フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆鎧の付与術式について
エーリヒ「この鎧の付与術式ってオンオフできないか?」
マックス「できんことはないけど、なにゆえ」
エーリヒ「普段からこれだと訓練にならん」
マックス「ああ、なるほど。……ほい、調整したよ。オフにしてた間の経過時間にもよるけど、次回起動時には溜まった魔力で瞬発的に効果が強く出るようにもしといたから」
エーリヒ「おお! ありがとう。ところで修復素材には何を使って……」
マックス「あーあーあー、いーい天気だなぁ~~」
……極まった器用度で回避してくる上にそれを搔い潜って攻撃を当てたら「ふっ、この呪われた鎧の力に頼らざるとえないほど追いつめられるとはな……」とか言いながらギミック起動して瞬時回復して、以降ずっと魔力・スタミナ・HPに自動回復バフがつくやつとかクソボスでは? しかも魔力の自動回復分や、スタミナの自動回復分で実質ノーコストで常に小技放って撹乱してくるんでしょ。で、小技を受けたら受けたでそこを起点に致命コンボに繋がるやつ……やっぱりクソボスでは?
◆前話
食品安全性確認、ヨシッ!
アグリッピナ氏の滞在はまだまだ伸びそうだ。
完全に書痴モードになってる。
エーリヒも気を揉んでいたな。
まあこの世界、活版印刷がまだないから、書物との出会いは本当に一期一会だ。
財力があれば、“とりあえず買っとけ” で正解ではある。財力があればね。アグリッピナ氏はほら、実家である隣国の貴族家がめっちゃ太いから。
あと、考えたがやはり、暫くはエーリヒ君の異世界関係のことは触れないでおこう。
私の方は執拗に隠す気もないが(異世界からの落人は、多くはないが存在するし)、エーリヒ君が隠したがっているならこちらから触れることでもあるまい。まだそこまで踏み込んで話をするほど親しくもないしな。
秘密を打ち明け合えるくらいに親密になれればそのとき考えればよかろう。……問題の先送りともいう。
ともあれアグリッピナ氏の逗留期間が延び、時間が空いた私は、今日も今日とて古本市を散策をしている。
さすがに記載情報取得術式を使って売り物の本の内容を立ち読みすらせずに丸コピするのは控えているが。ちょっとそれは
ちなみに今日のお目当ては、服飾や彫刻、装飾関係の本だ。
虚空の箱庭の薬草園や農園を増強しているから、品種改良した綿花から綿が今後継続的かつ大量に手に入る予定なのだ。
エミュレータで農業系の検証をしていた時の副産物で手に入れた、魔素になじんだ蜘蛛や芋虫の遺伝子をベースにそれらの種の使い魔化も進めたいと思っているし、今後は手に入る繊維のバリエーションも、その綿や私の髪の毛以外にも増える予定だ。
なお蟲系の使い魔の作成については、それに関するマルティン閣下の論文を美味しいお野菜の恒常的な献上と引き換えにアグリッピナ氏の蔵書から貸してもらって確認したので、ある程度目処が立っている。解読にはもう少々時間がかかるが、それもエミュレーターによる時間加速が解決してくれそうだ。
生物系である使い魔は手間がかかるのが常識だが、私の場合は魔導炉を使い魔に搭載させてそこからあふれる魔力によって空気などからの栄養取得を可能にさせる術式があるので、世話も楽だし他の魔法使いよりもだいぶ恵まれている。
……だが魔法チートでも、センスばっかりは手に入らないのだ……。
少し長い滞在期間に、折角だからとターニャの服の仕立てもこの街の仕立屋に頼んでいる。魔導院の受験にもまともな服が必要だ。
だけど、あの子わりと普通に自分の
そういった時に即時対応できるようにある程度は自分たちで作れるようになっておきたいところだ。
え? ターニャなら自前の『不思議な光』でホログラム被せるみたいに隠せるだろうって? ―― まあっ、うちの子を痴女になんてさせませんからね!
