性とかを追加で取ってたりして。あるいは〈膂力〉や魔法関係のステータスを伸ばすのに使ったり?

===

◆ダイレクトマーケティング!
原作書籍9巻(上)の特装版(マルギットの書き下ろし卓上ラバーマット付き)の受注生産予約は2023/09/11 23:59までです! まだの人はぜひご予約を!
https://store.over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=EC1554&vid=&cat=ITC026&swrd=
 
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