フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・金の髪のエーリヒ率いる下級冒険者たち VS. 新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)の巨大怪人(第二形態)。なお、都市マルスハイム内ではエーリヒたちの活躍は劇作になって演じられたりしている模様。劇作や公演の出資(パトロン)は帝国隧道公団らしい?
・ヤバい薬を商っている不逞冒険者氏族、バルドゥル氏族に最新鋭の設備が! マックス何某「これからも魔導産業同業者組合とぜひ懇意にしてね! でも徐々に違法薬物からは手を引いてね! そのために高度設備を投資したんだからさ!」
・呪いに侵食されて徐々に正気を失う悪逆騎士ヨーナス・バルトリンデン。今では彼は、怪人ベルセルクとも呼ばれるようになったのだった。
 
 


35/n 悪逆騎士怪人-5(吸引力の変わらないただ一つの)

 

 

1.迷宮学専攻教授バンドゥード卿の弟子、極光の半妖精(アウロラアールヴ)のターニャ

 

 

 西方辺境、悪逆騎士ヨーナスの居館上空にて。

 魔導迷彩をかけて会話する魔導師がふたり。

 

「呪いを集めるほどに重さを増す大槌────【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】。

 この特性は非常に興味深いと思わないかい? ターニャ」

 

 ひとりは私ことマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯にして魔導副伯。

 もうひとりは、その私の戸籍上の妹にして頭蓋で孕んで産まれた娘たる極光の半妖精(アウロラアールヴ)、妖精郷の女王〈みえざるひかり〉のタチヤーナ(ターニャ)

 

 今日もターニャはオーロラの蝶翅を優美に伸ばして、儚くしかし可憐に浮いている。

 彼女には、異次元か(ゲイザー・フロム・ビヨンド)らの窃視者(・アナザー・ディメンジョン)の〈眼〉の権能が移植されている。

 その影響で彼女の蝶翅は、オーロラ色のジャノメ模様が絶えず流動し、妖精女王らしい威厳と美しさを漂わせているのだ。

 これを見た者は、きっとその幻想的な美しさに心奪われてしまうことだろう。

 

「なるほど確かに面白いと思いますわ、おかあさま。つまり今日は、わたくしにそれを見せるために西方辺境(マルスハイム管区)に呼び出したというわけですのね?」

 

「そういうこと。ちょっとターニャの見解も聞いてみたくてね」

 

 私とターニャは西方辺境の空に浮かんで会話する。

 怪人ベルセルクとも呼ばれるようになった悪逆騎士ヨーナス・バルトリンデンの居館の近く。

 誰にも見つからないように魔法で迷彩をかけて、私たちはその上空に浮いていた。

 

 眼下には、いやまして陰惨な空気を纏うようになった館があった。

 盾支持亜竜の血濡れの紋章旗がはためいているその館を、私とターニャは魔法で透視している。

 

 

 透視先に集中。

 

 禍々しい大鎚を持つ熊皮マントに総身鎧の巨漢が、イライラと配下に当たって怒鳴り散らしている。

 そいつは館内を冬眠し損ねた熊みたいにうろついては、捕虜── デ・ア・ダインの支配の魔眼の残滓を辿って乱捕りして奴隷にしたどこぞの荘民たちだ── を手慰みに叩き潰して地面のシミにしたりしていく。あーあ、命がもったいない……。

 

 そしてヨーナス・バルトリンデンに潰された犠牲者の魂が、霊視上でおぞましい黒い靄となって浮かび上がり、悲嘆と憎悪とともに大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】に吸収された。

 それによってその大槌に込められた呪詛が強化されたのもばっちり確認。

 

 

 上空からそれを透視して見ていた私とターニャは、互いに頷く。

 呪いが呪いを吸い取り、より強靭になっていく様は、興味深い。

 

「あの大槌は、呪詛を喰らい重さに変えていると言い換えてもいい。そしてその影響は、単なる鎚自体の重さの増加だけではなく……」

 

 不意に、私は展開している姿隠しの術式にかかる 〝重力〟 を感じた。

 まるであの大槌に引き寄せられるようなソレ。

 同じく、自らの常駐術式が大槌に引き込まれるような感覚を覚えたのだろうターニャが興味深げに言葉を引き継ぐ。

 

「なるほど魔法術式を含む、形而上の領域にまで影響しているのですわね。疑似重量の発生原因が 〝呪い〟 という非物質的な現象なので、ある意味当然ではありますが」

 

「その通り。呪いや術式、それに類似する 〝想念〟 を集める機構と化していると言っても良さそうだ」

 

