フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

146 / 160
 
◆前話
陽導神に目をつけられたマックス何某だが、神託を受けたフィデリオ氏が善良だったのと、マックスくん自身がこれまでに積み上げた社会的地位があったおかげで問答無用で討伐されるルートには入りませんでした。とはいえそれでも結局は決闘するしかない様子で………。

===

※ 前話について、ちょこちょこ追記や修正をしています(若干読み味が変わる程度で大筋は変わりません)。
※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


33/n すりるじゃんきー -9(『神罰代行』 ダブル・ジョパディ)☆挿絵あり

 

 神前決闘開始前。

 

「やはり決闘だ、決闘しかあるまい。………そのために相応しい条件を詰めようじゃあないか」

 

 効果を最大に、そしてリスクを最小に。

 それが取るべき道だ。

 

 そのために制約を。

 そのための誓約を。

 

「皆々様方、忌憚ない意見を」

 

 というわけで、私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯は、フィデリオ氏との話し合いを終えて、それぞれの一党全員で、陽導神の神託で示された懸念─── 偽の太陽が顕現して信仰を奪うだなんて杞憂─── を払拭するための解決方法(ソリューション)を模索するべく、要件の洗い出しをすることにした。

 

 

 向こうのメンバーは、陽導神の神託を聞いたフィデリオ氏に、呪術師にして幾つものもつれ合わない高度な思考を操る長命種(メトシェラ)ザイナブ女史、そして目端が利いて契約の抜け穴などに気づきやすい鼠人(スチュアート)ロタル氏に、気のいいおっちゃんな禿頭の巨漢ヘンゼル氏。

 

 こっちのメンバーは、魔導的ダイソン球(にせもののたいよう)を作れる私と、魔導的ダイソン球(にせもののたいよう)を支配している極光の妖精女王(アウロラ・アールヴ)ターニャ(食あたりでダウン中)と、私の護衛の巨蟹鬼(クレープス・オーガ)セバスティアンヌ。

 

 

 

 ………だけだとちょっと心もとないので、ルゥルアさんも呼んだ。

 うん。神学的に客観的な視点が欲しかったし、もうこの場には危険はなさそうだからね(世界法則が乱れているのでその防護は必要だが)

 

 そしてどうやら、ルゥルアさんとザイナブ女史は、面識とまでは言わないが、同じ東の地に由縁を持つものとして多少はお互いの部族のことを知り得ていたらしい。

 

『………貴女はひょっとして、バッサーム殿の氏族の………?』*1

 

『む。いかにも。(わらわ)はバッサームの第二子カスィームの孫たるザイナブ。白変(アルビノ)蠍背人(ギルタブルル)……? しかも冬の帝国で……? ………それで、そなたは?』

 

『ああ、名乗りが遅れました。私は、旭日の昇るところ(ホラサーン)のハッシャーシュ氏族の首長にして蠍の神に仕える神官長。ファーティマの長子ハサンの遠き娘、ルゥルアと申します。魔導師マックスは我が(つま)にて』

 

 どうぞ良しなに。ルゥルアさんはザイナブ女史に軽く微笑む。頭は下げない。

 まあ、一国の首長が軽々と頭を下げる訳にもいかんしね。

 

『ふむん? 山の翁(ハサン)の血族が、一国の首長に……? どうも故地では大きなうねりがあったようであるな』

 

『何をとぼけたことをおっしゃいます……。帝国の侵攻があったのだから当然でしょう』

 

『………ああ、そういえば、そんなこともあったか………?*2 しかしその割にお主は、帝国貴族の(つま)を娶っておるのじゃな』

 

『過去の遺恨に囚われるのは流儀ではありませんので。………はあ、バッサーム様にもその点ご理解いただければ良いのですがね』

 

『あぁ。大爺様は頑固であるからのう』

 

 一方のザイナブ女史の視線は少し怪しげだ。興味津々というか。値踏みしているような、というか。

 まあ恐らく、アルビノの伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の、しかも氏族神たる螫蠍神(さそりのかみ)の寵愛篤き巫女であるルゥルアさんの身体が、呪術的に非常に強い符号を有しているとかなのだろう。

 実際、ルゥルアさんから寝物語で前に聞いたところによれば、不逞な呪術師*3による幼少期の拉致未遂などもあったというし。

 なおそのときは姉である黒曜の刺客マリヤム女史が鎧袖一触で撃退したそうだが。

 

 ………まあ、何にしても呪術師に脱皮殻のひとかけらでも渡すだなんて考えられないことだ。

 それは生殺与奪を預けることに等しいからね。

 

 

 

 さて、東方出身の二人が母国語でそんな感じでやり取りしたりもしつつ。

 

 肝心の神託を果たすためのお膳立てについては、お互いのメンバーも交えて、納得がいくまで話し合い、そして神にもお伺いを立てつつ要件を固めていった結果、数十条に及ぶ条件を記した契約書が出来上がったのだった。

 

 あとはこの契約書を神前に奉納し、神の名において誓いを立て、実際に有効にするだけだ。

 

 魔導と奇跡を織り交ぜて作られた契約書は、いち神話勢力の主神として契約や宣誓も司る陽導神の権能を主として効力を発揮するようにしてある。

 

