フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・穿地魔蟲ヴュラ・ダォンターと使い魔契約して、君も魔法使いになってよ! そして孵化したばかりのヴュラ・ダォンターと使い魔契約で意識をつなげて、それを育てていくうちに精神は溶け合い、何十年も連れ添えば、魔蟲がやがては君自身になるのだ。
・エーリヒくんのスキル構成的には戦闘力と並んで事務能力も希少性が高いのかもしれない。そしてそのせいで地下鉄駅・荷捌き場の建設にあたって、事務屋として帝国隧道公団(インペリアル・トンネル・コーポ)に囲い込まれそうになってるぞ、気をつけろ!
新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)が勃興。土豪勢力からの接触アリ。密偵ロタールの紹介で、巷で噂の新英雄がやってくる……?


===

※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


34/n マルスハイムの初夏-6(ダンジョン・アタック / あくのそしき)☆AI挿絵あり

  

1.半屍人 VS. 金髪と音無し、あと公団職員見習いの『手』の少年

 

 辺境の領都マルスハイムに向けて造成中のトンネルの中。

 

 その狭く暗い中で、戦闘音が響く。

 刃が打ち合わされることによって生まれた火花が闇を照らした。

 

「まったく、出入り口は固めているというのに、毎回毎回、一体どこから入ってきてるんだか……!」

 

『イィィイイイッ!!』

 

「きりがないな! この、半屍人(ハーフデッド)は!」

 

 斬り合いの片方は、成人したばかりくらいの金髪の少年。

 もう片方は、生気のない肌をして印象の薄い鎧装備のようなものに身を包む、のっぺりとしたヒト型の何か。

 

 果敢に攻め優勢に立つのは、マルスハイムの冒険者である金髪の少年だ。

 彼の名はエーリヒ。ケーニヒスシュトゥールのエーリヒである。

 このトンネルは帝国隧道公団(インペリアル・トンネル・コーポ)が造成中のものであり、そのコーポからの依頼を受けて、トンネル内の哨戒見回りを受け持っている冒険者のうちの一人にあたる。

 

 少し前までは地上で事務仕事を主に依頼されていたエーリヒだが、現場事務所の書類仕事で重宝されるうちにそのまま現地採用正規職員として囲い込まれそうになっていた。

 だがその雰囲気を察した彼は、腕っぷしを売り込んで配置転換を申し出た。

 無事にそれが通って、トンネル内の哨戒を任されるようになったというわけだ。

 

 コーポの現地事務所からはずいぶんと惜しまれたが、「冒険をするために冒険者になったので……」と言えば、良識ある職員らはしつこく引き留めはしなかった。

 ただ、職員らは「ああ、冒険者にときどきいるという頭のねじが外れてるタイプか……」と内心思い、生温かい視線を向けはしたが……。

 好き好んで鉄火場に突っ込んでいく冒険者たちのなかにあって、金銭欲や名誉欲でもなく、純粋に冒険に心を()かれている輩が一定数存在することを、事務所の職員らは十分知っていたがゆえに、賢明にもエーリヒを引き留めはしなかったようだ。

 

 そんなエーリヒに斡旋されたのが、隧道公団の本業である地下トンネル、その巡回警備だった。

 他地域から延伸してきた地下トンネルは、まだ壁面の補強や内装の工事中であり、いくらか軽便鉄道のような形で物資を運び込む簡易な仮設線路が引かれているものの、今後の辺境を支える大動脈というほどには整っていない。

 

 本来であれば機密の観点からも部外者を招くような場所ではないのだが、いくらか地上仕事を経て『信頼がおける』と判断された冒険者たちの数人は、こうやって地下の警備も依頼されている。

 

 とはいえ隧道公団(トンネル・コーポ)側も人手不足というわけでもないので、どちらかと言えば冒険者を通じて地下の様子を広めてもらうため、という側面が大きい。広報戦略の一環というか、近隣対策費というか。

 地下トンネルは今はまだ何も知らない市民からは不気味がられたりもしているが、徐々に得体の知れないものではなくしていき、やがてはこういった現地で警備を依頼した冒険者や、そんな彼らの縁を通じて、将来の現地採用の保守要員を確保したりなどをコーポとしては目論んでいるらしい。

