フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
帝都から北方半島横断運河*1を視察しつつ、湧いた魔宮を潰したり、妖精を調伏したり、土地の美味いものを食べたりしつつ、西の果てを目指す、
同じころ、マルスハイムでは英雄級冒険者である聖者フィデリオの一行も同じ怪物をターゲットに冒険に出発しようとしているようで────?
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※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり
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「
巨蟹鬼セバスティアンヌが情報収集特化の子蟹を生み出して、それらに隊伍を組ませてローラー作戦を展開させ、集めてきたその情報を元にやってきたこの場所は、一見すると何もない荒野だった。
だが私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ・ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯の常駐式感知魔導は見逃さない。
巧みに空間をずらして、あるいは基底現実の裏側に張り付くようにして隠蔽された魔宮の存在を。
異相空間を中和する術式を走らせる。対抗魔導は極夜派の得意分野だが、落日派であっても使えなければこの巷ではやっていけない基礎技能でもある。
一瞬だけ敵の隠蔽結界術式と私の中和術式が拮抗したが、それは刹那のこと。
この異相化結界を解析し、それ専用の術式に仕上げた私の中和術式が負けるはずもない。
「おおかた、侵攻の橋頭堡にできるまで隠蔽して力を貯めるつもりだったのだろうが、そうはいくか」
私の術式が、空間を歪めていた魔力を拭き払うと。
そこにはなんとも悍ましい光景が広がっていた。
「肉と眼玉で捏ね上げられた要塞、といったところだな」 と
身の丈は2階建ての建物と同じかそれより高いくらい。小さな教会と並んでも見劣りはしないだろう。
主に抗魔導と反神威を込めた具足によって全身を覆っている彼女のコンセプトは、『ガチンコ強制』である。搦め手を許さないという絶対の意思を感じる。
「わ……こちらに気づいたみたいですよ」 と言ってさっと私の後ろに隠れたのは、妻である
背負った巨大な神弓は、伏せた体勢で、背側に生えた蠍のハサミで構え、蠍の尾で引くことで、バリスタのごとき威力を発揮する。待ち伏せからの一撃は、暗殺部族の得意技だ。
常の沙漠の薄着ではなく、帝国の春の気候に合わせた上品な服と外套を纏っている。いずれも私が刺繍して魔導と奇跡を込めたもので、そこらの革鎧よりも頼りになる防具だ。
さて、彼女の言葉の通り、異界の大眼玉による作りかけの要塞は、こちらに気づいたようだ。
蠢く巨大な肉塊の要塞に無数に浮かび上がった目玉が一斉にこちらに焦点を合わせた。
「うっわぁ、気持ち悪い。シンプルに気持ち悪いやつですアレ、おかあさま」 と今にも
おそらくは異界からの侵蝕によって法則が狂った魔宮に対して、自然の化身たる妖精の部分が本能的な忌避感を抱いているのだろう。
その顔は嫌悪によって微かに歪んでいた。肉の身体を得て数年経ってターニャも感情豊かになったものだ。
感慨にふけっている暇は無かった。
微かなうめき声が後方から。それは身の回りの世話のために同行させていた
「……邪視と瘴気にやられたか」
「うぅぅ、マスター、申し訳ありません。我々のレベルでは抵抗ができず」
「ふむ」
あの大眼玉の魔宮──── 『邪視の魔宮』は、並大抵のものではないということなのだろう。
顔を青くするホムンクルスたち。その一部の肌には、大きな疱瘡のようなものが浮かび上がり、弾けたかと思えば……その下からギョロリと蠢く目玉が姿を表した。
「邪視による感染と変質。なるほどな」
私たちは抗魔導、あるいは消去の奇跡によって邪視の影響は中和している。
だが力負けすれば、このホムンクルスたちのように、あの肉と目玉によって捏ねられた要塞と
一部の英雄級の人間でなければ生き残れない、何とも悪辣な呪いだった。
これは正しく、異界からの侵略であり、世界の危機だ。
だが、こうして実際に目の前で感染し、変異する最中のサンプルが手元にあればなんとでもなる。
