フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆魔法チート製の魔法による影響・心眼編
エーリヒ「……大して苦労してないのに熟練度がめっちゃ溜まってるし、心眼系の技能が一気に上位スキルまで解放(アンロック)されてて、さらに習得に必要な熟練度も軒並み割引きされてる……。これマ?」

適正レベル帯を大幅に超える敵を(バフ山盛りであっても)特殊条件達成して倒すと経験値がオイシイよねって話。
そして魔法バフで下駄履かせてもらったとはいえ一度その境地を経験したらスキル取得も簡単になるよねって話でもある(追記:理論の勉強で習得難易度が下がる魔法と比較すると、身体能力系は体感することにより習得が簡単になると想定される。魔法バフは、例えるなら自転車の運転練習における補助輪のイメージ)。

……ますますマックス君とエーリヒ君の権能の組み合わせの手に負えなさが明らかになってきたので、オラワクワクしてきたぞ!(試錬神が嬉々として寵愛を授ける(カワイガる)ようです)

===

◆前話
面接用に服を揃えたし、減ったお金の金策も成功した(赤玉をピナ氏に買い取ってもらった)
 


6/n 帝都ベアーリン-1(道中ダイジェスト&鴉門通過)

 

 アグリッピナ氏に呪詛からゲットした結晶体を売りつけたら似たような厄いアイテムの呪詛祓いと結晶化を5件くらい追加されたでござるよ。

 ……まあ私に否やは無いし、エーリヒ君も何故かめっちゃ乗り気だったからいいけど。

 いい小遣い稼ぎになりましたー(材料提供がアグリッピナ氏だからせいぜい手間賃程度だけど)。

 

 結局古本市を開催していた街には一週間ほど滞在して、“流石にそろそろ出発した方が良いのでは……” と雇い主を促したエーリヒ君のファインプレーによって無事に次の街へと進むことに。

 

 

 その後もそしてえっちらおっちら雨が降っては風が吹いては旅程が遅延しつつも、いよいよ見えてきました帝都ベアーリン!

 

 途中で私の “普通の貴族籍” の手配と、ヘルガ嬢とターニャの “半妖精として抹消された跡がある貴族籍” の手配(復籍前提なので彼女たちが魔導師として認められたら直ぐに戻せるように注記がされてる)が終わったらしく、私の分の帝都入市の割符も手に入った。

 ……これを手に入れた代償に一体何をさせられるのか、ちょっと身体の震えが止まらないが……。

 

 

 

 

 い、いやー、道中も色々とあったなあ!(強引な話題転換)

 

 一行の中に試錬神に愛されてる人が居るんじゃないかな、誰とは言わんけど。

 え? きっと私じゃないよ。うん、私を見出してくれたのは試錬神じゃなくて “もったいないおばけ” だから違うよ私じゃないよ濡れ衣だよ。

 

 というわけで印象的だった出来事をちょっとダイジェストで振り返ってみようか。

 

 

 

§

 

 

 

1.はじめてのこうげきまほう

 

 

 あれは道中でエーリヒ君が戦闘用の魔法が載った本をアグリッピナ氏から貸してもらったときのことだ。

 

 魔法というものに田舎の男の子(ダンスィ)らしい憧れを持っていたらしいエーリヒ君は大層うれしそうにその “はじめてのこうげきまほう” を振りかざしてね。

 まあもちろん街道脇の馬車の宿営地とはいえ、そこらへんにぶっ放すわけにもいかないからと一応は空に向けて放出していたのさ。

 

 使っていたのは基礎とも言える炎の球の魔法だ。

 焼かれて平気な生き物はそう多くはないからね。

 魔法の炎であれば、術者を焼かないようにしたりとか、通常の炎ではできないような付加も出来るけど、エーリヒ君が使っていたのはオーソドックスな奴だね。

 

 つまり “何かにぶつかって一定時間経つか、あるいは魔力を切らない限り消えない火の玉” だ。

 射出加速は発射時の1回限り。あとは落ちるだけ。

 その他の付加(アドオン)は特になし。

 

 で、それをポンポン空に放ってるとどうなるか―― しかも放ったあと炎への魔力供給を絶たずにだ―― というと。

 

