フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・金の髪のエーリヒ君とニアミス。
・ジークフリート君はPC1だよね! のちの剣友会の中核メンバーの出会いの場に立ち会えるとは感無量でござるな!
・マクシーネ組合長は薬湯が手放せないようです。


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※ 原作小説10巻のネタバレあります。ご注意!
 


35/n 悪逆騎士怪人-2(魅了眼のエルスティア(いちばんちゃん)

 

 

1.アインス(いち / 1)エルステス(いちばんめ / 最初の)エルスティア(いちばんちゃん)

 

 

「ああもう! なんで私がこんなことを……!!」

 

 私の名前はエルスティア。ここマルスハイムの新天幕街を差配する組織、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジルレーテ)の幹部の一人だ。

 この名前、エルスティアというのは、1番ちゃんとか、1号ちゃんとか、ナンバー1とか、まあそういう意味合いの名前だ。

 ちょっと親の愛情を疑う名前だが、安心してほしい。私に親はいない。なんなら幼いころの記憶すらない。

 

 代わりに覚えているのは、無機質な実験室で食べた麦粥の味と、何らかの施術によって自分が変容していくことへのおぼろげな恐怖。

 

 というのも、それは私が、魔導院のプロジェクトの被験体として調製された、人工的な超人のプロトタイプだからである。

 最初に出荷された(ロールアウトした)から、名前は単に 〝エルスティア(いちばんちゃん)〟 だ。妹ができれば「ツヴァイティア」とでも名付けられるのだろうか?*1

 

 

 まあ、たぶん私にも、人並みに親がいたのだろうし(木の(また)から生まれてきたわけではあるまい)、かわいい幼少期というのもあったはずなのだろうが、そんなものは全て漂白されてしまった。

 それは私の精神から過去の記憶が漂白されたという意味でもあるし、人口制度上の記録としても漂白されたという意味だ。

 このエルスティア(わたし)になる前の少女は、もうどこにも存在しないし、その記録もない。

 

 

 そしてこの肉体すらもが、魔導院の度重なる改造によって、施術前とは全く異なってしまっている……と聞いている。

 まあ、『魔導院の研究者たち曰く』、なので、どこまで信じていいものか分からないが。しかし記憶が消された私はそれを信じるしかない。

 もしかつての私を知る者が今の私を見ても、かつての私と結びつけることはできないくらいに変貌しているそうだ。

 灰銀の髪に、雪のように白い肌、尋常ではない魔力を背景にした膂力と再生能力。そして魔眼。

 

 そう、魔眼。

 

 

 ─── 熾火(おきび)計画。

 

 かつての西方辺境土豪領域の首魁だった男ユストゥス・デ・ア・ダインが持っていた、貴重で強力な魔眼。

 その眼に宿るあまりの魔力に、討伐されて首だけになってすらなお朽ちず、魔導院の書庫にて首ごと保管されているという、支配の魔眼。

 その眼を複製して常人に移植し、簡易に強力な兵を量産する……というのが、私が生み出された実験計画である 〝熾火計画〟 の概要だ。

 

 で、まあ、昔の私は何を思ってこの 〝熾火計画〟 とやらに志願したのか、あるいは巻き込まれたのか知らないが……。

 この土地(マルスハイム)に来て得た知識ではこういった滅茶苦茶な人体実験に供されるのは、帝国で死罪相当の罪を犯したものくらいのはずだ。かつての私というのは、どこかの盗賊団の一員だったとか、そういうアレだろうか。帝国は流通を乱す者にことさら厳しいからな。

 ………政争に負けた下級貴族令嬢の成れの果て、とかであればロマンがあるのだが。大衆小説みたいで。

 イカレた女魔導師が自ら実験に志願した、というセンもあり得るか??

