フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・地下鉄道のトンネル造成現場にて、破壊工作にいそしむ怪しい影あり。半屍人(ハーフデッド)と呼ばれるそれを駆除するため、信頼がおけて腕のある冒険者や、隧道公団(トンネルコーポ)の戦闘系職員が投入されている。しかし一方で、侵入経路の特定には至っておらず、工事の進捗は思ったようには進んでいない。
・だがそれもそのはず。工事に妨害者を送り込んでいるのは、帝国隧道公団総裁でもある方伯・マックス何某その人だった! 大軍を支えることが可能な鉄道拠点の完成をメルクマール(めじるし)として、帝国側と土豪側の動きをコントロールしようとする自作自演の攻防なのだった!
・そのために投入されるのは、『邪視の魔宮』から収穫されたジェネリック人体をカスタマイズした半人間──── 半屍人(ハーフデッド)*1。屍戯卿シュマイツァー教授が作ったそれを戦力化し、土豪側の人員を改造した強化人間・新英雄に率いさせることで、小競り合いを激化させるという目論見なわけだ。

 

*1
◆半屍人の出どころ:邪視の魔宮から生み出された命なき肉塊。それに制御術式を刻み付けて動かすので、動死体(ゾンビ)というよりはフレッシュゴーレム。原作WEB版みたいに村を一つつぶしたとかではないのでご安心を。生み出されるにあたってコストとして消費されたのは、魔導炉から流れ出た魔力だけというエコ仕様。そのうち屍戯卿の弟子たちがフレッシュゴーレムづくりに傾倒してWeb版の虎嬢(ティーゲルフラウ)豹嬢(パンテルフラウ)みたいなケレン味溢れるタイプも作るかも。




34/n マルスハイムの初夏-7(あいさつまわり × 5)

 

1. 有力冒険者氏族への挨拶回り1:ロランス組

 

 

 さて、大規模な公共事業を行うにあたって、地元の人々へのあいさつというのは重要である。

 

 というわけで、最初にやって来たのはこちら。

 

「ロランス組のみなさまー、帝国隧道公団から来ましたー」

 

 マルスハイムの有名冒険者氏族のうちの一つ、巨鬼ロランス女史が頭目を務める武闘派クランの 〝ロランス組〟 へと手土産を携えて(おとな)うのは、そう私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)にして隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)である。

 

 旧天幕街を灰燼に帰すにあたって、ダシにしてしまった巨鬼ロランスおよび彼女の配下のクランに対しては、既に巨蟹鬼(クレープス・オーガ)セバスティアンヌ── 今もお仕着せ姿(メイド服)で近侍護衛として背後に控えさせている身の丈4mにも達する下半身が蟹な巨鬼── からも詫びを入れてもらっているが、せっかく現地マルスハイムに比較的自由に動ける子実体(キノコ)分身(クローン)を派遣しているのだし、トップ外交と行こうじゃないか。

 

 え? 仮にも侯爵級の貴族がそんなホイホイ動き回ると格が下がる?? 普通は呼び寄せるものだろう、って?

 ははは、私が分身して帝国各地のスラムにすら出向いて趣味で説法かましていることは帝国貴族界隈でも周知の事実だから何も問題ないよ。っていうか今さらだよ。

 ほぼ無位無官からの大抜擢だから、もとから下がる格も何もあったもんじゃないというのもあるし。

 

 他にも魔導副伯の職責にかこつけて、帝国中で魔導に素養のある子どもの人材発掘と支援とかで飛び回っているから本当に今さらなんだよね。

 隧道方伯の職責では、こちらは各地の貴族の招聘を受けてがほとんどだけど、トンネル掘進や運河拡幅のための視察に行ったりもしてるし。稀に国家戦略的な要衝を開発するために、地元領主の意向に関係なく現地入りして隠密的に(あるいは強権的に)測量したりもするが。

 その時についでにカラんできた現地のごろつきとか群盗山賊のねぐらを一掃して、虚空の箱庭の人造人間(ホムンクルス)の素体としてリサイクルしたりもしてるから今さらいまさら。あ、さすがに素体のリサイクルは内緒だけどね。

 

 しかも私が無血帝陛下(むけつてーへーか)の紐付きだってことも周知の事実だし。

 おかげで帝国貴族の間では、神出鬼没のやべーやつ扱いだし、どこで何してようが「そーしてても不思議じゃねーやつ」扱いだから下がる格なんかないよ。もちろん貴族相手にはできるだけプロトコルは守るようにしてるがね。冒険者相手の非公式訪問ならむしろこちらが自儘に振舞うくらいがちょうどいいくらいさ。

 その辺の事情も知らずにナめてくる奴ら? ははは、その程度の情報収集すらもできない奴らなんてマトモに相手する必要あるかい??

