フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

131 / 160
 
◆前話
“北方貴族家女当主のアストリッド・フォン・ホルシュタインさんは開明的で素晴らしい当主です。” ……はい、復唱なさいまし、決闘の敗者諸君。

「「「 アストリッド・フォン・ホルシュタイン様は開明的で素晴らしい御当主様です!!!(泣) 」」」
 
………。
……。

アストリッド女史「とまあ、こんな感じで運河開削近傍の領主に対して、信頼関係はともかく力関係は徹底できておりましてよ。あとは結果で黙らせれば良いのですわ」
 
マックス何某「いやあ、優秀なビジネスパートナーが居ると、事業が(はかど)るねえ!! ありがたい限りだ。
 あ、そういえば陛下に婚約者を斡旋される前に、貴女のところからもお見合いのための絵画をいただいていたけど、随分印象が違うねえ……」*1
 
アストリッド女史「実物の方が美人でしょう? それはともかく、運河の次は、やはり蛮族どもですわね。でも帝国の海軍は弱小ですし、海の上では正直勝ち目がないですの。相手は文化としてと言いますか、生業(なりわい)として略奪遠征してきやがりますので、向こうのお偉いさんの誰某(だれそれ)を落とせば止まる、というものでもありませんし」
 
マックス何某「まあ “殺すなかれ” “奪うなかれ” “盗むなかれ” といった基本的な道徳の徹底というか、倫理や風習の問題だものなあ……。前途多難と言えば良いのか、布教しがいがあるといえばいいのか」
 
アストリッド女史「本当に(マジ)おファックですわ」
 
マックス何某「本当にねえ。まったく、よくあそこの土地で踏ん張って頑張ってるよねえ、おたくのお家」
 
アストリッド女史「我ながらそう思いますわ。でもここより南の領地だと私たちの一族には暑すぎますのよねぇ。むしろ本当はもっと北に勢力を伸ばしたいくらいですわ。超極早生小麦のおかげで収益的にもなんとかなりそうですし。まったくあの蛮族連中さえ居なければ………!」

 
===

※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 

*1
◆アストリッド女史のお見合い絵画:かわいいね。なお本人の幼いころの姿に忠実なので決して嘘ではない模様。隅に小さく「幼き日のアストリッド」と書かれている。
【挿絵表示】




31/n 年明けの諸々-4(技巧品評会。ただし評価する側として)☆AI挿絵あり

 

1.魔導院の新春恒例「技巧品評会」にて有望株を探してたら微妙な仲の教授とかち合うのこと

 

 

「あ。屍戯卿(シュマイツァー卿)

 

「む……。ハシシ=ミュンヒハウゼン卿か」

 

 

 魔導院では人材発掘のために、技巧品評会なる催しを毎年新年のころに開催している。

 新春かくし芸大会としてお偉方の新年会の酒の肴になっていたりもする感じの恒例行事だ。

 

 この私、マックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯も、2年前には魔導院の聴講生の立場として参加したものだ。

 まあもっともその時は、巨大首長竜(ヨルムンガンド)討伐による新たな北海航路の解放者ということで、もっぱら模範演技(エキシビジョン)枠としての参加だったが。*1

 

 その頃(2年前)とは違い、いまの私は正式に魔導師(マギア)の号も得て魔導院の研究員としての立場を持っている。

 技巧品評会には一学生としてではなく、どちらかというと、彼ら彼女らの技巧を評価し、自らの所属する閥に誘うスカウトの立場として臨むことになる。

 

 もちろん、落日派ベヒトルスハイム閥からのスカウト・エージェントが私だけということはなく、めいめいに教授や研究員がそれぞれ興味ある催しに参加している。

 運営側として審査員の立場で招かれている者ももちろんいる── 例えば抗魔導部門には魔導嫌いで有名な極夜派の辛口審査員が必ず居る── が、それ以外は自由な社交の場ということだ。

 

 

 

 でまあ、落日派の嗜みとして、生体を弄る系の作品の展示・ポスター発表ブースを回っていた時のこと。

 

 同じ落日派ベヒトルスハイム閥の教授である、アンリ・リアン・マーガレット・シュマイツァー卿とばったりと会ってしまったのだ。*2

 彼、あるいは彼女は、屍戯卿(しざれきょう)とも呼ばれる屍霊術の権威であり、帝国には遺体の保存や再生技術の面からの貢献が著しいとして、外法として忌避される屍霊術の使い手ながら教授に上り詰め、名誉貴族号を贈られるにまで至った傑物である。

 

 だがまあ、諸々あって、裏で動死体兵器の制作と販売を行っていたことや、かつての第二次東方征伐戦争において敵国兵士の死体を材料に動死体兵器を造っていたことが発覚したため、現在はほとんど蟄居に近い状態になっていたはず。

