フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
マックス何某「クトゥルフの星の落とし仔にはやはりオリーブオイルが合うでおじゃるな」(探索者知識)
聖者フィデリオ氏「神託を果たすためには決闘も辞さない」(
風読みのロタル氏「おいおいおいおい、待て待て待て待て。『話せばわかる』って、まずは、な?」
マックスくんが頑張って
「ハシシ=ミュンヒハウゼン卿」
「うん? ああ、アイリアのフィデリオ殿」
世界法則が乱れて、まるで星空のようになったままの、この『邪視の魔宮』の最奥の間にて。
この魔宮の主であった
それはそれとして、私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン
ちなみにそのターニャだが、
磁場的に安定するのかなんなのか、彼女は、ちょっとした小屋の屋根ほどもある
最初よりは随分と顔色は良くなってきているが、それでも権能の掌握に当たって消化不良を起こしてしまっているのか、随分と調子が悪そうだ。だが頑張ってくれ、それを掌握できれば、きっと妖精郷たる『電界25次元』を治める妖精女王として、ぐーんと格が上がるはずだからさ。
なお背の蟹甲羅にターニャを載せているセバスティアンヌはというと、相変わらず私が用意した料理をもりもりと食べているところだ。
もちろん食材は、あの
今は彼女の目の前にタレとグリルを用意してやって、下処理済みの肉をセルフサービスで焼いてもらっている。
セバスティアンヌは下半身の二対神銀の蟹ボディから生える4本の
うむ、あの調子なら、1時間か2時間くらいはもつだろう。
彼女自身が焼けるように工夫を凝らした甲斐があったというものだ。頬を膨らませて、もにゅ……モニュ……と食べる様子は、いっそ一周して上品で荘厳ですらあった。
というわけで、こちらは置いておいて、声をかけてきたフィデリオ氏に応対するのは問題ない。
「詳しくはあちらで話そうか、フィデリオ殿。それで、褒美に望むものは決まったかね?」
「はい、そちらは概ねは。ですがもし可能であれば、またそれとは別にご相談したい儀がありまして、併せてお時間をいただければ幸いです」
そう切り出されて、私はピンと来た。
「! ………あー、ひょっとして、あの、いと高き所に
「!! ──── 分かるのですか、閣下」
やはりか。
「まあこれでも、別の神ではあるものの、奇跡を賜る程度には信心しておるもので……。あれだけ強い “お言葉” であれば、それが自分に向けられたものでなくとも聞こえることも、まあ」
しかも声を届ける対象でなくとも、私自身がその内容に含まれる対象であればなおのこと、無関係な
「なるほど……」
「貴公ほどの信仰者であれば似たようなことの経験もあるだろう?」
「はっ。御見それしました」
「じゃあ、こちらで話そうか。とりあえずは黒茶でいいかい?」
星空の空間を背景に、適当に離れた場所に移り、魔法でテーブルセットを呼び出して、魔法で宙に浮かせたティーポットから黒茶を注ぐ。
………神の信者の前で魔法を使うのはあまりいい顔をされないかと思ったが、流石冒険者。そのようなことには目くじらは立てないようだ。まあ、一党に呪術師のザイナブ女史も居るしな。
ええと、お茶請けは──── まあ、お互い食べたばかりだから賑やかしに焼き菓子程度を適当に置いておくか。
というわけで、一党の頭目同士の会談、スタートだ。
「そうしたら、話を聞こうじゃないかい、冒険者殿。さて、まずは何から話題にしたものか………」
「方伯閣下、もしよろしければ最初に神託の件から触れさせていただければ。その内容によっては、報酬たる願いの内容が変わりますので」
「ふむ。ではそうしよう。
私も断片的にしか、かの神のお声は聞こえていなくてね………。
いったい私の何が、かの大神の勘気に触れたのやら正直分かっていないんだが」
とか言うと、フィデリオ氏は、笑みを硬くし、びしりと固まった。
副音声を付けるとすれば 「(まじかコイツ、本気で言ってんのか……?? いや、ブラフ? 幾らなんでも全く何も自覚がないなんてことは………)」 という雰囲気だ。
「えぇと、そんなに自明なことだったりするのかい? 分からない私の方がおかしい感じだったり??」
「………ごほん。それでは僭越ながら、不肖このアイリアのフィデリオ、イチから状況を整理いたします」
「あ、そこ流す感じかい? でも有難い。よろしく頼むよ」
実際、いまの私の自己認識だと何も
まあ、とりあえずフィデリオ氏の話を聞こうか。
「まず、閣下は──── どこかここではない場所で、太陽の如きものを運用なさっているのでは?」
「ん~~~~」
どっちのことだ……?
