フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
無限にリポップするトループモブ*1とか相手にしてらんねーぜ!!
そして奥に行くほどに世界の現実離れは進んでいく……。もはやこの地はこの世に非ず。
===
※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり
「マックスさぁん……」
「ルゥルアさん……」
迷宮の真ん中で愛妻と抱き合う私、マックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン
ここは『邪視の魔宮』の奥深く。
そんなところでなんで私たちが名残惜し気にイチャついているかというと……。
「最後までご一緒できず、無念に感じております」
「ルゥルアさん、そんなに気を落とさないでください。これより先はまさに危地。万が一にも貴方を失うわけにはいきません」
「マックスさん……!」
『邪視の魔宮』の最後の最後まで同行しようとする愛妻にして沙漠の
私は彼女を抱きしめ、彼女の背の甲殻や中眼を撫でて落ち着かせ、耳元で甘やかに囁く。
「愛していますよ、ルゥルアさん」
「私だって……愛しています」
「だったら、ここは退いてくれますね? これも末永くともにあるため。貴女の命は掛け替えがないのですから………私たちの命とは違って」
「………分かりました。残念ですが、私では力不足なのも事実ですし、一族のことを考えても、ここで死ぬ訳には参りませんものね」
残念ながら、この先の戦いに連れていくわけにはいかない。
流石にリスクが高すぎる。
本来であればもっと早い段階で帰還させていても良かったくらいだ。
それが叶わなかったのは、邪視の力が満ちた迷宮奥地では空間を超える転移の魔術が不安定化していたせいだったのだが……。
まあ、それもこの『邪視の魔宮』の主── 仮称、
「おかあさま! 尖兵の数が減りましたわ」
「主殿! すぐに次の『
抱きしめ合う私とルゥルアさんを守りながら戦闘していた
周囲の壁は肉というよりも幽体めいたナニカとなり、その半透明に透けた中に無数の目玉がまるで星のように漂う。そんな狂った宇宙空間のような有様になってきた通路、そこで戦う彼女らの言う通り。
積極的にこちらを襲ってきていた、大目玉と触手の化け物である『邪視の魔宮の尖兵』の群れは、この星空めいた空間と化した通路にその中身をぶちまけられ、あるいは
………ちなみにこのように地上とは思えない、宇宙か星空かというような様相を示すほどに、こちらの世界の基底現実の法則が
「ルゥルアさん、それでは敵の次の『
「はい」
「沙漠の方の私にもよろしく」
「はい……! 御武運を……。吉報をお待ちしています! どうか貴方に蠍の神のご加護があらんことを───!!」
ルゥルアさんの祈りによって私たち3人に
次の刹那、異界法則の充満によって星空めいた異空間と化したその通路を埋め尽くすほどに漂っていた、大目玉の
「来るぞ、主殿!」
『
魔宮の主である
通路に浮かぶ全ての目玉が閉じられることにより、敵による現実改変作用は一時消去され、再び目を開けた時に再発動。それにより盤面は全てリセットされるのだ。しかもその繰り返しに限界はなく、それこそ無限に尖兵たちは復活するのだ。
だが、視ることにより邪視を投げる
一方でその瞬間だけは、恐ろしく強大な
それはこちらにとっても、態勢の立て直しのチャンスとなる。
〈
〈
私は魔導によって時間流を操作し、周囲の邪視の目玉が瞬きで瞑目しているこの瞬間の、主観的な体感時間を引き延ばす。
そして同時に時空門を開き、ルゥルアさんをそちらへと送り出した。
離れゆく彼女の唇に、軽い口づけ。名残惜しいが、ここでさらばだ。
「では頼んだ、沙漠の私」
「ああ任された、遊歴の私。ああそれと、これが仮称『