 

「もしもーし? いらっしゃいますー? 〝二刀〟 のロランス氏はご在席かー?」

 

「はいはい聞こえてるぜ、まったくこっちは朝の稽古中だってのに一体どこのどなたさんで……………ほぁっ!? スティーの姐御!!? しかも、じ、侍女みてーな恰好してるぅぅぅうう!!??」

 

 なおも問いかける私に気づいて顔を出した、ロランス組の一般メンバーが、絶叫した。

 私の後ろに佇む、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)セバスティアンヌを見て、だ。

 正確には、彼女が特大サイズのお仕着せを着ている光景を見て、だね。

 

「そう騒ぐな。主人の近侍護衛が私の仕事だと前に言っただろう」

 

「いや、でも、えええええ?!」

 

「ほらさっさとロランスを呼んで来い」

 

 スティーが促すと、顔を出していた冒険者は転がるように彼らが定宿にしている『黒い大烏賊』亭の中へと駆けていった。

 まあ、あのような反応をするのも無理はない。

 天幕街炎上の件の詫びにと、ロランス女史の稽古相手を買って出て、何度もこちらを訪ねている巨蟹鬼スティーが、このような楚々とした侍女服に身を包んでいるのは、いろいろな意味で衝撃だっただろう。

 

「ふむ。私は似合っていると思うのだがね、侍女服も」

 

「普通は巨鬼の護衛には武装させるものだぞ、主殿。それに巨鬼にとっては戦装束こそが正装だ」

 

「戦うメイドさんも素敵だと思うぞ、スティー」

 

「よくわからん感性だ。着るのはやぶさかではないが、戦闘用に編み上げた侍女服まで用意するのは、一般的ではないことだけは分かるぞ」

 

 戦うメイドさんっていいよね。

 

 ということで、スティーの侍女服には、魔導や奇跡をこれでもかと編み込んである。

 戦闘用の術をこめてもいるが、蟹脚に履かせるガーターベルトには楚々と移動できるように足音を消す術式を付与してあるし、4mの巨体がどこにでも入れるようにとホワイトブリムには周囲の空間を歪曲し拡充する術式を付与している。

 スカートを広げるクリノリン(ほねぐみ)には、武装や物資やつまみ食い用の食事を取り出したりできるように空間遷移の術式を仕込んでいるし、二対神銀のハサミに巻いてもこもこに見せているフェイクファーのカフスには、高貴な人の前では威圧的過ぎて開けないハサミの代わりになるように〈手〉の術式を仕込んでいたりもしている。なおそのファーカフスには、一瞬で電磁加速砲(レールガン)装備に入れ替えて換装できるような仕掛けもしている。

 

 と、雑談しながら待つうちに、向こうの準備も整ったようだ。

 黒い大烏賊亭からバタバタとした足音とともに、ヒト種(メンシュ)の男が顔を出した。

 事前にスティーから聞いていた話だと、彼はロランス組の幹部の一人である、エッボという名の男だろうか。

 直前まで稽古をしていたところを急いでやってきたのか、汗みずくで顔にも青あざと泥汚れがあるが、こちらとしては特に気にすることでもない。むしろスティーなどはその熱心さに『感心感心』と後方腕組みで頷いているくらいだ。

 

「す、すいやせん、お待たせしちまって。どうぞ中に。あんまり高貴な方を出迎えられるようなとこじゃあございませんが」

 

「ああ、先ぶれのときには時間の指定はしていなかったからね。こちらこそ稽古の邪魔をして済まない。じゃあ、上がらせてもらうよ」

 

「へえ、どうぞこちらに」

 

 エッボの案内で、黒い大烏賊亭の中へと通される。

 

 そこに待っていたのは、精悍な巨鬼の戦士。ガルガンテュワ部族の 〝不羈なる〟 ロランス。マルスハイムでの通り名は、〝二刀の〟 ロランスだ。

 

 稽古上がりなのか、初夏にもかかわらず湯気が出るほどに汗をかいている。

 巨鬼の生体金属成分が影響するのか、どこか金属的な匂いがするのが、不思議と官能的ですらある。

 

「………本当に侍女服なのだな、〝津波の〟 セバスティアンヌ」

 

「そちらも真面目に稽古しているようで何よりだ、ロランス嬢」

 

「『嬢』と呼ばれるような歳でもないぞ」

 

「私の半分程度も生きてないなら、お嬢ちゃんさ」

 

「はっ、大年増め」

 

