フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
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◆虚空の箱庭における住人たちのプライベート
ホムンクルス等の人員が増加してきたため、義務的業務は6交代制くらいで回している。非番時間は余暇。眠らない都市。とはいえ人格アーキタイプであるマックス何某が生産・研究方面のメンタルであるため、ホムンクルスたちは余暇を何らかの趣味的な生産活動に充てているようだ。巨蟹鬼の子蟹たちもいろいろ武器等のテスターや乗り物のテストパイロット等の身体的センスが必要な分野で働いており、余暇は武術鍛錬や戦術研究に余念なく、楽しくやっている。最近は菌糸ネットワーク生命体のマイコニドシリーズも参入してカオス度が上がっている(彼女らはネットワーク内で独自の掲示板めいたやり取りをしているとかなんとか、それにマイコニドシリーズでなくてもアクセスできるような装置端末も開発中だとかなんとか*1)。またそれぞれの趣味の産品をやり取りするための独自貨幣などもあり、まさに一つのマギアパンク都市国家の様相を呈している。
雨具も纏わずに、若い紳士が上機嫌に歩いている。
細身のステッキをクルリクルリと回し。
調子っ外れな歌を歌いながら。
「あぃむ し~ンぎん イン ざ れぃん~♪」
山高帽に、短めにアレンジされた稚気溢れる改造燕尾服。冬の森には似つかわしくない、まるで暖かな夜会から抜け出してきたような服装。
長く整えられた口髭が水平よりもやや上方に向かって伸びている。その口元には不敵な笑み。
「じゃすと し~ンぎん イン ざ れぃん~♪」
バケツをひっくり返したような季節外れの猛烈な雨の中、しかしその若い紳士の服は濡れておらず、足元の上等な革靴に森の枯れ葉交じりの泥が跳ねたりもしていなかった。
山高帽から漏れる金髪も乾いたまま、横にスマートに伸びる口髭も萎れることなく。
まるで幽鬼のように、現実感なく、森を歩く若い紳士がそこに居た。
つまりはそう、私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯(密偵のすがた)である。
ここは帝国西方辺境域で、西の大国セーヌ王国との間にある小国家群との国境辺り。
そのために新たにロタールの名も下賜された。
なので、今の私は “ただの密偵ロタール” としてここに居るというわけだ。
新米の兼業密偵である。ヨロシクね。
外観は、恒常式の魔導によって筐体の肉体年齢を18歳から20歳程度に成長させて固定。脳髄で孕んだ娘にして戸籍上の妹である
この見た目は我が愛する配偶者であるアルビノ
サルバドール・ダリみたいな
「ん、あれが密輸商の
それでまあ、密偵ロタールとしては、まずはこの西方辺境域における諸外国の影響を排除しておきたいわけで。
外乱要因は無いに限るからね。
緩衝地帯の小国家群に、その向こうのセーヌ王国……複数の意思が複雑に絡むと変数が増え、解を導くのが難しくなる。
「状況は極力シンプルにすべし、だ」
“ただし摩擦は無いものとする” というやつだよ。
実際の現実世界では摩擦が無い状態での運動というのは考えられないが、思考実験としてはそのくらいシンプルな方が良い。
この複雑怪奇な辺境情勢において、
もちろんそれらの全てをエミュレートしきるというのも、私の魔法チートによる未来視術式であれば可能といえば可能だが…… “後戻り出来ない一斉蜂起前夜” という帝国政府が望む状況にまでもっていくためには非常に繊細な調整が必要となるだろう。
「でもそんな綱渡りだと破綻しそうなんだよなあ。………特にエーリヒくんが西方辺境で活動する予定だって聞くし」
蝶の羽ばたきで乱されるような
私自身の適性としても、そういった謀略は向いていない。
特にこの世界の命運を擾乱するために投入されたような、
なので、変数を減らすか、または自分でコントロールできる変数を増やして固定値化して、状況を局限する必要が、あるんですね。
例えば
やっぱパワーこそが正義なんだわ。
「わった ぐろーりあす ふぃーぃり
だからこの拠点は壊滅させるね??
