フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
“北方貴族家女当主のアストリッド・フォン・ホルシュタインさんは開明的で素晴らしい当主です。” ……はい、復唱なさいまし、決闘の敗者諸君。
「「「 アストリッド・フォン・ホルシュタイン様は開明的で素晴らしい御当主様です!!!(泣) 」」」
………。
……。
アストリッド女史「とまあ、こんな感じで運河開削近傍の領主に対して、信頼関係はともかく力関係は徹底できておりましてよ。あとは結果で黙らせれば良いのですわ」
マックス何某「いやあ、優秀なビジネスパートナーが居ると、事業が
あ、そういえば陛下に婚約者を斡旋される前に、貴女のところからもお見合いのための絵画をいただいていたけど、随分印象が違うねえ……」*1
アストリッド女史「実物の方が美人でしょう? それはともかく、運河の次は、やはり蛮族どもですわね。でも帝国の海軍は弱小ですし、海の上では正直勝ち目がないですの。相手は文化としてと言いますか、
マックス何某「まあ “殺すなかれ” “奪うなかれ” “盗むなかれ” といった基本的な道徳の徹底というか、倫理や風習の問題だものなあ……。前途多難と言えば良いのか、布教しがいがあるといえばいいのか」
アストリッド女史「
マックス何某「本当にねえ。まったく、よくあそこの土地で踏ん張って頑張ってるよねえ、おたくのお家」
アストリッド女史「我ながらそう思いますわ。でもここより南の領地だと私たちの一族には暑すぎますのよねぇ。むしろ本当はもっと北に勢力を伸ばしたいくらいですわ。超極早生小麦のおかげで収益的にもなんとかなりそうですし。まったくあの蛮族連中さえ居なければ………!」
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※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり
1.魔導院の新春恒例「技巧品評会」にて有望株を探してたら微妙な仲の教授とかち合うのこと
「あ。
「む……。ハシシ=ミュンヒハウゼン卿か」
魔導院では人材発掘のために、技巧品評会なる催しを毎年新年のころに開催している。
新春かくし芸大会としてお偉方の新年会の酒の肴になっていたりもする感じの恒例行事だ。
この私、マックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯も、2年前には魔導院の聴講生の立場として参加したものだ。
まあもっともその時は、
技巧品評会には一学生としてではなく、どちらかというと、彼ら彼女らの技巧を評価し、自らの所属する閥に誘うスカウトの立場として臨むことになる。
もちろん、落日派ベヒトルスハイム閥からのスカウト・エージェントが私だけということはなく、めいめいに教授や研究員がそれぞれ興味ある催しに参加している。
運営側として審査員の立場で招かれている者ももちろんいる── 例えば抗魔導部門には魔導嫌いで有名な極夜派の辛口審査員が必ず居る── が、それ以外は自由な社交の場ということだ。
でまあ、落日派の嗜みとして、生体を弄る系の作品の展示・ポスター発表ブースを回っていた時のこと。
同じ落日派ベヒトルスハイム閥の教授である、アンリ・リアン・マーガレット・シュマイツァー卿とばったりと会ってしまったのだ。*2
彼、あるいは彼女は、
だがまあ、諸々あって、裏で動死体兵器の制作と販売を行っていたことや、かつての第二次東方征伐戦争において敵国兵士の死体を材料に動死体兵器を造っていたことが発覚したため、現在はほとんど蟄居に近い状態になっていたはず。
ベヒトルスハイム閥をあげて屍戯卿の尻拭いのために奔走したことも記憶に新しい。すでに販売されてしまっていた動死体兵器について回収する際に、私と
シュマイツァー卿は、それらの後始末の補填とケジメのために、一門で秘匿していた動死体兵器制作技術を放出することになり、資産もかなり手放すことになった。
彼あるいは彼女が率いていた一門の弟子らも他の教授のもとに取り上げられ、予算も削られたのだ。
それでも魔導院から追い出されなかったのは、我らが
で、まあ、その屍戯卿が失脚する原因というか発端となったのが、私こと当時のマックス・フォン・ミュンヒハウゼン魔導副伯が、陛下の命令と婚約者斡旋によって東方沙漠の
「(まぁーー、気まずいよね。告発者と被告発者の立場だから)」
しかも予算の多くを取り上げられたいまの
ゾフィは、帝国隧道公団の前身であった帝国物流ネットワーク研究会のメンバーであり、そのため聴講生ながらにして、帝国隧道公団の役員でもある。
で、その健気な末の妹弟子たるゾフィは、己の役員報酬を以て解体された屍戯卿一門の援助をしているのだった。まあ役員報酬の使い道は自由だし、魔導師の研究への援助というのはお金の使い道としては良くある部類の投資先だしな。
