フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
聖者フィデリオ氏&梵鐘砕きのヘンゼル氏「「 こやつめっちゃ邪悪なんだが!? 無血帝は何思って方伯に抜擢を…… 」」*1
マックス何某&巨蟹鬼
そしてバックグラウンドで進行している辺境土豪の調略+戦力増強。まあ、追加戦力な強化人間たちはマックス君の
===
※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり
それに、ことが終わったら強化人間たちは封印している自我を復活させて辺境開拓のための冒険者戦力として
………それはそれとして、なぁーに裏工作をバラシてくれてんですかねえ、あのルーニー担当は」
「どうやらそちらの大将もやる気になったようだぞ、“梵鐘砕き”」
「………そこの
「護衛とはそういうものだろう? さあ、早くやろう!!」
巨蟹鬼セバスティアンヌが、二対神銀の
生体金属を多く含む甲殻、そして巨体を支える
巨大蟹の頭部に跨乗するかのように接続された巨鬼の上半身が、得物である如意鉄棍を頭上に持ち上げ、笑みとともにビュンビュンと振り回し、びしりと大上段に構えを取った。
彼女こそがこの私、マックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯の頼れる護衛にして、最高傑作の魔導生物。
自分でも常々、戦車(※チャリオットではなく、バトルタンクの方)とやり合える世界観無視の怪物だなあ、と、ふと冷静になることもあるが、まあ、強いぞ。
デカくて、硬くて、超パワー。そりゃあ弱いわけがない。力こそパワーだぜ。
──── まあ、魔導院の教授クラスを見れば、そんな感じの切り札的なユニット持ってるのは少なくないんだけどね。
マルティン先生の
後者は倫理的にアウトだから秘密にしなくてはならないという意味での秘密兵器の類だが。
なお当該合成死体の製作技術はシュマイツァー卿の一派が解体された際に、魔導院落日派内で共有されることになった模様。私が土豪連中に提供している強化人間の技術もそっち系とのハイブリッドだったりする。生体と魔導具などとの融合技術を進展させるのに大いに役に立ったのだ。私、マックスとしては、マギアパンク世界観をひそかに推し進めたい所存。
それはさておき、最近のセバスティアンヌだが、彼女の出身部族である巨鬼ウラガン部族が連綿と練り上げた嵐のような体術を、東方から渡ってきたマヌルネコ系の猫頭人でもある仙猫娘師父からの伝授で練り上げているから、見た目の巨大さの割に、思った以上に軽快かつ滑らかに動く。さらに重力制御や魔導障壁の生得魔法で宙を飛んで跳ねるから動きの予測も困難だ。
中国拳法インストール済みの魔導生体多脚戦車。それが彼女だ。もちろん戦車らしく砲も備えている。4つの
彼女の纏う防具も特筆すべきだろう。
亜竜革+魔導合金の特製全身鎧で巨鬼の上半身から、大蟹の下半身までくまなく覆うそれは、物理的な防御力もだが、むしろ抗魔導・対奇跡に特化したものだ。
つまり、初見殺し・わからん殺しをしてくる魔導や奇跡を無効化し、強制的にタイマンに持ち込むことを主眼にしている。雇用主である私からしてみれば彼女の持つ
いやあ、巨鬼系の部下に極上の戦闘の機会を与えてあげられるとか、私はなんて良い雇用主なんだろうか!!(自画自賛)
さて、対する禿頭の巨漢、梵鐘砕きのヘンゼル氏。
大鎚を構える彼は、
だが先の大目玉、
ヘンゼル氏は、何かそういう特性や加護でも持っているのだろうか。
流石は魔法のある世界であるからして、
あるいは技術を鍛え上げた先に、そういった魔法や奇跡としか言えないような現象を純粋技量で再現してみせたりとかもあり得る。我らが金の髪エーリヒくんの “次元斬” とか。
さらにヘンゼル氏のその超人的耐久性に、昇る日のごとき不死性を付与する陽導神の奇跡が加われば………。
「ヘンゼル、これは2対2だ。私もともに戦う。まさか一人で戦う気じゃないだろうね」
「フィデリオ! だが………!」
「温存させてくれようという心意気は買うが、彼女はそんなに容易い相手ではないだろう」
そのとおり。
タッグマッチと言いつつ、私たちも最初から2対2のつもりでいるからね。
乱闘上等!