「うおわぁぁあああ!!?」

 

 セルフ火の雨を浴びる羽目になるんだな、これが。

 エーリヒ君ったら、テンション上がり過ぎて火の玉と魔力の繋がりが切れてないことにも気づかなかったらしい。

 エーリヒ君は魔力容量はそれなりにあるから、初級攻撃魔術の維持くらいじゃ消耗に気づけなかったようだ。

 

 

 いやー、笑った笑った。

 申し訳ないが、うちのターニャと一緒に声出して笑ってしまったよ。

 いまも思い出し笑いが……。ぷふっ。

 

 ちなみにその様子をエリザへの礼法の指導の傍ら術式で覗いていたっぽいアグリッピナ氏も馬車の中で噴き出してたからね。

 長命種(メトシェラ)笑わせるとか大したもんですよ。誇っていい。

 

 ふふふ。

 あとその上、魔力を切れば火の玉は霧消するのに全然気づかずに、律儀に<見えざる手>の術式で迎撃しようとするんだもんな。

 無駄に洗練された無駄のない動きで無駄に魔力と体力を浪費するエーリヒ君を見て、思わずいい笑顔しちゃったよね。あとで絶対ネタにしようと思いました、マル。

 

 最終的にはほぼすべて撃墜したんだけど、最後に、一つ撃墜してその真後ろに隠れてた二つ目を驚きつつも撃墜して、さらにその真後ろに隠れてたまさかの三つ目を撃墜できずにギリギリでなんとか避けたけど掠らせちゃって前髪とか眉とかを焦がしちゃったんだよね、エーリヒ君。

 

 ジ ェ ッ ト ス ト リ ー ム ア タ ッ ク 喰らってんじゃん!

 

 いやー、何事もなく無事に済んでよかったね。

 もしまともに喰らってても私が跡形もなく治療してあげただろうから、結局はどう転んでも問題は無かったろうけど。

 

 とりあえず最愛の妹のエリザちゃんに醜態晒したのを目撃されなくてよかったねぇ。

 

 

 

 

 ああ、エーリヒ君の焦げた前髪と眉とかは、ターニャに「せっかくの天然モノなので治してあげてくださるかしら?」と言われたから私が治しておいたよ。

 妖精たちに言わせると、同じ金髪碧眼でも、私は魔法で弄った養殖ものというか整形美人で、エーリヒ君は生まれつきの天然ものなんだとか。その差を気にする妖精も居るし、ターニャみたいに気にしない妖精も居るみたいだ。まあ好みの問題だな。

 

 

 ……治すときに彼の睫毛も熱でクルっとカールしてたのを見つけても噴き出さなかった私を褒めてくれても良いのだよ?

 

 

§

 

 

 

2.チンピラ “を” 守れ!

 

 

 あれはどこの街だったかな。

 私とターニャが適当な下層民向けの酒場で夕食を摂ってた時のことだ。

 相変わらず眠り続けるヘルガ嬢の容態の監視は術式で並列意識の一つに任せつつ、かなりいい匂いのする酒場を見つけたからとそこに入ったんだった。

 

 うまいうまい絶品だと言いながらターニャと二人で食べてたんだが……。

 

 そこになんとエーリヒ君を従えたアグリッピナ氏が店に入ってきたんだよ!

 

 掃き溜めに鶴どころの騒ぎじゃない。

 明らかに貴種と分かるがアグリッピナ氏はもう絶世のと言って良い美女だ。

 あの怠惰で発酵した性格も、顔が良いから許されてる面はあると思うね。

 

 とにかくそんな国を傾けかねない美女が入ってきたもんだから、店中の会話は一斉に止んで、老若男女問わず店内の全員が生唾を呑んで凝視したわけだ。

 ……何週間かで彼女の美貌を見慣れていた私たちは除いて。

 

 そしてそんな店内の様子は気にせず進み、優雅に椅子を引いてどこからか取り出したハンカチを座面に敷いてアグリッピナ氏を座らせるエーリヒ君。

 <清拭>の術式でテーブルや椅子や床を綺麗にするのも忘れないのは、魔導従者の鑑だね。

 まるでそこだけ高級店になったみたいに錯覚してしまったよ。

 

