フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
原作者様のTwitterにて質疑応答されてる #ヘンダーソン氏の福音をGMへの耳打ち タグのツイート群がとってもありがたいんじゃ~。(しかしTwitterアカウント持ってない勢)
マックス君の家名は、割と適当に持ってきました(すまない、特に深く考えてないんだ……)。
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◆前話
帝都到着!
魔導院は帝城の出城の内の一つ、南の真っ黒い塔に押し込められており(実際はそれよりも地下区画の方が広大なのだが)、その塔は “
また魔導師は魔導という分野の
そこには技術面での助言を求めたい役人や貴族から出されるさまざまな依頼を受領し割り振るための受付も設けられている。
私たちは歴史と見栄を詰め込んだ壮麗なる建造物に立ち入り、アグリッピナ氏に率いられ、総合受付がある正面玄関へと向かった。
なんでも今から、アグリッピナ氏の師匠に帰参の挨拶をするのだとか。
それでまあ、総合受付で「アポイントメントはおありですか?」とか誰何されて取次をしてもらうのだろう。
……聞いた話だとアグリッピナ氏は20年も前にほとんど追放に近い扱いでフィールドワークに放り出されたそうだが、それだけ確執がある相手ににこやかに挨拶を交わして「ただいま」 「おかえり」で済むわけないのでは。
修羅場に巻き込まれるのは御免だぞ? 超高位魔導師同士の修羅場とか、想像したくもないわ。
アグリッピナ氏が追放令に大人しく従ってる時点で、その師匠は彼女に
というか私とターニャ、この場に要る?
しかもヘルガ嬢を<空間遷移>で直ぐに呼び寄せられるように準備しとけとかいう指示も意図が読めん。
アグリッピナ氏は払暁派で、その師匠で学閥の長となれば、私の中の魔導師の魂の断片的な記憶が正しければ、それって
ターニャはともかく私の所属派閥としては落日派を希望する予定だし、紹介状の一枚でも貰えればそれで済むから離脱できません?
ターニャも保護者である私が所属する閥の預かりになるだろうし、今は眠っているヘルガ嬢も、精神や肉体の治療のためには落日派の施術を受けられる環境の方が良いはずだし。
だから帰っていいすか?
あ、ダメっすか。そっすか。
そりゃあ魔導院の五大学閥のうちの一つのトップに会えるんだから、縁を結んでおくに越したことはないですけどね。
でもそれだけで済むなら、
えーと、私の中の魔導師の魂よ、他に何か覚えてることはないか?
………ふむふむ。
マグダレーネ・フォン・ライゼニッツ。享年19歳の美女の死霊、自身を謀殺してきた相手の生家を焼いたところで正気を取り戻して復学、一代学閥なのに五大閥に上り詰めた凄腕、天才魔導師、永久処女……。いや最後の情報は別にいらん。あとは……。
“ライゼニッツ卿は割と
そっかあ……。
――― 思わず天を仰いだ。
うーんこの
やっぱ帰っていいっすか?
案の定、このハイレベル魔導師師弟、めっちゃ仲悪いんじゃないですかヤダー!
受付ロビーで出合い頭に概念級魔導術式による領域の塗りつぶし合いとか止めてくれー!
とっさに障壁広げて全員守ったけど、積層障壁が何枚か抜かれて割とヤバかったからね?
これで鞘当て程度の様子見だというのだから、極まった魔導師って凄いね(思考停止)。
そしてこの程度の魔導の鞘当ては日常茶飯事と言わんばかりの受付さんの落ち着きっぷりよ。
あれは彼女ら受付さんたちもきっと只者じゃないね、ただの顔採用ではなさそうだ。
まあね、学閥同士の仲の悪さはこの比じゃないらしいからね。
軽くライン三重帝国魔導院の学閥について触れると、500年前の帝国開闢の、各領邦から集った魔導の達人たちの学派哲学にまで遡る。
帝国は魔導と言う強力無比な力を国家利用するために、初期の構成国から選りすぐりの魔法研究者を集め、この魔導院に押し込めた。
一代貴族位を伴う教授位を与えることで帝国貴族の秩序に組み込み、内部では教授会による運営と教授・研究員・聴講生の序列を用いて統制しつつ、持続可能なシステムを構築していった帝国政府は強かであったと言えよう。
そして魔導院成立当時の魔法界隈というのはそれぞれがタコ壺の中の主として我こそは世界の真理に最も近い者であるとの矜持を隠しもしない、貴族よりも高いプライドを持ったミサイル弾頭どもが闊歩していた修羅の
そして極まった魔法使いが、その達人級の腕前を慕って集まった弟子たちを抱えた派閥を形成していくのも自然の成り行きであった。
魔導院は当然ながら、その派閥ごと魔法使い(魔導院が発足して制度的に安定するまで、魔導師の号は存在しなかった)を吸収し―― 多くの魔法使いを抱えるとともに、内部に学閥間の争いという火種を常に抱えることになった。
そして魔法というものが必ずしも唯一の原理公理を定めさせてくれるようなある意味易しいものではなく、各々の哲学に基づく複数のアプローチを許容する深淵にして広大無辺なるものであったことから、どの派閥の思想が唯一絶対に正しいとは決まることなく現在まで学閥間の対立が続いているのだ。
……学閥紛争という
いやあ剣呑剣呑。
こんな核弾頭同士が殴り合うようなやつらの巣を、
なんでそんな危険物を傍に置いてるかというと、まあ、見えないところで蠱毒って大爆発するより、常に監視して制御下に置いた方がなんぼかマシだからだろうね。
丸ごと吹っ飛ぶとそれはそれで困るだろうし。もはや魔法抜きの統治など考えられない!