かねてからこの国境地域の偵察は進めていた。
重力制御でドローンみたいに飛ばした巨蟹鬼の子蟹から、その魔導契約を通じて収集した視界情報を統合して国境線の空撮情報を得た私は、幾つかの密輸用と思われる森の中の道と、そこに設けられた拠点を見つけていた。
いま目の前にあるのもその一つだ。商っている物は必ずしも禁制品というわけではなさそうだが、それでも帝国に関税を払わずに売買している密輸品には違いない。土豪たちの資金源のひとつだ。
そしてその売買されるものの中には、敵国スパイへの便宜や、帝国内の情報といったような無形のサービスも当然含まれている。
今後の西方辺境の再編に当たっては、このような他国が干渉しやすい隙間をまずは潰さなくてはならない。今回はその第一歩。
さあ、やろう。
「ごきげんよう、そしてさようなら」
私が振るったステッキの一撃が冷たい雨粒を弾き飛ばす。
音速超過の衝撃波が雨粒の群れを歪めて
倉庫も兼ねているせいかそれなりにしっかりした造りの山小屋が、為す術もなく破砕された。
魔導補助込みの
「ぐわぁ~~~っ!!?」 『な、なんだぁ!!?』
帝国語ではない叫びが、瓦礫と化して雨の中を宙へと吹き飛ぶ建物の残骸の方から響く。
あらかじめ生命探知して、内部の人員には障壁魔導をかけておいたから挽肉にはなっていまい。
気合の入った拠点だったため、多少の抗魔導処理も施されていたが、この “
雪の降るべき季節に珍しく氷雨が降っているのは、私の魔導の賜物である。
〈
魔導強化された私の瞳には、宙を舞う拠点の残骸の合間から、魔導障壁の球に閉じ込められて無事な密輸商たちの姿が見えた。
空中遊泳はお楽しみかね?
天候操作魔導によって降らせた雨に混ぜて染み込ませた、私の魔導を伝えるのに特化した媒質は、無事に作用しているようだ。
その特殊な魔導媒質は、私の魔導を良く伝えると同時に、他者の魔導を阻害する。
豪雨に混ぜて降らせれば、その降雨領域の中は、私の掌の上………いや、腹の内といっても過言ではない。
少しでも物理的な隙間があれば入り込むことができるこの雨を防ぐ手段はそう多くはないだろう。
染み込んだ媒質経由であらかじめ魔導障壁を付与しておいたから、いま彼ら密輸商人とその仲間たちの肉体はバラバラにならずに済んでいた。
「ぎゃぁ!?」 「ぬぁ!?」 「うげっ!!」
──── でゅでぃでゅっだっ だ だ でゅでぃでゅっだっ♪
「あぃむ し~ンぎん イン ざ れぃん~♪」
上機嫌に鼻歌*2を歌いながら、さながらミュージカルか何かのように、手持ちのステッキを振るう。遠慮会釈は必要ない。
リズムに合わせて、ひと振り、ふた振り。歌いながらタップダンスでも踊るように。
そのたびに、衝撃波で花のように雨粒が弾け、離れた位置の拠点が破壊され、土砂や基礎ごと上空に巻き上げられていく。
連動した衝撃伝播術式が、ステッキから発せられる衝撃を雨の領域内に自在に伝達させているのだ。
空中に巻き上げられた瓦礫の中から
障壁の中で多少シェイクされたようだが、まあ、その程度のダメージは後でどうとでもなる。
いまここで
だから生け捕りだ。
「そして再建。何事も無かったかのように偽装したいし、この拠点はあとで役立ってもらう」
〈
完膚なきまでに吹き飛ばした密輸商の拠点も、魔導によって再構成する。
高く吹き上げられた瓦礫は、未だに空中にある。
我が神よ御照覧あれ。と心の中でつぶやいた。
空から落ちてくる瓦礫に魔導が作用。
整形されつつ落ちてきながらひとりでに組み上がり、先ほどまでと似ているが完全には同じではない、少し様相が変わった建物を造り上げた。
まあ許容範囲内だろう。
「これでよし」
