フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・マルスハイムがっかり名物『謎肉』(元祖謎肉発祥の地であっても謎肉は謎肉に過ぎないので)
・ジェネリック人体で合法的に屍霊術経験値上昇(本物でしか積めない経験は依然としてあるが、ジェネリック人体でやれることを研究し尽くすにはまだ幾ばくかの時間が必要であろう)
・街のホットな噂『天幕街炎上! 原因は巨鬼の喧嘩!?』
・親帝国派土豪への調略(力技)! ダグビャルトゥル氏「そりゃ目と鼻の先に地下鉄道な集積所が出来たらどうしようもねえよ」

 


34/n マルスハイムの初夏-4(白い毛並みの猫頭人、情報屋シュネーの潜考)

 

1.情報屋・白猫シュネーの潜考

 

 

 『天幕街大炎上! 一夜にして焼失!』の報は、翌日にはマルスハイムを席巻した。

 

 ある者は『ああ、やけに明るくて、煙のにおいがしてたのはそれか。街まで延焼しなくて良かったよ』と無関心そうに言い。

 ある者は『流民がそれほど焼けなかったのは残念だ、この機に減れば良かったものを。あんな奴ら。ふん、けが人も大して居ないらしいし、死人なんて一人も出なかったそうじゃないか』と吐き捨てるように言い。

 ある者は『商売相手がまるで全部消えちまった! 安く使い潰せるやつらだったてのによぉ!』と嘆くように言い。

 ある者は『知り合いがいるんだが無事かねえ』と心配げに言い。

 ある者は『巨鬼はやっぱりおっかないねえ』などと言い。

 

 そして大多数は、所詮他人事と、世間話にする以上の関心を持たなかった。

 街壁の外の悪所での出来事など、まともな市民にとっては関わるべきものではないのだ。

 

 

 

 

 白い猫頭人(ブパティスィアン)*1の情報屋が、そういった街の人々の噂を拾い集めていた。

 界隈の玄人の間では聖者フィデリオの御用達として一目も二目も置かれている白猫の情報屋は、まずは事件の外郭を浮き彫りにしようと、噂に当たることから始めたのだ。

 

 だがこの白猫の情報屋、(シュネー)という名を持つ彼女は、自身が後手に回ったことを自覚していた。*2

 昔を………自身の原点を思い出して、苦い思いが沸き上がる。決して表情(かお)には出さないが。

 

「フィデリオの旦那が気にしとった方伯閣下絡みの案件っぽいしなあ。本腰いれんと」

 

 高貴さすら感じられる気品にあふれた美猫なシュネーの口から出てきたのは、ライン三重帝国はライン大河の通る真ん中あたり、商業流通の中心地の帝国中部地方の方言だ。

 中部訛りと言えば、劇作であれば油断ならない 〝本場の商人〟 を表す記号となるくらいだ。

 そんな訛りも、彼女にかかれば妖艶な雰囲気を作り出すための構成要素の一つ。しぐさ、表情、足運びに間合いの取り方、そして口調に会話の間、時折跳ねるネコミミの動きと、スカートから出て揺れる猫尻尾。全てが彼女を人好きのする好人物であると示す小道具だ。

 するりと猫のように懐に入り込み、そしていつの間にか情報を抜いていく、シュネーはそんなタイプの密偵だった。

 

「蟹の巨鬼なんて、まあ分かりやすい目印やわぁ。向こうさんも隠す気はあらへんのやろね」

 

 天幕街を焼いて更地にして、それを後ろめたいとはちいとも思っていない。

 

 今回の件は、そんな貴族らしい傲慢さが透けて見える。

 

「さぁて。ぼちぼちやって、早うお昼寝したいわぁ~」

 

 噂を集めるのはこの程度で切り上げて、あとは裏取りに各所を回らなくては。

 白猫の情報屋は、真実しか扱わないことを矜持としている。

 そのためにはたとえ火の中、水の中、貴族のお屋敷の中………だ。

 

 シュネーは構造上つま先立ちのようになっている下肢を使って、柔らかく跳躍。

 人々の視線が切れた隙を突き、街の死角へと姿を消した。

 周囲から見ればまるで白昼夢のように、忽然と消えたように見えたことだろう。

 

 

 

