フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・白猫の情報屋シュネーは、天幕街焼失事件について、聖者フィデリオに報告した。
 どうやら天幕街の跡地に、帝国隧道公団が地下鉄道の駅と地上の荷捌き場を作るらしく、マルスハイム伯とも調整済みであり、地上を一掃した火災も何ら罪に問われないようだ。焼け出された流民たちは帝国隧道公団が囲い込み、なんなら彼らはかつてよりも健康で文化的な生活を送れている節がある。懸念としては、漂流者協定団の残党が先鋭化していることと、そいつらへ土豪が接触して手駒にすることが挙げられる。


===

※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
今回は後始末(?)の会話集5です。ポンポンと場面が飛びますが御勘弁ください。
まずは焼け出されたモブ少年の視点での天幕街炎上絡みの状況整理からです。

 


34/n マルスハイムの初夏-5(魔蟲テイマー育成計画 / 新人冒険者向けのお仕事です / ノイエ・エグジル・レーテ)☆AI挿絵あり

 

1.天幕街に暮らしていたある少年が、帝国隧道公団で穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)適合者(パートナー)になる話

 

 

 マルスハイム管区の州都マルスハイムはでっかい街だ。

 何重もの市壁がまるでめちゃくちゃに積み重ねた皿みたいになっている。

 

 オレが暮らすのは、そのマルスハイムの市壁の外にへばりつくように出来上がった、天幕街と呼ばれる場所だ。

 市壁の中に入れないようなやつらが集まって暮らしている、まあ、貧民窟みてえなもんだよ。市壁の中の宿賃だの家賃だの、高すぎて払えないっての。

 みんな垢に塗れて、満足に喰えずに痩せて飢えて、ろくに掃除もされねえし市内と違って下水も整っちゃあいねえから、小便とクソの匂いがどこかしこからもしやがるし、蠅もゴキブリも鼠もそこら中で見かける。

 

 でまあ、ここを取り仕切るのは漂流者協定団(えぐじる・れーて)っていうやつらだ。

 そいつらが組合(ぎるど)ってとこから仕事を取ってきて、オレらに振り分けることになっている。

 いくらハネられてるのか分からねえが、オレの手元に来るのはめっちゃ安い金だよ。銅貨何枚とかそういう感じ。

 

 それでも、親も居ねえし、前にスリをしくじって腕を折られて変な形に固まっちまったオレが生きていけるくらいにゃもらえてるから、ありがてえ話だ。

 まあ、一人じゃ暮らせない程度の金だから、協定団に斡旋された天幕に詰め込まれた奴らで金を出し合ってようやくなんとかかんとか、ってところだな。

 家族で暮らせる奴らならそれで暮らしゃあいいけど、身寄りがないやつらは協定団が適当に組み合わせてひとつの天幕に詰め込むんだ。

 

 助け合わねえと暮らしてけねえからな……。

 

 オレが押し込まれているこの天幕のやつらはみんな、オレみてぇに腕が不自由だったり、(びっこ)を引いてたり、顎が砕けてて粥しか啜れなかったり、足腰立たねぇすんげえ婆さんだったり、目の見えねえガキだったり、そういう不具ばっかり集められてる。

 そんなやつらでも、助け合えばどうにかこうにか暮らしていけるくらいに仕事を差配してくださるってんだから、協定団はあれでなかなか大したもんだぜ。ああ、仕事にはギルドとやらの仕事の他にも、例えば日毎に順番で乞食場所での乞食をしろとかいうのもある。場所代で上がりを取られるがな。………はっ、本当によくやってくれてやがるぜ。

 ま、そんなわけで、腹いっぱいになるくらい食えるってことはねえんだけどさ……。それでも料理番な婆さんはよくやりくりしてくれてるし、死なねえだけマシさ。

 

 

 

 とはいえ、そんな漂流者協定団(えぐじる・れーて)も、さすがに巨鬼(オーガ)には敵わなかったみたいだ。

 

 

 

 ある夏の初め頃の日の夕方、巨鬼がいきなり上から降ってきたかと思えば、こんどは足が蟹みてえな巨鬼が飛んできて、そこからはもう何が何だかしっちゃかめっちゃかだ。

 あっという間にそこら中の天幕が引き倒されて、燃え上がっちまった。

 

 オレは妹分の目の見えねえガキを背負って、とるものもとらずに必死に走った。

 

 そのうち武器持った冒険者連中── 後から知ったところによると巨鬼ロランスが頭目を務める武闘派冒険者氏族『ロランス組』所属の冒険者たちが、漂流者協定団との戦争だと早とちりして、頭目の応援のために駆け付けたらしい── がなだれ込んできたり、それに対抗してか下半身が蟹の巨鬼の子供たちが出てきたり、だ。

 いつも威張ってる漂流者協定団(えぐじる・れーて)の冒険者連中もがなりたてながら、そいつらヨソモンを押し返そうとしたが、まあ、全然相手になってなかったな……。

 あっという間にたたまれちまったよ。ケッ、頼りにならねえの。

 

 そんでなんとかオレは火には焼かれずに逃げ出せたけど、とっさに持って出れたもの以外はぜんぶ、燃えて炭と灰になった。

 オレは運良く火傷はしなかったが、火傷してるやつらも居た。

 

 そんな奴らが集まれば、泣いたり怒ったり呻いたりで忙しない。

 そんな元気もない奴らも多かったけどな。

 