私は、内蔵した簡易魔導炉を限界まで酷使して呪いの感染による肉体の変容に抗うホムンクルスたちへ、“生かさず殺さず” 程度に
「空間転移門を開く。虚空の箱庭で治療を受けつつ、基底現実エミュレータにデータを投入し、エミュレータ内を擬似時間加速。呪いの全容を解析し、フィードバックを受けろ」
「りょ、了解です……」
「結果が出るまで5分くらいだろう。なに、死ぬことはない。見殺しにはしない。そんな
転移門を開き、傷病者を落とす。
転移先の虚空の箱庭では、既に搬送の準備が整っているだろう。
ホムンクルスたちの表皮に既に開眼してしまった目玉にも、感染する邪視の力がすでにあるかもしれないから、転送に当たっては、内向きに遮断や封印の概念を付与した障壁を纏わせておく。パンデミックは勘弁だ。
と、結果が出るまであの邪視の魔宮の侵蝕を抑えようと、そちらを振り向けば。
こちらを見ていたはずの目玉の群れのおおよそ三分の一が、あらぬ方向を一心に見つめており。
また三分の一がこちらを見たりあちらを見たりと忙しなく動いていた。
残り三分の一は相変わらずこちらを凝視している。
「主殿、どうやら逆方向から別の攻略者が来ているようだ」
なるほど、さもあらん。
「恐らくは近隣の冒険者だろう。世界の危機に駆け付けるのは、神代からの冒険者の本懐」
そういった
「つまり競争というわけだな? 滾るじゃあないか。そうだろう、主殿」
「見つけたのはこちらが先でしたし、後れを取るわけにはいきません! そうですよね、おかあさま」
「異国の地とはいえ、民草に被害が及ぶ前に封じるのは巫女の務め。行きましょう、マックスさん!」
やる気満々の三人に引きずられるように私たちは邪視の魔宮へと歩みを進めることとした。
………あと少し待ってれば、邪視の呪いを解析し終えて、私の中の “冬虫夏草の使徒” に
「………こちらは何とでもなるが、逆側から来ているらしき冒険者は平気だろうかね………。ま、攻略を進めていけば途中で会うかもしれないが」
「見られているなあ……鬱陶しい」
邪視の魔宮の中へと押し入った私たちを待っていたのは、脈打つ肉の壁と、その表面に浮かび上がりこちらを見つめてくる大小の無数の目玉たちだった。
効きもしないのに呪いを載せた邪視は相変わらずだ。まあこちらのリソースを圧迫する役には立っているか。対策しないわけにもいかないしな。
目玉たちは都度都度潰しているが、次から次へと湧いて出る。おそらくは監視のためでもあるのだろう。情報を掴ませるのは上手くないのだが。
「………先行して斥候に出ても、直ぐに地形が変わりそうですね」
「突出するのは非推奨だね。斥候に出た瞬間に壁がせり出して孤立させられそうだ」
尋常の魔宮であればルゥルアさんに斥候に出てもらうのもセオリーだが、文字通りに生きた魔宮ともなれば、そもそも斥候に意味があるのかどうか。
「
「そして焼けて硬くなったところを我が武でぶち抜こう。………喰ってみても旨いかもしれんな」
「ぇえ~? スティー、流石にそれはどうかと思うわ」
「意外といけるかもしれん。………言ってたら腹が減ってきたな」
こんな時にもゲテモノ食いの趣味は抑えきれないのか、そういうや否や魔宮の壁を神銀の
瘴気やそれの発生源である魔宮の壁を食べても、魔晶が穢れて魔物に落ちる心配はない── スティーの魔晶は巨鬼のものと大蟹のものの二つあり、穢れを大蟹の魔晶に押し付けることで魔物に堕することを避けている── からといって、ちょっとアグレッシブすぎる気がしなくもない。
まあ、私からの魔力供給で賦活しているから、もし侵蝕や毒素があってもリカバリーは利く。味見を止めるほどではない。
セバスティアンヌは、ターニャのオーロラで
味わうように咀嚼し、呑み下す。
「うむ。意外とイケるぞ」
「マジか」
「次は目玉を試そう」
そう言うセバスティアンヌの意図を酌んだターニャが、背中のオーロラの翅を震わせた。
すると、少し先の壁でギョロギョロと動いていた目玉の群れが、急に滅茶苦茶に動き出したかと思えば、今度は動きを止めて白濁し始めた。中には弾け飛ぶものもあった。
「マイクロウェーブによる電磁調理か」
「……通じるか分かりませんでしたが、意外とこちらの世界の法則に則っているのでしょうか」
「まだ浅い層だからだろう。奥に進むとどうなるか分からないぞ」