 

 というわけで、事務仕事よりは幾分か冒険者らしい仕事を斡旋されたエーリヒは、相方の蠅捕蜘蛛系の蜘蛛人(アラクネ)であるマルギットにも相談したうえで、この仕事を受けることにしたのだ。

 事務仕事の報酬によって懐には余裕があるし── この時代にあっては事務能力は非常に上級な技能だから報酬もそれ相当だった── 、場合によっては危険手当── 工事未完了箇所の崩落リスク、狭隘部での酸欠リスク、そして大地の神の怒りによる土塊の魔物の出現の可能性などそれぞれに応じた手当── も出るらしいし、万が一の事故の際は補償もあるのだとか。

 手厚い福利厚生を前に公団(コーポ)就職方向に少しだけ心がぐらついたエーリヒだが、「そんなことより冒険だ!!」と気を持ち直した。別にサラリーマンになりたくてマルスハイムまで来たわけではないのだから。

 

 せっかくだからと『ある意味これも地下迷宮攻略(ダンジョンアタック)』とポジティブに考え、パートナーたるマルギット嬢とバディを組んでトンネルの巡回に乗り出したエーリヒ。

 

 そして配置転換初日に、いきなり戦闘に巻き込まれた。

 

 マルギットの「知ってましたわ。やっぱりこうなりますのね」という視線(ジト目)を受けながら、その時は無難に戦闘をこなし、つつがなく敵を撃退。

 大過なく依頼をこなした。

 

 

 それが数日前の話。

 

 

 そして数日前に戦ったその相手が、いまもこうしてエーリヒが戦っている『半屍人(ハーフデッド)』と呼称される敵だ。ちなみにサイレントなヒルのそれとは違う。

 数日前の配属初日に聞いたところによると、生命なき肉の塊を自動人形形式で稼働させているという魔導の産物らしく、『生きてもおらず、死んでもいない』ということで、『生き損ない』だの『半屍人(ハーフデッド)』だのと呼ばれているそうだ。フレッシュゴーレムの類らしい。

 どこからともなくトンネル内に湧いて出るが、大地の神の眷属である土塊の魔物と違い、自然発生するものではないため、土豪勢力側かマルスハイム伯の政敵か、いずれかの敵対勢力の手によるものであろうと考えられている。

 

 なお侵入経路は不明。

 トンネルに横穴でも開いているのではないか、と疑われているが、公団(コーポ)職員や冒険者による哨戒班も、いまだにそのような横穴は見つけられていないという。

 

 

『イィィイイイッ!!』

 

 と、知性を感じさせない叫びとともに襲い掛かる『半屍人(ハーフデッド)』だが、その動きは多少は洗練されていた。

 少なくとも徴兵されたての農兵よりは格段に上で、例えるなら、おそらくは騎士の従者として取り立てられて半年くらいの腕前と同等程度だろうか。

 

 つまり、まあ、新米従士程度というわけで、もちろんエーリヒの敵ではない。

 なんなら故郷であるケーニヒスシュトゥール荘の自警団の方が、よっぽど練度が高いくらいだった。

 

「ふっ!」

 

 エーリヒが振るう名剣 〝送り狼(シュッツヴォルフ)〟 が、半屍人(ハーフデッド)が振るう剣を受け流す。

 受け流された剣は地面に勢いよく突き立ち、それにともない持ち主である半屍人(ハーフデッド)も動きを止めた。

 

『イィィイイイッ!?』

 

「その()じゃ、もう動けないな。……まったく、癒合型とは不便なものだな?」

 

『イィィイイイッ!!』

 

「やはり会話は不可能、と。……じゃあとどめだ」

 

 硬い地面に刺さった剣を抜こうと四苦八苦する半屍人(ハーフデッド)の正中線を割るように名剣 〝送り狼(シュッツヴォルフ)〟 を振り抜いたエーリヒ。

 スケール()〈神域〉に至った〈戦場刀法〉の超人的技量でもって繰り出された一閃は、まるで水を割くかのごとく、半屍人(ハーフデッド)をその昆虫めいた印象の鎧ごと両断した。

 

『ィ────……』

 

「状況終了。

 マルギット、そちらは?」

 

「こちらも問題ございませんことよ、エーリヒ」

 