 絶望ってやつかね。

 

 もとから財産っていうほどのもんは持ってねえ生活だったけど、いよいよ何もなくなっちまうと、もうどうしようもない。

 暮らすところも、着るものも、食べるものもなくなっちまった。

 普段は偉そうにしてる漂流者協定団(えぐじる・れーて)からここら一角の顔役を任されてる奴らも困っちまってたぜ。

 

 で、そうなればダメで元々、市壁の中に逃げようと押し寄せよぅって流れになってもおかしくねーんだが、そうはならなかった。

 つってもそれは、オレらが謙虚さに目覚めて身の程をわきまえたとか、そういう話じゃあない。

 

 おっかない蟹アシの巨鬼(小さめ)たちが、ぐるりと周りを囲んでいるから、逃げられないってだけだ。

 

 

 

 

 

 

 で、そこで布告人っぽいやつが出てきて、帝国語と他に幾つか別の言葉で布告するには、こうだ。

 

 ・災難だったな……、だが心配するな。

 ・炊き出しをするから、当面の食事の心配はいらない。

 ・服と毛布を配るし、寝床も直ぐに作る。とりあえずは魔法の温水球を浮かせるからそこをくぐれ。清潔にしろ。

 ・天幕街の土地は、帝国隧道公団が接収した。だからもう戻ることはできないし、また天幕を立てようものなら殺す。

 ・けが人や病人を含めて、全員に診察と治療を行う。特に具合の悪い者は申し出ること。

 

 たぶんこんな感じのことだったはずだ。

 周りも「どうしてくれるんだ」とか「賠償しろ!」とかうるさかったからよく聞き取れなかったところもあるが、きっと合ってる。

 

 で、まあ、ざわつきはなかなか収まらなかったんだけど、蟹アシの巨鬼が、一斉に地面をダンッと踏み鳴らして『喝ッ!』って声を合わせたら静かになった。静かにせざるを得なかった。

 すげえ迫力だった。

 いや、その前に掴みかかったやつが一瞬で手足を斬り飛ばされたからってのもあるか。その後に宣言通りに治されてたが。怖。

 

 

 

 

 

 そこからはまあ、これまでの生活が何だったんだってくらいにとんとん拍子にことが運んだ。

 

 まず天幕街の跡地は、あっという間に更地になった。

 クソの臭いがしてたドブ川は、なんか薬、しょーどくやく? が撒かれてキレイになって、そんで川辺に沿ってでっかいキノコがいくつも生えてきた。こいつが水路に根を張って、水をキレイにし続けるらしい。しかも食おうと思えば食えるとか。*1

 

 そんで幾つもの馬車がやってきて、煉瓦や角材や石材なんかを置いていったかと思えば、いつの間にか地面に大穴が開いていた。

 その大穴からも、資材を積んだ台車が湧いてくるようになった。他の街と繋がっているらしいが、オレたち下っ端は立ち入り禁止だから本当のことかどうかは分からねえ。

 

 そんな感じで次から次に荷物がやって来るから、天幕街に居た連中は、オレも含めて荷捌きに駆り出された。体力がなくて荷運びが出来ない奴らは、メシの準備だの、ゴミ拾いだの、だ。やれる事もやんなきゃなんねぇ事も沢山あった。

 

 そして、寄宿舎とかいう、三階建てくらいの立派な建物が幾つも建った。簡易浴場も併設だ。

 魔法使いと、魔法を使った重機とかいうやつで、何十人分もの何十日分の仕事があっという間に済んじまうなんてな。

 しかもなんと、オレたちはそこの真新しい寄宿舎とやらで暮らせるのだという。

 

 寄宿舎暮らしを始めるってなったら、荷捌きやなんかの給金に加えて、衣服や針や糸や布や綿が配られた。あとは板や角材や釘……家具を作るのに使えということだろうか。食器や調理器具に、炭や薪もだ。

 まあ暫くは炊き出しも続くし、そのあとは寄宿舎では料理できるやつらを集めて全員分の食事をまとめて用意することになるらしい。

 他のものが食べたきゃ適当に自分たちで屋台でも出せばいいらしい。食品衛生の免状が必要とか、屋台の営業許可証が必要だとか何とかは言っていたが、要はみかじめ料の口実だろう。

 

 

 怪我人や病人の治療も、帝国隧道公団の連中は宣言通りにやってみせた。

 特に死にかけの奴らから、な。

 

 あの同じ天幕の婆さんが、治療されてしゃっきり腰を伸ばして出てきたのにはビビったぜ。

 身体も隅々まで洗われて、新しい服を支給された姿は見違えたもんだった。意外に若かったらしい。

 老けて見えたのは、もぐりの娼婦だったころにビョーキを貰ったせいだとか。ま、それも治ったみてえだな。

 

 娼婦だったんなら、ビョーキが治るように地母神さまに祈らなかったのかよ、と聞けば、違う神を信仰してるんだと。

 西からの移民の家系らしくて、そっちの神様を信じてるらしい。あの漂流者協定団(えぐじる・れーて)の奴らと同じだとか。

 ただ、違う神様の土地に来たら、向こうの神様はあんまり強い加護は降ろせないし、こっちにゃエライ坊さんも居ないもんだから、ビョーキも治せなかったとか。

 はー、人に歴史ありってやつだな。

 

 

 