 私が信仰する “もったいないおばけ” も連名する形にはなるが、我が神は別に契約に関する権能は持たないしなぁ……。メインは陽導神だ。

 まあ、“もったいなおばけ” 様は、全ての棄てられたものを権能の射程に収めるがゆえに、“破約” もその範疇と言えば範疇ではある。つまり、逆説的に『〇〇という条件で破約しない限りは、我が権能は及ばない』として、その境界条件である破約条件について言及するといういささかテクニカルな形で、契約書の内容に効力を及ぼしているわけだ。かなり無理くりだが。まあそれは神官として、魔導師としての私の腕の見せ所ではあった。

 ついでに契約書に魔導を混ぜて神託の解釈を恣意的に多少歪めるに当たっては、仲介というか()()()として、魔導を許す神性である “もったいないおばけ” の連名が必要だったという事情もある。

 

 

 

「では、要点を今一度確認しようか。フィデリオ殿」

 

「………はい、そうしましょう、閣下」

 

 神託を恣意的に歪めることに対して、そして結局は決闘という武力行使の形を取らざるを得なかったことに対して、いまだに渋っているフィデリオ氏に若干の同情を覚えないでもないが、まあ我慢してくれ。

 もとの神託が求めることが、私への神罰の代行であったのだから、流石に武力が絡むことは要件から外せなかったんだ。

 ルール無用の仁義なき殺し合いから、条件で縛った決闘に落とし込むのでも、かなり無理を重ねた解釈を経ているからね。単に私たちが誓約を交わして終わりにはできなかった。

 

 それにもう儀式は始まっている。

 今更 “やーめた”、ともいかないぜ?

 

 なに、きっとすぐに貴公もやる気になるさ。ははは。

 

 

 

 ごほん。

 まず、この神前決闘の狙いは2つ。

 

 

 一つは、勝敗に関わらず、私たちの陣営は『魔導的ダイソン球(にせもののたいよう)』をこの基底現実に持ち込まないことを罰則付きで誓約し、その誓約を陽導神は認め、誓約が破られない限りは今後一切、同じ案件では私たちへの手出しをしないこと。

 

 この前半は、陽導神側としては譲れないであろう事項だ。

 一方でその前半部分は、私たちには条件が課され行動が制約されるように見えるものの、そもそも『魔導的ダイソン球(にせもののたいよう)』を基底現実に持ち込んだりなどハナからするつもりはないため、禁じられたところで何も不利益はない。

 

 そして後半は、私たちとして外せない、絶対に必要な事項だ。

 何の信頼関係もないがゆえに私たちの意思を信じることが出来ないならば、神の名において誓約してやるのは構わない。

 そのくらいのことは厭わない。破れば神罰で塩の柱にでもすればいい。もし破ればな。その覚悟はある。

 だが、それだけのことをするのであれば、当然ながら、この『魔導的ダイソン球(にせもののたいよう)』の件については、それ以後の手出しは無用とさせてもらう。

 一事不再理(ダブル・ジョパディ)、というわけだ。

 

 つまりこれは。

 この決闘は。

 お互いがお互いのことを明文化されたルールで縛ることで、信頼関係の代替とし、それを神の名のもとに機能させるための儀式なのだ。

 

 

 

 もう一つの狙いは、ルールある決闘儀式として神前に奉納し、俗世の出来事とは乖離させることで、実際に決闘を行う両者の間に禍根を残さないようにすることだ。

 勝敗禍根は神の預かり。土俵の外に出すのはまかりならぬ。そういうことだ。

 もちろん、一つ目の誓約の効力をさらに底上げする効果もある。

 

 さきの一つ目の誓約が天上の世界に坐す陽導神に対する証だとすれば、この二つ目の誓約は、もっと俗世的な配慮によるもの。

 つまり、私たちとフィデリオ氏一党の間の、人と人との間の関係、そして私たちが生きる社会のルールに係わるものだ。

 

 なにせフィデリオ氏たちにとっては、たとえ神意を果たしたとしても、隧道方伯たる私へ危害を加えた(カド)で告発されてはたまらないし。

 もちろん彼ら自身も、この決闘で殺されたいというわけでもない。命の保証があるなら、それに越したことはない。

 

 私たちの側としても、勢い余って魂までも滅ぼされたくはないし。

 決闘で彼らに取り返しのつかない被害を与えて、禍根にしたいわけでも無い。

 

 だからこそ、ルールが必要だ。

 私たちは、そして彼らは、話の通じない野蛮人では無いのだから。

 決闘であるのならば、そして神に奉ずるのであればなおのこと、厳正なルールが必要なのだ。

 

 というわけで、私たちと彼らの間で議論をし、

 ・儀式が神前決闘のフェーズに入って以降に使用可能な魔法や奇跡がどの程度までか、

 ・その他、何が反則にあたるのか、

 ・魂魄破壊攻撃の禁止や、

 ・大規模破壊は極力避けること、

 ・損害や負傷は決闘後に回復することについて、

 ・それぞれの闘士ごとの戦闘不能判定の定義、

 ・それらの項に違反したときの裁定とペナルティ、

 ・そして結界により構成されるリングの中での出来事・禍根はその外には持ち出さないこと(関係者らも同様)、

 などを決めていった。

 