電界25次元の、一兆度の火球を閉じ込めた『魔導的ダイソン球』の方か?
だが『内蔵魔導炉』の方も、原理的には太陽の核融合と同様に、質量そのものを融かしてエネルギーとして取り出しているし、そちらの可能性も??
あ、いややはりここはビジュアル的にも役割的にも、いち次元界そのものを照らす使い方をしている魔導的ダイソン球の方のこと言ってるっぽいな……?
思い返せば、タイミング的にも、あの漏れ聞こえた神託は、『目』の権能結晶を電界25次元に送りだしたあとだったし。
「閣下?」
「うんうんうん。そうだな、貴公の言うとおり。太陽っぽいものを運用しているし、それを表象に『目』の権能をあの娘、ターニャに与えようとしている」
だがあくまで太陽っぽいものだ。
あれはまだ全然太陽じゃないし、あんなものをこっちの基底現実に持ち出す
あ。
そうか。
「………お気づきになりましたか」
「あーー。これは確かに私が迂闊だったね。そうか、意志じゃなくて能力の問題か………」
そりゃ手近な信徒に神託降ろしてどうにかしようとするわな。
「ええ。私もにわかに信じられない思いですが、閣下は太陽もどきを作る能力がありますね? そして、それは我が神の知るところとなりました」
「まいったな……。あれを作れたのは偶然、火種となる一兆度の爆発を掌中に収められたからで、そうポンポン作れるものでもないんだが。
それにそもそも、基底現実に持ち込む気は無いよ、あんなもの。危ないじゃないか」
「………まあ、それはそうでしょうね」
太陽一つで安定している世界に、あんな魔導的ダイソン球を追加で浮かべちゃったら、灼熱地獄になってみんな死んでしまうぞ。
「だけど、そんな制作秘話は陽導神にとっては知ったことではないし、こちらの内心を推し量るすべもない、となれば……」
純然たる事実として残るのは、『偽物の太陽を増やしかねない能力を持った異教徒がそこに居る』ということだけだ。
「そうか、そういうことか。
フィデリオ殿、もし仮にだが、太陽が明日から二つに……二重連星になったとしたら、天上の世界では何が起こるだろう?」
「………考えるだけでも不敬なので、私の口からはとても………」
「では、まあ私の推測になるが………。そうだな、極端に戯画化したような思考実験だから、本心からのものではないことを前提に聞いてほしいのだが………」
ある日急に太陽が増えたとしたら、太陽を司る神の力は、そしてその姿かたちはどうなるだろうか。
もちろん最上の結果は、数が増えた分だけ力が増す、ということだ。
純粋な上乗せ。火力が倍、ということだ。
だが素朴に考えれば、別の天体には、人間は別の神格を見出すものだ。
「例えば、陽導神は双子だった……ということになったりするんじゃないかな」
あるいは、首が二つに増えた双頭または両面の神になるか。
それもやがては別の人格の神として独立することになるだろう。
我が身に置き換えて考えてみれば、いつの間にやら自分の肩から別の首が生えてきて、やがては身体が二つに分裂していくなど、発狂ものの事態だ*1。それは神でも変わるまい。
そして単純に考えれば、もともとの太陽の神としての信仰心の総量は、双子となった神に振り分けられてしまうということ。
つまり力は半分になってしまう。信仰する民の数が増える訳ではないのだから、パイの大きさは変わらないのだ。信仰というパイを取り分ける主神格が増えれば、手元に来るパイの大きさは小さくなる。
例えばいま、陽導神が100万パワーの信仰を集めているとすれば、それが50万パワーになってしまうのだ。大幅な弱体化である。
さらに、象徴としての『太陽』を特別なものとしている、その『唯一性』も損なわれる。
これでは神としての権能において大きな変革を迫られることになるだろう。
神話体系は大きく再編せざるを得ず、その過程で子や孫にあたる神々も大きく変容を迫られるはずだ。
また愛妻家の陽導神としては、二つに分裂した己が、妻である夜陰の神を
………まあ、増えた連星が極光の半妖精ターニャに由来するものであれば、分裂双子は弟神ではなくて、妹神に解釈される可能性もあるが。
実際、陽導神の女癖を考えれば、そちらに落ち着けた方がまだしも、神話体系に取り込みやすいかもしれない。
ただその場合でも夜陰神との関係がめちゃくちゃになるので、陽導神の神話体系は空中分解しかねないわけだが。急に
「力の半減や、神話体系全体への動揺に、自身の変質に、権能の弱体化。歓迎できるわけもない。
そんなところに、リスク要因のすぐそばに、非常に優れた信徒が居たとしたら……」
例えばフィデリオ氏の信仰力は一般人の1千人分に匹敵するとしよう。
だが、そんな強力な駒であるフィデリオ氏を贄として特攻させることで、将来の50万人分の信仰損失その他諸々の悪影響の可能性を無くすことが出来るとすれば………?