 んで、帝国隧道公団の連中は、そうやってまずは死にかけの奴らを治すのから片づけて、栄養になる炊き出しをして── 〝けいこうわくちん〟 とかいう病気を予防する成分が入っていたらしいが、そもそも腹いっぱい食えれてりゃあ病気なんざパッと治るもんだぜ── 、次はオレみたいな、働けるけど身体が不自由な奴らを診る番になった。

 

 火事から数日後、人集めの顔役から言われて、オレは天幕街跡地に作られた治療院にやってきた。

 どうやら治療中は、治療を受けることがオレの仕事になるらしい。つまり、給金が出る。

 そんなうまい話があるかぁ?? と思ったのはオレだけじゃなかったみたいで、説明する顔役も微妙な顔をしていた。チケン、とか、ショーレーケンキュウ、とか? そういうものらしい。

 

 ただまあ、実際に先に治療を受けたやつ── 例えば同じ天幕だった婆さんとか── の話を聞いていたから、なんとか信じることにしたわけだが。

 それにこれまでも、漂流者協定団の代わりにこの辺を差配するようになった帝国隧道公団(インペリアル・トンネル・コーポ)は、文字や言葉や算術の勉強を受けるだけで金をくれたりもしてたし、まあ、連中はなんかそういう奴らなんだろう。

 とはいえ、それで舐めてかかって── 大切に扱われるってことを自分が偉くなったからだと履き違えて横柄になる奴はそこそこ居た── 、あっさりと切り棄てられて、追放された奴らもいるから、その辺は勘違いしちゃならねぇ。

 

 公団(コーポ)の連中は、いままさに、オレらをふるい分けしている最中なんだ。試用期間、とかなんとか。

 自分たちの言うことを聞く奴らか。問題を起こさない奴らか。──── そして、将来、帝国の臣民になれる奴らかどうか。

 

 つまり、いきなり横柄になるような奴らなんて、要らないってわけだな。

 それでもその後、ちゃんと反省して頭を下げて筋を通せば、また雇ってくれてるから優しいもんだぜ。

 ………頭も下げられねえ奴ら? たぶん漂流者協定団(エグジル・レーテ)の残党の方に合流してんじゃねぇかね、知らんけど。下る川を間違えたやつらは間抜けってんだ。

 

 

 

 ああ、それで。

 さて、オレの折られたまま変に固まって不自由になった腕の、チケンの話だったか。

 

 診療所に来たオレと、あと、あの目の見えない妹分も一緒の日に呼び出されたんだけど、そのオレたち2人を待っていたのは、いかにもお偉い感じの服を着た魔法使いの女(?) だった。

 〝フォン・クライスト〟 と名乗ったその男のような女のような不思議なやつは、オレと妹分に簡単な説明をした。*2

 

「君たちには適性がある。何の適性かと言うと、穿地巨蟲の幼生体と使い魔のパスを結ぶ適性だ」

 

「何言ってるか一つも分かんねえ……」 「わたしも……」

 

「まあ簡単に言えば、魔法使いになれるということだよ、君たちは」

 

 だから折れて歪んだ腕の代わりに魔法の手(みえざるて)を使ったり、盲いた目の代わりに遠見の魔法で周囲の様子を見たりすることが出来るようになる。

 フォン・クライストなる魔法使いが、そう言った。

 

「でも、魔法なんか使ったことないし、きっと使えっこないぜ? オレたち」 「(コクコクコク)」

 

「問題ない。魔力を持ち、術式を使うのは、君たちではなく…………こっちのこれだ」

 

 そう言って魔法使いが取り出して見せたのは、ガラス瓶に入った、なんかの幼虫みたいなもの。

 

「これが地を穿つ魔蟲、ヴュラ・ダォンターの幼生体だ。これと魔導的なパスをつなぎ、君たちには使い魔契約を結んでもらう」*3

 

 魔蟲の幼生体はガラス瓶の中で丸まったり、ぷよぷよと這っている。

 フォン・クライストは、「いまこの段階では、自我らしきものもない」と言いつつ、その瓶を振ってみせた。幼虫が瓶の中で転がる。

 

「………その契約のせいでオレたちが死んだりはしねえよな?」

 

「もちろん、何も心配はいらない。約束通りに腕や目も治る。まあ、治るというよりは、代わりに使えるもので補うという感じになるけどね。使い魔の感覚と、魔法の力が腕や目の代わりになる。それでも良ければ、さっそく施術に移ろう」

 

「ちなみに断ったら、どうなる」

 

「ふむ。特に何も。今回の治験を拒否したなら、また別の方法での治験が回ってくるまで、その腕や、そっちの女の子の目はそのままだ」

 

 まあ、考えたって拒否権はあってないようなものだ。

 それに魔法使いになれるってのは、悪くはないはずだ。憧れだってある。

 

 妹分が、握っていた手をギュッと握り返してきた。

 こいつも覚悟を決めたらしい。

 

 よくよく考えるまでもなく、失うようなもんはもう無いしな。

 分の悪い賭けってわけでもないはずだ。

 

 

「受けることにする」 「わたしも」

 

「素晴らしい。君たちの覚悟と献身に感謝を。それでは早速あちらの処置室に────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてオレは、魔法を手に入れた。

 

 地を穿つ魔蟲、ヴュラ・ダォンターの幼生体との使い魔契約と引き換えに。

 

 

 