「………いや、生まれ直しているからむしろ私は赤子の歳なのかもしれんな。おい、ロランスよ、『嬢ちゃん』と呼んでくれても構わんぞ」

 

「………やめておこう。それで、そちらに居るのが貴様の主人か」

 

 何度も刃を交わしているが故の気安さからか、巨蟹鬼セバスティアンヌと軽妙なやり取りとした巨鬼ロランス女史。

 そんな彼女の視線が私の方に向く。

 値踏みするような視線だ。私の戦力について推し量っているのだろう。巨鬼の判断基準とは、いつでもソレだ。

 

「直接会うのは初めてかな、ロランス殿。

 私はマックス・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン。そこのスティーの主をしている。

 ああ、あとはそちらでいま使ってくれている稽古用の魔導具の制作者でもある」

 

「すでに知っているだろうが、此の身はガルガンテュワ部族は 〝不羈なる〟 ロランスだ。まあ、あの魔導具は役に立っている」

 

「それは良かった。今日はあいさつがてら、その魔導具の感想を聞いたり、調子を見させてもらいたくてね」

 

「いいだろう」

 

「じゃあスティー、台を」

 

 そう言ってスティーに指示すれば、スティーはクリノリンで広がった侍女服のスカートの中から、作業台を取り出した。

 それを見た周囲の者が、まるでキツネにつままれたような顔をした。

 明らかにスカートの中の容積と、出てきた作業台の嵩が合わないのだ。

 

「……どこから出した??」

 

「ちょっとした手妻だよ、ロランス殿。気にすることはない。さ、魔導具をここに置いてくれ」

 

「あ、ああ」

 

 ロランス女史が手首からバンテージ状の魔導具を外して作業台に置く。

 

 これは天幕街炎上に巻き込んだ詫びにと貸し出した訓練用の魔導具で、要はまあ、あれだ、高重力発生装置的なヤツだ。

 高負荷を与える呪詛系の術式と、重力操作系の術式と、周囲の空気をまるで水や飴のようにネバつかせる流体制御系の術式の複合だな。

 巨鬼のロランス女史が訓練程度で汗をかいていたのもこの魔導具を着用していたせいだ。

 

 クラン内部で実のある訓練をするためには、エッボら配下の者たちの能力を向上させることができればいいのだが、別のアプローチとしては、ロランス女史の方にハンディキャップをつける方法がある。

 これは後者のアプローチというわけだね。

 

「使用感はどうかね?」

 

「ああ、非常にいい訓練になる。戦場では四方八方から鈎縄を投げられて拘束されることもあったから、それに近いような感覚だな。特に周囲の空気がねばつくのが良いな、抵抗が少ない正しい剣筋が自然と理解できる」

 

「ふむふむ、なるほど。不具合はなさそうかな。

 しかし、まだこれを導入して何日もたっていないけれど、もうすでに慣れつつあるんじゃないかい? 同じものをあと何巻きか置いていくから、物足りなくなったら追加するといい」

 

「ああ、活用させてもらおう」 

 

「よろしく頼むよ。もし調子が悪くなったら、帝国隧道公団の事務所を訪ねてくれたまえ」

 

 魔導具の方も異状なし。

 顔合わせもつつがなく終わった。

 

 スティーがこのままロランス組の訓練に加わりたさそうにしているが、今日はまだまだ回るところがあるので我慢してもらおう。

 

「ではこれにてお暇させてもらうよ、ロランス殿」

 

「ああ、ではな。……そういえば、そちらの現場の方は、襤褸(ぼろ)纏いどもの残党に悩まされているようだが」

 

「確かに新英雄とかいう、土豪側の強者たちもときどき浸透してくるようになっているが……大した問題ではないよ。スティーやその眷属の巨蟹鬼の娘たちもいるし、いざとなればどうとでもできる」

 

「そうか」

 

「そうさ」

 

 まあ、ロランス組が暇そうなら手を借りてもいいと思うけど、天幕街炎上で迷惑かけてるから、こんなつまらん茶番に巻き込むのも気が引けるのよね。

 

 

 それはそれとして、次だ! 次へ行こう!