 ベヒトルスハイム閥をあげて屍戯卿の尻拭いのために奔走したことも記憶に新しい。すでに販売されてしまっていた動死体兵器について回収する際に、私と極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)ターニャが開発した電子系魔導具に置き換えて補填したりもしたのだ。

 

 シュマイツァー卿は、それらの後始末の補填とケジメのために、一門で秘匿していた動死体兵器制作技術を放出することになり、資産もかなり手放すことになった。

 彼あるいは彼女が率いていた一門の弟子らも他の教授のもとに取り上げられ、予算も削られたのだ。

 それでも魔導院から追い出されなかったのは、我らが領袖(ボス)ベヒトルスハイム卿の采配であり温情であった。さすがに屍戯卿一門全員が無事とはいかず、高弟と見なされた研究員の数名は、屍霊術悪用厳禁の魔導誓約の上で魔導院を追放されたが。

 

 

 で、まあ、その屍戯卿が失脚する原因というか発端となったのが、私こと当時のマックス・フォン・ミュンヒハウゼン魔導副伯が、陛下の命令と婚約者斡旋によって東方沙漠の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)ルゥルア・ハッシャーシュさんのところまで行った際に、第二次東方征伐戦争時に鹵獲されて改造されかけていたハッシャーシュ部族の戦士長にしてルゥルアさんの姉であったマリヤム・ハッシャーシュの動死体と、その彼女と同じ境遇の動死体の一団を片付けた件だったりするのだが……。

 

 

「(まぁーー、気まずいよね。告発者と被告発者の立場だから)」

 

 

 しかも予算の多くを取り上げられたいまの屍戯卿(シュマイツァー卿)を支えているのが、彼あるいは彼女の一門の末の妹弟子であったゾフィという聴講生(マギア見習い)だというのがややこしい。

 ゾフィは、帝国隧道公団の前身であった帝国物流ネットワーク研究会のメンバーであり、そのため聴講生ながらにして、帝国隧道公団の役員でもある。

 で、その健気な末の妹弟子たるゾフィは、己の役員報酬を以て解体された屍戯卿一門の援助をしているのだった。まあ役員報酬の使い道は自由だし、魔導師の研究への援助というのはお金の使い道としては良くある部類の投資先だしな。

 

 

 というわけで、私と屍戯卿の関係としては、彼あるいは彼女の失脚の原因である告発の『告発者と被告発者』であるのと同時に、その尻拭いの時間を稼ぐために帝国政府への報告を遅らせたり動死体兵器の代替品を補填したりした『同じ閥の同志協力者』であり、末弟子ゾフィを介した『支援者と被支援者』でもある。

 

 ややこしいのだ。関係性が。

 

 

(けい)も技巧品評会に参加していたとはな」

 

「ええ、陛下(マルティン先生)からも勧められましてね。若者たちの才能の輝きを発掘するのは刺激になるから、と」

 

「なるほど、それは陛下らしいが……、そういう(けい)もまだまだ若者だろうに。確か成人したてくらいではなかったかな」

 

「おっしゃる通りで。とはいえこれでも陛下のお引き立てとはいえ、立場のある身になりました。年齢にかかわらず相応の人物眼と申しますか、見識というのを養う必要はあるとは痛感しております」

 

「なるほど、道理だな」

 

 

 そんでなー、この人なー、めっちゃ面倒見が良いんだよなあー。

 まあそうでなきゃ、屍霊術専攻っていう帝国でも忌避されがちな分野にもかかわらず、結構な数の門下生を抱える一門を形成できたりしないんだけどさー。

 話題の出し方ミスったなあ。この流れだと……。

 

 

「であれば、しばしともに見て回っていただいても構わないかね? 同じ閥のよしみでもあるし、後進を導くのは先達の務めでもある」

 

「………ええ、シュマイツァー卿。是非ご鞭撻いただければ」

 

「こちらこそよろしく、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿。マルティン陛下の言葉の通り、君のような新進気鋭の若人から受ける刺激というのは、私としても大事にしたいものだからね」

 

「お役に立てればいいのですが」

 

 

 まあ実際、有意義な時間にはなるだろうさ。

 私とシュマイツァー卿は、似通った専攻だが、やはり視点や主義が違うから、刺激になるのは間違いない。

 

 

 でもなあ、こう、相容れない感があるんだよなあ。

 

 ゾフィ経由で聞くシュマイツァー卿の為人(ひととなり)からすると、どうも彼あるいは彼女は “永遠” に対する執着があるようだし。

 あるいは死の克服、だろうか。

 

 私も似たもんじゃないのか、って?

 ──── 違うのだ!!

