フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
この店主、この笑顔─── 胡散臭(うさんくさ)すぎる───!!
 
※孤独な反逆者ルート 補足
なお隣接世界線群の中では、セス嬢の善なるオーラに()てられて正義に目覚めた『孤独な反逆者』ルートよりも、イミツァ嬢とメヒティルト女史から『お嬢様最高!!』教を布教されて(※【いいくるめ】抵抗判定にファンブルして)宗旨替えする『乙女崇拝者(ドルオタ)』ルートの方が断然、派生可能性が高かったりします。でもどっちの世界線も(特に反逆者ルートは)マックス何某からセス嬢への矢印が重くなりすぎるから、原作カプ至上主義者な私としては舵取りが難しいし実装は厳し………ぁ、でもそしたらマックスくん♂をマクセちゃん♀にTSさせれば問題解決では??


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※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


再集結 編
33/n すりるじゃんきー -1(贅沢な悩み)☆AI挿絵あり


 

「最近、あんまり良い感じに魔法を使えてない気がするんですよ、ノヴァ教授」

 

「そう……でしょうか? 私にはマックス君は常に八面六臂、というか、縦横無尽の千人力で大活躍しているように思えますが」

 

 帝都は魔導院にて。

 

 塩沙漠(カヴィール)の蠍の国に建設する予定の『魔導院分院』に関するプロジェクトを進めている魔導師の師弟二人。

 

 一方は落日派ベヒトルスハイム閥の教授を務めるディーター・フォン・ノヴァ教授。業子(カルマトロン)なる要素を仮定することによる独自の運命学を操る凄腕魔導師で、かつ、他派閥や民間との調整にも能力を発揮する良識派(※落日派の中では比較的、という意味でしかなく、実際は魔導院の中でもマッドな部類だ)の能吏だ。

 

 

 そしてもう一方は、何を隠そう私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯である。

 上位階梯の存在から魔法に関する権能を与えられたものの心が折れて悪の道に堕ちたところをあえなく別口の転生者(金の髪のエーリヒ)の踏み台にされてしまった転生者のその肉体に、我が神 “もったいないおばけ” が三つの魂の断片をこね上げて突っ込んだリサイクル品でもある。

 その後、外道の長命種(アグリッピナ女史)の縁で(どんなえげつない手を使ったのやら知らないし知りたくもないが)ミュンヒハウゼン男爵家の養子として戸籍ロンダリングした私は、魔導院に入院後も順調に功績を挙げて、今や魔導宮中伯の補佐たる魔導副伯(マギア・フィ-ツェグラ-フ)に任じられた上に、帝国の物流を大変革するべく設けられた帝国隧道公団の総裁職として、隧道方伯(トンネル・ラントグラ-フ)の位を賜っている。何を隠そう、生きている超高速シールドマシンたる穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンタ-)の開発者は、そう私だ。

 

 そして皇帝陛下に斡旋された婚約者に逢いに東の国へと行くついでに、穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンタ-)で大陸横断トンネルを掘ったり、その道中で岩塩塊やガス田・油田を見つけて洋上メガフロートなコンビナートを作ったり、忘れられた腐朽の神の封印を突き破ってその使いである “冬虫夏草の使徒” に寄生されたり、逆にそれを取り込んでやったりして、東方砂漠に到着。

 婚約者であるアルビノの伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)ルゥルア・ハッシャーシュさんと出会い、仲を深めてやがて結婚。

 ハッシャーシュの部族を核にして、帝国の友好国とするべく首長国を立ち上げ、魔法で人工大河をその砂漠に流して緑化と運河交通の発展に寄与し、砂漠地帯の開発を推進。私は帝国からは東方大使にも任命されたし、先日、無事にルゥルアさんは十ツ仔を出産して、しあわせ家族計画は進展中だ。

 

 その間も塩沙漠地帯で魔導炉の臨界耐久試験を行うなどして、新型の閉鎖循環魔導炉の実用化に貢献。

 広大な塩沙漠をライン三重帝国としてホラサーン首長国から租借しており、これからそこを研究開発都市とし、魔導院の分院も建てる計画だ。魔導副伯としての上司であるあの極まった書痴のアグリッピナ・フォン・ウビオルム魔導宮中伯からも、東方の稀覯書を集積する図書館としての魔導院分院をさっさと作れとせっつかれている。

 

 さらに、冬虫夏草の使徒を調伏して共生させたことにより子実体分身(クローンキノコ)で物理的に肉体を増やした私は、戸籍上の妹にして脳髄で孕んだ娘でもある、極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)タチヤーナ(ターニャ)とともに、新たな次元界であり、発展中の妖精郷でもある “電界25次元” の開発にも従事。