 思わぬ副産物だった。

 

「ふむふむ……確かにですの」

 

「そして想念の集積は、やがては魔宮を産む。ターニャはバンドゥード卿の下で迷宮法則についても学んでいるだろう? 意見を聞かせてほしいんだ」

 

「そういうことでしたら喜んで、ですわ。おかあさま」

 

 迷宮における世界法則について専攻している〈探窟卿〉の二つ名を取るバンドゥード卿*1に師事するターニャは、迷宮の発生機序についても多少の知識がある。

 さらに、新米妖精女王として、小さいとはいえ一つの異界をまるごと差配する彼女は、きっと妖精女王の本能として異界、ひいては迷宮についても詳しいだろうと見込んだのだ。

 

「わたくしに分かることでしたらなんなりと」

 

「よろしく頼むよ。私がマルティンI世陛下から課されている任務については、話したことがあったかな」

 

「ええ、存じておりますわ。この西方辺境の、〝おおそうじ〟 を仰せつかった、と」

 

「そのとおり。それは面従腹背の土豪勢力や、外国の諜報員たちの一掃のみならず、霊的な地ならしも含まれる」

 

「面倒ですわねえ。いっそのことおかあさまも含めてみんなで私の妖精郷に引きこもれば解決しますのに」

 

「それはいつでもできるから、まあ、そのうちね」

 

 さて、長く紛争地域であったこのマルスハイムは、滅ぼされた者たちの想念の蓄積には事欠かない。

 敗者の恨み、蹂躙された弱者の憎しみ。

 それらが地に染み付き、埋蔵されているのだ。

 熟成されたそれらは、魔宮の核となる。

 

「実際そうして発生した魔宮や悪性の遺跡には事欠かない現状があるわけだが、今後の帝国の統治を見据えれば、それは邪魔で仕方がないわけだ」

 

「狙いが見えてきましたわね、それらをあの大槌の 〝重力〟 でひとところに集めるというおつもりなのですね?」

 

「まさに。まあ、全てを集められるとは思わないが、それでも上手く使えば随分と状況がマシになるとは思わないかい?」

 

「確かに、なるほど……」

 

 相槌を打って、ターニャは少し考えてくれているようだ。

 翅から燐光をこぼして黙考することしばし。

 

「………迷宮を攻略するというよりは、その迷宮の根源のリソースを外から直接吸い取ってしまう、ということですのね?」

 

「そうなるね。大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】を持った彼を西方辺境全体に移動させることで、広く薄く吸わせる」

 

 ヨーナスを引き回すのは、【魅了の魔眼】を持つエルスティアにやらせてもいいだろう。

 呪詛の鎧を経由して介入するよりは、ヨーナスの魂への負担も少ないだろうし。

 

「吸い残しが出るのではないですか?」

 

「ああ当然リソースを吸い尽くせないものがいくらかその地に残るだろうけれど、それはそれで構わないさ」

 

 魔宮が弱体化し、介入のための猶予が伸びるのは確実。

 暴発までの導火線が伸びるだけでも、こちらの取れる手は広がるのだ。

 

「その間に西方辺境を制圧し、各地に陽導神・夜陰神由来の神群の聖堂を建てて、その地を鎮撫すれば良い、というわけですわね」

 

「そういうこと」

 

 占領地を霊的に安定化させるノウハウは聖堂に蓄積されているから、占領後のことは彼らに任せればいい。

 その際に 〝もったいないおばけ〟 もサブで祀ってもらえれば私の役得としては十分だし、万が一、既存の聖堂組織の動きが鈍いようであれば、 〝もったいないおばけ〟 教の聖堂を建ててしまっても良い。

 

「………戦後のことはそれでよろしいとして。しかしそうなると、その想念を吸引して蓄積する核となる呪物の、ええと【侮辱の大槌(ベライディグゥング)】?、は、相当に厄介なことになるんじゃありませんの?」

 

 ターニャの懸念はもっともだ。

 複数の魔宮の核から、リソースを奪って蓄積するのだから、大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】自体が魔宮の核となるのは確実にして当然でもある。

 

 だが心配はいらない。

 

「大槌それ自身が魔宮核化しないように、私が魔導で介入しているからね。吸い取ったリソースは全て、霊的重量と、担い手の膂力に変換されるようになっている」

 

 そう言って私は、眼下の館の内部で熊のようにうろつく男を透視して見下ろした。

 なお、担い手たる者(ヨーナス・バルトリンデン)の精神的・肉体的負荷は考慮に入れないものとする。

 