開いた空間転移門の向こうから伸びる手が、ルゥルアさんの白く輝く身体を後ろから抱きしめるように捕まえる。11次元を渡るための保護術式がルゥルアさんの身体と精神と魂を覆うのが見えた。
その手の持主は、沙漠で東方大使にして首長の配偶者として一帯の総督をしている私の子実体クローンだ。
同時に『邪視の魔宮』に突入する前に送った、邪視に感染した被験体の
虚空の箱庭の現実エミュレータ上で、何十倍にも時間の流れを加速して得た貴重な成果だ。
きっとこの先で
「ツぅ……結構なデータ量だ。ガツンと来た」
「まあ多少はな。……さあ、結果を期待してるぜ、遊歴の私よ」
一瞬であまりに膨大な情報を叩き込まれたためにクラクラするが、その程度は必要経費というものだ。
そうこうしているうちにタイムリミットが迫る。
再び周囲の目玉たちが開眼するまで、時間流を操作しているとはいっても、あと幾ばくも無い。
私はほとんど止まった時間の中で、ターニャとセバスティアンヌの身体に手を触れ、強化魔法を施す。
〈
さあ、鬼の居ぬ間に、ではないが、魔宮の主が眼を瞑っているこの一瞬の間であれば、転移は可能。
目的地も、ここまで奥地に入り込めば肌で感じられる。
最も歪みが酷い地点へ飛べばいいのだ。
〈
直後私たちの姿は掻き消えた。
再び目を開き『尖兵』の群れを投影した端末の視界には、何者も居なくなった虚空が映るのみ。
「………ご到着、と」
「あらまあ壮観、と言えば良いのですかねえ、おかあさま」
果たして予想通りと言えば良いのか。
空間遷移でこじ開けたその先。
『邪視の魔宮』の最奥には、巨大な、巨大な、巨大な──── 三度重ねて強調しても足りないほどに巨大な『眼』があった。大きな教会の鐘楼の、さらに倍ほどの直径があるだろうか。*2
巨大すぎて壁にしか思えないそれは、しかし、どうしてか『眼』だとしか思えなかった。
いや、あるいは私たちの脆弱な常識が『眼』であると認識しているだけで、実際は全く異なる姿であるのかもしれない。
何せそれは、世界のひび割れの向こうから覗き込んでくる、この世界の存在ではないナニモノかなのだ。
眼で見ているとは限らず、あるいは見えているそれは全く別の器官なのかもしれない。
それとも、本来全く異なる姿のものが、私たちが認識するに当たって変質して、そう見えているのかもしれない。私たちの持つ常識という
「先客が居るようだ。攻略競争は我らの負けか」
まるで夜空か星空か、といったこの最奥の空間だが、見えない足場があるのか、
恐らくは私たちの逆側からこの『邪視の魔宮』に入った冒険者一党なのだろう。
「転移してきた私たちより早く最奥に到着しているとはねえ……。流石は推定 “神託によって導かれし英雄級の冒険者”」
「………というよりも向こうの斥候が優秀だったということなのではないか? 主殿」
「あー。確かにスティーの言う通りか。私たちの一党の斥候といえば、私の魔導のゴリ押しか、スティーの獲物追跡術か、ルゥルアさんの暗殺部族仕込みの対人隠密術くらいで、魔宮や迷宮の探索に慣れてるわけではないものなあ。ターニャは、師匠のバンドゥード卿の付き添いのフィールドワークでダンジョンアタックの経験も豊富だろうけど、結局は私と同じで “月光蝶の翅” のゴリ押しだし」
「ですわねぇ。今日だって、おかあさまの魔導探知に反応して現れた尖兵の群れに囲まれたことも一度や二度じゃありませんでしたものねぇ……。しかも袋小路で」
「先を越されるのもむべなるかな。まあ我としては敵の群れを挽き潰すのも心が躍ったから良いのだがな!」
「いやいや、普段はそれだけ手札があれば充分なんだよ。向こうさんの斥候の腕前が異次元なだけだよ。………たぶん」
実際、先客たる別口の冒険者な彼ら4名の戦いぶりは見事なものだ。
先頭で戦っているのは、見事な鎧具足を纏い、片手に馬上槍を、もう片手にはタワーシールドを持つ騎士………いや、奇跡の気配もあるから聖騎士、か?