それが可能なように、この結界で覆われた闘技円も十分大きい。
巨蟹鬼セバスティアンヌが突撃のための助走をする広さがあり、そしてたとえ飛び回ったとしても窮屈ではないほどの高さがある。
さあ、狙いを絞らせないように私自身も常に駆けて移動しつつ、魔術行使だ。
「おっと、貴公を自由にさせると思うかい? 神罰代行者、フィデリオ氏。 ─── 〈
「〈白日の奇跡〉!*2 それに向こうも最初から2対2のつもりのようだ!」
「魔導キャンセルか。だがそれで良いさ。そちらが同時に使える奇跡は幾つだ? 私の並列思考の数よりも多いのかな? 試させてもらおう」
「やってみれば良いさ!! まとめて消してみせよう!!」
というわけで、打ち消されることを前提にして範囲系の魔法をばらまいて援護しつつ、巨蟹鬼セバスティアンヌの強化魔導は消されないように維持。
さぁ、セバスティアンヌさん、やっておしまいなさい!!
「応とも、主殿。さあ行くぞッ!! ゴォオオァアアアアア!!」
大きく4つの
「まずは初撃! フンッ!!」
セバスティアンヌはヘンゼル氏とフィデリオ氏を
これが本場のカニバサミである。
片側の
それが目にも止まらぬ速さでやって来るのだ。攻城戦で投石器の放った大岩をぶつけられるよりも何倍も痛い。
これを受けてはただでは済まない。
ガチンッ!! と巨蟹鬼の
「危ねえッ!?」 「ミスタリレの刃先……! 受けるは悪手!」
それを下がることで避けた二人。神銀はあらゆる金属の干渉を跳ね除けて一方的に優位が取れるから、金属製の武器で受けるのはマズイのだ。
だが初撃を避けたとて、セバスティアンヌのハサミは二対ある! 隙を生じぬ二段構え!
「良く避けた! 次ぃ、二撃目ェ!」
僅かに遅れた二対目の
「ヘンゼル!」
「応よ!」
それを二人は迎撃。
フィデリオ氏は大盾を、ヘンゼル氏は大鎚を、それぞれ下から掬い上げるように振るって、セバスティアンヌの超速のカニバサミを逸らさんとする。
いくら神銀の
実際、彼らの狙いは正しい。そして彼らにはそれを為せるだけの技量もある。
「〈白熱せよ!〉」
しかもそれぞれの大盾と大鎚に、陽導神による白熱の奇跡を宿らせた。
私の記憶が正しければ、術者が触れた得物に太陽の熱の祝福を宿らせる奇跡で、その武器で攻撃した箇所に白熱させるほどの高温を与えて熔かすという物騒な効果を持つはずだ。
「オオォッ!」 「ダラァッ!」
刹那の後に、両側から迫る神銀の
二人が振るった大盾と大鎚は、それぞれ左右から迫る巨蟹鬼セバスティアンヌの大きなハサミを迎撃し、陽導神の奇跡の加護によって超活性化された膂力によってかち上げて逸らそうとする。
「ふはは!」
対するのは重機の瓦礫破砕用アタッチメントクローのような大質量の巨蟹鬼のハサミ。
彼ら二人の強化された膂力は、驚くべきことに、それを逸らすに値していた。
しかも白熱の奇跡によって、それぞれの得物の接触面からハサミへと熱が伝播。それは籠手のように鉗脚を補強するセバスティアンヌの鎧のパーツや、電磁投射砲の給弾機構、そして鉗脚そのものを構成する生体金属すらもが、あまりの高熱に融け始めるほどの灼熱だ。
生物であれば、
「その程度の熱に臆したりはせん! そのまま潰れろッ!」
「アシストしよう、スティー。〈
だが仙人としての修行を積み、呼吸や心拍といった不随意運動ですらも制御下に置く巨蟹鬼セバスティアンヌにとっては、その程度の反射は既に己の意志の支配下。熱による反射を無視して己のハサミに直進を命じた。
【剛細一致】とも呼ぶべき、全てを腕力で薙ぎ倒す彼女の特性が真価を発揮する。
そこにさらに私が慣性力の強化魔導を施した。それにより、かち上げられて軌道がブレかけたセバスティアンヌの鉗脚の動きをアシスト。