 そのあいだに、たぶん呆けていただろう様子の給仕の女の子に、<声送り>の術式で注文を伝えたんだろうね。

 一瞬身を震わせた給仕の子―― <声送り>は耳元で囁くように音声を飛ばす術だ。エーリヒ君も罪作りな男だよねえ―― が慌てて奥に注文を伝えに走った。

 そのパタパタという足音にハッと全員が気を取り直し、ざわざわと喧騒が戻ってきた。まあ、アグリッピナ氏の登場のおかげで前よりは幾分は浮ついていたがね。

 

「マックスおかあさま、これ、何事もなく済むと思います?」

 

「まさか。賭けても良いが穏便には済まないだろうね」

 

「あらそれじゃあ賭けになりませんわね」

 

 改めて確認するが、ここは下層民向けの酒場だ。

 酒が入って気が大きくなっている人間ばかりで、モラルなんて欠片も期待できない。

 エリザちゃんは寝た後なのか宿題やらせて留守番なのか知らないが、連れてきてないのは正解だね。

 

 つまりまず貴種に連なるお嬢様が来るような場所じゃない。

 しかも屈強な護衛の一人も付ければいいものを、連れているのは成人にも満たない丁稚だけだ。

 

 こんなの絡んでくれと言っているようなものだよ。

 

 

 とはいえ、アグリッピナ氏が食事に手をつけ、エーリヒ君が高級店の給仕のようにその傍に控えて暫くは無事だった。

 初めはどんな難癖をつけられるのかと戦々恐々としていた店員側も、思いのほか大人しく食事するアグリッピナ氏に少し安堵したような雰囲気が広がっていく。

 まあ実際にこの店の食事は店主の腕がいいのか相当に美味かったからね。

 

 となると “おっ、結構話の分かるやつじゃん。こんなとこに自分から来るとか、こりゃナンパ待ちの誘い受けだな” みたいな見当違いのことを考える馬鹿が出てくるものだ。

 いかにも遊び人風のチンピラがこそこそと仲間内で算段を付けたかと思えば、無謀にもアグリッピナ氏の掛ける卓の方へとナンパに行ったのだ。

 

 いやー、馬鹿は怖いね。

 ()()アグリッピナ氏が―― 長命種は食べたものを完全に吸収できるから小食で済む―― 珍しくも()()()()()()()()ところに邪魔をしに行くなんて。

 私なら頼まれたってご免だね。まだ飛竜の巣に卵を取りに行った方がなんぼか生き残る目があるよ。

 

 あーあー、しかもエーリヒ君の穏やかな静止を振り払って不躾にもアグリッピナ氏の肩に手を掛けやがった。

 オイオイ、死んだわアイツ。

 

 イラっとしたアグリッピナ氏がチンピラ相手に術式を練ろうとした瞬間。

 

 

「失礼――」

 

「何だテメ、ガキはすっこんでろ…ブベラァッ

 

「―― 貴殿の頬に虫が」

 

 エーリヒ君吹っ飛ばした~~~ッ!!

 

 いやー、きれーに拳が決まったね。

 これは立ち上がれない。

 

 で、もちろんこういう酒場では喧嘩は酒の肴みたいなもんだから。

 殴り飛ばされたチンピラの方のお仲間がエーリヒ君を畳んでやろうと襲い掛かるわけだ。

 ここでやられっぱなしだと面子が立たないからね。

 

 周囲も一気に観戦モードで囃し立てるわけよ。

 やれー! ぶっとばせー! ガキに負けてんじゃねーぞ! って感じで。

 

 ……アグリッピナ氏? さっさと遮音結界張って食事に戻ったよ。

 横目ではエーリヒ君の千切っては投げ千切っては投げの獅子奮迅の大活躍を観戦してるみたいだけど。

 うわぁ、こんな中でよく美味そうにワイン飲めるなあ。ホント良い神経してるよ。

 

 

 え? 私とターニャはどうしたかって?