 一定のルールで縛った決闘とすることで、互いへの必要以上の危害を防ぎつつ、感情的なシコリを残さないように取り決めつつ、さらには儀式としての強度を高めているのだ。

 これらは、後顧の憂いなく全力を出すための取り決めでもある。

 そして真剣(シュート)でなければ、神に捧げる決闘としては用を為さないのも、また事実。

 

 

「あとは実際に戦う闘士の選定についてだが」

 

「1対1の決闘がシンプルでは?」

 

「それだと私の護衛の彼女、セバスティアンヌが納得しないだろう。護衛の存在意義に関わる」

 

 巨蟹鬼のセバスティアンヌには護衛としての責務がある。

 雇用主である私の矛となり盾となるのがその役目だ。

 いくら決闘とはいえ、私のみが闘うことを良しとはするまい。

 

 そして、何より、巨蟹鬼セバスティアンヌは武の種族たる巨鬼の系譜。

 闘争本能が生存欲求を上回るほどの戦闘狂の種族なのだ。

 フィデリオ氏一党のような極上の相手との戦闘の機会を不意にするようなことがあれば、あとあとまで尾を引いて()ねかねない。

 

「ですが、代理決闘を神は認められないでしょう、おそらく」

 

 それはそうだろう。

 だから私が決闘の場に出るのは必須だ。護衛のセバスティアンヌに一切任せ切りにはできない。

 だが、闘士の追加は禁じられていない。

 

「ならばともに戦場に立たせれば良いだろう」

 

「そちらは閣下とその護衛が、ということですか」

 

「そういうことだ。だから貴公らも数を増やしたまえよ。人数のバランスは取らねばならない。実のところ、お仲間は声が掛けられるのを心待ちにしているのではないかね?」

 

 フィデリオ氏の一党の絆は強い。

 彼をひとりで戦わせるのをヨシとはしないはずだ。

 

 

 さらに条件を詰め、全員が血で署名し、神聖なる決闘契約書(ルールブック)は完成した。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 私ことマックス何某の魔術、そしてフィデリオ氏が請願した陽導神の奇跡、ザイナブ女史の呪術、ルゥルア女史が請願した螫蠍神の奇跡、それらが渾然一体となり、触媒たる神前決闘の契約書を焦点にして結実し、闘技用の結界を投影するように作り上げた。

 お互いの陣営から2名ずつが陣地づくりに協力することで、互いに不正が入る余地を減らし、最終的には神前決闘の契約書を触媒にして陽導神に捧げることで、神の名のもとに公正で公平な決闘が行われるように、厳正で強力な奇蹟が降ろされた。

 発動した時点で既に術者である4名の手からは離れたその結界は、触媒となった契約書に定められたルールを守らせるための神聖なる闘技円(リング)となった。

 

 最終的に、結界で作られたこの闘技円(リング)の中にエントリーしたのは、お互いの陣営から2名ずつ。

 

 私の側は、当事者として名指しされた私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯。

 そしてその護衛の巨蟹鬼(クレープス・オーガ)─── 二対神銀の鋏を持つ巨大蟹の下半身に、美しい巨鬼(オーガ)の上半身を生やした魔導生物─── 、身の丈4メートルを超える戦の申し子、ラーン部族の開祖にして〈津波の〉という将軍級の尊称*4を拝するセバスティアンヌ。

 

 極光の半妖精ターニャは『目』の権能を取り込んだ時の食あたりでダウンしているし、ルゥルアさんは立場的にも一国の長なので流石に参加できない。

 ………部族長という意味ではセバスティアンヌも同様の立場にあるはずだが、巨鬼の系譜である巨蟹鬼は、まあ、偉いやつほど戦ってなんぼの文化なのでそこは気にしないものとする。

 それにルゥルアさんは闘技円(リング)の結界の維持を、奇跡の使い手として外側から行う役目があるため、そういう面でも闘士にはなれない。

 

 

 

 

 

 対するフィデリオ氏たち一党の側は、当然、神託で名指しされたアイリアのフィデリオ氏。

 そして、禿頭の巨漢戦士、戦鎚の使い手である “梵鐘砕き” のヘンゼル氏。

 

 斥候である “風読み” のロタル氏は決闘という場には向かない構築だし、本人も望まなかったため除外。ガチンコのぶつかり合いは流儀では無いらしい。

 また呪術師のザイナブ女史は魔導的観点での結界の構築維持に手を取られることから闘士候補からは外れる。

 

 

 

 というわけで2対2のタッグマッチということになる。

 

 

 

「ただのオーガよりも随分とまあ大きくて強そうなお嬢さんだこと……」

 

 大鎚を担いでニヤリと男臭く笑う禿頭の巨漢。梵鐘砕きのヘンゼル。

 強敵を前に、そして己が見込んだ頭目フィデリオ氏の助けとなることを喜びとして、幾らかの昂揚があった。

 常人をはるかに超える頑強さは、あるいは巨鬼の雌性体をすら上回るのではないかと市井では噂される。

 そこにフィデリオ氏の陽導神の加護による回復と再生が加われば、彼はまさに不沈の要塞と化す。

 纏う鎧だって、一流冒険者の身体を覆うに相応しい超一級品だ。

 