私は一つ頷くと、口髭をつまみ、横に伸ばして整えた。
いつもより背丈が高く視点が高いので多少の違和感を覚えないでもないが、まあ、戦闘行動に支障をきたすほどではなかった。
身に着けた妙技レベルの〈喧嘩殺法〉の為せる業であろう。
かなり大きな音を立てたが、私専用の魔導媒質を溶かし込んだ雨の術式が、結界となってそれらの音も吸収してくれている。
もちろん魔導通信も漏らさないよう遮断しているから、ここで何が起こったか気付いた者はまだ居ないはずだ。
さて次は、密輸商たちへの尋問の時間だ。
なにせ彼らには、密偵ロタールとしてのカバーストーリーになってもらわなくてはならないからね。
密偵ロタールは、土豪勢力圏から西方のセーヌ王国に落ち延びたとある城伯の一族であったが、その才能を買われてセーヌ王国で取り立てられ、帝国に内乱を起こさせるための工作員 兼 支援窓口として土豪勢力圏に舞い戻った………という感じだ。
ここの密輸商人たちは、その仲介ルートだった、ということになってもらう。
もちろん他にも、ここの密輸商たちには役に立ってもらうつもりだ。
彼らには雇い主には変わらぬ報告を上げ続けてもらわなければならないしね。
対外的には、内乱の兆しなどまるでないように、情報を偽装したいのだ。
少なくとも、第三国の介入のタイミングは、毒にも薬にもならないタイミングにまで遅らせたい。
だから彼らには、従順になってもらいたいわけで。
しかし国外に行って帰ってと、こちらの手元を離れるタイミングがある彼らを
魔導契約で縛るとしても、それ自体が魔導的な痕跡となるわけだし。
まあ、極力痕跡を辿られない形で忠誠を向けさせるとなれば、跡が残らない程度の軽い魔導の連続的行使と、アナログ的な手法との合わせ技が良いか?
傷を残さずに痛めつけるやり方なんていくらでもある。*3
あとは薬物や……冬虫夏草の使徒の “寄生” なんかも駆使してみるか。
あー、やだやだ。
国家間の闘争に仁義なしとはいえ、ね。
なんてね。………ひひひ、思わず口の端が吊り上がっちまうぜ。戦争で、しかも暗闘なら、何でもアリだもんなあ!
そのとき、空から雨を裂いて降り立つ人影が。
「帝国…魔導師……ッ!!」
「んん。ああ、障壁をレジストしてしかも被害から逃れてたのが居たのか。防護系の神器でも持たされていたのかな?」
やはりただの密輸商人どもではない。
拠点に抗魔導処理までして、しかも私の魔導を凌ぐような神器を持った人員まで居るなど。
最初に潰す対象としてここを選んだのは正解だったな。
「おかげで家宝が砕けた……! 最低だよ……ッ!」
「ああ、そいつはもったいない」
「なんだと!」
「だってそうだろう? どうせ君は捕まるんだからさ」
まったく、私から逃げられはしないんだからさ。
たった数分先延ばしになったところで無駄さ。無駄無駄。
「砕け損だよ、その家宝とやら」
「貴様ァッ!」
構える敵手から立ち上るオーラのようなものが、降りしきる私の雨の魔導を打ち消す。
おそらくはその砕けた家宝の神器とやらは、致命の攻撃から守る際に身代わりになるのみならず、その危難に応じた加護を与えるタイプだったのだろう。
元から消耗品タイプだったのか、あるいは私の魔導の威力が許容量を超えたために砕けたのか。いずれにせよ神器を消耗してまで宿った加護なのだ、相応に強力だと思われる。この工作員の腕がもう少し悪くて、障壁付与に気付かずに他の人員と同じように受け入れていれば、その後の衝撃伝播で神器が発動することも無かったかもしれない。
「………その加護は時間制限で消える系かな? 流石にそれだけの
「時間稼ぎには付き合わんぞ! ここで死ねぇぃ!!」
「いや単なる確認さ。もう勝負はついてるし」