「……〈遠見〉。──── わあ、すごい、見える! 見えるよ! へえ、お兄ちゃんはそんな顔してたんだ!!」

 

「あんまりはしゃぐなよー。………しかし本当にすごいな、〈見えざる手〉、か。自由自在に動かせる手が増えやがった。こりゃ便利だぜ」

 

「早速使いこなせるようで何よりだ。うむ、幼虫側にインプリンティングした術式を読み込めているようだね」

 

「あん?」

 

「ふふ。いくらなんでも、術式というのはだね、教えてもないのにそんな簡単に使えるものじゃあないんだぞ? もしそうなら魔導院なんていらないさ」

 

「でも使えてるよ~?」

 

「それは君たちの使い魔(パートナー)が覚えているからさ。君たち用に調製した個体と同調し、一心同体となったおかげで、きみたちは直ぐに魔法が使えるようになったんだ」

 

「へえ」

 

「その子たちが育っていくにつれて、できることも増えるだろう。やがてはこの帝国隧道公団で、穴掘りにも参加してもらうことになるからそのつもりで」

 

「ああ、分かってるさ。この恩は働いて返す」

 

「大変結構。じゃあ、しばらくは契約が安定してるか確認するために通ってきてくれ。魔蟲(そいつ)の世話の仕方だとか、魔法についても教えよう」

 

「えー、お勉強~~??」

 

「なに、問題はないさ。足りないところは()()が補ってくれる。目や腕と同じように、オツムも、ね」

 

 男とも女ともつかない魔法使い、フォン・クライストが、トントンとコメカミを叩くジェスチャーをする。

 なるほど。

 

「………確かに、なんか頭の回転も早くなった気がするな」

 

「そういうことさ」

 

 

 

 そうしてオレたちは、帝国隧道公団(あなほりコーポ)の見習い職員になったってわけだ。

 

 ………あとから知ってびっくりしたが、この魔蟲ヴュラ・ダォンターは、亜竜の因子を持つ魔導生物らしく、広い意味ではオレも竜騎士と言えるらしい。

 いやまあ、この幼虫はまだ小さいから、もっぱらオレの頭の上にこいつを乗せたり、腕を這わせたりしてるんだけどさ。すると、むしろコイツがメンシュライダーか??

 

 こいつの思考はオレの思考と同化しながら成長していくらしく、説明を聞く限りは、こいつ独自の自我が芽生えることはないらしい。まさしく一心同体で、不可分に溶け合った融合精神を形成するとかなんとか。

 なんというか、オレはこの幼虫のパートナーでもあり、この幼虫はオレの次の肉体でもあるって感じだな。

 十分に魂が同化して、このいまは指先程度の大きさの幼虫がオレよりも何倍も大きく………オレの身体が逆にまるで小指みてえにしか見えねえくらいに大きく育ってからなら、人間のオレが死んでも、穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)()()()方のオレは生き続けるってわけだ。

 フォン・クライストが言うには、『君たちは人生という名の幼年期の終わりに、死を経て、竜の生を得るのだ』ということらしいが。

 

 今はまだ、オレも妹分のあのガキもピンときてねえが、ま、何とかなるだろうさ。

 

 少なくとも、天幕街の片隅で貧乏にあえいで死にゆくよりは、何倍も何千倍もマシなのは確かなんだからな。

 

 

< 1.あのとき確かに人生が捻じ曲がる音がした ──── 了 >

 

 

 

 

§

 

 

 

 

2. 新人冒険者向け(?)のお仕事:旧天幕街跡地にて

 

 

 旧天幕街が燃えるとかいう大事件から数日。

 そこにはほかの人足や日雇いの下級冒険者たちに混じって、最下級の煤黒(インフラレッド)の冒険者として日銭を稼ごうとする二人組の冒険者の姿があった。

 

 小柄な蠅捕蜘蛛(ハエトリグモ)種の蜘蛛人(アラクネ)であるマルギット嬢と、長い金髪が目を引くヒト種の剣士エーリヒ。

 そう、ご存じのとおり、ケーニヒスシュトゥールから出てきた二人組だ。

 

 煤黒ながら見るものが見れば、その立ち居振る舞い、気配の消し方や重心の運び方といった片鱗から、ただ者ではないと分かる彼らペアは、故郷から出て冒険をしようとこの帝国西方辺境マルスハイムまでやって来たのだった。

 道中で盗賊を返り討ちにして得た資金は彼らの懐を潤しているが、「駆け出しのころは資金をやりくりして苦労してナンボ」というエーリヒの趣味と、寛大にもそれに付き合ってくれたマルギットお姉さんのご意向により、彼ら二人は金があるのにわざと煤黒の稼ぎだけでやっていく、という縛りプレイじみた生活を送っているところだ。

 

 金払いの良い依頼を選ぶのも冒険者の腕のうち。

 そしていまのマルスハイムで一番金払いがいいのは、帝国隧道公団(インペリアル・トンネル・コーポ)の出す募集だった。

 多くの魔法使いを職員として抱え、穿地巨蟲により迅速にトンネルや運河を掘進開削し、魔導重機で関連設備の効率的な工事を行い、作ったインフラから利用料を得たり、自前で交易に使うことによっても儲けているこの金満成金メガコーポは、異常に金払いが良かった。

 

 それこそ、他の安い依頼を受ける人間がいなくなるレベルで人が殺到しておかしくないのだが、最初に彼ら公団(コーポ)漂流者協定団(エグジル・レーテ)の労働力を丸抱えしたこともあり、労働力需給への影響はマイルドだ。