 

 かつての私が何を思って熾火計画の被験者になったのか、あるいはされたのか。それは今となっては知りようもないが、他の幾人かの被験者の犠牲*2の上に、ようやく成果物としてそこそこのレベルに達したのが私というわけだ。

 

 細胞の二重螺旋がどうとか、拒絶反応がどうとかで、肉体は弄られた部分がないくらいに隅々まで弄られているし。

 あるいは魔眼の適合性を上げるためには、精神性が重要なのかもしれぬと、精神魔法によって漂白されてはそれらしき記憶を植え付けられたりもした。

 

 だがそれらの過酷な施術(死んでも構わない、というくらいに限界を攻めた施術ばかりだった。というか、今後の後発品の施術のためにだろうか、徐々に施術の強度を上げることで限界を探っていた節がある)を経て、それでもなお私は生き残ったのだ。

 生き残ってしまった、とも言う。

 

 不完全とはいえ、移植された魔眼に適合して。

 

 ユストゥス・デ・ア・ダインの魔眼は、支配の魔眼。

 だが、私に移植された魔眼は変質してしまった。

 私の側の調律不足や、移植された複製魔眼自体の完成度の問題もあったのだろう。

 

 せいぜい発現できたのは、魅了の権能程度。

 視界に映るすべての者をその意思にかかわらず屈従させて操るような、オリジナルの性能には程遠い。

 

 魔導院の研究者連中は、私というサンプルを分析し、より調律を進めた素体を構築するべく動いている。

 まがりなりとも成功した最初の被験者ということで、私はかなり自我機能を残された方だ。

 施術中および施術前後の自己モニタリングと、その結果のヒアリングのためだな。施術自体が限界を攻めていたこともあり、被験者の反応と感想は重要であったらしい。

 

 魔眼の変質は、残された自我機能の影響が大きいのではないか、と研究者連中は仮説を立てた。

 オリジナルに近い魔眼を発現させるには、もっと、ユストゥス・デ・ア・ダインの血脈としての意識を前面に押し出す必要があるのではないか、と。

 まあ、己が実験体であるという認識が、魔眼という超常の権能に影響したのだろうという仮説には頷けるところがある。

 

 さて、そうなると、推定名ツヴァイティア(2ばんちゃん)以降の妹たちは、私のようにおぼろげに以前の自我を残すこともなく、実験に関する情報を与えられることもなく、完全に漂白されたうえで、ユストゥス・デ・ア・ダインの血脈だという刷り込みをされて出荷されるのだろう。

 ─── それはそれでアイデンティティの問題がありそうだな………。

 

 ともあれ、私への一連の施術は終了し、無事に生き残ることが出来たものの。

 罪人相手の刑罰治験であれば、施術完了をもって無罪放免となるところだが、私の場合はそうもいかない。そもそも記憶がないので刑罰治験者であるかも判然としないのであるが、それは置いておく。

 

 容姿も変わり、記憶を失い、臣籍すら無いまま放り出されるなど私は御免だ。

 その末路は野垂れ死にか、野盗に身をやつすか、まあ生き残っても表を歩けない稼業につく可能性は高いだろう。

 今になって思えば、冒険者、という手もあったと分かるが………まあ、新人の枠を出る前に悪人に騙されてどうにかなる方が早かっただろう。この身体の見た目は非常に整っているからな。

 

 そもそも、辺境土豪の首魁であった、かの灰色眼の王ユストゥス・デ・ア・ダインの魔眼を、劣化した複製品とはいえこの身に宿しているのだ。

 はなから魔導院の研究チームは、私を逃がすつもりはなかったのだろうさ。

 

 

 

 治験終了とともに私に突き付けられた選択肢の一つが、この西方辺境での『性能試験』だった。

 

 己の価値を証明せよ、とのことらしい。

 

 そして熾火計画から派遣されるにあたり、現地の受け入れ先として選定されたのが、無血帝マルティンⅠ世の勅命で土豪側に潜入している密偵ロタール氏のところだった。

 こいつが私のいまの上司にあたる。

 

 熾火計画は、落日派と中天派の合作。

 落日派の流れを汲む密偵ロタール氏に預けられるのは自然である。

 彼が皇帝陛下((もと)中天派)直属の密偵というのであればなおさらだ。

 

 己の施術の詳細を知らされたのもここに来てからだ。魔導院では、断片的にしか知らされていなかったからな。

 

 初対面のことを思い出す。

 

 「………うーん、拒絶反応が出かけてるから、このままじゃ数か月で頭蓋内からグズグズに崩壊するなこれ。魔眼の出力が強力すぎる」とか、あのクソ上司はぶっこんで来たのだ。

 いきなりの余命宣告に唖然とする私を救ったのもそのクソ上司である密偵ロタール氏なのだから文句も言えないが。

 

