フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
イミツァ嬢「…………そのような危険物を持ち込んでいるのにお咎めはないのですか?」
マックス何某「完璧に制御しているから問題無い。35重の抑制・制御の術式と我が神の加護があるからな。一時的に術式が無効化されたとしても、内蔵魔導炉の潤沢な魔力供給によって術式は即座に再発動される。完璧に対策されているのだよ、ふっふっふ! 何兆分の一とかそれ以下の確率でよっぽどの不運が重ならない限りは、まーったく問題ないね!」
イミツァ嬢「あっ、ふーん。ソウナンデスネー……」
案の定、
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※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり
“聖堂の方から来ました”、ということで、“もったいなおばけ” の敬虔なる筆頭司祭たる私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯が営む工房兼店舗にやってきたのは、夜陰の神に仕える人狼の高僧と吸血鬼の尼僧、そして尼僧の護衛の女騎士であった。
それに対するは勿論店主の私。
外向きの営業スマイルを顔に貼り付け監査者の皆様を歓迎する。
「いらっしゃいませ。本日は何をお求めで?」
「か、監査に参りました! ご協力をお願いします!」
緊張してか上ずった声で来訪の主旨を告げる尼僧、エールストライヒ公爵家の息女でもあるツェツィーリア嬢。
後ろに控える護衛のメヒティルト女史と、人狼の老僧はその様子を静かに見守っている。
「なるほど、聖堂の監査でございますか。承知いたしました。それでは奥へどうぞ、ご案内いたします」
私の案内に伴い、ドアマン代わりの巨蟹鬼の幼生体(まだ巨鬼の上半身は生えてないくらいの脱皮段階なので見た目は完全に巨大な蟹だが)が開けた扉を潜り、夜陰神聖堂からの監査者たちが店内へと進む。
店内で店員として控えていた
監査とはいえ権力をかさに着たような横柄な態度を取らないのは非常に好感が持てる。
貴顕向けの応接室にまで案内し、上座を譲り席を勧め、自身も腰掛ける。
すかさず
お互いに黒茶に口をつけて唇を湿らせると、さて本題だ。
「店主のマックスと申します。この度はようこそ」
「夜陰神聖堂のツェツィーリアと申します。こちらは護衛のメティヒルト」
微妙に従者の名前を間違えているような気もするが、紹介されたメヒティルト女史が目礼する。愛称のようなものなのか、あるいは吸血種的に舌が回らない名前だったりするのだろうか。
続いて自己紹介するのは
「私は夜陰神聖堂で律師を務めるラドゥと申す。まさか方伯閣下がこちらに
「ははは、魔導の秘術で分け身ができるのですよ、私は。ですので帝都だけでも魔導院と、隧道公団と、このアトリエに……とまあ3か所くらいで常時活動しています。帝国全土や東方も合わせるともっと多いですね」
「それはなんとも、凄まじいですな」
「えっと、影武者、というわけではなく、ですか?」
首を傾げたツェツィーリア嬢の質問を適当にはぐらかすことにする。
突っ込まれると異教の神たる腐朽の神の使徒だった『冬虫夏草の使徒』に触れざるを得ないので。
「ふふふ、どうでしょうね? 詳しい理論を説明していると日が暮れてしまいますから、まあ、そういうことが出来る者もいるということでご理解いただければ。お二方もここへは魔導講義を受けに来たわけではなく、監査のためにいらしたのでしょうし」
「あ! そうですね! そうでした、まずは監査ですね!」
「何でも聞いていただいて結構ですよ。店内をご覧になりたければ案内の者もつけましょう」
はっはっは、事前に東雲派の流れを汲む未来視使いの
見られてヤバいものは全部隠しているし、受け答えのシミュレーションも十分完璧だ。
さあ来い!!!
「それではまず────」
事前準備が奏功して、監査の対応はつつがなく進んでいく。
まあ、そもそもの抜き打ち監査自体が、半分は方々との顔つなぎのためであるのが実際だというからさもあらん。
もちろんガチで摘発する場合というのもあるし、第一弾の監査で異常の萌芽をかぎ取って、さらに調査を進めることもあるようだが。
まあ今回は無難な展開だ。
こちらの事業概要を説明しつつ向こうの質問にも答え、としているうちに話題は流転し、いつの間にか神学だの何だのの話に。
「つまり自然神学と啓示神学においては重視する立場というか、立脚点が違うということなのですね」
「良くご存じですね、マックスさん。人類の自然理性から沸き上がる神への畏敬、当然あるべきもの、自然発生的なるものに基づき信仰のあり方を研究する立場が自然神学と言えるはずです」
「対して啓示神学は、かつて神から与えられた啓示や秘跡、あるいは天罰を研究して、神へ捧げるに相応しい信仰のあり方を模索するものだ、と」
「そうなりますね。従来的には啓示神学こそがただ唯一の『神学』とされていたので、啓示神学という呼び名自体が不遜だとする論者もおりますが……」
「確かに『啓示神学』という言葉は自然神学の登場によって生じたレトロニムにあたるでしょうからね。しかし仮定として、神なき者による信仰、そしてそこから生まれる新たなる神とその体系、そういった前駆的状態はあり得るわけですし……」
「原点回帰によるヒトの理性の光に立脚する立場の自然神学派としては、神は既にヒトらの独り立ちを認め、基底現実への干渉を往時より減らしつつあるゆえに…………つまりは、ヒトの自主性こそを重視するようになったため、我々自身の心の裡から溢れる信仰の心こそを重視すべきだと────」*1
魔導師系の単なる一店主に過ぎないはずのマックス何某が、数十年も聖堂で研究を重ねてきたツェツィーリアと互角以上に神学について議論しているのを、人狼律師ラドゥは感心しながら聞いていた。