 ………まあ、漂流者協定団(エグジル・レーテ)が提供していた異常に安い労働力を目当てにしていた市中の業者たちは、急に天幕街の人員を引き上げられて顔色が青くなっていたが。

 それでもマルスハイムへ流入する労働力は多いし、公団(コーポ)のおかげで懐が温かくなった労働者たちがマルスハイム市内に金を落とすことでマルスハイム全体では好景気になるだろうから、最終的にはどうにでもなるだろう。

 それに、もともと生き馬の目を抜くような商人の巷で、さらにマルスハイムで商売しているとあらば、この程度の環境変化は日常茶飯事と言っていい。この程度で倒れるようじゃあ、そもそもマルスハイムで商売なんかやってけないのだ。

 

 

 

 閑話休題。

 

 ということで、割のいい依頼を探していたエーリヒとマルギットは、運と巡り合わせ── 具体的にはギルド受付のおばさま方への付け届けなどの成果──に恵まれて、旧天幕街跡地の再開発に関連した依頼をゲットすることに成功していた。

 

 もっとも、エーリヒの方はあまり乗り気ではない様子なのだが。

 

「うーーーん………」

 

「まったく、何でそんなに乗り気じゃないんですのよ、エーリヒ。これだけ金払いの良い依頼は、帝都ですらもそうは見ないと言っていたのは貴方でしょう」

 

「そうだけれどね、マルギット。帝国隧道公団は、こと契約関係においては信頼がおける組織だし、マルスハイムどころか帝都の相場で考えても簡単な荷運び程度でこれだけの額を出すというのは破格だよ」

 

「給金の支払いを心配しているわけでもなければ、一体何を心配しているんですの? お姉さんに話してみなさいな」

 

「いやぁ、まあ、ないとは思うんだけれど………まさか知り合いに会ったりはしないだろうか、とね」

 

「それはこの間、ロランス組に詫びのために訪れたという蜘蛛人(アラクネ)じみた多脚の巨鬼のことかしら? そこらの楼鐘みたいな大きさだとかいう」

 

 若干の妬心を昇らせて聞いてくるマルギットに、エーリヒは頬を掻いた。

 まだその多脚の巨鬼─── 〝巨蟹鬼(クレープス・オーガ)〟 の棟梁たる彼女、セバスティアンヌとはマルスハイムでは直接顔を合わせていないが、帝都の思い出話をする際に、ひとかどの武人である彼女のことは少なからず話題に出していたから、マルギットもすぐにピンと来たのだろう。

 だが、心配しているのは、あの出てくる世界観を間違えたような魔導生体多脚戦車な御仁との鉢合わせ及び、そこから派生しかねないいきなりの刃傷沙汰………などではない。………きっと二刀の巨鬼ロランスとの大立ち回りで多少は満たされているだろうから、いきなり出合い頭に真剣勝負には発展するまいし。

 

「セバスティアンヌさんなら、まだ良いんだけれどね……」

 

 エーリヒが警戒しているのは、むしろその雇い主である狂魔導師(マッドマギア)にして狂信者(カルティスト)である方伯閣下の方だ。

 

 そのハシシ=ミュンヒハウゼン方伯というのは、今もときおりエーリヒの心の裡に狂った愛(もっときりたい)の叫びを響き渡らせてくる魔剣 〝渇望の剣〟 の鞘として、エーリヒの前に魔剣の主であった冒険者アンドレアス氏の魂を憑依させた肉鞘(フレッシュ・ショーテ)を用意した凄腕の魔導具製作者でもある。

 その肉鞘アンドレアス氏に刻まれた影収納の魔術による収納空間の中に入れられた各種の魔剣や魔道具の製作者でもあるその魔導師とエーリヒは、腐れ縁の悪友と言ってもいい。

 なにせ、この世界でおそらく現存するたった2人の 〝西暦世界の日本からの転生者〟 であるからして。

 

 別にエーリヒも、ハシシ=ミュンヒハウゼン方伯── マックス何某── のことを本心から厭うているわけではない。

 

 ただ単に、マックス何某が、自分の彼女(マルギット)に紹介したくないタイプの悪友だというだけだ。

 これは自分の友人同士には仲良くしてほしいし、友人の良いところを別の友人に吹聴しまくるタイプの人間であるエーリヒにしては珍しいことだが、もちろん理由はある。

 

 だって、誰だって邪教に勧誘してきかねないようなやつを、お付き合いしている彼女に対して、自分の友人として紹介したくはないだろう。悪友同士で悪ノリするのなら良いが、健全な交友関係を汚染したくはない、そういう気持ち。

 あとマックス何某は、普通に隧道方伯(侯爵級)かつ魔導副伯(子爵級)の爵位持ち貴族であるからして、地下(じげ)の身分では軽々に会いたくない。

 向こうの社会戦パワーが高すぎる。煤黒(インフラレッド)の身分では、まだちょっと対抗できない。それはこの天幕街炎上の顛末を見ても明らかだった。キゾクコワイ。

 

(まあもちろん、ヤッパ抜いたら負けるつもりはないんだけどね)

 

 この金髪、これでなかなか思考が物騒なのであった。

 どうやら 〝最終的に全員殺せばいいのだ!〟 とか、〝何事も暴力で解決するのが一番だ〟 とかいう思想にニューロンの根本を汚染されているらしく、スイッチが入ると全てを剣で斬り伏せる系の思考が顔をのぞかせるのだ。