 

 

 そして各所を回って情報を集めてみれば、今回の件で誰がどんな絵図を描こうとしていたのかも浮かび上がってきた。

 シュネーは拠点(ねぐら)の一つで軽く目を閉じて、一つ一つの情報を思い出していく。

 

 

「まずひとつ、衛兵の動き。失火や放火、治安紊乱(びんらん)の罪に当たらんのかいうことやけど」

 

 まず事実として、衛兵は今回の天幕街の炎上の件では動いていなかった。

 

「そもそも天幕街は、街壁の外。衛兵の管轄じゃぁあらへんものね。静観を決め込んどる」

 

 天幕街で悪徳がのさばっていたのは、衛兵がそもそも取り締まりの対象にしていなかったからだ。

 

 そして今回の火災は、特に街の中の治安には影響していない。

 逃げ出した流民たちが街門へ殺到したりもしなかったし、文字通りの火の粉が街中へ飛ぶこともなかった。

 

「蟹の下半身を持つ巨鬼の少女たち、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)ちゅうたか、逃げるんをそいつらがまとめとったゆう話や。

 あとは、火の粉を堰き止めたちゅう 〝見えない壁〟………たぶん結界魔法とかそういう類なんやろな」

 

 まるでよく訓練された貴族の私兵じみた統率を見せる異形の少女たちが、焼け出された流民たちの避難誘導をしたらしい。

 そんな目撃証言は直ぐに集まった。

 

 さらには逆巻く炎や舞い上がる火の粉が、まるで空中に壁があるみたいに一定の範囲以上には広がらなかったという話もあった。

 証言した本人たちも半信半疑の様子だったが、おそらくこれも実際に起こったことなのだろう。

 神の奇跡か、あるいは魔法か。

 

 いずれにしても、これらは、巨鬼の喧嘩に端を発するこの火災が、ただの偶発的なものではないことを示している。

 周到に準備された、何らかの計画によるものなのだ。

 

「衛兵の方も、上の方から『天幕街のことは放っておけ』っちゅうことがわざわざ伝えられとったらしぃし。行政府もなんか起こるん は事前に知っとったわけやな」

 

 まあ少なくない衛兵が、内心では潜在的な犯罪者の巣窟である天幕街を苦々しく思っていたことも影響しているだろうが、ともあれ、衛兵の方には動きがない。

 逆に言えば、こんな調子で既存の治安組織(えいへいたち)を頼れないがゆえに、流民たちの互助会という側面を持つ冒険者氏族『漂流者協定団(エグジル・レーテ)』が幅を利かせていたのだが。

 

 だがその漂流者協定団(エグジル・レーテ)も、今回の事で大きく求心力を失っただろう。

 なにせ肝心な時に彼らは天幕街を守れなかったのだ。

 彼らのメンツは丸つぶれだ。

 そしてメンツが潰れれば、従う者など居なくなるのがこの界隈だった。

 

「また別のところに集まって再起しようとしとる輩もおるようやけど、まぁ、厳しいやろなぁ」

 

 第二天幕街というか、新天幕街というか。

 さらに街から離れた場所に集まってまた天幕を立て始めている者たちも居るようだが。

 

 しかし、そちらへ流れる者たちは意外なほどに少ない。

 それは何故かと言えば。

 

「天幕街跡地では、さっそく復興というか、再開発が始まっとるし、あっこに住んどったんは、みぃんなそこの工事やらなんやらで雇われ始めとる」

 

 別にその新しい天幕街に行かずとも、飯にありつけるからだ。

 

「炊き出しもやって、立派な寄宿舎立てて。人足をまとめる顔役を懐柔して、それが無理なら直接に巨蟹鬼の嬢ちゃんらが流民の地元の言葉で人集めして。そんで片づけから再開発まで昨日の今日でもう始めとるもんなあ」

 

 いわゆる飯場(はんば)というやつだ。

 

「で、何を作っとるんか思うて、行政府の方に忍び込んで調べてみたら、案の定 〝隧道方伯〟 案件、と」

 

 近頃帝国(ライヒ)で流行るもの。

 隧道掘りに運河開削、そして巨大な荷捌き場、地下鉄道に大倉庫。

 その流れがマルスハイムにもやってきたということだ。

 