 というのも、密偵ロタール氏もまた、魔眼保持者であったからだ。

 しかも私より数段強力な、『眼』に関する概念権能全般を扱えるような。*3

 

 密偵ロタール氏はアッという間に私の 〝魅了の魔眼〟 を彼自身の魔眼の権能の配下に置き、さらに調律し、適合させ、安定させた。

 さらに彼はその人体加工技術の高さを発揮し、粗が目立つ上に無理な施術でボロボロだった私の身体を治療した。

 纏わりついていた不快感と倦怠感や、身体の奥底の消えぬ痛み、ずきずきと鈍く響く慢性の頭痛が消えた時は、心底ほっとしたものだ。ていうか、これ、治るものだったんだ……。

 

 いやもうお前が熾火計画の主任になってくれよ適任だろ!?

 と思ったし、実際口にも出したが、それはダメらしい。

 

 「これはズルだからね、魔導的には」とか言っていたが、被験者の身の上としてはそんなの関係ないから最善を尽くしてくれとしか言えない。被験者虐待反対、人道的な福祉を我らに!

 なお、ダメな理由は、ロタール氏の魔眼が、魔導ではなくて妖精の祝福に由来する権能だからとか。だがこちらにしてみれば、ヒトの手による魔導なのか神の御業による奇跡なのか妖精の祝福なのかなど、どーでもよいのだ。

 とりあえず、まだ見ぬ後発品の妹たちのために私の調整に関するレポートを研究チームに贈ってくれるらしいのと、もし今後ロールアウトされるだろう彼女たちがこちらに配属されるようなことがあれば調整を請け負ってくれるそうなので、それでよしとする。

 

 

 それはそれとして、では私が今、何の仕事をさせられているか、ということだが。

 

 マルスハイム行政管区の領都マルスハイムにて、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジルレーテ)とかいう破落戸(ごろつき)どものまとめ役をやらされている。

 

 そこから冒頭のセリフにつながるわけだが………。

 

「確かに? 組織運営にあたってこの 〝魅了の魔眼〟 は有用だろうけれど!? それにしてもやることが多すぎるというか、問題を起こしすぎだろコイツら!!」

 

 魔眼の力で心酔させることによって、急に上に立つことになった私の立場を、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジルレーテ)の構成員に認めさせることは分かる。

 それはまさに魅了の魔眼の性能試験そのものだろうからだ。

 魔眼の効きを良くするために、やたらと露出過多でボディラインに沿った拘束衣めいた衣装(ボンデージ)を着せられるのも、まあ、我慢しよう。

 

 

 だが、実務をがっつりやらされるのは違うんじゃないか!!?

 文字書けるやつもまともにいないから、帳面つけるのも私の仕事になってるんだが!?

 性能試験と関係ないだろ!?

 

 しかも、配下の奴らはほぼアホだから、魅了してても「エルスティア様のために!」とか言って、余計なことばっかりしでかすし!!

 無能な働き者が一番害悪なんだよ!! やる気はあっても明後日の方向に暴発すると意味ねえんだ!! こっちの仕事を増やすんじゃない!!

 

 さらには上役の密偵ロタール氏からは無茶ぶりされるし………!

 なんだよ勢力均衡を保ちつつ、隧道公団(トンネルコーポ)からすら落ちこぼれたやつらを漏れなく引き受けて統制して、やりすぎない程度に辺境の混沌を保て、って………!?

 いやホントにどういうこと??? 秩序を保てじゃなくて、混沌を保て???

 

 

「なあ、そう思うだろ、二番(ツヴァイテ)!?」

 

「うるさい。……昼間は寝かせろ」

 

 私が声をかけたのは、吸血種の男。

 同僚だ。

 つまりこの新・漂流者協定団(ノイエ・エグジルレーテ)の幹部の一人。*4

 

 壊滅させられる前の漂流者協定団の幹部たる評議員だった男で、うまく立ち回って天幕街あらため地下鉄駅・荷捌き場の造成にあたって隧道公団(トンネルコーポ)でも重宝されていたらしいのだが。

 このたび私と同様に、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジルレーテ)の統制のために飛ばされてきたらしい。

 

 ライン三重帝国とは別の地にルーツを持つ吸血種で、文化的に血を分けることにも忌避感がないのを生かして、構成員を粗製吸血種化することを餌にして勢力を築いていた。

 まあ、そこを密偵ロタール氏につけこまれたのだが。

 