「う、う~~ん……。それってつまり、複数の魔宮を構成しうるリソースを自己強化一点にベットした(ごくふりした)化け物を育てているということですわよね……??」

 

 大丈夫なんですの? という顔でターニャが見てくるが、問題はない。

 

「最終的には力でねじ伏せるから問題ない」

 

「あー。スティー*2が喜びそうですわね」

 

「まあ、黒海で使徒4体を同時に相手した時よりは楽なんじゃないかな」*3

 

「………それはそうですわね」

 

 それに、はちきれんばかりに呪いをため込んだ大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】を浄化して(あらって)再鍛造(リサイクル)してやれば、巨蟹鬼セバスティアンヌ(スティー)の得物にもちょうどいいと思うし。

 重力系の権能を持った魔武具は、スティーの生得魔導*4と相性がいいだろうから。

 

「まあ、悪逆騎士の討伐依頼は常に冒険者同業者組合(ギルド)にも掲示されているし、案外、この地の冒険者たちに先を越されるかもしれないけどね」

 

 辺境伯も討伐隊を編成しようとしているらしいが、その戦力を自分たちに向けられることを懸念した土豪たちの横やりで、準備は遅々として進んでいないらしい。

 

 行政府がもたついてる間にも、市井からの篤志により冒険者同業者組合(ギルド)に積み上げられているヨーナスの討伐報奨金は膨れ上がっていっている。

 そして西方辺境には、あの聖騎士フィデリオ氏らをはじめとして、優秀な冒険者も多い。

 もちろん私の腐れ縁たるあの金の髪のエーリヒくんだって居るわけだし。

 

 彼らが、悪逆騎士怪人ベルセルク(ヨーナス・バルトリンデン)を、私たちよりも先に討伐してしまうことは十分にあり得ることだった。

 むしろそちらの方が、この地における民族の物語、共同幻想としてはいいのかもしれないしな。

 

 

< 1.収穫のときは、そう遠くはない ──── 了 >

 

 

 

§

 

 

 

2.エルスティア嬢「おーにさんこちらッ、てーのなるほうへッ!!」(やけくそ)

 

 

 西方辺境の辺鄙な道。ものものしい一軍に追われて樹上を跳ねて身軽に逃げる、銀髪に眼帯の美しい女がいた。

 

「さあ、こっちだぞ、ヨーナス! この私が欲しければ、追いついてみせろ!!」

 

「がぁあああっ! おぉりぃてこぉおおおおいいいい、えぇぇるぅぅすてぃぃああぁああああああ!!!」

 

 追うのは、もはやほとんど熊皮に飲み込まれて、熊体人(カリスティアン)のような様相になった巨漢、ヨーナス・バルトリンデン。

 悪逆騎士として悪名高い彼だが、今ではその見た目と狂態から、怪人ベルセルクと呼ばれることも多いという。

 まがまがしい呪いを纏う大槌を片手で悠々と振り回しながら地を駆けるヨーナスは、しかし明らかに正気を失っている。

 ヨーナスの配下の者たちも、彼の呪いに魂まで引かれて囚われてしまったのか、まるで獣のように叫びを上げながら追従している。

 彼らが駆る馬たちもまた同様に、ヨーナスの呪いがもたらす狂奔に呑まれている。

 

 これではもはや、蛮族よりも蛮族らしい有り様だ。

 しかもおそらく、配下の連中や騎馬も含めて、狂奔が伝染したのみならず、膂力強化の作用までもが、ある程度波及しているようだった。

 

 

 で、そんな狂を発した熊のような悪逆騎士怪人がご執心で、そいつを筆頭にした集団に追いかけられているのが、この私こと、新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)の女首領であるエルスティアである。

 帝国魔導院の複製魔眼プロジェクトの試作個体の1号で、故に名前はエルスティア(いちばんちゃん)

 こうして辺境で性能試験中の哀れなモルモットである。

 

 それにしても、ぶうん、とはるか後ろで振るわれる大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】の風切音が心臓に悪い!