「隧道方伯閣下は、治安改善やるんも込みで天幕街の土地を辺境伯閣下から租借した、っちゅうわけやな。〝綺麗(さらち)にする〟 のは自分でやるし、もし辺境伯に面倒掛けたらその分賠償するからと言うて、割安で」

 

 つまりは帝国隧道公団による地下鉄道駅の建設と、地上の流通拠点化だ。

 そこで目を付けられた土地が、都市マルスハイムに近く、広い土地があり、労働力でさえも手に入り、綺麗にすれば治安も改善するという、天幕街という場所だ。

 天幕街の連中はもともと不法滞在者である。つまり、正当な手続きで租借された土地を開発するに当たって彼らを排除することは合法なわけだ。

 

 そういった事態を防ぐ組織力を得るために大同団結した共同体が 〝漂流者協定団(エグジル・レーテ)〟 だったのだが、それ以上の戦力で蹴散らされてしまっては、もはやどうしようもなかった。

 

「運の尽き、ってやつやなぁ」

 

 まあ悪いことばかりではない。

 鉄道基地や物流拠点の建設のための人足はどれほどいても良いようで、天幕街を焼け出された流民たちは、すぐにそちらに吸収された。

 さらには従業員への教育訓練や福利厚生の一環として、帝国語や文字の教育に、衣食住の提供も始まっている。

 治安維持についても、隧道方伯の私兵である巨蟹鬼の少女たちが、マルスハイムの衛兵たちの外部協力者として行うということで、いままでのマフィアじみた漂流者協定団(エグジル・レーテ)よりも、強力で確かで良心的な後ろ盾を得た形になる。

 

 流民の中でも真面目な、あるいは搾取されるばかりで比較的性根が善良な者たちは、天幕街から焼け出されたものの、さっそくその跡地の再開発事業のため、帝国隧道公団の手配に従い始めている。

 

 帝国隧道公団も、怪我人や病人や不具者に、大火で火傷を負った者たちにと、治療を施したり、または何らかの魔導具の試作品らしき義手義足や人工臓器を取り付けさせて、驚くべき速さで回復させ、労働力として再編しているという。

 

 天幕街全体で見てみれば、以前より待遇が上がった者の方が多いくらいだとか。

 

「んで、どうしても裏稼業から足を洗えへんやつらとか、飯場で問題起こして追い出されたようなやつらが、さらに郊外の第二の天幕街に集結中、と」

 

 人間はそう簡単に生き方を変えられないし、楽な稼ぎ方を覚えた悪党がいまさら真面目に働くはずもない。

 スラムを潰すだけでは第二のスラムが出来るだけなのは自然の流れ。

 

 天幕街という 〝グレーな悪所〟 が浄化され、漂白された方に無事に適応した人々は跡地に残り、選別排除されてより濃度を増した黒が別のところへと集いつつある。

 当然そいつらは、こんなことになった元凶である隧道方伯と帝国隧道公団を恨んでいる。

 不穏分子として地下鉄道・物流拠点の建設事業に対して何らかの妨害を企てるのは、もはや時間の問題だろう。

 

「そこに帝国側の兵站が整うのを良しとせん土豪連中の思惑も乗ってくる、と」

 

 当然ながら、土豪連中としては、大量輸送を可能とし、帝国側のますますの発展と、そして経済的・戦力的格差をもたらす、天幕街跡地下の鉄道基地建築と地上の物流拠点化は受け入れがたい。

 このまま建設を進めて追い詰めすぎては、尻に火がついた土豪たちが窮鼠となって、地下鉄道が万全になる前にやるしかない、と蜂起しかねないだろう。

 

「いや、あるいはそれも狙いなんやろか」

 

 とはいえ蜂起までの準備時間を稼ぐためにも(あるいは中止の可能性に縋るにも)、土豪たちは帝国隧道公団の事業をなんとしても妨害したいだろうし、そうしなければいよいよ決戦の機会すら失われるという危惧を抱いているはずだ。

 そこにちょうど良く、隧道方伯に恨みを持つ裏稼業の人間たちがまとまって居る、となれば………。

 