 そしてジッサイ、それだけの実力があるので始末に負えない。彼の寵児レベル(スケールⅨ(9))の器用さと、神域の剣の技量は、既に概念破断の領域に手を掛けている。

 

「ま、まあ何とかなるさ、きっと」

 

「はあ、それならよろしいのですけれど」

 

 一応、マックス何某への対抗札としてアグリッピナ氏という、自分の元雇用主かつ、マックス何某の上長というコネクションもあるが、コストが重いので切りたくはない。

 普通に考えるとこんなド辺境で帝国隧道公団総裁な方伯(他にも役職掛け持ちあり)というVIPに遭遇する心配など不要なのだが……。

 

「マックスは分身できるからなあ……」

 

 以前から複数の分身体を運用しているマックス何某なら、帝国のどこに現れても不思議では無い。

 しかも既に彼の近侍護衛である巨蟹鬼セバスティアンヌはマルスハイム入りして大暴れ中だ。

 マックス何某がじきじきにマルスハイムに来ている確度はかなり高いだろう。

 

「何かおっしゃいまして?」

 

「いや、なんでもないよ。まずは今日の仕事を始めようか」

 

「そうですわね。まあ、簡単な荷運び(けいさぎょう)ということでしたが……」

 

 気を取り直したエーリヒは、マルギットを背に纏わりつかせて、旧天幕街跡地の仮設事務所本部の門を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 ………。

 …。

 

「ふたりともお疲れ様でした。これ、組合に提出する割符ね。また明日もよろしくー」

 

「「 お疲れさまでした~ 」」

 

 1日目はつつがなく終了。

 見た目によらず筋力があり、さらに身体の動かし方が()()()エーリヒは、生来の勤勉さも合わさって大型種族に負けない仕事ぶりを発揮して感心され。

 小柄なアラクネのマルギットは、その種族特性を生かして、起重機(クレーン)から降ろされる荷の誘導や進路上の荷運び人への声掛けなどを高所から行うなどした。

 

「やはり支払いが良いですわね」

 

「そうだね。疲れたし汗もかいたし、このあとは公衆浴場かな。子猫の(うたた)た寝亭の女将さんや若旦那(フィデリオ氏)に顰蹙を買わないためにも」

 

「ですわね。あ、宿に帰ったらお姉さんがマッサージしてあげましょうか?」

 

「それは是非とも。そしたら私もお返しにしてあげるよ」

 

 和気あいあいと、少年少女は塒へと帰っていた。

 

 

 

 

 

 ………………。

 ………。

 …。

 

 明けて翌日。

 今日もまた旧天幕街での作業に参加することとなっているエーリヒとマルギットは、昨日と同じく事務所本部へやってきていた。

 

「今日も昨日と同じ作業かしら」

 

「たぶんそうだと思うよ、感触も悪くなかったと思うし」

 

 今日の作業はどんなかと仮設事務所本部の立派な扉を開ける二人。

 

 しかしそんな二人に言い渡されたのは。

 

 

「私は昨日と同じく、と。でも、エーリヒは」

 

「え、私は内勤ですか……?」

 

 マルギットは昨日と同じく高所作業。

 しかしエーリヒは、仮設事務所本部での内勤……書類仕事を仰せつかったのだった。

 

「はい。宮廷語も綺麗ですし、昨日の受け渡し表のサインも流麗でしたので、エーリヒさんにはこちらを手伝っていただければ、と。視野も広いようでしたし」

 

「疲れもないし、今日も荷運びくらい十分できますが……」

 

「ああ、昨日の働きを評価していないわけではないのですよ? ただ、荷運び人のなり手と、書類仕事ができるくらいに教養のある人間だと、どうしても後者の方が少なくて……」

 

「それはそうでしょうね」

 

 さもあらん。

 

「というわけで、よろしくお願いしますね? エーリヒさん」

 

「よろしいんじゃないですの? エーリヒ。その分、お手当も付くみたいですし」

 

「そうだね、マルギット。では、はい。ご指名とあれば」

 

「ああ、よかった。よろしくお願いしますね?」

 

 というわけで、2日目にしてエーリヒは本部付きに大抜擢されたのだった。

 まあこの時代、字が綺麗というだけで、結構な特殊技能なのでこれも当然だろう。

 

 

 

 実際、その日のうちにエーリヒは事務仕事において抜群の能力を発揮した。

 かつてアグリッピナ氏の従僕として、ウビオルム伯爵家の立ち上げ時の一番忙しい時期の内向きの仕事の一切を取り仕切っていたのだ。

 このような書類が乱舞する混乱した鉄火場は、彼にとってはある意味では慣れ親しんだ戦場であった。トラウマでもあるが。

 そのころに培った事務処理に役立つ各種の特性に、ヒト種の域を超えた並列思考の使い手ともなれば、頭角を現すのはすぐのことだった。

 

「ありがとう!! とっても助かったよ! ぜひまた頼むね!!!!!」

 

「ええと、まあ」

 

「よろしくね!!!!!!! 頼むね!!!!!! 絶対来てね!!!!!!」

 

「……ハイヨロコンデー」

 

 

 そして、見た目がなよっちい金髪を伸ばした碧眼のヒト種(メンシュ)の少年が、仮設事務所本部で重用されているらしいという話は、ちょっとした噂話として事情通の間で囁かれるようになったのであった。