 

 

< 1.『ロランス女史 VS. エーリヒ君』の模擬戦は天幕街炎上時点で既に発生済み。その後にも何度か手合わせしてると思うので、高負荷魔導具を外して「ここからが本番だ……!」したロランス女史は居ます。エーリヒ君にも高負荷魔導具を貸して2人で高負荷下の模擬戦もしたりしてるかもだ(巨鬼的には実質逢い引き)。 ──── 了 >

 

 

 

 

§

 

 

 

 

2. 有力冒険者氏族への挨拶回り2:ハイルブロン・ファミーリエ

 

 

 はい、次にやって来たのはマルスハイムの街なかに縄張りを持つ不逞氏族の一つ、ハイルブロン一家(ファミーリエ)の屋敷だ。

 街中での護衛や用心棒、マルスハイムに入ってくる各種物資を運ぶ隊商の護衛を主なシノギにしている武闘派の冒険者氏族だ。

 要は地場の任侠(やくざ)屋さんと思っておけば、まあ大体合っている。

 

 頭目はステファノ・ハイルブロンという、牛軀人(アウズフムラ)牛軀人(アウズフムラ)の中でもとびぬけた巨躯と膂力の持主の男で、悪どいやり口をしていた先代を物理的に排除して今の地位に就いたことから 〝牛骨砕き〟 なる二つ名で呼ばれることも。ただでさえ頑丈な牛軀人(アウズフムラ)の頭を素手で砕くとか、なかなかやるねぇ。

 また、卓越した槍使いである馬肢人(ツェンタォア)の戦士、〝舌抜き〟 のマンフレートを食客として抱えていることでも有名。マンフレート氏は、辺境エンデエルデの強者議論には必ず名が挙がるほどの凄腕だ。

 

 となれば。

 

「………」

 

「………」

 

 通された応接室で、〝舌抜き〟 マンフレート氏と、こちらの近侍護衛である巨蟹鬼セバスティアンヌが、お互いの格付けのために威圧を飛ばしてバチバチぶつけ合う*1のも当然の成り行きなわけで。

 

「スティー。抑えて」

 

「そこまでだ、物騒な気を仕舞え」

 

 まあ、そんな状況じゃ埒が明かないのでお互いの頭目が諫める形になる。

 様式美だよ、様式美。

 アウトローにはアウトローの作法(エチケット)があるってことさ。

 

「で、今日は本当に挨拶だけか? 公団(コーポ)の総裁サンよ」

 

「おっと、公的には非公式に影武者が来てるってことになってるから、そこんとこはよろしく」

 

「公には影武者ってなあ、おめえ。同じセリフの中で矛盾すんじゃねえよ」

 

 そうしておいた方が、何かと言い訳も利くのさ。

 影武者というか、分身同位体だから本人に違いないのだが。

 

「まあまあ。

 で、おおむねはただ挨拶だよ、ミスタ・ハイルブロン。

 あとは、街なかに取り残されていた漂流者協定団の残党を、街の外に追い出したり、うちの飯場(ハンバ)に届けてくれてることのお礼かな」

 

 届いたときはだいたいボコボコのボコだが、それはご愛嬌というところだろう。

 

「あいつらタチ悪いヨソモンを追い出すちょうどいい機会だったってだけだ。前から、馴染みの店の亭主連中からも不安を聞いてたしな」

 

「ま、引き続きよろしく頼むよ。まだ暫くは、こっちのスティーの娘の巨蟹鬼(クレープス・オーガ)の若いのも人足狩りに街中をうろつくと思うし」

 

()()()()な嬢ちゃんたちだからそう心配していない。

 だがなぁ、勝手にうちのシマのシノギを漁るのだけはやめろよな」

 

「別にそっちの用心棒の仕事をかっさらおうって訳じゃあないさ。残党狩りは街なかでの山場も超えたから、徐々に引き上げさせているところだしな」

 

「それなら良いがな」

 

「むしろ旧天幕街に進出する商店があれば、ハイルブロン・ファミーリエにはそっちも守ってやってほしいところだね」

 

「あ? そっちのシマだろう、良いのかよ」

 

「むしろこっちからお願いしたいくらいだね。そりゃ今こそ人的資本を集中的に投下してるから鉄道駅前周辺の治安維持まで手が回ってるが、こっちは基本は流通の維持拡大が主眼なんだから、そのうちに人員もその基幹業務を回せるだけの最低限の数にまで減らすつもりだよ」

 

 そもそも治安維持はマルスハイム伯の領分だ。

 隧道方伯の権限を拡大解釈して実効支配を広げるだなんて、面倒くさいし、キリがない。

 公団で実力行使をやったとしても、用地確保と施設造成の前後くらいまでがせいぜいだよね。

 

 とはいえ、今でさえマルスハイムでは衛兵の手が足りない状況で、旧天幕街が正常化/清浄化され、まっとうな経済圏に組み込まれ、むしろ地下鉄道駅を核とした流通拠点として商業の中心となる可能性が高いとなれば、そこにまで衛兵組織の手が回るとは思えない。