1000信仰パワーの英雄級信徒を特攻させたとして、その英雄級信徒が50%の確率で敗北し失われる可能性があると仮定すれば、損失の期待値は500信仰パワー。
対して、偽物の太陽が生み出されたときの損失が50万信仰パワーだとすれば、術者を放置して実際に偽物の太陽が基底現実に生み出される確率が、
もっとも数値は適当だし、他の要因も絡むので一概には言えないが、ごくごく単純化すれば、こういうことだ。
私を放置する損失の期待値が、英雄を特攻させる損失の期待値を上回った。
ただそれだけのことである。
いち神話勢力の長たれば、そういった冷徹な計算のもとに、信仰圏に対する経営判断として、強力な信徒を使い潰すことすらも、時と場合によっては良しとするべきであろう。
誰だって同じ立場ならばそうする。
私でもきっとそうするだろう。
こういうのは、まさしく『切り札』の切り時、というものだ。
まあ、切られて場に出される札であるフィデリオ氏の気持ちなど、札の繰り手たる陽導神が斟酌してくれるかどうかというのは、この事態が深刻であればあるほど望み薄だというのは、何とも世知辛いところだが。
「というわけで、天上の意図はそれはそれとして。フィデリオ殿がこうやって神託の話題を出すということは、問答無用で私を滅ぼしに来たわけではないのだろう?」
それであれば話などせずに最初から奇襲した方が良いに決まっている。
問答無用の最大出力で、太陽の熱を顕現させれば、さすがの私も蒸発して、残機が一つ減るだろう(無論、恒常的な予知術式と、自動反応の防御術式である程度の抵抗はするが)。
……ああ、聖騎士として正々堂々戦うみたいな誓いを立てている可能性はあるかもしれないか……。
だがそんな
「方伯閣下のおっしゃる通り。神託を果たすための方法は一つではないはずです。私は、そのために、解決策を模索したくご相談したいのです」
そうだね
というわけでいろいろと打ち合わせをした結果。
「じゃあ、やろうか!! ──── さあ太陽の聖騎士よ! その聖槍で我が首級を見事に挙げてみせよッ!!」
「どうして……どうして……??」
お互いの信じる神に誓いを立てて、神前決闘で決着をつけることになった。
私+巨蟹鬼セバスティアンヌ VS 聖者フィデリオ氏+梵鐘砕きのヘンゼル氏、という2対2のタッグマッチで。
たぶんこれが一番手っ取り早いと思います。
◆やはりクライマックスは暴力で
フィデリオ氏の
マックス何某「経験上、一回死ねば神罰のターゲット外れるのは分かってるし、まあサクッと逝っとこうか!」
フィデリオ氏「いやあの、方伯殺しはマズイから相談してるんですが……」
マックス何某「別に一回死ぬくらいへーきへーき! その辺は神前決闘に臨むに当たって、いろいろ条件詰めれば良いんじゃないかな? それにまあこっちも流石に魂まで全部滅ぼされると困るからその辺のセーフティは設けたいところだったし……」
そうしてお互いの陣営の頭脳担当達があーでもないこーでもないと頭をひねって出来上がったのは、数十条に渡る神前決闘の
Q.プロレスですか?
A.ガチンコですよ!
(追記)なお前話後書きで夜陰神が陽導神をお叱りあそばしてるのは、両柱の間でリスク算定に齟齬があるためです。夜陰神はセス嬢経由でマックス何某の人間性について多少の情報を得ているので、その分、“にせもののたいよう” が基底現実に発生する確率を十分低く見積っています。
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原作WEB版は引き続きえげつない迷宮探索中……。 → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/290/迷宮の最奥で待つものはいったい何なのか。しかし結構、以前の挑戦者の方たちも生きてるみたいだし、そんな先達の中から臨時の助っ人キャラが加入したりする可能性もあるのだろうか(迷宮内での新キャラ加入は黒幕の偽装フラグだったりもするけれど)。