 

 

 

< 2.ところで、旧天幕街の核心情報を得たい勢力からすれば、エーリヒのような見た目が華奢な少年が中枢に近い場所で重用されているというのは、降って湧いた脆弱性にして絶好の突破口には見えてしまわないだろうか……?(ピコーン(なんかのフラグが立つ音)) ──── 了 >

 

 

 

 

§

 

 

 

 

3. 漂流者協定団残党、〝ノイエ・エグジル・レーテ〟 の跳梁

 

 

 天幕街の炎上と、跡地の再開発に伴う流民の囲い込み。

 天幕街を差配していた漂流者協定団もそれに伴い崩壊し、中でも特にかつて非合法な仕事を抱えていた者たちは再開発からも追い出されて、マルスハイムのさらに外縁へと追いやられた。

 再開発の流れには様々な要因で乗れなかったそういった連中は先鋭化し、今では自らを新・漂流者協定団、ノイエ・エグジル・レーテと名乗って纏まっていた。

 

 ここはそんな彼ら、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)が新たに立てた天幕の一つ。

 

 天幕の中では、不吉な雰囲気の外套を着て横に伸びた口髭が特徴的な男が、頭巾で顔を隠した者たちと話をしていた。

 その横長の口髭が目立つ男は、このような不潔で淀んだ悪所には似つかわしくないほどに洗練された清潔な格好をしていた。

 だがそれも当然か、この整った口髭の男は、新天幕街の所属ではないのだから。

 

「統制に難儀しているようですね」 口髭の男が口を開く。

 

「………はあ、まあ、お客人にはそう見えるかも知れませんね。言って聞くような奴らは、こちらには来ませんから、跳ねっ返りも多いし、そういう連中がどうしても目立つ。………ロタール殿も、それはご存知でしょうに」 頭巾で顔を隠した者たちの一人が、弱った様子を見せまいと虚勢を張った口調で、返した。口髭の男の名はどうやら『ロタール』と言うらしい。

 

「もちろんですとも」 口髭の男、ロタールと呼ばれた彼が鷹揚にうなづく。「ここに来るまでに私が因縁をつけられた回数を数えれば、察しがつきますとも」

 

 せめて客人である自分の背格好を周知して手を出さないようにさせるとか、迎えを寄こさせるとか、その程度のことすらできないほどに統制を失っていることなどとうに承知だ、と暗に告げるロタールに、頭巾の影に顔を隠した男たちは閉口した。

 いまの新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)の連中は、この新天幕街の住人たちから畏れられてなどいないのだ。

 

「実績もありませんものねえ。組織の威信も何もかも、旧天幕街と一緒に燃えてすべて灰になった。そもそもマルス=バーデン家がぬるかっただけで、『帝国貴族が本気になれば天幕街みたいな悪所など一日で合法的に灰に出来る』なんて当たり前のことなのですが………それをようやく思い出したというわけだ」

 

 諸般の事情で手を出されていなかっただけのことを、自分たちの組織の実力だと勘違いしていたのが、旧天幕街での漂流者協定団(エグジル・レーテ)だった。

 もちろん、幹部連中はそんなことは十分に分かっているつもりで、行政府の逆鱗に触れないようにうまく立ち回ってきたつもりだったし、鼻薬を嗅がせたりといったこともやってきていた。

 しかし所詮は、分かっていたつもりに過ぎなかった。

 

 千人を超える流民や移民や落伍者のまとめ役として天幕街に君臨していた彼らは、しかし、やはり外様に過ぎず、帝国の本気というものを見誤っていたのだ。

 

 こと帝国がインフラ整備にかける執念はすさまじい。

 現在その最先峰として、帝国中で川床や山肌を削って運河や隧道を掘りまくっている帝国隧道公団なる新設の部署の、その総裁にいきなり方伯位という、複数の伯領をまとめる侯爵にも伍し、官庁の代表権益者たる宮中伯と同等で、国防の要たる辺境伯とも対等以上の役職を新設して与えたことにも、それは表れている。

 その隧道方伯(トンネル・ラントグラーフ)に対して無血帝が直々に命じた帝国流通の大改造という一大事業の前にあっては、マルスハイムの天幕街など、巨象の前の蟻に等しい。

 

 1日だ。

 たった1日で、すべては終わった。

 そしてもう、元には戻らない。

 

 だが、それですっぱりと人生が終わってくれるようなら、この世はもっと良いものだっただろう。

 

 何もかもを失っても、それでも人生は続くのだ。

 

 

 新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)として、掃き溜めから焼け出された者たちの中からさらにつま弾きにされた者たちをまとめようとしているのが、この天幕に揃った者たちだ。

 そんな彼らは、漂流者協定団の幹部だった者たちのうちでも、公団(コーポ)の事業に取り込む必要もなしとして放逐された者たちにあたり── 一部の有志幹部は公団(コーポ)に従った方が流民たちのためになるとして早々に寝返りを打って受け入れられていたが、そうでなかったり、寝返り後に査定されて放逐された者たちがこの場に集っている── 、実際のところ残党を纏めて再起しようというその行いに勝算があるとは言い難い。

 

