フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
脳内会議を現実世界で実際にやってみたマックスくん。なおマックスくん曰く、これでも子実体分身の使い勝手は冬虫夏草の使徒との融合当初よりは良くなっているとのこと(たぶん熟練度が溜まって何かのスキルが伸びた)。
マックス何某「複数同時存在は、
なお後者を突き詰めると、「どうせ滅びは確定してる*1し、じゃあ今の世界をリソースとして捧げてより進化した世界の礎としよう!」とか「世界は一巡する! 覚悟があるからヒトは幸福なのだ!」とかやり出すので、今のマックス何某はこれでまだバランス取れてる部類の狂信者です。………そんなんだから貴様の崇める神は失名神にされてたんだよ!!
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※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり
「これでよし、と」
帝国貴族街に構えた繊維と染料の店に設けられた執務室にて。
その執務机で小説本を小包に封入し終えたのは、私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯である。
小包に詰めた小説の中身は “虚空の箱庭” で流通している娯楽本のシリーズの一つで、ケーニヒスシュトゥールのエーリヒの活躍を下敷きにして読み口軽妙に纏めたものだ。
要はライトノベル、あるいは、原義としての小説だね。
しかも原作者であるマイコニドシリーズのサイン(〈見えざる手〉 の魔法でペンを取れば署名できるのだ)付きだ。
宛先は、樹人で凄腕の書籍複製師のファイゲ卿。
いつだかにエーリヒくんが魔剣の迷宮であの “渇望の剣” を拾って、私がその前の持主の冒険者アンドレアス氏を肉鞘に呪縛した件で知り合ったお方だ。
かの御仁は市井の庶民が読むような軽妙な読み口の書物をお好みで、冒険譚などは特に好まれる。
エーリヒくんとミカくんを図らずも魔剣の迷宮に派遣してしまったのも、もとは森の中に庵を構えてそのまま儚くなったアンドレアス氏の手記を求めてのこと。
最終的に迷宮を取り込んで魔本と化したその手記は、今はファイゲ卿の手により調律され、“英霊召喚の魔本” として、エーリヒくんの修行と冒険の
そんな魔本を手掛け、さらには失名神祭祀韋編すらも複製した、凄腕の複製師であるファイゲ卿。
かの御仁とのコネクションは金を積んでも得られるものではない。
そのため私としても、この縁を切らないように、ファイゲ卿好みの小説を送ったりしているのだ。
ファイゲ卿はファイゲ卿で、受け取った小説を自分で複製して豪華ハードカバーに仕立て直しコレクションに加えるのを楽しみにしてくださっている。
お互いWin-Winの非常に良い関係と言えるだろう。
元ネタとなっているエーリヒくんの羞恥心を除けば。モデル小説における表現の自由とプライバシーの問題となってくるが、まあ吟遊詩全盛期である今の世の中においては、ちょっと早すぎるテーマと言わざるを得ない。
いつの日かエーリヒくんに、彼をモチーフにした小説シリーズの存在がバレることがあるかもしれない。ファイゲ卿だけではなく、アグリッピナ女史にも同じように提供してるしな。
まあ、バレたらその時か。そのシリーズの虚空の箱庭における印税の一部に相当する金額プラス慰謝料を渡すくらいはしてあげようと思う。
あと最近はスピンオフとして、エーリヒくんが携わった事件を起点に、そこで彼が知り合った人々を主人公にした外伝的な小説シリーズも出てきている。
いちばん直近だと、
ちょっと間の抜けた馬肢人の少女が苦労しながら慣れぬ異国を旅をし、行く先々でのトラブルをその武力で以て解決していくという、王道を行く痛快旅行譚だ。
エーリヒくんに “キノコのお店” の看板系看板娘であるマイコニドシリーズのアルファ嬢が専属でついているように、ディードリヒ嬢にもマイコニドシリーズから専属が付いているのだとか。実際の基底現実における旅路ではどうだかわからないが、その小説の中だとマイコニドシリーズは、いよいよ窮したディードリヒ嬢を助けるアイテムを提供する役どころなのだそうだ。そしてディードリヒ嬢の借金がかさむ、というオチが毎度らしい。
「じゃあこの小包をファイゲ卿あてに送るとして。……次はディードリヒ嬢が主役の外伝を入れてみるというのも良いかもしれないな」
こうやってマメに贈り物や手紙を送ることは、この時代の人付き合いにおいては非常に重要だ。
直筆するのは非効率だが、完全になくすわけにもいかない。
内容によっては魔導や奇跡により封をしなければならない都合上、直筆が必要な手紙というのはどうしても発生するからだ。魔導的な判別にあたり、本人が魔力を込めながら直筆したことをトリガーにしたりもするので。
通常の業務連絡の類なら、高度汎用情報処理端末 “ぱそこん” のワープロソフトで打って、組み込まれた写真術式で出力するだけで済むのだが。