 ま、衛兵組織が充実するまでの数十年の間にしか咲かない徒花だろうとはいえ、地場の任侠(やくざ)屋が臨機応変に拡大するのは、必要悪ともいえよう。

 

「ふぅん。そうかい。欲の無いこった」

 

「むしろ欲深いからこそだけどね。鉄道とトンネルと荷捌き場の維持だけでもしんどいくらいだし、それをこれからも帝国全土に作っていこうってんだから。本業以外に手を伸ばしてる余裕はなくてね」

 

「ああ、無血帝陛下の御代が続く限りはそうなるのか……。ってーと、最低でも1期15年、長ければ3期45年くらいか? 若いうちからご苦労様だな、公団総裁」

 

「察してくれて助かるよ。

 というわけで、まあ、適当に、なあなあに。流通を阻害しない範囲でうまく付き合っていこうじゃないか、ミスタ・ハイルブロン」

 

 もし流通を阻害するほどにハイルブロン一家が増長したら………?

 そりゃ、天幕街がどうなったかを思い出してもらえれば、察しが付くだろう? 流通を阻害するものに、帝国は容赦しないのだ。

 

 

< 2.情勢が落ち着いて近代化の波がくれば暴対法じみたものができるのだろうけれど、ライン三重帝国がいくら先進的とはいえ、そもそも今はまだ中世ごろの治安・倫理な世相なのでね ──── 了 >

 

 

 

 

§

 

 

 

 

3. 有力冒険者氏族への挨拶回り3:バルドゥル氏族

 

 

 というわけで本日3か所目。

 こちらもまた不逞氏族の一つである、バルドゥル氏族だ。

 

 水虫の特効薬とか、表向きはまともな魔法薬の商いをやってるんだが。

 えーと、まあなんというか、裏の顔としては、魔導院の聴講生崩れが頭目を務める、違法薬物販売組織だね。

 あぶないくすりを商っている組織。で、構成員もみんなだいたいラリッてる。

 あと、魔法薬の製造をシノギにしてるから、抱えてる構成員に魔法使いが多いのと、傘下の下請け的な氏族も多くて、連合というかグループ会社みたいになってるのが特徴か。

 

 武力自体は大したことないので、近侍護衛の巨蟹鬼セバスティアンヌは食指が動かないのか、無関心に(おすましがおで)佇んでいる。

 

 さて。で、このバルドゥル氏族。

 身体依存性がない魔法薬を、比較的穏当な値段で捌いていることと、帝国全土を満たすほどの流通量もないことからお目こぼしされている状況と思われるのだが。

 

 魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)の職責的には、『絶許』 『見敵必殺』なレベルの悪行ではある。魔導の悪用だからね、しかも魔導院からのドロップアウト組によるものとなれば。

 

 で、そのバルドゥル氏族の頭目についてだが、元は払暁派ライゼニッツ学閥だという話だ。

 ライゼニッツ卿はお気に入りには甘いからなぁ……。

 魔法薬関係でやらかした聴講生を、そのまま特に魔導誓約で縛ったりもせずに逃がしたんだろうか。

 

「まあ、今回は魔導副伯の職務で訪問したわけじゃないからね。お忍びお忍び、いや、影武者だけどね公的には、ハハハ。それに街中の薬物の取り締まりは、マルスハイム伯の領分だし、マルスハイム伯からも何か頼まれているわけじゃあないし」

 

「 」

 

「魔導院出張所の連中も君たちには特に何も言ってきてないんだろう? なら、私がでしゃばるのも違うかな、って」

 

「  」

 

「………おーい、聞いてる?」

 

「 。   。    !」

 

「ああ、自動発動の攻性防壁術式を切ってなかったから、カウンター食らってるのかな」

 

 はい、解除。と、対抗魔導を切ってやれば、はくはくとまるで水槽の金魚のように口を動かしていた彼女、ナンナ・バルドゥル・スノッリソンが、ようやく息をついた。

 

「………ばけものじみたぁ……魔力の奔流ぅ……ねぇ……」

 

「ヒトより少し魔力量が多いだけさ。もちろん研鑽は欠かしていないが。というか、勝手にこちらの力量を覗き見ようとして術を返されただけなんだから、自業自得では?」

 

「………さあ……、なんのことだかぁ……」

 

 流石に、辺境に都落ち(ドロップアウト)した聴講生崩れにやり込められちゃあ、魔導副伯の名が廃るからね。

 もしそんなことになった日には、上長である魔導宮中伯アグリッピナ・フォン・ウビオルム伯に煽り倒されて憤死するわ。

 ああ、そういえばこのナンナ女史、元ライゼニッツ閥ということは、あのアグリッピナ女史の同門でもあるのか。

 