 影響力を取り戻すために武名が欲しい漂流者協定団(エグジル・レーテ)残党とも、利害関係が一致するだろう。

 もちろん乗ってくるのは一部で、明確に帝国に盾突くような真似はできかねるという第二天幕街の住人も多いだろうが、一方で土豪側の走狗となることを選ぶ者もそれなりに多く出るはずだ。

 窮すれば、人は主義主張など言っていられないのだから。

 

「土豪の 〝新英雄〟 とかいう連中は、高位冒険者に匹敵するいう話もあるしなぁ」

 

 詩に歌われるような活躍をした複数の個人の名前が、シュネーの情報網にも引っかかってきている。

 

 それが 〝新英雄〟。

 

 最近急に頭角を現した連中で、いずれも土豪の私兵や、ひも付きの冒険者なのだという。

 それも一人二人という規模ではなく、少なくとも十数人以上。

 あまりに数が多すぎて、個々人の武名ではなく、ひとくくりに 〝新英雄〟 などと呼ばれているようだ。

 

 巨蟹鬼を恐れる漂流者協定団(エグジル・レーテ)残党は、きっと土豪側に協力する代わりにその 〝新英雄〟 の派遣をねだるだろう。

 土豪側の支援を受けた漂流者協定団(エグジル・レーテ)残党による工事現場の破壊工作に、それを防ぐための帝国隧道公団側の反撃。

 天幕街が完全に落ち着くまでは、もうしばらく時間が掛かるかもしれない。

 

 

 だが、とシュネーは思う。

 

 

 その程度のことを、隧道方伯が読んでいないとも思えない。

 計画の進捗がはかばかしくない場合に、何か対策があるのか。

 それとも巨蟹鬼の少女たちによる防衛能力を信頼しているのか。

 

 あるいは。

 

「妨害されるんも込みで計画立てとるんかやな」

 

 それはあり得そうだ。

 

 

 だがそれなら、第二天幕街も、さっさと潰してしまえば良いような気もするが。

 

「………いや。まとまってくれとった方が、都合が良いんやな、きっと」

 

 水は低きに流れ、ヒトは(やす)きに流れる。

 

 漂流者協定団(エグジル・レーテ)残党は、土豪側から見ても実に手ごろに手駒に出来るやつらだと映るだろう。

 であればきっと安易に、土豪側は漂流者協定団(エグジル・レーテ)残党に接触するはずだ。

 

 一方で、それを読んでいる帝国隧道公団側からすれば、監視対象はまとまってくれていた方がありがたいのだろう。

 潰すのはいつでもできる訳だし、それならば、第二天幕街の連中には、今わの際の最後の最後まで役立ってもらうべきで。骨の髄までしゃぶりつくしてから荼毘に付すつもりだということだ。

 

「となるとむしろ、地下鉄道と物流拠点の工事は、それ自体が囮………?」

 

 マルスハイム内の目立った悪徳を引き寄せるための誘蛾灯であり、土豪の動向を制御するための調整点でもある。

 辺境伯閣下が、はたから見ると非常にあっさりと天幕街跡地の租借を隧道方伯閣下に対して認めたのは、そういった辺境の鎮護平定のためのライン三重帝国としての大戦略(グランドプラン)が背景にあるとすれば………。

 

 

「ま、予想は予想。事実は事実で分けて考えんとやね。

 さて、粗方は考え方も整理できたし、フィデリオの旦那にお手紙書かんとなぁ」

 

 白い毛並みの猫頭人、密偵シュネーは恩人でもあるあの陽導神の僧へと、分かったことをまとめた報告書を(したた)め始めた。

 

 

 

< 1.土豪側では密偵ロタールが、マルスハイム側では隧道方伯マックス何某が、お互いにマッチポンプで状況をコントロール中 ────了 >

 

*1
◆猫頭人(ブパティスィアン):直立した猫のような姿の亜人

*2
◆白猫の情報屋・シュネー:原作小説9巻上の表紙を飾った猫娘。ケモ度高めの猫獣人。変装隠形潜入お手の物、自ら動くタイプの情報屋。聖者フィデリオの示唆で金の髪エーリヒにちょっかいをかけるのだが、当作現時点では当然ながらまだ冒険者登録して数日なエーリヒくんとシュネー女史の間には面識はない。おそらく名声値が一定以上になると開放される系コネクション。美猫。




 
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