今はたまたま空き時間があったから対応しているが、実際他にも、こうやって延々と手紙を書き続ける専業の『祐筆ロール』の子実体クローンも枠を確保していたりする。
郵便制度はまだ国家的に整備されていないが、『確実に届く』、『一律の制度の中で料金計算ができる』というのは、この時代の人々には需要が大きく、また画期的に映るだろう。
“きのこのお店” を各地に進出させる時の売り込み文句としても、安価で確実な郵便サービス── 商品移送に使っている転移門の魔法を流用しているので当然だが── の提供というのは受けがいい。
ファイゲ卿の住処の側の森は、長年森に巣食っていた魔剣の魔宮が片付いたこともあり、手つかずの素材が多くある。
そのため “きのこのお店” も、その森の素材の売買のために、森のすぐ近くでありファイゲ卿が拠点としているヴストローの街にも当然出店している。
手紙のやり取りはそちらを介して行っているから、途中で荷が紛失する心配はしなくてよい。
ファイゲ卿宛ての他にも色々と執務机の脇に積み上げた手紙── 魔導副伯としてのものも、隧道方伯としてのものも、東方大使としてのものも、全て一緒くたになっている── にそれぞれ機密性に応じて防諜・保護・封印等の術式を掛けつつ、魔導封蝋を垂らす。
モノによってはさらに奇跡を請願して封印を強固にする必要もあるが、今回はそこまではしない。奇跡の請願までやると、転移門の魔法を通らなくなる可能性がある、ということもある。
「予定していた分はこれで全部ー、と。あー、肩凝った」
ひと段落したので伸びをする。
と、従僕である
同時に彼から私に耳打ち。
「────。 ────……」
「あー、人を待たせてしまっているのか。だが面会の予約があったというわけではないよな?」
今の時間帯は確か来客や商談の予定はなかったはずだ。
それで、来ているのは一体どちらさま?
「──── イミツァ嬢? エールストライヒ公邸の侍女の?」
「方伯閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
*1
クラシカルなこれぞメイド服! といった上等な御仕着せを身に着けて応接室で待っていたのは、エールストライヒ公邸に務める侍女のイミツァ嬢。
代々、エールストライヒの血脈に仕える従僕の家系の
見習いとは言っても流石高位貴族に仕えるだけあって礼儀は完璧で瀟洒だ。
ああ、あと覗き趣味が高じてか仕えるお嬢様が好き過ぎるのか知らないが── 長命種は長い人生に飽きないためにか生涯を通じた趣味に異常にのめり込む── 東雲派の魔導師に師事し、未来視の術式を修めていたりするようだ。
その未来視の術式のお陰だとは思うが、イミツァ嬢は非常に事情通であり、時にこうやってやってきては情報を知らせてくれることがあるのだ。
「お待たせしてすまないね。イミツァ嬢も御足労いただき恐縮だ」
「いえいえ。お待ちする分には構いませんとも。その分、仕事をさぼれますからね」
「そうかい。それで早速だが今日は一体どうしたというのかい?」
従者の
イミツァ嬢はそれを待って話し始める。
「今日は耳寄りな情報を……」
「今日も、だな。いつも重宝している」
「へっへっへ。こちらこそでございます。礼はいつもの……」
「ああ、あの
「ええ、ええ。それが一番です。私としてはツェツィーリアお嬢様がお喜びになる話題を仕入れられるのが最も重要ですから。………それにあのひと、私の術式だとよく
「まあそれだけだと何だから他にも土産は持たせよう。
「いつもすみませんねえ」
「なぁに、それだけの利がある話をいつも持ってきてくれるからね」
ことり、と黒茶のカップをソーサーに置く。
「それで、今日は一体?」
イミツァ嬢は姿勢を正した。
それだけ重大な情報ということだろうか。
「お嬢様がこちらの店にいらっしゃいます。近日中に」
「それは客としてかい?」
違うと分かっていてそう聞く。
エールストライヒ家の姫が来るようなアポイントメントは入っていない。
そもそも用があるとしたら、こちらから御用聞きに出向くのが筋だ。
「もちろん違います。いらっしゃるのは、聖堂の見習いとしてです」
「ほう。続けて」
「お嬢様は見習いとして、聖堂座主の計らいで、帝都でしか経験できないような様々な業務について、先達に付き従って見て回り、学ぶことになっています」
「なるほど。流石期待されていらっしゃる。夜陰の神の寵愛篤き乙女であらせられるとは私の耳にも入っているくらいだ」
「お嬢様は最高ですからね! 皆に愛されるのは当然です!」
「………うむ。それで、ツェツィーリア様は、聖堂の業務といっても一体どういう業務で、うちの店にいらっしゃるのだろうか」
いったい何の業務で? というのが一番重要で気になるところだろう。
寄付のお願いだろうか。
イミツァ嬢がローテーブルを挟んで身を寄せてくる。
声高に言うべきでない内緒話、ということか。
私も合わせて身を寄せる。
「監査ですよ、か・ん・さ。抜き打ちの。異端を探る、聖堂の監査です。──── お心当たりがおありでは?」
おっとそいつはバッドニュースだぜ。
というわけで、これまで直接は接触が持てていなかったツェツィーリア嬢との邂逅です。