 

 そりゃこんな状況なんだもんよ、チンピラ対エーリヒ君のブック(賭け)を開くでしょうよ。

 

「おーい、賭ける奴はいないか! 私はそっちの金髪の従者の子の()()()()10リブラ(銀貨10枚)だ!」 と一気に大穴()()()方に呼び水となるようにお金を放り込む私に。

 

「はーい紳士淑女の皆さま? 掛け金はこちらにお入れくださいね~」 と愛想を振りまきながら賭け金を集めに行くターニャ。……この子もこの子で相当世慣れしてきてるな。

 

 そこで漸く、エーリヒ君が私たちも同じ店にいたことに気づいた。

 

 目線で加勢しろと言っているが、もう君が勝つ方に賭けた後だから残念ながらそれはできないんだ。

 賭けが不成立になっちゃうからね。

 いやーざんねんだなー(棒)。

 

 

 

 その後だけど、エーリヒ君は見事に無傷でチンピラを全員ノして私に勝利をもたらしてくれたよ。

 儲けた儲けた。

 

 そのタイミングでちょうど食べ終わったアグリッピナ氏が店主に迷惑料込みでチップマシマシでお金置いて席を立ったから、店も損はしてないでしょ。

 エーリヒ君がインターセプトしたおかげで、チンピラも死んでないし、店も更地になってない。ファインプレーだ。

 

 だから賭けの儲け分を、帰ったらファイトマネーとして折半して渡してやろうじゃないか、エーリヒ君。

 

 

 

§

 

 

 

3.妖精2人、人目を惹かないはずもなく……

 

 

 帝都も近づいたある街にて。

 アグリッピナ氏はエリザ嬢とエーリヒ君のための服を針子を雇って仕立てることにしたようだ。

 

 流石に荘園のそこそこ豊かな富農(エーリヒ君の実家)が用意した一張羅とはいえ、見栄の都の見栄の城と揶揄される帝都帝城、その南塔に居を構える魔導院に赴くには不適格だ。

 

 見た目というのは帝都という巨大な社交場においては武器であり鎧なのだ。

 ローブの裾が汚れていれば、文字通りに足元を見られて裾も綺麗にできないほど困窮していると侮られる。

 弟子や丁稚の服装がみすぼらしいと、師であり雇い主であるアグリッピナ氏が軽んじられる。

 ここでは、おしゃれは義務だ。

 

 

 ということでエリザ嬢は着飾られ、エーリヒ君が絶賛する天使のような装いを幾つか手に入れた。

 エーリヒ君が最近儲けた分はだいたいエリザちゃんの服飾費に消えたような気がするけど良いのかな。まあいいのか、エーリヒ君が嬉しそうだし。

 

 一方のエーリヒ君のは暗色系のダブレットにズボンというまあ丁稚としてのスタンダードスタイルだね。

 

 

 まあうちのターニャも負けてないけど!

 エリザ嬢とおそろいで、フリルたっぷりのブラウスにコルセットスカート、色違いのそれを着込んだ様子は仲のいい姉妹のよう。

 ターニャこだわりの金色は、下着と要所の刺繍に使うことに落ち着いた。

 

 

 そんな2人が妖精の特性を発揮して宙にふわふわ浮いて踊るようにきゃらきゃらと笑いながら通りを飛べば、注目を集めるのは至極当然のこと。

 

 そして悪心を起こしたやつらが無邪気な妖精たちに麻袋を被せて捕まえようとやってきて……。

 

 

「ほらエリザ。気づきまして?」

 

「えっ、ターニャ。何のことを言っているの?」

 

「間抜けな人攫いですわ。たぁくさんこちらを見てますの」

 

「……人攫いにはいい思い出がありません」

 

「それもそうでしょうね。だからこうしましょう」

 

 

 宮廷語で会話していた半妖精たちのうち、極光のような輝きの髪を持つ少女・ターニャが指を鳴らすと、彼女たちを攫おうと近づいてきていた奴らは電撃にしびれて陸に挙げられた魚のように体を痙攣させながら倒れ伏した。

 脳内窃視術式による悪意看破と、電撃結界術式の合わせ技だ。

 

 

「ターニャは凄いね……わたし、まだそういうのできない……」

 

「エリザも自分の属性に気づけば直ぐですわよ。ほら私はちょっと特殊な生まれ方をしたので、最初から己の権能を理解していましたが、普通の半妖精はそうではないのですし、焦ることはありませんわ」