………って、槍も盾も片手で構えるには大きすぎる得物だろうに。
あの鎧の中身はどんだけマッチョなんだ……? 品評して私の頭上から声を落とすセバスティアンヌの見立てによれば、奇跡による自己強化頼りで装備しているのではなく、素体の能力値も技量も鍛え上げているまさしく英雄に相応しい男なのだという。
「
そしてさらに高位の奇跡の使い手でもある。
恐らくは陽導神に仕える僧なのだろう。
構えた馬上槍の穂先から、
陽光の加護著しい光条が、
「
しかも連射した。マジか。
槍の穂先から連続で伸びた光線が、さらに『
「やるねえ……あれは、かなり高位の僧だな。最接近時に敵からの反射で『熱線の邪視』を受けているが、直ぐに自己治癒しているし、その熱量のうちの幾らかは『太陽の恵み』と解釈して吸収して、自己強化の糧にしているようだ」
「戦いたいな……指の付け根が熱く疼く……武器を取れと」
「スティー?
「もちろん。まずはあの大目玉からだとも」
「見ろ、あちらの戦士も
前線で戦っているのは、聖騎士だけではない。
もう一人、大鎚を持ったヒト種の戦士がいる。
禿頭の大男だ。
その禿頭の大男が、大きな鎚を振りかぶり、大跳躍。
おそらくは、僧侶の奇跡によって賦活されているのだろう。
教会の鐘楼よりも高く、見えている
「うおおおおおおッッ!!!」
彼が振りかぶる得物は、太陽の奇跡が付与され(おそらくは共に戦う聖騎士によるものだろう)、白熱している。
それが戦士の手によって
強化無しですら梵鐘を砕く彼の超腕力が、奇跡によって賦活され、さらに武器に太陽を宿したとすれば、それはいかほどの威力となるものか。
そして彼はただ腕力だけの戦士ではない。
装甲の奥へと衝撃を
「らぁああああああッ!」
衝撃とともに、太陽の奇跡の熱が
その太陽の奇跡は、敵の巨大で巨大で巨大な瞳の奥で炸裂し、その熱によってまるで火山の噴火のように瞳の表面が沸騰して弾けた。
落下する戦士は(実際は大鎚を叩きつけるまでの上昇中もだが)攻撃を受けている。
幾重にも重なるそれを受けて──── しかし戦士はなおも健在であった。
「がんばって、がまんしている……というところかな」*3
「あちらの戦士もかなりの逸材………。我ら巨鬼に匹敵する頑丈さをヒト種にして持つとは驚きだ」
「………
「さすがに特殊な例だと思うよ?」
聖騎士と戦士の後方では、彼らの仲間のうち残りの2人が集まっている。
私はそちらも見通す。
「鼠人の斥候。それと、褐色の肌の
大技をチャージ中の後衛の呪術師と、その護衛をしている斥候。
そういったところか。
だがその割には彼らは細かく位置を移動している。
星空のような空間で、見えない足場を踏みしめながら。
「細かく動いているのは……斥候の指示のようだな。だが何故だ? 主殿、ターニャ、分かるか?」
そのポジショニングの成果なのか、彼と彼女の2人は、
「……たぶん、常に盲点に入るように動いてるんですわ」
「盲点……あの大目玉にそんなものがあるのか?」
「私たちの眼と同じ構造とは限りませんが……似たような弱点はあるのでしょう」
「……言われてみれば、殺気が薄い空間があるようにも思えるな。ムラがあるのか? だからといってそこに常に身を置き続ける、というのは曲芸の類だが」
曲芸とセバスティアンヌは言ったが、それを戦闘中に為すのであれば、いったいどれほどの腕前が必要になるのか。
聖騎士一党の戦いを観察している間に、どうやら、後衛の褐色長命種の女の呪術の準備が整ったようだ。
「
褐色の女呪術師が、その手の内に捕まえていた目玉に、呪いを籠めた短剣を突き刺す。
おそらくは、『邪視の魔宮』の端末の目玉を抉って持ち歩いていたものの一つなのだろう。
おおぶりな
同じ『眼』というシンボルの同一性。
窃視者本体の眼と、その力によって作り出された眼という、繋がり。
それが、女呪術師の手の中にある目玉と、窃視者本体の眼を呪術的に強固に結びつけている。
藁人形の呪いと同じだ。
手の内の目玉を呪えば、それは窃視者の巨大な目玉へと還っていく。
──── ゾブリ、と。
『
女呪術師がさらに手元にある眼球をザクザクと割り、突き刺し、抉る。
窃視者の瞳の、それと同じ場所が、まるで不可視の巨大な刃物によって同じように割られ、突き刺され、抉られたかのような惨状を示す。
大ダメージだ!