 1兆度の火球を閉じ込めた魔導的ダイソン球は今日も電界25次元の宇宙(ソラ)で煌々と燃えている。

 

 あとは新式の魔導生命体である、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)のセバスティアンヌだが、東の土地でも相変わらずゲテモノ食いを極めつつ、さらに単為生殖で一族の数を増やしつつある。

 ハシシ=ミュンヒハウゼン家の紋章たる隧道鉄路上 大蠍支持 転輪飾盾の大紋章を背中に羽織った巨蟹鬼の戦士たちは、いまや沙漠の運河の守りとして、都市の守りとして欠かせぬ存在となっている。

 そんな巨蟹鬼ラーン部族の頭領にして、“津波の” という号を持つセバスティアンヌは、マヌルネコ系の仙猫娘の指導のもとで、拳法(外功)仙術(内功)を鍛え、ますますその武に磨きをかけている。

 

 やることは多く、手が足りないからと身体を物理的に増やしてまで対応し、しかしそのどれもが非常に充実している。

 それは間違いない。

 

 間違いないが、しかし……。

 

 

 

「順風満帆ではないですか。それなのに君は、何がそんなに満たされないのですか?」

 

 プリンが足りませんか? などと宣うノヴァ教授に対して、私は気づかいに感謝しつつ “ご遠慮します” と答えた。貰ったら貰ったでご自分の取り分が減るせいか若干悲しい顔をなさるし。

 

「各地で超々極早生小麦の作付も広まるとのことですし、北方半島の付け根を横断する運河を始め、各地の隧道や運河も工事に着手していますよね? 成果はこれから、というところでしょうに」

 

 他にも、写真術式の魔導具化による複写の簡素化に、高度汎用情報処理端末たる “ぱそこん” の開発と販売に、時間遡行魔導の解説書の作成に……と私の功績を指折り数える恩師のノヴァ教授。

 

「あとはスラムへのよろず買取店の出店に、衛生や栄養状況の改善もですか。マックス君はなかなか多才ですよね」

 

 道理でマルティン陛下の覚えもめでたいわけです、派閥に引き入れた私も鼻が高い、という彼に、私は自分の内心を吐露する。

 

「全てが上手くいっているからこそ、ですよ。教授。波乱が必要だと思うのですよね、こう、刺激が足りないと申しますか……」

 

 贅沢な悩みだと分かってはいるが、どこか物足りない───。

 停滞を感じているのだ。

 

「ああ! そういうことですか、マックス君!」 合点がいった、というノヴァ教授は、ポンと手を鳴らした。 「たぶん、貴方のお友達で運命値が高い子と離れたからじゃないですか? ほら魔導宮中伯の丁稚だった彼、騒動の星に愛されているあの金髪の」

 

 あ。

 あーーーー(深い納得)。

 なーるーほーどー。

 

 そうか、エーリヒくんが帝都を離れたからかぁ、この割りかし平穏無事な日々の理由は。

 何の根拠もないけれど、深い納得だけがそこにはあった。

 運命の流れに造詣が深いノヴァ教授が言ったことだからというのも理由ではあるが。

 

「まあ、ああいう運命値の高い者の近くではいろいろと面白いことが起きるものですからね。統計上の外れ値というやつです。もし刺激を求めるなら、その彼の近くに行くというのも面白いでしょう」

 

 件のその彼の居場所はご存じで? などと世間話で振られたのでそれに答える。

 彼の故郷は帝国南部で、その後は帝国西方で冒険者をするつもりらしいのですよ、と。

 

「なるほど。西ですか……確かマックス君も西で任務がありましたよね?」

 

「……その任務情報は秘匿されているはずですが。まあ、運命の流れを見れる方に言っても詮無いことですか」

 

「まあまあ。特に言いふらすつもりはありませんよ」

 

「それなら良いのですが。………もうご存じのようなので隠しませんが、私の任務はマルス=バーデン辺境伯家が治めるマルスハイム領に巣食う癌、土豪たちを一掃するための下ごしらえです」

 

「それであれば、そのエンデエルデ(地の果て)で冒険者となるあの金髪の彼と道が交わることもあるのでは? 君自身も冒険者になってしまっても良いかもしれませんよ」

 

「ははは、流石に冒険者というのは難しいかと。形骸化しつつあるとはいえ、“冒険者は国家間紛争に関与できない” という神代の制約はいまだに有効です。分身体を一つ登録して、もし万が一でも、全ての分身体がその制約にひっかかるようなことになれば、私は今後、帝国の魔導師(マギア)として戦争に参加できなくなってしまいます」