あと裸よりも服を着てた方が単純に
「というわけで店主、絵入りで服や装飾品やなんかが解説されているものがあればいいのだが。特に礼服で」
「でしたらこちらはいかがでしょう。10年ほど前のものですが、主な礼服のトレンドが載っております。貴族の側仕えの方の教本としても使われておりましたよ」
「へえ。少し古い流行りかも知れないが、十分良さそうだな」
帝国の服飾の流行については複雑で、新しもの好きの貴族がパリコレみたいな奇抜な服を開拓する一方で、非定命種族は人によっては何百年も前の自分のスタイルを貫くからな。
だから礼服も、これが正解とかはない。
……何なら『不思議な光』で要所を隠すだけのやつも、『私は自分の肉体が一番美しいと思っているので隠した方が礼儀に悖る』という理由で強行しようとした
「あとはこちらなどもいかがでしょうか。工房が貴人に売り込みに行く際の
「豪華なつくりだな」
「貴人向けですからねえ。捨てられるのも忍びないということで仕入れて並べさせていただいているんです」
「なるほどな。じゃあここからここまで全部いただこうか」
「あっ、はい! まいどありがとうございます!」
箔押し総天然色のカタログを、ざっと一通り買っておく。
私にセンスがなくても、自前で作るときは丸ごとコーディネートやデザインをコピーしてしまえばいいのだ。
……意匠権とかで文句つけられたら少し考える必要があるだろうが。
そういえばアグリッピナ氏が手配してくれている貴族籍が手に入ったら、そこの紋章とかも覚えとかないといけないかな。
さ、服飾やアクセサリの関係は、普通に仕立てる分と虚空の箱庭で
あとは自分でもある程度は技量を身に着けたいから練習用のエミュレータ作ってその中で積ませた経験をインポートするかな。
……うん両方やってみよう。
それかエーリヒ君がとても器用だから、アクセサリ関係は彼に造ってもらうという手もあるな。もちろんお金は支払うとして。
暇そうなら頼んでみても良いかもしれない。
買った本を虚空の箱庭に転送し、私は古本市をさらに散策することにした。
掘り出し物を探して。
「で、見つけたのがこれだ。エーリヒ君」
「ねえ? なんでそれを私に持ってきた? ねえなんで?」
「見ろよこの如何にもな装丁。禍々しい魔力と、今にも弾け飛びそうに劣化した封印帯!」
「私の眼を見て答えろ」
―― だって金に困ってそうな割といいとこの出自っぽいお嬢さんが家訓で代々封じ続けてるけどもはや封印維持を魔法使いにお願いできないくらいに没落したし最後に残った財産はもうこれだけだからこれを売るしか金策がないんだって顔しながら厄物抱えて方々の古書店でお断りされてしょげてたら君だって買い取ってあげるだろ?
残念ながら私とは恋愛フラグは立たなかったが。
「マスターのところへ持って行けよ……」
「それもそうなんだがね。
……あと君もこういうの好きそうだと思って」
「ぐっ、確かに否定はしないが」
だよね。
冒険好きだよね、エーリヒ君はきっと。
そうじゃなきゃ
「占見術式で
「なあそれ私は必要か?」
「別に居てくれなくても良いけど、手伝ってくれて何か素材が手に入ったら売値の半額渡すよ」
「それを早く言いたまえ」
エーリヒは言をひるがえして同意した。
彼は半妖精の妹エリザの学費を稼ぐためにもお金が必要なのだ。
いや、エリザの学費だけならアグリッピナ氏が立て替えるのだが、それはエーリヒの借金扱いなので、それを返済し終えるまで年季が明けないのだ。
早く冒険者になりたいエーリヒは、こういう誘い方をすれば稼ぎの機会をふいにしないだろうと見込んでいたが、当たったようだ。
「じゃあ早速準備だ。結界からだな」
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今いるここ、宿の裏手を魔導的に隔離し、万一にも被害が出ないように入念に保護をかける。
「……なんか大仰な結界が張られたのが見えたんだが」
「効率化が苦手でねぇ。だからこそ魔導院できちんと学びたいんだけど。
それよりも、じゃあこれからいよいよ封印を解こうか。……何が出てきても良いように構えたまえよ」
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呪われた魔本にかけられていた封印が弾け飛び――― その中から悍ましい呪詛の塊が飛び出した!