「逸らせ……ねえッ」 「止まらない、だと!」
驚愕するヘンゼル氏とフィデリオ氏。
ガシャーン、と金属質のものが
拳を胸の前で打ち合わせるかの如くして、両の第二鉗脚の爪先を打ち合わせたセバスティアンヌ。
その間には、決闘相手の二人が居たはず。
やったか………? と思うが、しかし。
「ふはっ、そうだろうとも、“聖者” に “梵鐘砕き” ! 音に聞こえた貴公らが、この程度ではやられるわけがないだろうからな!」
「油断してはくれないか」
セバスティアンヌの言葉通り、なんと、フィデリオ氏とヘンゼル氏は健在。
「………ハサミが脆く熔けていなければ危ないところだった」
彼らはカニバサミを逸らせないと悟るや、白熱の奇跡の出力を上げ、彼女の鉗脚を過熱することで、見事に融かしきったのだ。
その証拠に、セバスティアンヌの左右それぞれの鉗脚の第一節のその先端は融けて弾け飛んで、大きくえぐれ、残滓が赤熱したまま滴っていた。
まるでフィデリオ氏とヘンゼル氏の二人を避けるように、打ち合わされたハサミは、円筒形に焼失していたのだった。
「まさかこちらのハサミが融けて壊れるとはな! はははッ! だが安堵するのはまだ早いぞ!」
だがセバスティアンヌの動きは止まらない。なぜなら。
カニバサミの役目は、拘束!!
本命は、巨鬼の上半身が構える得物、如意鉄棍による最後の攻撃。
多少
拘束は完了している。ならば、狙い通りだ!
突進のエネルギーは、急停止によってつんのめったセバスティアンヌの上半身へと既に移動している。
円転流転する力の流れを制するのが、彼女が体得している武術の理。
さらに先ほど私が付与した慣性強化の魔導はまだ生きている。当然、この動きにも適用される。突進の慣性は損なわれることなくそのままに振り下ろしのエネルギーに転化された。
「“降竜砕撃”!!」
「追加だスティー! 〈
それと同時にフィデリオ氏たちの守りの加護を少しでも減殺するための術式を、スティーの如意鉄棍に付加する。
連続的に発生する小規模な魔導により奇跡による中和作用を飽和させる設計の術式だ。
まあ、これで攻略できるとも思っていない。どの方式が奇跡に対して有効か、様子を見るためのものでもある。これが通らなければ、通らないという結果を得られるし、異なる小規模魔導の連続という方式上、小手調べに用いるにはちょうど良い。
果たして、一撃は
「ぐ、ぉ、」
二人纏めて砕こうとしたセバスティアンヌの
やられたのは梵鐘砕きのヘンゼル。
大鎚を振るって迎撃しようとした彼だが、魔法によってさらに強化された巨蟹鬼の膂力によって押しつぶされ、一撃を受けた部分が肉片となって散らばった。その体積は実に身体の半分ほど。
「ヘンゼルッ! 〈昇日の奇跡〉! 日が昇る如く再生せよ!」
半身を失ってもヘンゼル氏は意識を保っていた。大鎚も手放してはいない。
そして即座に齎される、癒しの奇跡。
日は昇り、日は沈み、そしてまた昇る。
ゆえに傷は再生する。
巨蟹鬼の一撃を受けて吹き飛んでいたヘンゼル氏の骨肉と鎧が、全て諸共にまるで逆回しのように復元した。
何らかの方法で魂か肉体に紐づけられているのか、その鎧までもが同時にだ。*4
そうか、これが彼らの連携というわけか。
彼ら一党が十全に機能する限り、彼らはきっと倒れないのだろう。
本来は日の昇る時刻にしか最大限の効果を発揮しない〈昇日の奇跡〉だが、いまここにあってはフィデリオ氏は陽導神の神威を降ろした化身にも等しい。
つまり、陽導神がもたらすあらゆる奇跡の前提条件を、今の彼は全て無視して最大威力で行使可能なのだ。
ここまでの効果を発揮するのもそのためだろう。なにそれズルい。
「まあいいさ! そちらが再生するなら、こちらも再生させればいい。もったいないおばけの加護ぞあれ! 〈再生の奇跡〉!」