 

 私の軸の中心は、“終焉からの再生”。

 螺旋のように進歩する、無限の進化こそが本質。

 『死』は、生物が進化の過程で獲得した、重要な有利形質だという立場だ。生物は何故死ぬのか、それはそちらの方が生存に有利だったからだ。旧型が死んで新型にそのニッチを譲り渡す、というそのサイクルこそが進化の仕組みの原点なのだ。

 どちらかと言えばマクロ寄りの出発点であり、そのマクロ観点での『死』の効用を、いかに個体レベルのミクロ観点に落とし込むか、というアプローチだと言っても良いだろう。言ってみれば、最終的には個体レベルあるいはそれ以下のレベルでの終焉と再生の繰り返しによって、生命の進化の窮極に至るのが目標……ということだ。*3

 

 

 それに対してシュマイツァー卿は、『死』のない世界、というのを目指しているようだと聞いている。

 

 彼あるいは彼女の一門は、屍霊術を専攻する魔導師の集団というだけでなく、屍戯卿と同じ “思想” により教化された宗教集団的な側面もあるのだ。

 通常は魔導師(マギア)というのは、師弟であっても己の中心テーマは秘匿するものだが、屍戯卿の一門はそこが他と少し違うのだろう。

 ある意味では宗教的な教義に近い形で、一門全体にテーマが共有されているようなのだ。

 

 

 まあ分からなくはない。ミクロ(個人の)観点での、生命の死につきまとう愛別離苦というのは、きっと恐らく耐え難いものなのだろうし。

 

 

 近いが、違う。

 それが違和感として付きまとう。

 

 不倶戴天、とまでは行かないが。

 根本的に相容れない。

 

 技量や識見に尊敬は覚えるが。

 同じ道を行きたいとは思えない。

 

 

「(まあ、普通に教授として学術的に付き合う分には、面倒見が良くて頼りになる御方なんだが)」

 

 

 聴講生の作品について解説・講評してくれているシュマイツァー卿に相槌を打ちながら、そう思う。

 魔導院の教授にしては珍しい人格者であるのは確かなのだ。

 

 そういう意味では、もったいないおばけの信徒として、彼あるいは彼女の今の扱いについては “もったいないなあ” とも思ってしまうわけで。

 ──── 思ってしまったわけで。

 

 きっと恐らく、そんな微妙な感じでシュマイツァー卿と私の付き合いは続いていくのだろう。

 

 

 

〈1.『マックス何某「ふーむ、魔導生物の歩留まりが悪いやつを素体として提供して、その活用方法を検討してもらうとかでシュマイツァー卿に私からも研究費を渡すのはアリかもなあ。教授になるだけあって腕は良いんだよ、腕は」』──── 了〉

 

*1
◆2年前の技巧品評会:過去話 → 「15/n 魔導院主催 技巧品評会-1(模範演技エキシビジョン)」( https://syosetu.org/novel/270654/49.html )と、「15/n 魔導院主催 技巧品評会-2(研究発表バニーガール(TS))」( https://syosetu.org/novel/270654/50.html )が該当。

*2
◆屍戯卿 アンリ・リアン・マーガレット・シュマイツァー:魔導院落日派ベヒトルスハイム閥の教授。原作WEB版において登場済み。容姿は、美男美女の統計的平均を取ったような、美形だけど印象の薄い顔、不自然なまでに整った顔、などと形容されている。恐らくだが、表出する魂によって雰囲気や表情が少し変わるんじゃないかと思われる(表情バリエのイメージはAI挿絵参照)。以下原作WEB版( https://ncode.syosetu.com/n4811fg/229/ )より引用。『〝三つの魂が一つの肉体に合一させる〟外法中の外法によって成立する、三つの自我と記憶が一人の肉体に収まった存在。それがシュマイツァー卿だ。元々シュマイツァー卿はラケーテハイムのリアン、アンリ・フォン・シュレスヴィヒ、そしてマーガレット・エルギンという三人の種族すら異なる別個人であった。

【挿絵表示】

 あ、シュマイツァー卿の持つ魂のうちの一人が、アンリ・フォン・『シュレスヴィヒ』ってことは、前話のオリキャラのアストリッド女史のご近所さんじゃん(シュレスヴィヒ領とホルシュタイン領はおそらく隣接)。

*3
◆専攻について語るマックス何某:とても早口。




 
魔導院で研究員として仕事しているマックス何某(子実体クローン)も居るよ、というお話でした。あとシュマイツァー卿とマックスくんの関係は、まあこんな感じです。普通に微妙な仲の同派閥の魔導師。なおお互いの信教部分に触れると戦争になる模様(それはそう)。二人の方向性の違いは、『死んで魂が砕かれた後でも蘇れたマックスくん』と、『死に掛けた二人の魂を自分の身体に繋ぎとめてまで三人で一緒に居ることを選んだシュマイツァー卿』の原体験(オリジン)の違いによるものだと考えています。原作書籍9巻下以降で、シュマイツァー卿も掘り下げ入るかもですし楽しみです!
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。