「………なんだか彼らだけで倒せてしまいそうですわね?」
「であれば良いけれど。でもそれで済むようなら、ルゥルアさんの
「もう “
「そうだな。………それにやはり、これで終わりではないようだ」
その時ちょうど、私の見る先で、斥候の鼠人が、あわてて女呪術師の手の内から、目玉を払いのけた。
同時に、その払いのけられた目玉が、手榴弾のように爆発した。なんとか女呪術師には被害がないようだ。
「呪術的な繋がりを通じて、逆に力を流し込まれたっぽいかな? それで耐え切れずに破裂、と」
「あっちの壁か崖みたいに巨大な、あの本体の方も修復していくようだ」
「結構深手だったと思うのですが……手強いですわね」
聖騎士の一党も強いことは間違いない。
だが、『
「それに………もうすぐ夜が来る」
私たちが、そして彼らが魔宮に入ってから、半日近くの時間が経過している。
じきに日が沈む。
「そうなれば陽導神のもたらす奇跡の出力も下がりかねない。拮抗が崩れてしまう恐れがある」
まあ、この世界法則が狂った空間と外の時間の流れが同じとも限らないし、陽導神の奇跡の仕様には詳しくないから、夜に出力が下がるのかどうかは知らないが。
「だからこそわたくしたちが加勢するわけですわね」
「そのとおり。ついでにあの『
『眼』は、太陽の権能でもある。
ほら、良く言うだろう? 『お天道様は見ているぞ』だの、『天網恢恢疎にして漏らさず』だの。
太陽は見張る者だし、光線は視線と同義だ。
故にその『眼』の権能を、偽物の太陽に入れれば、その太陽はより真なるものになるはずだ。
ああ、画竜点睛、とも言うな。瞳はそれほど重要なものだということだ。
「ターニャを通じて電界25次元の魔導的ダイソン球にその『眼』の権能を付与できれば、さらにあの次元は真に真なるものに近づく。是非とも『眼』の権能を抽出したいところだ」
「………おかあさま、あまり欲張り過ぎても身を滅ぼしますわよ? まずは追い返すことから考えませんと」
「主殿! そんなことより攻撃だ。突撃だ! 今すぐ行こう、すぐ行こう。もう我慢が利かんぞ──!」
そうだね。そうしよう。
ああ、でも、助太刀、というわけでもない。
あえて言うなら、共同戦線。呉越同舟。
つまりはそう、『
1.マックス何某 → 魔導・奇跡・冬虫夏草の使徒の特性などなどによって、バックアップから再誕・再生可能。いつもの。つまりn話ぶりm回目なアレ。
2.巨蟹鬼セバスティアンヌ → マックス何某の手により再設計・再建造が可能。むしろその際にさらなるアップグレードが施される可能性が高い。
3.極光の半妖精タチヤーナ → 肉の身体が滅んでも
4.真珠蠍の巫女ルゥルア → 教義上、蘇生不可。たとえ無理やり蘇生したとしても再起不能となるだろう。
ただ、蘇生可能とされている三者についても、存在の核となる魂が無事であることが前提。そういう意味では、フィデリオ一行の呪術師ザイナブによる呪詛攻撃は魂の根源へ刺さりかねないため