 

 

「そういう貴公こそ、随分な武者ぶりだ。涎が出そうなほどに。“梵鐘砕き” の名は、この辺境に向かう道中で詩に聞いたとも」

 

 巨大で巨大な蟹の下半身を持つ鬼。半鬼半蟹。巨蟹鬼はラーン部族の開祖である、“津波の” セバスティアンヌ。

 そして何より、この私、腐れ異端魔導師マックス何某の被造物にして護衛たる傑作魔導生物。

 

 突然変異の二対神銀の鉗脚(ハサミ)は重厚に輝き、雷電の小妖精が呪縛されてときおり紫電を散らす。

 四つの蟹爪の歩脚は鋭い杭のようで、普通の蟹より本数が少ないためか可動域が広く、前後の移動にも支障がないようだ。

 さらに後ろには鉞か斧のような遊泳脚。

 

 だが、それにも増して恐ろしいのは、彼女の巨鬼の上半身も、そして蟹の下半身も全てを覆う、特注の全身鎧。

 魔導と奇跡が丁寧に織り込まれたソレは、重装甲の巨鬼という常識外の存在を顕現させていた。しかもただの革や鉄や鋼でできたものではなく、亜竜の革と魔導合金をふんだんに使った質実剛健な造りの鎧だ。

 ただの巨鬼ですらその巨体を覆うための鎧の鉄量を購うのは難しい。そしてたとえ大枚はたいて鎧をまとったところで、動きを阻害する上に自前の生体装甲と大差ない防御力しか得られず、しかも彼女たちの力に耐えられずに内側から壊れることもあるとなれば、半ば使い捨て扱いだ。そんな状況であるから、巨鬼が全身鎧を着ることは非常に稀だ。もちろん軽装を好む文化や流行のせいでもある。

 

 だが逆に云えば。

 

 二階建て住宅のような大きさの巨蟹鬼セバスティアンヌの、その全身を覆う亜竜革&魔導合金製の全身鎧を作ることができるほどの、かつそして、最悪の場合に使い捨てになったとしても惜しくないほどの財力があり。

 身体の邪魔をしないように計算され尽くした流麗な構造の鎧を設計できる高い技術力があり。

 しかも軽量化と強度強化を魔導や奇跡もふんだんに使って両立し、また、ディスペルの力場を発生させることで生体装甲ではフォローしきれない魔導や奇跡への抵抗を高められる、そんな鎧が与えられるとすれば、どうだろうか。

 

 あらゆる問題が解決済みであるとするならば………。

 そのような至上の追加装甲を着込むことについて、闘争に全力を尽くすことこそが歓びである巨鬼の系譜としては、何もためらう理由はないのだ。

 

 

 

「………正直なところ、あの蟹の巨鬼の彼女を相手にするだけでも、一党全員で挑むべきだと思うのですが」

 

 全身鎧に馬上槍、そして大盾。完全武装のフィデリオ氏。

 聖者。無肢竜殺し。一夜潰し。辺境の英雄。

 陽導神の加護篤き在俗の聖騎士にして冒険者。

 

 彼の言うとおり、巨蟹鬼セバスティアンヌ一人だけでも、通常の冒険者一党には荷が重いだろう。

 何せセバスティアンヌもまた、海大鰐(シークロコダイル)と呼ばれる()()を単独で屠るほどの益荒乙女(ますらおとめ)

 

 しかし今のフィデリオ氏もまた、尋常の存在ではない。

 神意を託された今の彼は、まさに神託の騎士。

 天上の陽導神からは周囲に溢れ漏れ出すほどの力を注ぎ込まれ、それによりほぼ無尽蔵に奇跡の行使を可能とした彼こそは、まさしく神罰の地上代行者。

 

 その一撃は岩を煮え立たせ、傷は内から漏れる光炎によってたちまちのうちに治癒され、放射される神威のオーラによってそこに居るだけで生半な魔術は耐えられずに解けて消える。

 さらには己に降り下りる神の恩寵を仲間に分け与え、自ら諸共に不死身で無双の戦士とする。

 彼が纏う最高神の威光を前にすれば、あらゆる邪悪なる闇はたちまちに駆逐されてしまうに違いない。

 

 

 

「戦力の釣り合いが取れているのは神様のお墨付きだから安心すると良い。その証拠に、ほら、契約書がいよいよ効力を発揮しつつある」

 

 決闘場のリングに立つ最後の一人は、邪教の最高司祭にして魔法権能持ちの転生者でもある再誕者。

 つまりは、そう、私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯だ。

 

 はい、うかつにも太陽神たる陽導神の信徒の前で、『魔導的ダイソン球(にせもののたいよう)』をさらに強化しようと次元の門を開いたせいで目をつけられたマヌケは私です。

 だがまあ、その信徒フィデリオ氏が話が通じる相手だったこともあり、最終的にはなんとか落とし所を見つけられそうで安堵しているところだ。

 

 かつてエーリヒくんと共同で討伐した巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の小骨から削り出した杖(※実は複数あるので多くの分身が同じ杖を所持。海蛇は小骨が多い。)を握り、私は決闘開始のタイミングを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 さて、この神前決闘。