「(こやつ、やはりただの魔導師でも貴族でもないな)」
このマックス何某は聖堂に多額の喜捨をするのみならず、自身で
そういった在俗僧としての活動をしているとのことだが、この神学への造詣の深さからしてもそれは事実なのだろう。
「(だがそれにしては……こやつが仕えている神の顔が見えてこない)」
在俗僧は聖堂に属するものではないため、名簿があるわけでもない。
輪転や再生への執着が言葉の端々から透けて見えるからには、『輪転神』の信徒であろうか。
「(あるいは拙僧が知らぬような小神か……? いや、方伯は東方大使でもあれば、沙漠の神々を習合した際に新たに列に加わった信仰の一つであろうか)」
思い付きで選んだ監査先であったが、聖堂騎士団で叩きあげたラドゥのベテランとしての鋭い嗅覚が、微かな違和感を感じ取っていた。
異端というほどのものではない。
だが異教の香りは隠しきれていない。
正統信仰を尊重し、融和し、問題を起こすまいとする心意気は感じられる。
そのまま大人しく羊の皮を被っているのであれば、その羊の皮が癒着して離れなくなるまで待てば良い。
剥がれない化けの皮は、それはもう本性と変わりない。
「(………要経過観察、というところか)」
あるいは逆に刺激しすぎない方がお互いにとって良い可能性もある。
それも含めて見極めが必要だろう。
いま上がり調子のこのマックス何某の邪魔をするのも得策ではあるまい。
ライン三重帝国において聖堂は政治と適当に距離を置いてきた。
いまの政府の中枢に近いこの隧道方伯をどうにかするのであれば、相当な不祥事でもなければ無理だろう。
そして、そのような隙を見せてくれる相手でもないだろう。
「(そもそも仮に異端や異教だとしても、相当に神の寵愛を受けているぞ……。少なくとも僧都級の最上位、大僧都以上はあるはずだ。それかさらに上……僧正、それもその中でも上位に値する可能性すらある)」
人狼律師ラドゥは、肌で感じる在俗僧としてのマックス何某の実力を測っていた。
結論は、かなり上位の実力を持つであろうということ。
音に聞こえる噂では、死者蘇生すらやってのけるという。眉唾だとしても、それに近い重傷は治した実績はあるのだろう。火のないところに煙は立たない。
「(実力行使は得策ではない)」
ラドゥ自身は苦手だが、政治的な働きかけが効果的であろうとの結論に至った。
聖堂騎士団を投入して勝てぬとは言わないが、しかし犠牲が大きすぎる。
「(それが知れただけでも僥倖か)」
凡僧先輩の実地研修で、また随分な当たりを引いたものだ。
吸血種先輩のトラブル誘因体質に内心で溜息をつきつつ、ラドゥ律師は、完全に茶飲み話に移行したマックス何某とツェツィーリアの会話をいましばらく見守ることにした。
「えっ、貴方もエーリヒをご存じなのですか!?」
「ふふふ、バレてしまっては仕方ありません……何を隠そう、彼が帝都に来る前からの腐れ縁とは私のことです」
「ということは、貴方がヘルガのお兄さんですか?」
「ええ、ヘルガは私の戸籍上の妹に当たります。………ああそうか、ヘルガもあの送別会の夜にエーリヒの家に泊まったのでしたね」
いえいえこちらこそヘルガにはお世話になっております、と逆に頭も下げられつつ。
共通の知り合いの話題は鉄板だよね。
ありがとうエーリヒ。君をダシにして私はこの監査を乗り切ってみせるよ……。
また何か別のところで報いるから、君のプライベートを切り売りしてツェツィーリア嬢に話すくらいは許してくれよな!!
「彼の故郷は帝国南方ハイデルベルグ行政管区西方のケーニヒスシュトゥール城塞にて禄を食むデューリンゲン騎士家が管轄するケーニヒスシュトゥール荘。豊穣神のご加護の篤い穀倉地帯。幼馴染と誓い合った将来の夢を果たすため、半妖精の妹を立派な魔法使いに育てるための丁稚奉公を終え、トラブルばかりの道中を越えて故郷に戻った彼を待っていたのは────」
「………よくご存じですね?? しかも私もまだ聞いたことないような最近の話まで……」
「ええまあ、うちの商会の支店を彼の地元にも置いてましてね。逓信業務の窓口もやってるのでもし私信を届けたいのでしたらお預かりしますよ?」
すかさず控えていた
「え、安すぎませんか、これ」
「まあ赤字ですね*2。とはいえ既存の商品配送ネットワークに乗せて集配しているので、そこまで大きく身銭を切っているわけでもありませんよ」
「………でもこれなら紙やインクの代金と合わせても、凡僧の私でも十分に手が届きますね」
「うちの支店が出店しているところまでなら
こりゃ使うっきゃないっすね! などと言うと、ツェツィーリア嬢も感心した様子。
「支店の数が増えればますます便利になりそうですね」
「ええ、鋭意出店数増加中ですとも。そうだ、エーリヒくんの近況について、ケーニヒスシュトゥール荘支店の者から最新の情報を報告させましょうか? それにもしタイミングが良ければ、支店の窓口を介して直接的に声や姿を届けることもできるかも────」
「…………。……………いえ、し、仕事中ですので……」
「そうですか」
このあとラドゥ律師から『監査対象からの便宜をきちんと断れて偉かったですね』と褒められるツェツィーリア嬢の姿があったとか。
マックス何某「よっしゃ、乗り切った!! まあファンブルしなければこんなもんっすわ!」
ラドゥ律師「(監視継続やな……)」
なお、別バージョンのヘンダーソンスケール1.5として、セス嬢の善性に脳を灼かれた子実体クローンが『光堕ち』する世界線もありえます(
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◆ダイマ!!
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