 血振りをして納刀。

 相方の蜘蛛人の乙女に問いかければ、普段通りの声色で無事を知らせてくる。

 

 そう、敵の半屍人(ハーフデッド)もまた、二人一組(ツーマンセル)だったのだ。

 そのため、もう片方の半屍人(ハーフデッド)はマルギットが担当していたのだった。

 ちなみに今日の遭遇はこれが二組目だ。

 

 ちらりと見れば、少し離れた隧道の床の上で、首元を掻き切られて、心臓部分と肺部分と肝臓部分と腎臓部分に短刀で突かれて穴を空けられた半屍人(ハーフデッド)の姿があった。

 おそらく隠密状態からの組討ちで、とりあえず急所と思われる場所を抉ったのだろう。殺意が高い。

 

 

 そしてその半屍人(ハーフデッド)の姿が、見る見るうちに泡立って消えていく。

 じゅうじゅうと沸騰するように肉も鎧も剣も── 鎧や剣のように見えたのは皮膚が変異したのだろう外骨格だったのだ──形を失い、まるで綿の塊か吐しゃ物のようなものだけしか残らなかった。

 エーリヒが倒した方も同じくだ。

 

「そしてこいつらはまた消えてなくなる、と」

 

「気持ち悪いですわね、死体も残さないだなんて」

 

「魔導の産物だからかも知れないね、証拠隠滅のために残骸を消すのは理にかなってはいるが」

 

 地下構造物の中でワンダリングモンスター退治。これもまた冒険、ではあるのだが。

 しかし、どちらかというとシャドウランめいているような気がしないでもない。

 人の悪意が見え隠れするというか。

 

「〝わるいまほうつかい〟 を倒してめでたしめでたし、と行けばいいのだけれど、はてさて」

 

「この半屍人(ハーフデッド)の元締めがいたとしても、トンネル巡回してるところにわざわざ来たりはしないでしょうし。私たちが直接相手をすることはないんじゃありませんの?」

 

「だろうね。まあ、隧道公団(トンネル・コーポ)の総裁や幹部たちは、あれで腕は確かな魔導師だし、そのうち解決すると思う」

 

「なら心配いらなさそうですわね」

 

「そうだね。………あ、でも」

 

「……何か心配事がおありで?」

 

 腰の雑嚢から支給品の後処理用の魔法薬剤を取り出して、半屍人(ハーフデッド)の残骸に振りかけていたマルギットが手を止めてエーリヒを見た。

 エーリヒは難しい顔で考えている。

 

「もし、しばらく日にちが経っても半屍人(ハーフデッド)の湧きが止まらなかったら、と思ってね」

 

「ふぅん? もしそうなったら、どうだというんですの?」

 

「その場合は、おそらくだけれど、この半屍人(ハーフデッド)の出現と襲撃は、公団にとって織り込み済みのこと──── つまり、最初から建設計画に組み込まれているという可能性が出てくるな、と」

 

「心配のし過ぎではないかしら。何の得があってそんなことをするというんですの」

 

 襲撃があれば工事は遅れる。

 哨戒の冒険者に支払う金子(きんす)もかさむ。

 半屍人(ハーフデッド)による破壊工作の復旧にも、時間も金も資材も無駄にかかる。

 

 遅延行為による害はあっても、トンネル建設工事にとっては襲撃など何のメリットもない。

 

「(だが、トンネル造成工事それそのものにはメリットがないとしても、別の側面で誰かが利益を得ているということは考えられる)」

 

 隧道公団単体で見れば工事遅延には一文の得もないとしても、工事が長引けばそれによって賃金を得ている労働者連中にとっては得になる。

 その現地の人足の元締めが暴走しているのか? 元は漂流者協定団だったのだろうから、その伝手を使って襲撃を手引きして/させられている?

 

 あるいは、何か、『時間を引き延ばすこと』そのものに、政治的な力学が働いている……?