 審判には、厳正な中立性と公平性とともに、反則へのペナルティ付与や行き過ぎた行為を実力行使で止めるためのかなり武力が求められるわけだが、お互いの一党で決闘参加者以外となると、当然ながらというか残念ながらというか、その条件に該当する適任者はいない。

 では、誰が審判を務めるのかというと………。

 

 

「これより契約書を起動する最終承認をおこなう。フィデリオ殿、最後の確認だ。──── よろしいね?」

 

「はい、閣下。是非もありません」

 

「大変結構。それでは始めよう」

 

 

 神前決闘、執行開始。

 

 当事者の最終合意を契機に、契約書が光を放つ。

 光は大きくなり、形を変え、一瞬だけ無貌のヒト型となったかと思えば、直ぐに闘技円(リング)全体に散っていった。

 

 

「審判は、文字通りに神が見て、下す。おさらいになるが、私と貴公、それぞれの信じる神から遣わされた奇跡を、魔導で方向付けし、細かな要件を記した契約書を触媒に器を作り、疑似的に使徒を受肉させ、この決闘円と同化させることで、今回の審判とした」

 

「………割と神をも恐れぬことをしていると思うのですがね。………やはり不敬なのでは?」

 

「私が塩の柱となっていないことがその答えさ」

 

 神は容認なさっている、ということだ。

 問題はない。

 

 

「開始の合図はそのうち神託のような形で、直接脳内に声が響くはず。反則行為への警告も同様に」

 

「確か、その声の警告を受けても反則行為を止めない場合は、審判からのペナルティが生じる、のでしたね?」

 

「そのとおり」

 

 ペナルティはその時々によるが、基本的には該当する反則行為の無効化がまずは起きる。はずだ。

 

 

 

 

 しばらく待つと、脳内に男とも女とも区別のつかない声が響いた。

 闘技円(リング)に溶け込んだ、無貌の審判である擬似使徒の声だ。

 

 

“決闘開始まであと、5”

 

 巨蟹鬼セバスティアンヌと私ことマックス何某、そして聖者フィデリオ氏と梵鐘砕きのヘンゼル氏が、構えを取る。

 

 

“4”

 

 

 

“3”

 

 

 

“2”

 

 

 

“1”

 

 

 

“ゼロ。決闘開始です”

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 と、始まったものの、最初は動きがなかった。

 

 ………フィデリオ氏の戦意が妙に低い?

 ヘンゼル氏も、そんな彼に合わせてまだ様子見の姿勢だ。

 

 私たち陣営も、基本的には待ちの姿勢。

 というのも、向こうがお経を読んで*5強化(バフ)を積み上げるまで待つべきかな、と思って。なお私とセバスティアンヌには既にノーモーションで強化魔法を付与済みだったりする。

 

 と、この硬直を破ったのは、戦の鬼たる巨蟹鬼セバスティアンヌだった。

 

 “なるほど、分かっているじゃないか” とニヤリと笑った彼女はどうやら、この戦の前の静寂を、前口上タイムだと解釈したらしい。

 普段は戦吠えで済ますところを、フィデリオ氏のような極上の戦士の全力を発揮させるために煽ることにしたのだろう。

 巨鬼の文化として、戦の前口上を述べることは非常に重要とされる。また、口上を述べるための口を神聖視する文化もある(そのためその神聖な口を用いて行う巨鬼の口づけ行為 “つばつけ” には非常に重い意味がある)

 

 まずは朗々と自らの戦績を語るセバスティアンヌ女史。

 大きな戦果は、会戦や決闘ではなく、怪物相手が多いのはご愛嬌か。

 自らの首の価値を語ったあとは、相手への挑発だ。

 

 

「どうした、貴公。聖者フィデリオ。神敵たる我が主を前に、呆れた戦意の薄さだな」

 

「………方伯閣下は、それほどの悪人ではないと、私は思っている」

 

「これは異なことを言う。貴公は、神敵と名指しされた者を、この期に及んで庇うのか?」

 

「方伯閣下は── 「このリング上での無礼はすべて免責される。無礼講だよ、フィデリオ殿。いや、フィデリオ。私に対して “閣下” だなんて付けなくていい」 ───……… マックスくんの功績は私も多少は知っている。運河の拡張のために賃仕事を生み出し、スラムでは何でも買い取る店を開いたり炊き出しを行ったりして人々を良く助けている、と。そのお陰で日々の糧にありつけて、冬に凍えずに済んだものたちはたくさんいることを私は知っている」

 

「だからやる気が出ない、と? 我が主が、善人のように見えるから?」

 

「ああ、そうだ。先ほどだって、辺境を肉と目玉の海に変えかねなかった大怪異を共に討った仲だ。気が進まないね。神意によるものとはいえ、そのような善人を討つのはね」

 

「ふ、ふふふ」

 

「………私は何かおかしなことを言ったかな、美しい巨鬼の君」

 

「ふふふ、ははははは、ハァーハッハッハッ!! これが笑わずにいられるか、聖者フィデリオ! 我が主が善人? 貴公の目は節穴だ!」

 

 あ、セバスティアンヌさん、その辺は暴露しちゃう感じですか。

 

 止めるべきかな?

 

 ………ま、いっか!