というわけで、私と屍戯卿の関係としては、彼あるいは彼女の失脚の原因である告発の『告発者と被告発者』であるのと同時に、その尻拭いの時間を稼ぐために帝国政府への報告を遅らせたり動死体兵器の代替品を補填したりした『同じ閥の同志協力者』であり、末弟子ゾフィを介した『支援者と被支援者』でもある。
ややこしいのだ。関係性が。
「
「ええ、
「なるほど、それは陛下らしいが……、そういう
「おっしゃる通りで。とはいえこれでも陛下のお引き立てとはいえ、立場のある身になりました。年齢にかかわらず相応の人物眼と申しますか、見識というのを養う必要はあるとは痛感しております」
「なるほど、道理だな」
そんでなー、この人なー、めっちゃ面倒見が良いんだよなあー。
まあそうでなきゃ、屍霊術専攻っていう帝国でも忌避されがちな分野にもかかわらず、結構な数の門下生を抱える一門を形成できたりしないんだけどさー。
話題の出し方ミスったなあ。この流れだと……。
「であれば、しばしともに見て回っていただいても構わないかね? 同じ閥のよしみでもあるし、後進を導くのは先達の務めでもある」
「………ええ、シュマイツァー卿。是非ご鞭撻いただければ」
「こちらこそよろしく、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿。マルティン陛下の言葉の通り、君のような新進気鋭の若人から受ける刺激というのは、私としても大事にしたいものだからね」
「お役に立てればいいのですが」
まあ実際、有意義な時間にはなるだろうさ。
私とシュマイツァー卿は、似通った専攻だが、やはり視点や主義が違うから、刺激になるのは間違いない。
でもなあ、こう、相容れない感があるんだよなあ。
ゾフィ経由で聞くシュマイツァー卿の
あるいは死の克服、だろうか。
私も似たもんじゃないのか、って?
──── 違うのだ!!
私の軸の中心は、“終焉からの再生”。
螺旋のように進歩する、無限の進化こそが本質。
『死』は、生物が進化の過程で獲得した、重要な有利形質だという立場だ。生物は何故死ぬのか、それはそちらの方が生存に有利だったからだ。旧型が死んで新型にそのニッチを譲り渡す、というそのサイクルこそが進化の仕組みの原点なのだ。
どちらかと言えばマクロ寄りの出発点であり、そのマクロ観点での『死』の効用を、いかに個体レベルのミクロ観点に落とし込むか、というアプローチだと言っても良いだろう。言ってみれば、最終的には個体レベルあるいはそれ以下のレベルでの終焉と再生の繰り返しによって、生命の進化の窮極に至るのが目標……ということだ。*3
それに対してシュマイツァー卿は、『死』のない世界、というのを目指しているようだと聞いている。
彼あるいは彼女の一門は、屍霊術を専攻する魔導師の集団というだけでなく、屍戯卿と同じ “思想” により教化された宗教集団的な側面もあるのだ。
通常は
ある意味では宗教的な教義に近い形で、一門全体にテーマが共有されているようなのだ。
まあ分からなくはない。
近いが、違う。
それが違和感として付きまとう。
不倶戴天、とまでは行かないが。
根本的に相容れない。
技量や識見に尊敬は覚えるが。
同じ道を行きたいとは思えない。
「(まあ、普通に教授として学術的に付き合う分には、面倒見が良くて頼りになる御方なんだが)」
聴講生の作品について解説・講評してくれているシュマイツァー卿に相槌を打ちながら、そう思う。
魔導院の教授にしては珍しい人格者であるのは確かなのだ。
そういう意味では、もったいないおばけの信徒として、彼あるいは彼女の今の扱いについては “もったいないなあ” とも思ってしまうわけで。
──── 思ってしまったわけで。
きっと恐らく、そんな微妙な感じでシュマイツァー卿と私の付き合いは続いていくのだろう。
〈1.『マックス何某「ふーむ、魔導生物の歩留まりが悪いやつを素体として提供して、その活用方法を検討してもらうとかでシュマイツァー卿に私からも研究費を渡すのはアリかもなあ。教授になるだけあって腕は良いんだよ、腕は」』──── 了〉
あ、シュマイツァー卿の持つ魂のうちの一人が、アンリ・フォン・『シュレスヴィヒ』ってことは、前話のオリキャラのアストリッド女史のご近所さんじゃん(シュレスヴィヒ領とホルシュタイン領はおそらく隣接)。
魔導院で研究員として仕事しているマックス何某(子実体クローン)も居るよ、というお話でした。あとシュマイツァー卿とマックスくんの関係は、まあこんな感じです。普通に微妙な仲の同派閥の魔導師。なおお互いの信教部分に触れると戦争になる模様(それはそう)。二人の方向性の違いは、『死んで魂が砕かれた後でも蘇れたマックスくん』と、『死に掛けた二人の魂を自分の身体に繋ぎとめてまで三人で一緒に居ることを選んだシュマイツァー卿』の