〈白熱の奇跡〉によって熔かされたスティーの
再生することにかけては、もったいないおばけに信心を捧げる私には、一家言あるのだ。
「さて……奇跡を
陽導神の神威が降ろされて、無尽蔵にリソースを得ているフィデリオ氏に対して。
私ことマックス・ロタールは、普段から貯めている功徳のリソースを切り崩す必要がある。
魔導であれば内蔵式の質量融解系の魔導炉からの魔力で賄えるからほぼ無尽蔵に使えるのだが、もったいないおばけに奇跡を請願するとなれば、そうはいかない。リソースの問題が立ちはだかる。
特に再生系は、神の奇跡の系列でなければ強い作用は望めない。
瞬時に回復してしかもリハビリ不要で戦闘可能な状態にもっていくのはまだ魔導では難しく、文字通りに奇跡でしかありえないのだ。
だから何度も何度も深刻なダメージを喰らうとマズイ。
そうなれば先にこちらの功徳の貯蔵が尽きる。
だが、私は心配していない。
なぜなら私は、私の近侍護衛にして最高傑作の魔導生物、巨蟹鬼のセバスティアンヌを信頼しているからだ。
「心配するな、主殿」
その武の種族としての戦闘センス。
そして百年を優に超えて戦士として最前線で戦ってきた経験。
それをさらに磨いてきた、仙猫娘師父との仙術修行。
「さっきの攻撃はもう、
口元から覗く牙が頼もしいこの笑みよ!
そして再びの攻撃の応酬。
超接近戦で互いの得物を打ち合わせるスティーと冒険者二人。
少しでも間合いを離そうとすれば、スティーの鉗脚に呪縛された静電妖精を使った電磁投射砲が放たれる。
そしてスティーの間合いの中に入れば、ハサミで2回、鉄棍で1回の攻撃が嵐のように襲い来る。*6
しかし、対する冒険者二人もさるもの。
フィデリオ氏がそのうち2回を捌き、ヘンゼル氏が残りの1回を大きく弾くという展開が続いている。
つまり、最初にハサミを熔かされて以降は、スティーの攻撃は熔かされていないのだった。
「〈白熱の奇跡〉が、効かない!?」
「奇跡とはいえ、力は力。ならば化勁でいなせぬ道理はないのだッ! その力の質は、もう覚えたぞ!!」
「面妖なッ!」
仙術の修行を通じて、出身部族のウラガン部族の伝来の合気武術をさらに洗練させたセバスティアンヌは、この土壇場で、太陽の熱の奇跡ですらも受け流すという、武術の奥義に目覚めたのだ。
風を受け流す柳のように、器に沿って形を変える水のように。
剣戟とともに彼女の身を加熱させようとする〈白熱の奇跡〉のその力の流れを、スティーは察知し、散らし、受け流している。
〈白熱の奇跡〉は、持ち手の武器に留まり伝う。
ならばその力の動きを真似してやれば、五体総身が武器である巨蟹鬼の体表を、同じ要領で受け流してやることだってできるというわけだ。
「素晴らしい、芸術的だ。流石はスティーだ!」
フィデリオ氏とヘンゼル氏の白熱した馬上槍と大鎚を受け止めるたびに、流し込まれた陽導神の奇跡の力が彼女の甲殻の表面を滑り、螺旋を描いて虚空や地面に受け流されていく。
針の穴を通すような、繊細で精妙な力の扱いを要するはずのそれを、スティーは有り余るパワーによって強引に抉じ開けて実現していた。
その間も、私はもちろん投射型の魔導、いわゆる魔導弾を放って牽制を続けている。
少しでも集中力が削がれれば上等だと割り切って。
牽制を放つのは向こうも同様。
フィデリオ氏は光線型の投射型の奇跡で、合間合間に私を薙ぎ払おうとしてくるのだが……。
「〈光条の奇跡〉!」
「〈
「まったく多彩だな、これだから魔導師は!」
まあ、魔導障壁を張って散らし、さらに光すら曲げるように空間ごと捻じ曲げて逸らす。
そして、一所に居ては追撃を受けるので、飛行術式で三次元的に動いて的を絞らせないようにする。
その間も、空間それ自体を極限環境化してスリップダメージを与えようとするダメージ空間生成術式は継続中。