「減らず口を!!」
雷のような速度で踏み込んでくる推定上級工作員の敵。
その貫手を、私は
敵の工作員の手が、私の胸板を貫通する。
うん、心臓は潰れたかな、これは。肺も脊髄もやられたようだ。
「ハ! 何が “勝負はついた” だ! ……魔導師が! この距離で! 神威の加護相手に勝てるはずもなかろう!!」
快哉を上げる敵手。
だけれどそれは早計というものだ。
「うん、うん。うん。なかなかに良い加護だねえ。だからこそ、このまま時間経過で失われるのは “もったいない” ねぇ」
「……ッ!? 死にぞこないが!」
落日派の魔導師相手に心臓ぶち抜いたとか脊髄引っこ抜いたとか程度で安心してちゃあだめだよ。
まあ、結構ガチ目に強化したこの筐体を破壊したのは褒めてあげるけど。
「心臓を貫いたね。私の心臓を。いいよ、
「腕が、抜けない! ならば逆の手で頭を潰すまでよッ!」
「ちょうどこの背格好に合う
──── 他の神の神威が宿った神器の
私の物言いに不吉を感じたのか、敵の工作員はさらなる抵抗をしようとする。
空いた逆の手で私の頭を潰そうと殴りかかる。
だが、抵抗は無意味だ。
「う、動けぬ……!?」
「いくら加護を纏っているとはいえ、不用意に魔導師の体内に突き込んだらダメだよ。体内宇宙において加護を遮断して弱められることは警戒しとかないと、さ」
周囲を覆う私の身体感覚の延長線上の豪氷雨の結界。
さらに胸を貫通した敵の腕。
いわば二重に私の体内に収めたそこから、既に妨害と解析と侵蝕は行われている。
そもそも魔導師相手に、そいつの魔導に満ちた空間で戦い始めて勝てるわけないだろう?
たとえ強大な神の奇跡をその身に宿らせてたって、ここまで条件が揃えば私の体内という限定付きだが、魔導で優越することも可能だ。
ましてや
さらに言えば、接触からの侵蝕は、我が身に宿る “冬虫夏草の使徒” の得意分野。
私自身の神官としての技能も掛け合わせれば、十分な勝算がある。
「あまり暴れないでくれるかな。時間との勝負なんだ。君の加護が抜ける前に、君ごと神器に加工しなくてはならないんだからさ」
あるいは加護が反転して呪詛化してしまうかな?
まあ、それはそれで一興というものだ。
このまま失われてしまうよりは余程良いだろうさ。
「君の忍耐に期待するよ」
マックス何某「なるべく耐えてくださいね」
強力な加護を得た他の神の信徒を生きたままその加護を宿した神器/呪物に加工するなんて、なんて非道なやつなんだ!!(← かつてもそういうことする邪神官を多く抱えていたから失名神にされたのでは??)
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原作WEB版が連続更新されとる! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/279/:あ~、異種族の生態の描写がとても助かるんじゃ~。ちょうど切らしてた。そして頭目の物騒な薫陶が浸透しているようで何より(自分が黒幕側だったら相手したくねえやつらだな……)。 https://ncode.syosetu.com/n4811fg/280/:戦争に負けた方の土着宗教の扱い、なるほどなぁ~。雌熊大神のモチーフの一つはアルテミスかしら(一方、多分夜陰神はアーリマンがモチーフの一つ?)。次回以降は高位聖職者の戦いぶりが見られそうでとても楽しみです(戦闘系の聖職者はHS.Exのエーリカ嬢と聖者フィデリオ氏が描写ありましたが、どっちも陽導神信仰なのでそれ以外の信仰のバトルスタイルは気になってました)。華氏451度カメおじいちゃん頑張れ……!