「まあ個人的には、酒精(アルコール)なんかよりもマシなんじゃないかと思うがね、貴女が作るクスリは」

 

「そんなものとぉ……比べられても、ねぇ……」

 

「ま、そりゃそうか。酒より無害で酒より幸せなのは前提だものな。

 さて、最終的に貴女の目指すところが何かは知らないが、妙なちょっかいをかけてこなきゃこちらとしてもそちらの商売を邪魔しようとは思わない」

 

「そう……。お話はぁ……以上かしらぁ……? それならぁ……お帰りはぁ……あちらよぉ……」

 

「まあ待ちたまえ。それで、それとは別に、だ。私の方では、魔導産業同業者組合というものを構想していてね」

 

 私は魔導副伯の職務として、将来の魔導産業同業者組合(ギルド)の発足に向けたネットワークづくりも企画して根回しをしているところだったりする。

 魔導師ではない市井の魔導産業従事者のネットワークというわけだ。

 もちろん発足にあたっては勅許が必要なので、事前に無血帝マルティンⅠ世陛下にもお許しはいただいているとも。

 

 ここでナンナ女史を魔導産業同業者組合に勧誘(オルグ)しておくのも大事だろう。

 なにせバルドゥル氏族は、表向きはマルスハイムで一番の魔法薬製造業者だからね。

 

「ふぅん? 市井の魔法使いのぉ……ギルド、ねぇ……」

 

「貴女もうちが展開している 〝キノコのお店〟 は利用したことがあるだろう?」

 

「ええ……希少な触媒のぉ……、品ぞろえはぁ……、随一だものねぇ……。助かっているわぁ……」

 

「こちらも、そちらでダブついたマルスハイム周辺の生薬を仕入れさせてもらったりしているから、ありがたいよ。

 それでまあ、その 〝キノコのお店〟 のネットワークの延長線上で、まずは加入してみてはどうかと思ってね。会員になれば割引も利くし、もっと上のサービスもできるし。検討に値すると自負するよ」

 

「サービス、ねぇ……。例えばぁ……?」

 

「具体的には、より上級の機材の調達だね。工房の改修も承るし、それに必要な文献の複写だとかも。

 この辺境じゃあ帝都魔導院みたいな環境を整えるのは難しいだろう? 制作を依頼したい指定の工房があれば、その仲介もできる」

 

「そう、ねぇ……でもぉ……お高いんでしょう……?」

 

「手元不如意なら借入ローンも組める。どうかな。行き詰ったときに、機材の更新でブレイクスルーが生まれることは、この界隈じゃあ珍しくもないのはご存じだろう?」

 

「─── はぁ。まあ、案内だけでもぉ……置いていきなさいなぁ……」

 

 しっし、と追い払うような身振り(ゼスチャー)をするナンナ女史。

 しかし私の営業トークはまんざらでもなかったのか、多少は検討してもらえそうだ。

 

 じゃあ、パンフレットと申し込み用に 〝キノコのお店〟 の召喚トークンを置いたら次に行こうか。

 

 

< 3.マックス何某「バルドゥル氏族はむしろ『あくのひみつけっしゃ』ごっこに巻き込んでもいいかもしれないが………しばらくは様子見かな」 ──── 了 >

 

 

 

§

 

 

 

 

4. 有力冒険者氏族への挨拶回り4:聖者フィデリオパーティ

 

 

 聖者フィデリオが拠点とする『子猫の(うた)た寝』亭を訪ねたが、門前払いを喰らった。

 

 デスヨネー。

 

 まあ、魔導誓約で縛っているとはいえ、邪視の魔宮の件を通じて、彼は私が辺境に大乱をもたらそうとしているのを知っているからね。さもあらん。

 言い訳させてもらえるなら、私も無血帝マルティンⅠ世陛下の国家戦略に則って動いているだけに過ぎないし、駒はコマなりに、己の裁量の範囲で、臣民の被害を最小限にするように動いてはいるのだが……。

 

 ま、所詮は言い訳だね。

 

 

< 4.聖者フィデリオ氏「塩撒いとけ、塩」 ──── 了 >

 

 

 

 

§

 

 

 

 

5. 挨拶回り5:帝国魔導院マルスハイム出張所

 

 

 

 はい、本日最後にやってきたのは、魔導院のマルスハイム出張所だ。

 〝わるいまほうつかいのねぐら〟 と字にして思い浮かべる感じで大体合っている。なんなら背景に暗雲と雷鳴を轟かせてもいいくらいだ、きっと似合う。

 辺境でしか行えないような研究を行うために設けられた出張所なので、学生の育成はあまり行っていない。つまり教育拠点というよりは研究拠点だ。まあ、行政から魔導方面の相談くらいは請け負っているが。政庁の抗魔導術式にセキュリティパッチあてたりとかね。