 

「エーリヒ、行きますわよ? 考え事は後になさいましな」

 

「……ああ、そうだねマルギット。君がいるからと気を抜きすぎたようだ」

 

 別にもうウビオルム伯アグリッピナ女史の従僕をやっているわけでもなし、とエーリヒは思考を打ち切った。

 

「ま、まあ? たとえあなたの気がそぞろでも、お姉さんがついていれば不意打ちなんて許しませんから、安心してくださってかまいませんことよ」

 

「もちろん、頼りにさせてもらっているよ。背を預けられるのは君だけだとも」

 

 

 

 

 

 

 そうして巡回することしばし。

 

 

 

 

 

「あ、エーリヒ先輩じゃないっスか!」

 

 通路の向こうからエーリヒへ声をかける者いた。

 

「! 『手』(ヘンド)か」

 

 人懐こい笑みで挨拶を投げてきたのは、片手を拘束衣めいてガチガチに固めた少年だった。頭の上には、使い魔だという、どでかいミミズというか、芋虫というか、ヌタウナギというか、そんな見慣れないワーム状の生物を載せている。本名は不明だが、コードネームなのか『手』(ヘンド)と名乗っている。

 また、『手』(ヘンド)の少年もまた二人一組で巡回しており、眼帯で両目を覆った『目』(アウグン)と名乗る10歳程度の少女を連れていた。『目』(アウグン)の少女もぺこりとエーリヒとマルギットに会釈する。

 

「そっちはどうだったんスかー? こっちは2体出たんスよー」

 

「2組出た。4体ばかり片づけたところだ」

 

「わぁ、そりゃまた大変でしたね、先輩」

 

 エーリヒのことをなぜか『センパイ』と呼んでくるこの少年は、隧道公団(トンネル・コーポ)の見習い職員で、エーリヒと同じくトンネル内の哨戒を担当している縁で顔見知りになった。

 そして、『手』(ヘンド)の名のとおり、〈見えざる手〉という不可視の力場の手を操る魔法使いでもあった。

 

「そう大した相手でもないさ。そちらも特に怪我はなさそうだな。『目』(アウグン)ちゃんも」

 

「そりゃもう、先輩のご助言(アドバイス)のおかげで、オレの『手』の扱いもかなり上手くなりましたからね! ガイシューイッショクってやつッスよ!」

 

 まあ、この『手』(ヘンド)の彼が、エーリヒのことを『先輩』と呼ぶのは、何のことはない。

 〈見えざる手〉 の魔法に特化して開眼した『手』(ヘンド)が、その独自の感覚で、エーリヒが相当に 〈見えざる手〉 の魔法に造詣が深いことを見抜いて助言を求めたからだ。そしてエーリヒもなんだかんだでそれに応じたのだ。

 魔導院教授級の魔導師の側仕えとして魔導従者的なスキルを磨いてきたエーリヒの実践経験に、さらに彼の前世のマンチ的な思考が合わさり、現世の思春期男子の肉体がもたらす妄想力が爆発した結果、その助言を受けた『手』(ヘンド)の魔法の扱いは、格段に向上したというわけだ。

 

 ただ、エーリヒ本人が『魔法を使えること』を隠したがっているのも元乞食特有の人間観察力で把握できたので、『手』(ヘンド)もエーリヒが魔法を使えることは気づいていないふりを続けている。

 

「いやー、『別に人間の手の形にこだわらなくてもいいんじゃないか?』って先輩に言われたときは正気を疑ったッスけど、これが大当たりなもんで。

 しかも使い魔の感覚を自分の経験に統合すれば、魔力の腕に穿地魔蟲(ヴュラ・ダォンター)の『溶解液』の属性を与えられるんじゃないかって助言も、やってみたらそのとおりだったし、やっぱ先輩はパねぇッスね!」

 

 具体的には、ただの見えない手によるパンチくらいしか攻撃手段がなかったのが、溶解属性の魔力を纏ってギュンギュンとドリルみたいに回転する力場の手刀を飛ばして敵をえぐり取るという、かなりえげつない攻撃へと昇華したのだ。*1

 また、これはエーリヒも『手』(ヘンド)もよく知らなかったことだが、『手』(ヘンド)の魔法能力は、使い魔契約している魔蟲の方が主であるため、〈見えざる手〉 の使用イメージを魔蟲の触腕(くちひげ)に寄せることは、非常に有効な上達方法であった。

 

「オレも『目』(アウグン)も、先輩のご助言のおかげでかなーり魔法の扱いが上手くなったんスよ。な? 『目』(アウグン)?」

 