魔法を読み取る私の眼が瞬時にこの呪詛を解析する。
どうやら血族殺しの恨みつらみを込めた呪詛を捕まえておいたものらしい。
もとはヒトの姿をした幽霊だったのだろうその呪詛の塊はなんとも曰く言い難い形状に次々と変貌しつつも、結界の外へと―― おそらく標的である一族の末裔であるこの魔本の元の持ち主の女性の方へと―― 向かおうとする。
通さないけどね。
「まあ、なんだ。とりあえず大人しくしたまえよ」
先ほど解いた封印が再利用される形で魔力の帯となり、さらに私の魔力を追加されて、呪詛の塊へと絡みつく。
そして完全にその動きを封じた。
動きを封じた呪詛の表面に、幾つかの光点を浮かび上がらせる。マーカーだ。
「というわけでエーリヒ君。君の技量であの光点を私の言う順序で斬ってほしいんだ」
「それは構わないが……そもそも切れるものなのか?」
「ああ、その長剣で切れるか心配してるなら、問題ないよ」
付与魔法も掛けるし、エーリヒ君の眼の解析能力にも増強魔法掛けるから、呪詛の魔法構造も見えるようになるはず。
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これでいけるでしょ。
「お、何かよく見える」
「じゃあ順番通りによろしく。上手く斬れれば想念・妄念を衝撃で組み替えて呼び起こして結晶化させられるはずだから」
順番に存在骨子へと正確に切れ目を入れてやることでその魂を揺さぶってやって、その衝撃で疑似的に強い思いを抱かせる―― 思い出させる。
思考が魔力と一体化しているからこそ、魔力を切れば引きずられて思考も揺さぶられる。
ゆえに正確に魂を揺らしてやれば、斬撃で百の言葉よりも雄弁に説得できるはずだ、理論上は。
それによって存在の残滓を結晶化できる確率が大幅に上がるはずなのだ……魔法チート感覚的には。
結晶化が成功すれば稼ぎがとてもいい感じになる。
レアな現象だから結晶をアグリッピナ氏に売っても良いし、私が買って何かの材料にしても良い。
元が人間の幽霊でも、さすがにこんな呪詛になり果てたなら戻せない。
ヘルガ嬢のときとの違いは、ヘルガ嬢がギリギリ成り果ててなかったのと、一方でこの呪詛は成り果ててからかなり時間が経っているという点だ。ヘルガ嬢も少し処置が遅ければそうなっていたが、半妖精だったがゆえだろうか、あるいは彼女の精神の強さゆえだろうか、呪詛に成り果ててはいなかった。
だが、コレは手遅れだ。魔物と化した魔種と同じく。
ならばせめて
というわけで、エーリヒ先生、よろしくおねがいします!
私じゃ器用度が足りないから上手く施術できないの!
エーリヒ君は逡巡したが、やがて吹っ切ったように了承してくれた。
「……もうこれは助からないんだな。―――さて、私は“どぉれ” とでも言えばいいか?」
きゃー! 稀代の魔法剣士さーん!
「……茶化さないでくれ。じゃあ行くぞッ! ふっ、はっ、せいっ!」
エーリヒ君の見事な三連撃が呪縛された呪詛の塊を切り裂き、その思考に衝撃を与え、揺さぶった。
いいね、施術が成功して、呪詛が一瞬だけ人間の顔を出した。
呪詛のもとになった幽霊が、魂を揺さぶられて呪詛化したその当時の激情を思い出したのだな。だが己の存在の始まりを取り戻してももう遅く、既にその呪詛の存在骨子はエーリヒの三撃目で破壊されている。あとは崩れ行くのみだ。
では行動に移ろう、せめてこの存在の欠片をこの世に留めるために。
……よし、いまだ!
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封印術式と結界術式ごと凝集させ、核を失って霧散するばかりの呪詛の霊体を圧縮していく。
骨子を失った構成要素を組み替え、結晶させるために。
……成功だ。
「さっきの呪詛が結晶したにしては綺麗だな、マックス」
「ああ。上手くいって良かったよ、エーリヒ君」
私が拾い上げたのは、真珠ほどの大きさの赤い結晶体であり、それを見たエーリヒの感想どおり、妖しい美しさをしている。
もちろん、相応の力が込められているゆえだ……。
ようし、これにて金策成功! エーリヒ君と山分けしても利益は十分だろう。
呪詛が抜けた魔本も封印術や呪縛術の教材にできるし、とても良い買い物だった。
もうすぐこちらの気配を察知したアグリッピナ氏が空間遷移でやってきそうだし、そのとき買い取りをお願いしてみよう。
チート暴露は先延ばし……マジでどんな化学反応起こすか分からんので、アイデアが固まるまでお待ちください(好感度もお互いに足りてないしという理由付けしつつ)。
◆呪詛結晶体(独自設定)
原作小説2巻でヘルガ嬢が残したものとは同系統だが似て非なるもの。
より攻撃的な想念が凝り固まったものであり、剣などに付与するのに向く。
今回においては単なる換金アイテム。その質の関係で山分けするとエーリヒ君の取り分はエリザの学費1年分くらい。
◆構成骨子の切断
肉体を持たない妖精や死霊でも、その存在を構成する核があり、それは弱点となる。
剣士特化エーリヒ君(ヘンダーソンスケール1.0 ver0.1)が最終形マックス君を殺し得る方法がこれだろうと想定。障壁も何もかんもを、神域級の剣術と寵児級の器用さで神業的に切り捨て、数多ある肉体のストックを無視して、魂そのものを斬断することで死に至らしめる。
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古本市で厄い本に邂逅するエピソードを書きたかっただけとも言います。
膨らませようとすればすごい量になるけどいい加減帝都に行ってもらいたいので
次こそ帝都だ!