 

 ちなみに、教育用の拠点としても機能し、本院に準じた組織規模になる場合は、もう一つ格が上がって『分院』と呼ばれる。

 私が東方の沙漠の真ん中に誘致しようとしているのはこちらの分院のほうだね。なお、かつてはともかく今は分院は帝国内には存在しなくなっているし、今後も帝国内に分院がおかれることはないだろう。帝都ベアーリンのお膝元から離して運用するには、ちょっとばかり問題があったようだ(東方の砂漠の蠍の国・ホラサーン首長国みたいに相当離れたところに置くならともかく)。

 

 閑話休題。

 

 そしてなんとここの出張所のトップは落日派の教授。

 魔導の活用に関して実践派である落日派は、なにげに払暁派と並ぶほどに権勢が強い派閥なので── 力をつけては調子に乗って禁忌的な研究に手を伸ばして政府から『メッ』ってされて勢いを落とすのが毎度のルーチンとはいえ── 、出張所トップのポストもいくつか押さえていたりする。

 『時間の秘密』に早期にアプローチした学閥でもあることだし、私が魔導副伯に抜擢されていることからも分かるように、落日派ベヒトルスハイム閥はいま非常に上り調子だ。

 

 ちなみにこの魔導院マルスハイム出張所では、薬学や生体改造をメインに扱っているそうだ。

 まったく落日派らしい研究テーマだ。

 

 というわけで身内のなわばりに入るだけであるし、近侍護衛の巨蟹鬼セバスティアンヌは帰して、私一人で訪れている。

 

「やあ、久しぶりだね。ハシシ=ミュンヒハウゼン卿」

 

「フラウエンロープ教授、ご無沙汰しています」

 

 出迎えてくれたのは、白衣を着た赤毛の教授だ。

 細身の彼は一見すると二十代くらいに若く見えるが、まあ、ギチギチにチューンナップされた肉体であることは見て取れる。見た目通りの歳ではない。

 さすがは落日派の教授だね。

 

「まあ掛けたまえよ。黒茶くらい出そう」

 

「あ、ではお茶請けにプリンでもどうです? ノヴァ教授のお墨付きですよ」

 

 ここを統括するフラウエンロープ教授と私は、同じ落日派ベヒトルスハイム閥であるが故に旧知の仲だ。

 具体的には、あの屍戯卿シュマイツァー卿が帝国貴族中に動死体兵器をバラまいていたのを秘密裏に回収するという、ベヒトルスハイム閥の所属員総出のあの尻拭いミッションで知己を得た。

 

 確か聞いたところによると、フラウエンロープ教授は、シュマイツァー卿の同期なんだとか。

 

 

 そうして適当に雑談することしばし。

 

「シュマイツァー卿ともこのあいだ会えたよ、()()()元気そうで本当によかった」

 

「ああ、やはり親しいのですか? シュマイツァー卿とは」

 

「まあ聴講生時代から切磋琢磨した仲だ。彼らが本当に身体的にも3人だったころからの付き合いになる」

 

「………その割には、シュマイツァー卿の信者というわけでもないのですね?」

 

 屍戯卿シュマイツァー教授の一門は、聖人めいたシュマイツァー卿のカリスマに惹かれて集まった小規模カルトセクトじみている。いや、いた。先の不祥事で解体されているからね、過去形だ。

 どうにも親しげな様子だから、てっきりフラウエンロープ教授も、シュマイツァー卿に心酔しているのかとも思ったが。

 

「それはそうだとも。他人のテーマに心を()かれているようでは、魔導院で教授になんてなれやしまいよ。深淵にこそ誉れあり、というのは、己の心の奥にある渇望と向き合うべきだという示唆だと、私は解釈している」

 

「なるほど。それには私も大いに賛同できますね」

 

 魔導院の教授ともなれば、それはもう、際立った個我がなければ上り詰められまいさ。

 教授への昇格試験にあたって、人品が考慮されないのはそういった経緯もあろう。

 魔導の深淵を覗き込む際に、その芯の芯たる信念の中心を他人に委ねるなど、かえってそれこそ狂気の沙汰だ。

 

 シュマイツァー卿も、弟子の育成ではその点を気に病んでいるらしいと聞いたことがある。

 魔導師としての大成を考えれば、弟子の師匠離れ……独り立ちというものは重要だ。

 それでもなお「大望のために」と弟子たちの能力を己のテーマに巻き込んで蕩尽させることは、大願成就までのこの一時にあっては致し方ないことだと、シュマイツァー卿自身も苦悩しつつもすでにある程度は割り切っているそうだが。