私とターニャがそんなことを言っている間に、セバスティアンヌは鋭い爪の生えたオーガの指で、電磁波によって茹で上がったホカホカの目玉を器用につまみ、壁から引き抜いた。
「不思議な弾力だ」
そして指ごと舐るように口に放り込んだ。まだ熱々のはずだが、オーガの口腔内はその程度で火傷するほど
「ふーむ。なるほど……。弾力と食感が良いな。とくに
味付けには一考の余地があるが……などと完全に
「食あたりしないように、呪いを浄化する薬液を調整して分泌しておきましょうか」
「ルゥルアさん、ありがとうございます。多分心配はないと思うんですがね」
「まあ、念のためです」
そう言って、腰から伸びる蠍の尾の先から、神の奇跡を込めた薬液を滴らせるルゥルアさん。
私はすかさずそれを小瓶で受けた。
「スティー! これを」
「おお、かたじけない、主殿に奥方殿!」
「いえいえ。どういたしまして、スティーさん」
浄化の薬液の入った小瓶をセバスティアンヌへと投げ渡す。腹が痛くなったら飲むだろう。
その時、邪視の魔宮を揺らすような、微かな振動を感じた。
「………揺れた。どうやら別口の推定冒険者たちも派手にやっているようだね。こちらも急ごうか」
「そうですわよ。スティーもほら、食べてばかりいないで!」
「ああ分かった分かった。………そうだ、主殿。この先、道が狭くならんとも限らん。空間拡充のベールをお願いしたいのだが」
「ああ、それは必要だな……どれ────」
〈
巨蟹鬼の巨体は、魔宮の探索には不向きだ。いやまあ、全てを暴力で破壊しながら進めばそれでも良いのだが、今回は別の方法を取る。
具体的には、狭い場所に入ろうとしたときに、空間を誤魔化して壁や天井を退けさせる術式を付与するのだ。はたから見るとセバスティアンヌに迫った壁や天井が、まるで魚眼レンズに歪められたかのようにグニャリと変形してスペースを空けるのだ。もちろん限界はあるが。
それでも、私たち普通の
「それじゃあ気を取り直して、進もうか。この先はきっと魔物も出るだろうし、気を付けていこう」
◆聖者フィデリオ一党による『邪視の魔宮』探索
「ゼーナブ! 壁を喰うな! さっさと行くぞ!」 鼠人である風読みのロタルが、屈んでいた寄食のザイナブの尻を蹴っ飛ばした。
「痛かりし。なにするか、ロタル」 削った壁の肉を呪術で枯死させて即席の干物にした褐色肌の長命種、ザイナブがその魔宮肉のジャーキーを口に入れながら抗議する。
「素が頑丈なヘンゼルや、奇跡だの呪術だので平気なフィデリオやてめえと違うんだよ、こちとら! さっさと行かねえと集中力が持たねえ!」 どうやらロタルはその並外れた隠形の術で、魔宮の全ての目玉の邪視の視線から外れているらしい。純然たる技術でそれを成すのは並大抵ではないが、疲労が嵩めばどうなるか分からない。本人としては早く進みたいところだろう。邪視避けのアミュレットも持ってきているが、こんな序盤から使っていては肝心の終盤で壊れかねない。
「魔除け、すぐできる。肉の触媒手に入れし。肉の霧まぶして誤魔化す、できる」 それに対してザイナブは口の端からはみ出た魔宮の肉のジャーキーを指差して告げた。それを触媒にして、魔宮の認識を誤魔化すことが出来るのだという。
「やめろ、それは鼻が利かなくなるやつだろ」
「肉の霧纏うゆえ、いたしかたなし」
「じゃあダメだ。さっさと急ぐぞ」
「むぅ。分かったゆえ蹴るな」 べしべしべしとさらにケツを蹴るロタルに押されて、ザイナブが重い腰を上げた。
彼らの前の方では、梵鐘砕きのヘンゼルと聖者フィデリオが待っていた。
「僕が思っていた以上に邪悪な魔宮だったようだ。ここで必ず滅ぼさなきゃならない」 全身鎧に大盾、そして槍。完全武装の聖者フィデリオがうっすらと陽光の気配を纏って決意を露わにする。
「でもまあ奇跡は温存だろぉ? まずは地に足つけて、腕力の出番だぜ。よぉっし、じゃあいくぞー」 ヘンゼルが得物の戦鎚を振りかぶり、そして目玉が蠢く肉の壁に叩きつけた。
次の瞬間、轟音とともに魔宮が揺れ、目玉が潰れて肉が弾け、その壁にぽっかりと
「がはは、この手に限るぜ!」
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原作コミカライズ版の9話が更新されてます! エーリヒ君とエリザちゃんの出立! 皆さんチェックですぞ!
https://comic-walker.com/detail/KC_003092_S/episodes/KC_0030920001000011_E