 

 だって、この闘技円(リング)の中の出来事は、この中で完結する─── 禍根は外に持ち出せない─── という約定だからね。

 知ったところで、この場の決着がつけば、外では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

「我が主は、いま、まさに、現在進行形で! この辺境に大乱をもたらさんと動いているのだぞ! それを前にして善人? 気が進まない? 腑抜けか、貴公は! 辺境の安寧を身上とする英雄だと見込んだが、とんだ期待外れだな!!」

 

「………大乱、だと?」

 

「そうだとも! 手始めに土豪連中への物資供与に技術供与! 特に……喰いっぱぐれの駆け出し冒険者や底辺冒険者を捕らえて素体にして改造した、自我なき “強化人間”!! 一騎当千の人造英雄どもが増えているというのに暢気なものだ!! やがて奴ら土豪連中はそれで気を大きくして、大規模な反乱を起こすだろうな!」

 

 そうしてセバスティアンヌは、歌うように幾つもの固有名詞と人名を上げていく。

 

 それらは、私が──── 密偵ロタールが、偽の依頼で釣り出して捕まえた低等級の冒険者たちのパーティ名と、そこに属していた個人の名前だ。

 

 実は密偵ロタールは裏で、辺境の土豪連中が決戦蜂起に前向きになるようにと、強化人間化の施術について技術供与していたりする。

 その施術サンプル用の素体として目を付けたのは、居なくなっても誰も気にしないような連中で、かつ、辺境の生産能力に影響しないような輩だ。

 つまりは、一山幾らの駆け出しの冒険者たち。

 もちろんスラムの破落戸(ごろつき)どもも候補に挙がるが、街の外に呼び出しても不自然じゃないということで、第一陣の素体は低等級の冒険者たちに決まった。

 

 まともな依頼の中に巧妙に罠の依頼を紛れ込ませておいたり、普通によその依頼で死にかけていた輩を救出ついでにそのまま拉致したり。

 

 そうやって捕まえた後は、お決まりの改造コース。

 気分はショッカーだネ!

 

 

「………そうか、あいつら若い連中が帰ってこないのはてめえらの仕業だったのか」

 

 顔を赤黒く染めるほどに頭に血を昇らせたのは、梵鐘砕きのヘンゼル氏の方が先だった。

 戦鎚を握りしめる手が、ぎちぎちと音を立てる。

 

 一方のフィデリオ氏は、金属鎧の面頬の奥から、私の方へと探るような視線を向けてきている。

 

「マックスくん、それは本当のことかい?」

 

 帝国貴族が何故、土豪に支援を? しかも、皇帝陛下の寵を受けて引き上げられた者が、どうして?

 フィデリオ氏は、腑に落ちていないようだった。

 

 そんな彼に暴露するべく、迷うことなく、私は答える。

 何ら恥じることはない、と示すように。

 彼の神経を逆なでするために、努めて慇懃無礼に。

 

 

 

「ええ、間違いありませんよ、アイリアのフィデリオ。それでは、改めて名乗りましょうか」

 

「私はマックス・()()()()・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン。隧道方伯にして、魔導副伯であり、異教の最高祭司であり魔導の輩、そして東方大使でもあり──── この西方辺境の土豪を激発させるための工作員でもあります」

 

「密偵ロタール。ああ、風読みのロタル氏と紛らわしいかもしれませんが、私はロタール(ろたぁる)ですので、お間違えなく。皇帝陛下からこの任務のために賜った、大事な名です」

 

「今後百年の西方辺境の安寧と発展の礎にするために、土豪どもを纏めて蜂起させ、そして纏めて潰す。それが私の使命です」

 

「その過程で多くの人々が死ぬのでしょう。罪もない民が、内乱に巻き込まれて死ぬのでしょう。大風に吹かれて倒れ伏す藁のように」

 

「ですが………()()()()()()()()()ですよね?」

 

「今死ぬ民の犠牲は、土豪亡き後の今後のこの地の繁栄で十分に取り戻せるものです」

 

「むしろ、彼らの犠牲なくして、西方辺境の平定は不可能と言っていい」

 

「もちろん私もいたずらに民を殺したいわけではないのです。彼らの犠牲には心が痛みます。だから、最小限で済むように心がけているんですよ、これでも」

 

「私は、強化人間に改造するサンプルを、土豪領域の村人に求めることもできた。だが、実際はマルスハイムの冒険者を選んだ。それは、彼らが戦う者だからです。無辜の民を犠牲にするよりは、冒険者たちを使った方が、まだ幾分かマシでしょう」

 

「民の代わりに危険に赴き死ぬというのは、神代以来の冒険者の望ましいありようですからね」

 

「そう、これは致し方ない犠牲なのですよ」

 

「いやあ、本当はこんな事やりたくなんてないのにナァ」

 

 

 

 滔々と、挑発的に。ニヤニヤと笑いながら。

 相容れない種類の人間であることを知らしめるように。

 私はフィデリオ氏に、私の密命を明かしていく。

 

 だって、この場での禍根は外には持ち出してはならないという、陽導神による縛りがあるのだ。

 そうであれば、どうせならば、これまで辺境土豪への工作活動を展開してきた中でやらかしてきた、フィデリオ氏たちの気に障りかねないようなことは、全て俎上に載せてしまったほうがお得(アドバンテージ)だ。

 挑発ついでに、全ての余罪を吐き出し、それらへの追求も全て、この決闘円(リング)上での神前決闘に追加でベットする。それも含めて禍根なしにできるのであれば、そうしないと損だ。

 

 だから今この場で。

 この辺境への破壊工作者を。

 この私、密偵ロタールの罪を裁いてくれたまえよ、フィデリオ氏。

 ひひひ、責めるチャンスは今しかないぞ?