 

「うん……がんばる」

 

「また妖精としての魔法を人類種の身体で使うときのコツも教えて差し上げますわ!」

 

 

 明るく可愛らしく会話する妖精のような少女たちの後ろには、死屍累々と誘拐未遂犯未満の痙攣する身体が転がっていた……。

 

 ――― 隠れて護衛すると聞かないエーリヒ君にひっつかまれて付いてきたが、ひょっとしてこの後始末しなきゃならんのか? 私は。

 倒れた人々は泡を吹いて震えるだけで答えてはくれないし、エーリヒ君は二人を追って先へ進んでしまった。

 

 ……仕方ない。後遺症が残らない程度に治癒と賦活の術を軽くかけとくか。ターニャの瑕疵にされても業腹だし。

 私も街中でコトを起こすのは流石に気が引ける。これが市壁の外なら残機補充のためにも全員虚空送りにしてやるところだが。

 

 どうか追いつくまでにエーリヒ君が何もやらかしませんように!

 

 

 

§

 

 

 

 こんな感じで色々あったんだよなあ。

 

 別の時には、馬車の野営地ですれ違った女衒がエリザとターニャを買い付けようと交渉してきて、ブチ切れたエーリヒ君が女衒一行をなますにしかけたり(治癒術式で私とアグリッピナ氏がフォローしなきゃ死人が出てた)。

 

 薄暮の丘に遊びに誘われたエリザちゃんをうちのターニャが必死に引き留めたり。

 

 寝てる間に悪戯好きの野良妖精たちに髪を編み込みにされたエーリヒ君が、編み込みを解いたもののドレッドヘアーみたいになったり。

 え? 私? 私も野良妖精にそういう悪戯されたけど、普通に全部ざっくり切って髪を術式で伸ばし直したよ。

 

 

 

 毛髪伸長術式(のびーるのびーるのびーる)

 

 

 

 切った髪は細く割いて表面保護掛け直して再利用してターニャの服の材料にしたよ。

 迂闊に捨てると呪術の媒体にされたりするし、それにもったいないからね。

 

 

 とか道中のことを回想しているうちに、帝都に設けられた16の門のうちの一つ、南南東の魔導師優先門 “鴉門(クレーエストーア)” に到着。

 先を行くアグリッピナ氏の豪華な馬車が、自動的に外に開いた門の内へと入っていった。

 

 それがいったん閉じれば、次は私たち(私、ターニャ、ヘルガ嬢)の乗った馬車の番だ。

 三頭猟犬(ドライヘッツヤークトフント)を従えた板金鎧の衛兵が、こちらの割符を確認しに対応しようとして……馬車馬も御者も居ないこの車体にまごついているのが分かった。

 私たちの馬車は虚空の箱庭のフライホイール動力を接続しているから、馬は居ないし、操縦は私が魔法で行っているから御者も居ない。

 

 まあ意地悪するつもりはないので、思念通話術式で声をかけて呼び、さっとこちらから窓を開けて対応してもらうことにする。

 

 ……今更だが、この割符は本当にきちんと帝都の門衛の認証を通るんだろうな?

 

「割符を拝見」

 

「どうぞ。まだ私は魔導師(マギア)じゃないが、さっきの前の馬車の連れでね」

 

「ええ伺っております。――― はい、確認できました。では帝都をご堪能ください」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 

 さあようやく帝都に到着だ! 待ってろよ魔導院!

 




 
◆帝都ベアーリン
いわゆる行政都市。人口自体は六万人程度で、ライン三重帝国では10番目の人口を抱えている。住人は貴族や役人、そして魔導師。また、それらに関係する人々。
帝城を中心に放射状に16方位に広がる焼成煉瓦敷きの大通りが美しい都市計画に従って建造されたことを物語る。
南東を中心に魔導師が工房を構える区画が広がっており、南南東の門は魔導師関係者が優先とされている。

◆割符
まあICカード式の身分証明書のようなイメージ。門に刻まれた魔導術式で情報を読み取って照会し、さらに入退の記録も取っているようだ。貴族向けのものは偽造も困難。
 

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