魔導はそれだけ統治に欠かせない重要な問題解決ツールであるからして、お役人の仕事場から離れてるとそれはそれで不便だということもあり、魔導院は帝都の中枢── 具体的には帝城の南に少し離れた出城── に収められているのだった。
現在いま時点においては学閥紛争はいわば冷戦状態に移行しており、直接的な実力行使ではなく研究と政治によりパワーゲームを繰り広げている。
往時に比べたらお上品になったものだが、当時から生きながらえている非定命の教授も居るので、いつまた先祖返りしてドンパチ始めるか分かったものではない。
はい、現実逃避・魔導院の起こり編はここまで。
場所を受付ロビーから貴賓室に移し、ハイレベル
出来るだけ怠惰に居座りたいアグリッピナ氏 VS 直ぐにまた追い出したいライゼニッツ卿
の舌戦というか条件闘争に突入。
だがまあ、師匠好みのロリショタをずらっと並べたアグリッピナ氏の優勢は、勝負が始まる前から決まっていたようなものだった。
「ずっ、ずるいです! 半妖精の弟子だなんて! しかもこんなにカワイイ! 私だってそんな子を弟子に取ったことないのに!」
憤慨してエリザちゃんを小脇に抱えるライゼニッツ卿。
「この子を弟子にするのは聞いてましたけど、こっちのかわいい子たちは聞いてないです!」
エリザちゃんと逆側にエーリヒ君を抱えるライゼニッツ卿。
豊満なバストが2人を抱きしめたことでふよんと歪む。
ああエーリヒ君よ、死霊の小脇に抱えられた君たち兄妹を助けられないこの身を許してくれ(被害担当感謝するよ)。
「この子たち、ください!」
それより落日派への紹介状ください……。
その後、流れるようにエーリヒ君の余暇時間がライゼニッツ卿に売られたのを目撃してしまった……。
そしてアグリッピナ氏はそれと引き換えに大幅な譲歩を引き出して、数年の課題免除と無条件の滞在をもぎ取っていた。
エーリヒ君の意見? 考慮されるわけないんだなぁ……。
「ごほん。そしてあなた方は……? 聴講生志望ですか?」
早くエーリヒ君を連れて仕立屋さんに行きたいとそわそわし始めたライゼニッツ卿に、改めて私は自己紹介をする。
「お初にお目にかかります、ライゼニッツ卿。魔導院の受験を希望する、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンと申します。こちらは妹のターニャ」
「はいご紹介に与りました、同じく受験希望のターニャと申します」
「ターニャは半妖精であり、貴族籍は一時抹消されています。また、ここにはおりませんが、同じく半妖精の妹としてヘルガという者もおります」
はい、というわけで。
アグリッピナ氏の手配により、私はミュンヒハウゼン男爵家の末席である
ターニャもヘルガも同様だ。ただし、彼女らは直接の血脈ではなく、ミュンヒハウゼン家の養子だったということになっている。一応別の貴族家に籍があったものを、ミュンヒハウゼン男爵家が引き取った体裁だ。
家系ロンダリング万歳!