 

 さて、なぜこんな羽目になったかといえば─── もちろん、いつものボスの無茶振りのおかげだ。

 あのどぐされ外道上司(みっていロタール)が「地図上のココと、ココと、ココと、ココと………あとココとココに、悪逆騎士ヨーナスを誘導すること」などと指令を下したおかげで、私はあの悪逆騎士怪人ベルセルク(ヨーナス・バルトリンデン)に追いかけ回される羽目になっている。

 

「………遠くから【魅了の魔眼】の作用でおびき寄せるだけの簡単な仕事だったはずが!」 

 

 私は木々の梢を蹴って、まるでハヤブサのような速さで飛び出した。

 魔眼からあふれる膨大な魔力がもたらす超越的な筋力のなせるわざだ。

 一瞬で悪逆騎士怪人ベルセルク(ヨーナス・バルトリンデン)が率いる集団との距離が開く。が、引き離せない。

 

 ここは旧街道。

 

 何らかの原因で滅んだ村へ続く、いまでは廃れた道だ。

 疫病か、あるいは質の悪い盗賊団によって根切りにされたか。

 そんな、いわくつきの廃村へと向かうための道。

 

 私はその旧街道の脇に生える木々を身軽に蹴って、まるでリスのように、あるいはムササビのように樹冠を駆ける。

 

「まぁあああてぇえええええええええ!! えぇぇるぅぅすてぃぃああぁああああああ!!」

 

「くそっ、あいつら速すぎる! これじゃあ目的の廃村に着くまでに追いつかれる………!」

 

 樹上を跳びながら、宙がえり。

 銀髪が翻る。

 

 魔封じの眼帯をずらして、後ろに視線を通す。凝視。

 

「【魅了の魔眼】! しばらくそこで呆けていろ! 私が好きなら追ってくるなよ、〈いまはひとりにさせてくれ〉!!」

 

「ぬぅあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………

 

 魔力を込めた【魅了の魔眼】の発動により、追ってくる集団の思考を塗りつぶし、足止めとする。

 普通であれば四半日は効力が続くはずだ。

 

 私も修行したからね、うん。あの外道ボスの監修のもとで……。

 目標を徐々に増やして、視界にうつるそれら全てを同時に魔眼の対象にとらえる訓練は、脳みそが沸騰するかと思ったものだ……。

 

 だがその地獄の特訓のおかげで、集団丸ごと視界にとらえて足止めすることに成功した。

 

 これで時間が出来た。

 いまのうちに先行し、廃村の先に私が陣取って準備。

 あらためて射程ギリギリから魔眼を通して、その廃村まで誘導すればいい。

 

 そうすれば、廃村に着いた時点で、ボスがヨーナスの呪いの熊皮外套を介して仕込んでいる首輪の術式が発動して、廃村に溜まって(よど)んだ恨みつらみとか憎しみとかなんとか、そういう魔宮のもとになるようなのを吸い取る間、足止めされるはず。

 

 何にせよ、奴らが動きを止めているうちに。

 急いだ方がいいだろう。

 そして少しは落ち着く時間が欲しい。

 

 が、しかし。

 そんな私のささやかな願いはかなわない。

 

 

「吸ぅいとれえええ、ベライディグゥングぅぅぅ!!」

 

「ちょっとちょっとちょっと、本気か? うそだろう?!」

 

 【魅了の魔眼】の魔力が、悪逆騎士が持つ大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】に吸い取られていくのが私の魔眼に映る。

 術式構成が大槌に引き寄せられ、ひしゃげて、つぶれる。信じられない!

 

 あいつの大槌、術式殺しの武器にまで昇華されてるのか?!

 ちゃんと教えとけよ、あのクソ上司(ボス)

 

 ああ、悪逆騎士御一行がまた動き出した!

 

「まぁあああてぇえええええ!!」

 

「最悪だ! こんなていたらくじゃあ、また特訓させられる!?」

 

 魅了の魔力が吸い取られて解けたせいで、ほんの少ししか足止めできなかった!

 

 再び馬蹄の音を響かせて追いすがるヨーナスの一団。

 旧街道脇の木立から、その地響きに驚いた鳥たちが飛び立っていく。

 

「追いつかれるか……!? ………でも見えた! あそこまで行ければ!」

 

 木々の切れ目から、開けた場所が見える。

 おそらくはそこが、目的地であるいわくつきの廃村だろう。

 

 そこまで行ければ、ボスの仕込んだ術式が発動して、やつらを完全にあの場にとどめることができる。

 

 できるはず……。

 

 でもさっき【魅了の魔眼】の魔力を吸い取ってたぞ、あの大槌。

 ボスの術式が同じ目に合わない保証はあるか?