 

「あの3人と私とは、道を同じくできなかったが……」

 

「それでもなお、と」

 

「ああ。それでもなお、友誼は変わらぬものだ。今は遠いあの青春は、かけがえのないものだった」

 

 どこか遠い目をするフラウエンロープ教授。

 果たしてそれは、彼らが()()で過ごしたかつての青春を想っているのか。

 

「………竜心型の旧式閉鎖循環魔導炉の暴走に巻き込まれても無事だった貴公には余計なことかもしれないが、実験にあたっては細心の注意を払うことだ。特に他派閥の魔導師と協業する際には、決して諍いを持ち込まぬように、な」

 

 ──── でなければ、その結果は非常に陰惨なものになる。

 

 重々しく口を開いたフラウエンロープ教授の言葉は、どうにも悔恨に満ちていた。*2

 

 

 

< 5.マックス何某「あ、それはそれとして治験志願者と刑罰治験者以外に違法に人体実験とか横流しとかしてないでしょうね? こっちは魔導副伯の職責上、そういうの看過できないんですからね?」

 フラウエンロープ教授「やっていない。シュマイツァー卿から納められる高精度の模擬人体も今後は手に入るから今後もその予定はない」

 マックス何某「ならいいのですが………」 ──── 了 >*3

 

 

 

*1
※ ぐにゃあ……

*2
◆実験に派閥の諍いを持ち込まないことに一家言あるフラウエンロープ教授と、その同期のシュマイツァー卿をかつて襲った不幸についての考察: シュマイツァー卿の同期で、実験における多派閥の協働に一家言ありニキなフラウエンロープ教授。しかも原作WEB版にあっては違法行為してでも追放されたシュマイツァー卿を助けるくらいに親しい、あるいは借りか負い目がある様子。………ということで、たぶんですが、シュマイツァー卿はかつて魔導院で聴講生してたころ、他派閥と一緒に行う実験で、聴講生だったフラウエンロープ教授と他派閥の誰某とのくだらない諍いの末に暴走した術式か何かの余波を喰らったか、あるいはフラウエンロープ教授を暴発した術式から庇おうとしたとかで、3人のうち2人の身体を失っており、その際に精神魔法で身体を失った2人の魂をどうにか統合したとかそういう経緯がありそうかも、と考えました。で、フラウエンロープ教授は、三位一体でようやく教授になれたシュマイツァー卿とは異なり、単独で教授位に登れるほどの天才だろうと思われるので、シュマイツァー卿が3人から1人になる際のその施術にあたっても、筐体の生命維持を担当したりとかしてたんじゃないですかね。なんらかの事故にアンリ・リアン・マーガレットのうち2人が巻き込まれて、残った1人が死にいく2人の魂魄が霧散する前に自分の肉体に定着させられるくらい近くにいて、そんな状況でその1人だけまったく無事ってこともなさそうなので、内側で精神魔法を練り上げる作業する1人(シュマイツァー卿(筐体提供者))と、怪我した筐体の世話をする第三者(フラウエンロープ教授)が居ても不思議じゃないな、と。おそらく当時は4人全員聴講生だと思いますし、精神魔法担当と生命維持他の補助担当とで、中と外で分業してた方が納得感があります、個人的には。

*3
◆マルスハイム出張所での違法行為:フラウエンロープ教授は、まだスラム街の貧民を手続き無視して魔法の実験体にしたていで横流しするという違法行為には手を染めていないという設定です。まあ本作においてはシュマイツァー卿はジェネリック人体を自前で準備できますし、そのおかげで死体を横流しする必要もないので、動機もないですしね。




 
 ※1 魔導院に本院・出張所のほかに分院というカテゴリがあるというのは、独自設定です。というか、東方沙漠に本院に準ずる機能を持たせた施設を作りたいがためにマックス何某が古い制度から掘り起こして無理やり適用させようとしてるイメージです。
 ※2 フラウエンロープ教授と屍戯卿シュマイツァー教授の関係性・過去については、妄想設定です。例えるなら、ドラコ・マルフォイによるネビルに対する下らない謀りで実験中に起きた大惨事からネビルを庇ってハーマイオニーとロンが吹っ飛んだので、ハリー(シュマイツァー卿)がなんとかその2人の魂を己の肉体につなぎ止め、ネビル(フラウエンロープ教授)が泣きながら覚醒してそれを手伝った……みたいな関係かなあ、とか妄想。
 
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