 

 これでも戦闘魔導師の称号も狙っているのですから。などと嘯く。

 

 実際、無血帝陛下(マルティンせんせー)も私のことは帝国の戦力として計上してくれてると思うし。

 もし仮にマルスハイムでの私のスパイ任務がそこそこ上手くいき、西方辺境の土豪どもが蜂起したならば、それらを撃ち払う際にはきっと魔導師としての私にも出番があるだろう。

 

 まあ最上の結果は、そもそも蜂起すらさせないことだが……しかし、蜂起をさせずに因縁を醸成させるよりは、血を流してでも清算するべし、というのが今回の西方辺境域における工作任務の方針だ。

 優先度で言えば、流血は二の次。

 獅子身中の虫である土豪たちを除くのに、帝国は多少の出血は厭わないこととしたのだ。外科手術でしか除けないのであれば、それをためらっていてはやがて手遅れになるがために。

 

 まあとはいえ、獅子身中の虫を除くためとはいえ、駆虫薬で済むならそれでよし。

 それでなくとも、麻酔をかけて内視鏡手術で済むなら、わざわざ腹を開かずともよし。

 取れる手段は幾つもあり、それらを組み合わせることで、患者(ていこく)の負担が減るならばそれをやらない道理は無し。

 

 このマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンの、密偵ロタールとしての任務もまた、無血帝マルティンⅠ世陛下の打った布石の一つに過ぎないのだろう。

 方伯などという己の身には過ぎた位に任ぜられようとも、今の私はまだ、政治の世界の怪物たちには全くもって及ばない、盤上のコマの一つに過ぎないのだ。

 指し手になるなど、とてもとても。

 

 

「………かなり頭が整理できてきました。そうか、そうですね、刺激を受けるために、スリルを味わうために、西の辺境に焦点を当ててみるとしましょう。ありがとうございます、ノヴァ教授」

 

「なんのなんの。スランプに陥った教え子を導くのも、師の務めですよ」

 

 ふふふふふ。

 ははははは。

 

 師弟で笑い合いつつ、私は遥か西へと思いを馳せる。

 

 帝国最辺境。

 西の果て。

 地の果て(エンデエルデ)

 

 もちろん帝都でのあれこれや、帝国各地の隧道掘削や運河開削に、はるか東の蠍の国の開発を疎かにするつもりは全くないが。

 きっと波乱が待っているとすれば、それは西の果てでのことなのだろう。

 




 
◆つまり今回は今までの振り返りかつ導入フェイズだったわけッス
魔法チート転生者マックス君(密偵ロタール)
「こんど皆で冒険しようぜ! 息抜きにさ! さあ行こう、ターニャ! スティー! ルゥルアさん!」

〈みえざるひかり〉極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)タチヤーナ(ターニャ)
「それならついでに生まれたての微小妖精を捕まえたりしたいですわ! どうせすぐ生まれたり消えたりする微小妖精なら女王も気に留めないはずですし! 人口はパワーですもの、レッツ富国強兵! おいでませ、電界25次元へ! あ、あとフィールドワークで点数稼がないと、妖精郷に入り浸り過ぎて、ちょっと魔導院の成績が危ういかもですのよ……」

巨蟹鬼(クレープス・オーガ) “津波の” セバスティアンヌ(スティー)
「最近は護衛としての仕事もできていなかったしな。滅多に食べられない食材が手に入ればなお良いな。いつ出発する? もちろん私も同行しよう。ついでに強者にも巡り合えれば最高だ」

真珠の巫女姫 伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)ルゥルア
「そう、ですね。首長国の運営も軌道に乗ってきましたし、ぶらりと帝国を旅するのも良さそうです。マックスさんと一緒であれば、なおのこと。時々は十ツ仔の様子を見に転移で首長国の聖塔(ジグラット)に戻るかと思いますけれど、それでよければ……。(……沙漠管轄のマックスさんの転移で送り迎えされて、帝国西方管轄のマックスさんと旅をするのは、これは、何と言えばいいのでしょう。相手は同じマックスさんなので浮気ではないと思うのですが……)」

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◆ダイマ!!

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……この表紙の娘さん方五人衆、チーム名は一椀党(ひとつわんとう)、って言うのですね。エーリヒ君が更待 朔のころのセッションの回想で出てきた、食器を用意できずに一つのカップを回し使いして食事したとかのワンカップクランなる一党の話があったはずですが、関係があるのでしょうか。
 

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