どうにも先代ミュンヒハウゼン男爵はあることないこと面白おかしく話すことが好きな人だったらしく、その中に、「めっちゃ魔力がすごい魔法使いの孫がいる!」とか、「半妖精の孫がいるし妖精郷に行って帰ってきた!」とかいうネタがあったそうな。
ヘルガ嬢が元々所属していた貴族家から貸し借りをわらしべ長者みたいに辿っていって、ミュンヒハウゼン男爵に行きついたのだとか。
それで「先代のあのネタは本当だった!」みたいな感じで、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンが誕生したというわけ。
「そのフラウ・ヘルガがここに居らっしゃらないのは……」
「はい。実はヘルガは養子なのですが、悪い魔法使いによる実験の過程でひどい拷問を……」
「まあ! なんてことを……!」
「なんとか命は失わずに済みましたし、癒者の治療も間に合ったのですが、心の傷を治すためか昏々と眠り続けているのです」
合ってるような合ってないような話をしつつ、空間の “ほつれ” によってヘルガ嬢を寝かせている馬車内の空間と繋ぐ。
今は悪夢吸収術式のおかげで安らかに眠るヘルガ嬢の顔を見せてやる。
ライゼニッツ卿はそれを見て居たたまれないような、悼むような顔をした。
「この子が……」
「はい。そして精神の癒しについては落日派に一日の長があると聞きます。私としては、落日派に繋ぎをとっていただければと……」
「ダメです」
「……なんと」
「フラウ・ヘルガを落日派に預けることはまかりなりません」
「……それほどまで度し難いのですか、落日派は。ライゼニッツ卿」
「あなたとフラウ・ターニャの紹介であるなら、良いでしょう。自ら魔導の深淵に踏み込む覚悟があり、万一にも検体にされたりしない強さもあるのでしょう。望むのであれば紹介状くらい幾らでも書いてあげます」
真剣な顔をしたライゼニッツ卿が告げる、ヘルガ嬢を落日派に入れてはいけない理由は、なるほど納得のいくものです。
「……ですが、フラウ・ヘルガは違います。彼女は覚悟していくわけではない。覚悟無き者に落日派の深淵は毒にしかならず、そのような状態では直ぐに半妖精の検体として取り上げられてしまうでしょう」
「それは、確かに……」
「であれば、ここは私に任せていただきたいのです」
ライゼニッツ卿がその死霊の半透明の身体をずいと前に乗り出した。
「きっと必ず、最良の治療をフラウ・ヘルガに施します。……信じていただけませんか?」
まー、五大閥の長からの申し出を断ることなど出来るはずもなく。
実際のところ、ライゼニッツ卿に預ける方が適切ではあろうと判断した。
私やターニャで今後もずっと世話をできるかというと、それも怪しいので、渡りに船であった。
それに、ヘルガ嬢とエーリヒ君は、出来るだけ離さない方が良いだろうからね。
もしヘルガ嬢が目覚めたあとに、術式もなしに悪夢や恐怖に魘されない場所があるとしたら、それはきっと通りすがりにもかかわらず我が身を顧みずに助けてくれたエーリヒ君の腕の中くらいだろうし。
……その時のエリザちゃんの反応が怖くはあるが、エーリヒ君に纏わる少女たちのぶつかり合いとかそんなん管轄外なので知らんー。
エリザちゃんもヘルガ嬢も二人ともいい子だから何とかなるって!
そしてヘルガ嬢についてはこのような時に備えて処置の引き継ぎ書を作っておいたので、詳しくは後日打ち合わせとしつつも取り急ぎ管轄をライゼニッツ卿に引き渡した。
そのとき私もターニャもライゼニッツ卿のなんとかという趣味の会(=生命礼賛主義者の集い)に招待されたので、まあ、行かないわけにいくまい。
それもまた必要経費だと考えよう。
しかし合理的に考えて、ライゼニッツ卿にヘルガを預けるのは大正解のはずなのに、罪悪感があるなぁ!
人身御供、と言う気はないが、気分的にはそれに近い気がする。
あ、ちなみに私の紹介状だけど、なんとライゼニッツ卿直々に、五大閥である落日派ベヒトルスハイム閥教授ベヒトルスハイム卿に紹介状を書いていただけた。
これを持って行けば、流石に門前払いということはあり得ないはずだ。
では次は目的であるベヒトルスハイム閥への入門の打診だな。早速向かうとしよう。
……
せめて幸運を祈っとくよ。グッドラック!
マックス君の立ち位置ですが、エーリヒ君にとって “腐れ縁の畜生/悪友” って感じにできればいいなあと思っています。主に厄介ごとに巻き込んでも良心の呵責が起きない的な意味で。だってまあ殺しても死なないから遠慮なく危険な案件に引っ張れるし、持ってる技能も治癒・バフ・転移・攻撃と便利だし、外道行為への理解も高いし……(今後お互いに転生者バレしたら前世のノリで話をできる(並行世界の同位体を除けば)ポジションにもなりますし)。あとエーリヒ君の佳き友人ポジションはやっぱり中性人のミカくんちゃんなので、そこに成り代わらせたいわけではないというのは帝都編に入るにあたり明記しておこうと思いました。
※農政チートのエミュレータのレポートで「帝国には海がない」旨の記載があったのを修正。正確には大きな外洋港がない。北はバイキングに荒らされる峻険な海岸線でしかも冬は海氷で封鎖されるため。
※エミュレータ中の竜襲撃イベについて『竜(亜竜?)』に記載修正。竜の戦力評価を上方修正したため。
◆マックス・フォン・ミュンヒハウゼン
ミュンヒハウゼン男爵家の籍を手配してもらったマックス君。無位無官の住所不定無職から一気にランクアップだ! 『ミュンヒハウゼン』の名はドイツのほら吹き男爵の話から。