 

「んんんんん、ダメかもしれん! あのひと、割と抜けてるし!」

 

 私は梢から梢へ飛び跳ねながら、目ざとくそこらから蜘蛛の糸や枯れ葉のついた蔓を見つけて、むしり取る。

 魔術の触媒にするためだ。

 

「〈転変〉、〈現出〉……縄束よ、ここにあれ」

 

 魔眼から漏れる魔力を制御。

 まだまだ不格好な術式だけれど、注ぎ込んだ魔力が多いので、十分に丈夫な縄が手の中に顕現。

 

 そして、迫る馬蹄の音に驚いてどんどんと飛び立っている鳥たちへと、魔眼の焦点を合わせる。

 

「【魅了の魔眼】! 鳥たちよ、〈わたしをそらまでつれていけ〉!!」

 

「「「 ピョッ!!? 」」」 

 

 種族が違っても、魔眼は効果を発揮する。というか、発揮できるまで特訓した。させられた。

 制御に失敗して、単に発情しただけの犬やら猫やらに追いかけられまくる経験は無駄じゃなかった!

 

 無事に鳥たちを何十羽も制御下に置くと、手に現出させておいた丈夫な縄を宙へ投げ、それをその鳥たちに掴ませる。

 

「はっはー! さらばだ、ヨーナス! しばらくそこの廃村で大人くしていろ!」

 

 さすがに空を飛べば追いつけまい!! わはははは!

 

 少し振り返って後ろを見れば、怪人ベルセルクら一行が、廃村になだれ込み、そして、その場でビタリと動きを止めたところだった。

 きっと、外道ボス(密偵ロタール)の仕込みが発動して、ヨーナスたちを呪縛したのであろう。

 エルスティア、とおどろおどろしく呼ぶ声が聞こえるが、無視だ、無視。

 

「ボスの仕込みが発動したか。これで暫くは時間ができたはず……」

 

 でも、まだノルマは残っている。

 ボスからの指令によると、他にもあと5か所以上は、こうやって誘導して、その地の呪詛をヨーナスが持つ大槌に吸い取らせなくてはならないのだ。

 

 行く道に【魅了の魔眼】の残滓を撒いて残して誘導するくらいならその場に居なくても良いが、最後にピンポイントに誘導するための微調整には、実際にある程度近づいて視線を通して誘導してやる必要がある……。

 しかも、後半にいくほどに、呪詛を集積したヨーナスの力は増すというわけだから、それも計算に入れる必要がある。

 

「ああそうだとも、やるしかないなら、やってやろうじゃないかー!」

 

 私はやけくそ気味にそう叫んだ。

 

 

 

< 2.生き残るためにはノルマ達成が必要だ。己の価値を証明しなければ、明日はない。 ──── 了 >

 

 

*1
◆バンドゥード卿:迷宮法則専攻の落日派教授。ぶっちゃけボンドルドがモチーフな、当SSのオリキャラ。ただ、原作小説11巻(上)でも〈明星卿〉バンガルテル教授が登場しているところ。それを受けて、当SSのバンドゥード卿については、例えば、近年の功績により二つ名を〈明星卿〉に変更予定な、フルネーム:バンドゥード・フォン・バンガルテル卿として暫定的に統合定義しようかと思っています。……さすがにボ卿モチーフキャラが二人も居るのは落日派が魔境すぎるかなって……(今さら一人も二人も変わらない説はあるが)。

*2
◆スティー:巨蟹鬼セバスティアンヌの愛称。荒波の女巨人の名を戴くラーン部族の開祖にして、〝津波の〟という将官級の尊称を巨鬼の部族会議から贈られている戦士。下半身が巨蟹、上半身が巨鬼の、新造種族。単為生殖可能で、卵から孵った多くの娘たちにより、一族の規模は既に軍団規模に達している。マックス何某の魔力供給があれば、脱皮を繰り返して、遠い将来には山脈級の巨体にまで成長可能だという。

*3
◆黒き海の大決戦:当SSの23/n-5 https://syosetu.org/novel/270654/86.html あたりの話。空からは天の牡牛に天の猪、海からは虹の大蛇に黒い海の大海月(おおくらげ)。東の沙漠へ向かう途上で現地神群の使徒4体を相手に大立ち回りした大決戦。

*4
◆巨蟹鬼の生得魔導:脚が自重で埋まらないようにするために、足場にできる簡単な障壁発生や、重力操作を先天的に会得している。その他にも強力な再生能力や自己強化、子機との精神リンク作成や、鰓に供給する水分生成なども。




 
◆忌み杉の魔宮(原作小説8巻)について
魔法が使えなくなるギミックが搭載されている、原作小説8巻の「忌み杉の魔宮」ですが、残念ながら当SSでヨーナスに吸い取らせる候補には入っておりません。これは立地の都合上、ヨーナスを誘導可能なルートから外れているせいもありますが、迷宮自体が魔導探知を妨害する粒子を出しているせいでもあります。というわけでたぶんエーリヒ君が二か月くらいその忌み杉の魔宮に閉じ込められる運命にあるのは変わらなさそうです。
 
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