奇跡と魔導の食い合わせが悪いとはいえ、牽制射撃程度で落ちてやるわけにはいかないね。
見た目は一進一退。
だがその水面下では、お互いがお互いの集中力という名のリソースを削り合うことに全力を尽くしていた。
勝負は水物。
単調なリズムに見えて、その実、カオスが根底に流れている。
じっくりと
揺らぎが噛み合い、均衡が崩れるその一瞬を。
そしてその時が来る。
ヘンゼル氏の踏み込みが会心の出来だったのか、スティーが大きく弾かれた。
とはいえ弾かれたら弾かれたでそれはスティーにとってはチャンスである。
巨蟹鬼とは、いわば騎乗した巨鬼のようなもの。
つまり、
真骨頂は、大きく加速しての突撃であり、その巨大過ぎる運動エネルギーを転化しての必殺の武技だ。
弾かれたスティーは、空中に自らの生得魔法で足場となる障壁を創ると、それを使って三角飛び。重力加速度によるものより遥かに早く、地上に復帰する。そして一気に駆け出した!
ダカダカダカダカッと怖気を催すような重低音で
四つの
牽制射でヘンゼル氏とフィデリオ氏の動きを制限する。突撃の進路から逃さない。
「喰らええぇぇええいぃ!!」
「嘗ぁめるなぁあああ!! 〈紅炎の奇跡〉!!」
だがフィデリオ氏たちは最初から避ける気が無かった。
不退転! その意気や好し!
炎気を纏い、移動や挙動を補助・加速する奇跡が、彼ら冒険者二人を覆う。
その直後、突如としてまるで
「バーニア!? スラスター!?」
なにそれかっけえ!!
まるでどこぞの機動戦士のような風情だ。
男子心が刺激されるじゃあないか。
そして噴出する紅炎の反動に支えられたフィデリオ氏とヘンゼル氏が、超加速して真正面からスティーと激突した!
「おいおいおいおい、マジかよ人間やめてんな!!」
激突した三者三様に傷は負いつつも、それでも全員が原形をとどめていた。
スティーは分かる、そもそもの存在・構造としての強度が違うからね。体重差は何十倍もあるのだ。
だが、フィデリオ氏とヘンゼル氏は意外だ。
何もかも轢き潰すスティーの突進を受けておきながら原形をとどめているとは。
………いや、跡形もなくはじけ飛びそうだったのを、奇跡による賦活と再生で無理矢理に繋ぎとめているな?
そして……あ、聖者フィデリオ氏と目が合った。
ゾクリ、と悪寒。
「ヘンゼル! 時間を稼いでくれ!」
「スティー!
今は私は飛行している。
つまり、地を這う冒険者二人の射程の外に居ると思っていた。
だが、
〈
噴炎による高速移動。
空はもはや、安全地帯ではない。
極限の集中のなか、視界に映る映像がコマ送りのように流れていく。
私の眼下で、紅炎を纏ったフィデリオ氏がこちらへと一直線に飛び上がった。
それを阻止しようとスティーが重力制御の生得魔法を発動させ、フィデリオ氏を墜とそうとする。
同時に、最も近い
だがそれを紅炎を噴出させたヘンゼル氏が阻害。
ロケット付きハンマーみたいになった彼の大鎚が、スティーの歩脚のうちの一つを砕きつつ跳ね飛ばした。
それによってバランスを崩したスティーの
重力魔法は、フィデリオ氏が器用に空中で身を捻って射出飛行軌道をぐにゃりと曲げたのと、彼が身に纏う奇跡によって干渉されたがために無効。
魔導障壁を多重生成。──── 無効。全て鎧袖一触砕け散った。
空間歪曲罠を敷設。──── ほぼ無効。大部分は無効化され、一部は徹ったが、超再生により復元された。
引きちぎられた手足が
ハハッ、
流石は不死の権能の元の持ち主たる陽導神の加護。
自分を転移──── チッ、接近されすぎて高度な魔導の発動が阻害されている。激突までに転移が完了できない。
因果改変──── 分岐未来が紅炎で焼き尽くされている? 必中効果、というわけか?