 

 

 今この場を逃せば、密偵ロタールの工作活動についての件は、また藪の中になる。

 少なくとも、密偵ロタールが今この瞬間まで行ってきた裏工作については、これで決着がつく。ついた扱いになる。

 

 神聖なる決闘によって。

 (みそぎ)は成った、と。

 ()()()()()()()()()

 

 『にせもののたいよう』についての審判が下るのと同時に。

 

 つまり、今自白した過去のそれらを口実に、フィデリオ氏たちが、密偵ロタールの工作活動に嘴を挟むことはできなくなる。

 

 私がこの神前決闘で受けるだろう被害を遺恨としないのと同様に、フィデリオ氏たちもここで聞いた内容を遺恨とはしてはならない。

 そのルールが、この自白にも適用される。

 

 冒険者同業者組合や民衆へと訴えることも、もちろんできなくなる。

 仮にそのようなことをすれば、神前決闘の誓約違反のペナルティで、きっと最悪塩の柱にでもされてしまうだろう。

 

 当然だが、これから未来に向かって私が密偵ロタールとして犯す罪は、また別の扱いとなるのは百も承知。

 あくまで免責されるのは、ここで告解した、過去の工作についてのみ。

 

 だがどうせ工作活動は次のフェーズに入るところだったのだ。

 マルスハイムの冒険者たちを拉致するのはもうお終いにして差し支えない。

 それに今までの罪を洗い流せるだけでも有難い。

 

 ここで、今以前の罪を全て帳消ししてカルマをフラットな状態にすれば、私は身綺麗になれるというわけだ! 利用しない手は無いな!*6

 

 そうなればあるいは、フィデリオ氏たちに依頼を出して、彼らの信条に反しない範囲で工作活動を手伝ってもらうことすらも可能かもしれないな。

 いや、流石にそれは高望みか?

 

「私の罪を教えよう。そして裁いてくれたまえよ、いまこの場で。そうでなければ、もはや永遠に懲罰の機会は失われるぞ? 方伯たる私を私刑に処して咎めのない場など、きっとこれが最後だ。

 なあ、アイリアのフィデリオ。神罰の地上代行者」

 

「………これを見越して、契約書の誓約条文を作り上げたのかい、マックス・ロタール」

 

「否定はしないでおこう。このリングから禍根を持ち出さないというのは、君たちにばかり有利な条文ではないということだ。ここでの発言、言動の一切合切は、この場限りで完結する………ということは、こういった懺悔や告解じみた使い方もできるということは想定できていた」

 

「何が懺悔か、何が告解か。一切以て全て利己的な保身でしかないのだろう!」

 

 そのとおり。

 私のことがよく分かってきたようで何よりだ、フィデリオ氏。

 

「『にせもののたいよう』をどうにかするのに比べたら、地上の民草の何十人や何百人が死のうと、あるいは彼らが己でない者へと変貌させられようと、それは些事だよ。その程度の罪の重さが天秤に乗ったところで、神々は気にも留めない。だからこの自白は成り立っている」

 

「だが。けれども、だ。神が気にも留めないとしても、それは私が許す理由になるわけもない! この場での言動がここで完結するというのならば、この決闘が終わったあとにまた別口で君らの尻尾を捕まえるだけだ」

 

「もちろんその通りだし、やってみるといい。

 だけどそう素直にはいかないんじゃないかな、私はこれでも外では隧道方伯としての立場を持っているからね。そしてその立場を使って、君たちにも協力を仰ごうと思っているよ、この辺境領域での工作について。ここまで詳しく知らせたのは、現地の強力な協力者を求めてということでもあるのだし、我ながらなかなか良い布石の打ち方だと思うがね? これほど深く聞いておいて、いまさら無関係でいられるとは思わないことだ。この決闘が終わったら、()()()()()()()手を取って欲しいものだね」

 

「厚顔無恥とはこのことだな。………そもそも、勝手に自白して巻き込んできたのはそちらだろうに───!!」

 

「もらい事故だねえ、不運なことに」

 

「まったくだ………! だが、けじめを、つける必要はあるだろうな、こうして知ってしまったからには、今この場で。それにどうせ貴公の罪は、帝国法では裁かれることはないのだろう?」

 

「そりゃあね、皇帝陛下の命によるものだし」

 

「ならばこの機会は、君の言うとおりに千載一遇というわけだ。犠牲になった冒険者たちの無念を少しでも晴らそう。そして彼らの魂が巡る輪廻の先での幸福を祈ろう」

 

「さて、その祈りは届かないと思うな。そもそも彼らの魂は輪廻していないし、暫くは私が呪縛して使い倒す予定だからね」

 

「この邪教徒め───………!!」

 

 

 パーフェクトコミュニケーション(ばちくそ煽ってヘイトを稼いだぜ)、ヨシ!