「はい、さすが先輩、〝パねぇっス〟 です!」

 

 両目を眼帯で覆った少女の方も、これまた魔蟲と契約している魔法使いであり、こちらは生来不自由な目を〈遠見〉の魔法で補っているのだという。

 そしてこれもまた、魔蟲の方の感覚に寄せることで、術式の制御が格段に向上したのだとか。

 

 そのおかげで地下トンネルの巡回任務においても、このペアは『目』(アウグン)が複数の視界を飛ばして暗闇をものともせずに広範囲を索敵し、見つけた敵を『手』(ヘンド)がまるで触手のように伸ばす溶解属性の 〈見えざる手〉 によって先手必勝で溶かして抉って殺す、というパターンを構築して成果を上げているそうだ。

 

 ただ、『目』(アウグン)の少女の方は、術式を駆使してもなお、よく隠密中のマルギットの姿を見落としてしまうらしいので、機会を見てはマルギットに対して隠密や索敵の秘訣を聞き出そうとしたりもしている。

 まあ、そう簡単に教えるほど、マルギットも優しくはないのだが。

 それでもかわいらしい少女から尊敬と畏怖を含めて隠形の腕を褒められて構われるのは、悪い気はしないらしい。

 

 

「あ、そうだ、先輩。公団の別の哨戒ペアから聞いたんスけど、なんか半屍人を何体も連れた、凄腕の新手が出たらしいとか────」

 

 

< 1.エーリヒ「半人間の戦闘員を引き連れた、ボス級の不審者(かいじん)………? なんか急にニチアサの匂いがしてきたな………」 ──── 了 >

 

 

 

 

§

 

 

 

 

2. 量産型戦闘員の納品

 

 

「シュマイツァー卿、いつも助かります」

 

「ふむ。こちらは契約通りに納めているだけだとも、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿」

 

「いえいえ、それこそが重要なんです。品質と納期を守る取引先は良い取引先なんです」

 

「まあこれでも納期と品質管理には一家言あるのは確かだ。さて、ではいつも通り検収したまえよ」

 

「ええ、(あらた)めさせていただきます」

 

 というわけで、納品されたブツを検収するのは私こと、マックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)にして隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)であーる。

 

 ここは地下から繋がるどこぞの亜空間。

 〈空間遷移〉によって、屍戯卿(しざれきょう)シュマイツァー教授に貸し出している『邪視の魔宮』跡地の肉要塞とつなげ、そこから出荷されたブツを受け入れる倉庫だ。

 

 倉庫に並ぶのは、棺のような大きさの頑丈な段ボール箱が100個ほど。

 段ボールは、砂漠の方で竹パルプ── 魔導航空艦の試験飛行で不時着した際に襲ってきたオオタケヤドリアリと共生する竹。その竹の種苗と、オオタケヤドリアリが操る成長促進術式を回収し、パルプ源としての量産に成功している── から作ったものだ。

 

「〈生体検査術式〉」

 

 私はそれらの箱の全てに魔法でスキャンをかけて、ランダムに蓋を開けて中身を目視でも確認する。

 

 中に入っているのは、まるで昆虫人間めいた生体魔導人形だ。

 

 鎧のような外骨格。

 腕と癒合するように形成された剣と盾の形の器官。

 最初から魂のない人型の肉塊が、緩衝材が詰められた段ボール棺の中に横たわっている。

 

「うむ、OK、OK、OK………」

 

 結果は異状なし。

 全て品質OKだ。

 

「シュマイツァー卿、確かに確認しました。すべて仕様どおり。検収完了です」

 

「ああ、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿、確かに。──── しかし魔導炉の使用料が、本当にこのような現物納めで良いのかね?」

 

 検収証に魔導的な押印をしてシュマイツァー卿に渡すと、シュマイツァー卿が『解せない』と首をかしげながら聞いてくる。

 

 納品されたのは、邪視の魔宮の機能を使って、まるで果実のように生産された、命なき肉人形。ジェネリック人体のカスタマイズ版。

 人体を模している屍戯卿謹製のそれは、帝国の法にも触れない、クリーンな代物だ。

 ここにさらに、私が自律稼働系の術式を込めて、自動人形として扱うというわけだね。

 