「なあツヴァイテ! もっと吸血種を増やしてくれよ! こいつらあまりにもバカすぎる!」

 

「そうポンポン増やせるものでもないんだ」

 

「だからダメな方から順にやってくれればいいんだよ! 底上げしないとこっちの身が持たない!」

 

「吸血種にしたところで賢くなるわけじゃないぞ。血族を増やすのもただじゃない。しかも功績なく、むしろヘマしたやつらから吸血種にするんじゃ、示しがつかんだろ」

 

「魔力たっぷりなロタール氏の血があるだろ? それを与えれば粗製連中もすぐにそこそこのレベルになるし、基礎スペックが上がれば多少は知能も上がる。それにロタール氏の血で、貴様の消耗も回復可能だ。示しがつかんも何も、組織の統制は私の魅了の魔眼で何とでもなる!」

 

「ロタール氏の血は強すぎるから多用したくない。あと、強化したところでだ。ただの馬鹿が、吸血種の膂力をもって悪知恵が働く超越的馬鹿になる可能性の方が高いと、経験則から忠告しておこう。しかも活動時間帯が夜になるから、君が寝ている間にやらかすようになるぞ」

 

「ぐ、ぐぅ……!」

 

 確かに、寝てる間に面倒ごとが増えているのは嫌すぎる……!!

 

 

< 1.銀髪眼帯ボンデージ女幹部、魅了眼のエルスティア嬢の苦難は続く ──── 了 >

 

*1
※ 1番ちゃん → Erstia (エルスティア) (erste = 1番目)

 2番ちゃん → Zweitia (ツヴァイティア) (zweite = 2番目)

 3番ちゃん → Drittia (ドリッティア) (dritte = 3番目)

 4番ちゃん → Viertia (フィーアティア) (vierte = 4番目)

 5番ちゃん → Fünftia (フュンフティア) (fünfte = 5番目)

 6番ちゃん → Sechstia (ゼックスティア) (sechste = 6番目)

*2
◆熾火計画の不適合個体:命を散らしたものは、マックス何某が下取りして、ホムンクルスの素体にしたりしている。 エルスティア「(なんか下働きに派遣されてきた人造人間連中、かすかに見覚えがあるような……?)」

*3
◆マックス何某(密偵ロタール)の魔眼:邪視の魔宮の主、異次元からの(ゲイザー・フロム・ビヨンド)窃視者(・アナザーディメンジョン)の『眼』の権能を極光の半妖精ターニャに移植し、そこからさらにターニャから妖精女王の加護として下賜されたもの。

*4
◆エルスティアとツヴァイテ:1番、2番と、ちょうどよく番号が並んでいるが、それぞれ由来が異なり、単なる偶然なので特に同僚としての関係以上のものはない。




 
というわけで、原作小説10巻で登場したお労しいファーリーン・ゼックスティア様……の姉? 先行試作型? にあたるオリキャラ、エルスティア嬢のご様子でした。

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◆ 〝あくのそしき〟 づくりが楽しくなってきたマックス何某
密偵ロタール(マックス何某)女幹部役(エルスティア)参謀役(ツヴァイテ)、戦闘員役は半屍人(ハーフデッド)と、場合によっては新・漂流者協定団(ノイエ・エグジルレーテ)破落戸(ごろつき)ども。怪人枠は魔導院の実験装備で強化した新英雄。博士役は私でいいとして……。ニチアサ的 〝あくのそしき〟 としては、あと脳筋パワー枠が欲しいな。………そういえば土豪領域の札付きには悪逆騎士ヨーナス・バルトリンデンとかいうパワー系がいたな………せや!!」
 なお、だいたい週に一回くらいのペースで、魔導院の試作装備で強化された新英雄(かいじん)とそれに率いられた半屍人(ハーフデッド)が、エーリヒ君をはじめとする冒険者たちと、マルスハイム市壁外縁で造成中の地下鉄駅・荷捌き場を舞台に戦闘しています。おおむね茶番のため、施設物資の被害は派手ですが、マルスハイム側の人的損耗は軽微。もし怪我しても、冒険者の治療はもちろん隧道公団持ち。



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◆ダイマ!!

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