 

 

「ふはは、どうだい、これで君自身の戦う理由も出来ただろう? 聖者フィデリオ。─── さあ、始めようじゃあないか!」

 

 

 環境極悪化術式(あらゆるものは、しにたえよ)

 

 

 魔導の権能によって、闘技円(リング)の結界内の環境を悪化させる。

 

 猛毒。

 灼熱。

 呪詛。

 腐食。

 窒息。

 爆圧。

 放射線。

 マイクロ波。

 

 空間そのものが、人間に耐えられる環境ではなくなる。

 

 まずは小手調べ。

 魔導によるあらゆる属性の継続ダメージ空間だ。当然、指向性を持たせてあるので、味方への影響(フレンドリィファイア)は排除済みだ。

 

 

「ああ、君の言うとおり、私は腹が立っているよ、マックス・ロタール。命と魂を玩弄して、何様のつもりだ! ………必ず斃す。そして、太陽をこの程度で止められるとは思わないことだ! 〈陽光は正しきを照らす〉!!」

 

 フィデリオ氏の背後に浮かび上がった光背から放射される光が、彼とヘンゼル氏に襲い掛かる魔導を打ち消していく。

 

 まあ、そうだろうな。

 だがこれでお互いに一手を無駄に割くことになった。

 常に打消しの奇跡を投げ続けるのは、フィデリオ氏の負荷になるだろうからこれでよい。

 

 確かに彼には無尽蔵に神の奇跡が流れ込んでいるのだろう。

 陽導神の強力な後押しがあるのだろう。

 

 だが、フィデリオ氏自身は果たしてそれにどこまで耐えられるかな?

 

 真正面から実力で打倒するのを目指すのはもちろんだが、それと並行して消耗戦を強いることにする。

 恐らくは向こうの奇跡行使を支える一連のシステムを構成するパーツの中では、フィデリオ氏自身の耐久性が一番のボトルネックになっているはずだ。

 今の彼は、普通の蛇口に高水圧をかけているようなもの。無尽蔵な奇蹟の圧力に、きっと彼自身が耐えきれない。

 対応を飽和させて、処理落ちさせる………!

 

 

 だがそれはそれとして、セバスティアンヌ(スティー)、前衛は任せたぜ!

 強化の重ねがけだ!

 

 

 

 巨蟹鬼最大強化術式(あらんかぎりのしゅくふくをきみに)

 

 

 

「やぁっておしまいなさい!!」

 

「心得たとも、我が主!!」

 

 

 

*1
※東の沙漠の母語にて会話

*2
※長命種特有のガバ時間感覚。ザイナブ女史が美食珍味に興味が寄りすぎてるせいでもありますが。

*3
※もちろんザイナブ女史とは別口の呪術師。モブ。

*4
◆オーガ部族の尊称について(独自設定):原作で尊称たる二つ名が明らかになっているのはガルガンテュワ部族のみ。独自設定として、フランスのレジオンドヌール勲章の5階位に相当するものとして当SSでは考えています。まあざっくり上から、元帥級、将軍級、佐官級、尉官級、准士官級、みたいな感じかと。セバスティアンヌの〈津波の〉という尊称は、上から2番目の将軍級。なおラーン部族にはまだ一番上の尊称(=〈災渦の〉:元帥級)を名乗れる者は居ない。たぶん、一番上の尊称(=元帥級)を名乗れる者がいるかどうかが、部族会議に席を持てるかどうかの条件の一つだったりするのではなかろうか。

*5
◆お経を読む:TRPGでは戦闘開始前に定番のバフを積み上げる行為を指す……場合もある。ファストアクションガゼルフットキャッツアイマッスルベアーetc………───。この場合はフィデリオ氏が僧侶系なのでダブルミーニングでもある。

*6
◆唐突な自白:免罪符イベントがあるなら、他の余罪(カルマ)も全部載っけてついでに帳消しにしちゃおうぜ。 ← まさにルールを悪用するマンチの思考。




 
切りどころが分からなかったので長くなったけどその割には全然決着してないぜッ!

◆余談:マックス何某の役割分担における、いま帝国西方辺境に派遣されてる個体の役割について
マックス何某(辺境担当)「なぜ辺境に来たのかって? まあ、そうだね……スリルを求めて、というところかな。本を読んだり、人と話したり、誰だっていろんなところから刺激を得ている。普通の人々は人生の時間をうまく分配して、そういった余暇の時間を創り出さなくてはならないけれど。でも私は身体が幾つもあるからその個体ごとに役割分担できるってぇわけ。東方担当、研究担当、修道担当……そして私は言うなればスリル担当。より刺激的になるように、おバカな選択(ルーニープレイ)をするように、そのようにわざわざ自らを律しているのさあ。だから、華々しく散るのも、存在意義の内ってこと」
 
なお他の担当からは「ポンポン死ぬな! コスト概念を覚えろ!」 「後始末をこちらにツケで回さないなら好きにしてくれ。フリじゃないからな?」 「人格同期時にそっちの記憶を見るのは楽しみだが、あんまり基幹設定から離れたムーヴされると統合に支障をきたすからほどほどにしてどうぞ」と大好評(?)なようだ。

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。