 巨鬼の喧嘩稽古に巻き込まれて天幕街を焼かれるのを止められなかったという失態。

 そのまま追い散らされた彼らは求心力を失い、天幕街という地盤も失い、そして流民たちを公団に取り込まれた上に13幹部のうちいくらかも寝返られて人員すらも失った。そんな新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)と、その他の野心家なごろつきたちは、条件的にはイーブンだ。

 いや、むしろこの新天幕街を建てた場所にも、先住者たる宿無しどもは居たのだから、先住権という意味では後塵を拝してすらいる。

 

 漂流者協定団は、市壁の外のみならず、街中の浮浪者や犯罪者を取りまとめるのにも食指を伸ばしていたが、天幕街の火事で本拠の評議会からのくびきがなくなったことで、街中の方の取りまとめをやらせていた奴らが、燃えた翌日には独立すると息巻いたりもした。

 かと思えば、そいつらは一転あっという間に今度は転輪飾盾(てんりんかざりたて)の紋章を背負った巨蟹鬼の若い戦士たちによる人手狩りに遭って、市壁の外にほうほうの体で追い出されてきて新天幕街の世話になったりもしている。

 市壁の中こそ、外よりもなお悪所が許されないのだとは頭が回らなかったらしい。

 もちろん末端の人員である単なる浮浪者たちの多くは、人手狩りの過程で公団(コーポ)の寄宿舎の方に吸収されている。

 こっちに来たのは、公団の選別から漏れた上に公団に頭も下げられないような、本当にどうしようもない………更生の見込みのないような連中だけだ。

 

 そんな状況だからこそ、結局は暴力の強さがものを言うという、表でも裏でも変わらぬ最終局面に着地する。

 強い者が、この新天幕街の支配者として、全ての屋根無き者どもの新たな取りまとめ役となり、必要悪として存在せざるを得ない裏稼業の権力を一手にできるのだ。

 だが、いまの新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)には足りないものが、まさにその抜きん出た暴力だった。

 

 陰謀や、謀略、影から刺す毒の短刀ではなく、どんな馬鹿が見ても分かるような── 事実、この新天幕街には前述の通りほぼほぼ馬鹿しかいない── 、圧倒的な暴力。

 組織の再起には、それこそが必要とされていた。

 

 そんなところにやって来たのが、この不吉な外套を纏い口髭が立派な胡散臭い男………密偵ロタールである。*4

 

「戦力が、ご入用でしょう?」*5

 

 

 ──── (ちまた)で噂の新英雄、お貸ししますよ…………。

 

 

< 3.密偵ロタール(マックス何某)「土豪の方から来ました〜」 ──── 了 >

 

*1
◆水質浄化菌糸類:魔力を生み出すという意味では広義の魔導炉。排水中の有機物を分解する際に得る微弱なエネルギーで水質の浄化の魔法を使う生態。マックス何某が調整した魔導菌類。食用可。地下下水の巨大スライムと接ぎ木することで、魔石を与えなくても長く保つメンテフリースライムの研究が行われている。

*2
◆フォン・クライスト:当SSのオリキャラ、アヌーク・フォン・クライスト同期聴講生。ミカくんちゃんを虐めていた造成魔導師志望の聴講生。中天派に所属。マックス何某のTS術式を喰らって、そういう趣味に覚醒した。大陸横断トンネルの掘削においては、穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)幹線掘進用試製シュド=メル級と同調して運用データを取ったりしていた。隧道公団においては、穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)の専門家の一人。

*3
◆地を穿つ魔蟲ヴュラ・ダォンターとの使い魔契約:魔蟲とヒト。どちらが主で、どちらが従か─── そもそも魔力を持つのはどちらなのかというと………。中天派聴講生にして隧道公団幹部のアヌーク・フォン・クライストは、そこにはあえて言及しなかった。

*4
◆密偵ロタール:マックス何某の裏稼業フォーム。帝国西方の土豪たちに取り入り、土豪勢力を一網打尽にする決戦に向けて土豪側の方針を操り、激発時期をコントロールする役目を担っている。一例としては、表からは隧道方伯としてのマックス何某が、激発時期の分かりやすい指標として、帝国側の兵站を強力に支える地下鉄&荷捌き拠点を喧伝して「この物流拠点が完成すれば土豪側は終わりだ」との風説を流布し、裏からはその工事を密偵ロタールの手のもの(ノイエ・エグジル・レーテなど)が邪魔することで一進一退を演じることを企画している。マックス何某としては経済へのダメージを考えると最上は激発前に土豪首脳を一網打尽にすることだとは考えているものの、無血帝やピナ氏は今後の統治や航空艦の実証のため、決戦上等の考えであるため、その差異が少し悩みどころ。また、どこから聞き付けてきたのか、同じく経済重視のドナースマルク侯グンダハール卿からマックス何某への調略(ラブコール)が強くなってきているのが最近の悩み。

*5
※ 力が欲しいか?




 
まとめ役が居ないとカタギさんも巻き込んで市内ですら抗争を始めかねないので、とりあえずノウハウ持ってるとこの残党にテコ入れしてまとめ役にする感じ。最後に潰すときにも纏まってくれてた方が楽だしね。

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原作小説10巻、みなさん読まれましたか?
今回も素晴らしかったですね!!
まさかWEB版でちょっとだけ言及されたあのキャラがあんな仕上がりになるとは……。
(ネタバレ感想(前後編)を書いて活動報告に投稿したので、ネタバレOKという方はこちらへ → https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=318600&uid=314174 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=318601&uid=314174
 
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