「君なら同じものを自分で準備することもできるだろうに」

 

「ああ、まあ……出来なくはないのですが、シュマイツァー卿が思うほど簡単にとはいきませんよ。この手のものについてはやはり貴方に頼むのが一番です。それともひょっとして飽きてしまわれましたか? それでしたら炉の賃借料は金納でも構いませんが……」

 

「そういうわけではないが、単純に疑問だったのでね。………そうだ、もし可能なら、仕様の一部変更を提案しても? こちらも作るうちに改善点を見つけたり、弟子たちの技量向上もあって、いわゆる高級機の提案や、さらなる廉価版で製造数を増やしたりの提案もできると思うのだが」

 

「それは歓迎です。………って、やっぱり飽きているんじゃないですか? まあ、構いませんが」

 

「向上心というのは大事だろう?」

 

「それはおっしゃる通りで」

 

 その後は、実際に段ボール棺内の現物を見ながら、シュマイツァー卿が「弟子たちがこういう工夫をしていてな。優秀だろう」などと色々と弟子自慢をしてくるのに付き合ったりもしたり。

 魔導契約で守秘義務をガチガチに縛っているので、案外と深いところまでお互いに安心して話をすることができるのだ。この意見交換でお互いに刺激を受けて研究が捗ることも多い。やはり魔導師の秘匿主義は害悪ってはっきりわかんだね(オープンマギア過激派)。

 

 

「そういえば、ハシシ=ミュンヒハウゼン卿」

 

「はい?」

 

「確か、君の方でやっている改造人間のプロジェクト……『新英雄』とか言ったか。アレに、私が納めた半人間の戦闘員を率いさせるのだろう?」

 

「あ、ご存じでしたか。お耳が早い」

 

「そうは言っても結構派手に噂を撒いているだろう、君。なんてったって、肉の納品に付き合ってマルスハイムに少し出入りするだけ程度の私の弟子たちが情報を拾ってくるくらいだ」

 

「ええ、そうです。〝新英雄が率いる集団が、隧道公団の再開発に抵抗! 漂流者協定団の巻き返し!〟 と、まあ、そんな感じで」

 

 私が、というよりも、潰れたメンツを取り返して求心力を高めたい漂流者協定団の残党、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)が、はったり利かせるために噂を流しているのだが。

 ああ、でもそれも結局は、密偵ロタールのロールをしている子実体(キノコ)分身(クローン)が手引きしているし、私の手によるものと言ってもそう間違いではないか。

 

 こういう地下鉄造成地への襲撃イベントを企画して遅延行為しないと、あっという間に地下鉄道と荷捌き場が完成して、土豪側の調略が終わる前に内戦になだれ込んじゃうからね。

 

「その新英雄との協業ということなら、だ。戦闘員の方にも、それ用の機能を組み込んでもいいのではないかね?」

 

「ほうほう。興味深いですね。それは例えば?」

 

「そうだな、例えば瞬間的に生命力を戦闘員から新英雄に集中させて飛躍的に戦闘力を高めるとか、戦闘員の形態制御を限定解除して、その肉を纏って巨大化するとか………」

 

 そう提案するシュマイツァー卿に、私もにっこり。

 

「いいですね! もう少し詰めましょうか。必要な資材や資金に不足があれば融通しますよ? 次か、次の次の納品の時には、いくつか試作ロットを混ぜる方向で………」

 

「ああ、弟子たちの育成のためにもちょうどいいと思う。その方向で調整したい」

 

 

 

< 2.気分はショッカー(実態はマッチポンプ) ──── 了 >

 

 

 

 

*1
◆『手』の少年の魔法:〈見えざる手〉の魔法のカスタマイズにより、より穿地魔蟲ヴュラ・ダォンターの触手に使用感を寄せて実力を伸ばした。拡張術式で追加したオプションは、〈魔力撃:溶解〉、〈竜のごとき甲鱗〉、〈自在なる鞭腕〉、〈螺旋する尖掌〉、〈多腕:5〉とかその辺。つまりまあ、溶解性魔力を纏った不可視の有線式ドリルインコムが5個くらいビュンビュン飛んでくる感じ。




 
あけましておめでとうございます! 本年も本作をよろしくお願い申し上げます。
 
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