ならば。
「攻撃は最大の防御ォ────!! 〈
こちらも全身全霊でぶつかるしかあるまい。
無差別の極大術式の解放。
そしてそれを貫く、神威の槍。
結果は、
槍を支えに膝をついた体勢から立ち上がったのは──── 聖者フィデリオ。
巨蟹鬼セバスティアンヌと、梵鐘砕きヘンゼルは、爆発した術式の余波でリング際まで吹き飛ばされている。
まあそれぞれいろいろと大変なことになっているが、自前の回復力と付与された術式あるいは奇跡で直ぐに戦線に復帰できるはずだ。
では、マックス何某は……というと。
「やりすぎた、か?」
聖者フィデリオの横顔に、つぅ、と冷や汗が伝う。
マックス何某は、文字通りに、
跡形も残っていない。何も、なんにも、だ。
暫く待つ。*7
待つ。*8
待つ。*9
すると、ようやく。
この決闘円に溶け込んでいた無貌の審判である擬似使徒の無機質な声が響いた。
“勝者、フィデリオとヘンゼル”
ここに決着はついたのであった。*10
マックス何某(神官担当)「あああ! 勝手に功徳のリソースをガリゴリ使うなあああ!!?」(発狂)
マックス何某「第二形態で復活じゃ~! 菌糸の破片や胞子から高速増殖してやr────」
無貌の審判・擬似使徒『………結界内で規定値を上回る大規模攻撃の発動を感知。行使者マックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンにペナルティを付加します』
マックス何某「あっ」
マックス何某「ほげぇっ!? 胞子状態で弱体化喰らったらあかん死ぬぅ!?」(
無貌の審判・擬似使徒『審判への攻性反応を検知。行使者マックス(以下略)に対して、さらなるペナルティを付加します』
マックス何某「こっちのリソースが尽きるのが先か、そっちの制御を喰らい尽くすのが先か! チキンレースじゃい!! ぬぅううう!!」
無貌の審判・擬似使徒『………ペナルティ執、行ちゅウ。マックス(以下略)の存在値は規テイ値以下。終了条件の達成をかクにん』
マックス何某「たとえ! 胞子の一粒になっても! 負けぬぅうう!!」
マックス何某「おっ!? なんか力が急に戻った! このまま増殖して喰らい尽くすぜーー!!!」
マックス君は、決闘後、ひょっこりといつのまにか復帰していたのを発見されました。
マックス何某「満腹。ついでに権能ゲットだぜ。………ところで何しようとしてたんだっけ私は?」
マックスくんは戦士じゃないので戦闘中にテンパって諸々のことが頭から吹っ飛ぶ傾向にあります。
======
原作WEB版更新されてますよー! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/293/
弄月の迷宮は性格の悪い造りをしていますねえ(というかこれ、予定した日に面子が揃わないことが複数回続いて、仕方なく個別に進行させる羽目になってる社会人卓なのではないか?? まあGMの趣味も出ているにせよ)。そして戦わされる相手も凄腕になってきた。セス嬢は無事なのかも心配。
次は『不確定名:巨大な戦士』(巨鬼)VSエーリヒ君! 巨鬼の方の位階はどんな程度のものかしら。5階位あるうちの上から二つ目(エーリヒ君に “つばつけ” したローレン女史と同じ位階)? それともマルスハイムの二刀流剣士なロランス女史と同じくらい? 楽しみですね!