フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・悪逆騎士討伐隊として組織された冒険者たちは、有利な丘の上を押さえ、標的たる悪逆騎士の軍を捕捉した!
・金の髪のエーリヒによる、開幕の首刈り! 達人の神業は距離をも超える! 致命の一撃(ヴォーパルストライク)! 悪逆騎士は首を刎ねられた!
・第二形態! 悪逆騎士ヨーナス・バルトリンデンは、彼を抑える呪いを乗っ取って首無し騎士(デュラハン)として新生した!
・瘴気の暴走! 首無し騎士(ヨーナス・バルトリンデン)侮蔑の呪鎚(ベライディグゥング)を中心に、重力の権能が凝結し、魔宮となって顕現する! 魔宮降臨(ダンジョン・マテリアライズ)

 


36/n 超重呪詛怪人-1(魔宮顕現『黄昏の戦野(ツヴァイライ・フェルト)』)

 

 午前の冬の丘が一気に、夕暮れになったようだった。

 いや、正確には、あたりの白光の波長が、まるごと赤へとズレた、というべきだろう。

 

 赤方偏移。

 あまりに強力な重力が、光の波長を引き延ばしているのだ。

 

「まずい……!」

 

 丘の下で、首無しとなった悪逆騎士ヨーナスを中心として発生した異変。

 危機感を覚えた〝金の髪〟 のエーリヒが刃を振るう。

 

 このままでは、赤方偏移を起こすほどの超重力に、地上の物体は耐えられない!

 

「術式を、斬る! ハァッ!」

 

 距離を超えた斬撃の転移。

 そして、術式の切断。

 

 それは剣術の極致。

 

 神の理にも近しい、〝私が斬ったから、お前は斬られた〟 という因果の押し付け。

 そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。

 果たしてエーリヒの斬撃は、その通りの結果をもたらした。

 

 周囲の世界が赤から戻る。

 変異したヨーナスと呪鎚がもたらした術が切断され、無力化されたのだ。

 

『……あん? ゴミが、俺様の邪魔をするんじゃねえ!!』

 

 違和感を覚えた首無騎士(デュラハン)が、再度、呪鎚ベライディグゥングを振りかざし、丘の上の冒険者たちへと重力の術式を飛ばす。

 

「させん!」

 

 しかしそこからは繰り返しだ。

 首無騎士(デュラハン)ヨーナスが呪鎚を振りかぶるたびに、重力術式が展開され、エーリヒが名剣〝送り狼〟を振りかざしてその術式を斬り捨てる。*1

 

 重力術式展開。

 呪詛術式斬断。

 重力術式展開。

 呪詛術式斬断。

 重力術式。

 術式斬断。

 重力術式。

 術式斬断。

 重力術式。

 術式斬断。

 重力。

 斬断。

 重力。

 斬断。

 重。

 斬。

 重。

 斬。

 重重。

 斬斬。

 重重重。

 斬斬斬。

 重重重重。

 斬斬斬斬────!

 

『ええい、小癪な……! おとなしく潰されて跪けば許してやったものを……!』

 

「なんだ、やはり大したことがないな。まあ、野盗の頭程度ならこんなものか」

 

『貴ぃ様ぁ……──!』

 

 そしてその間、丘の上に布陣する冒険者たちも手をこまぬいているわけではない。

 

「魔法使いらは、抗魔・解呪を急げ!」

「バルドゥル氏族と隧道公団(コーポ)から来てたはずだ!」

「抗魔導用意(よーい)!!」

 

「突撃隊は、〝舌抜き〟マンフレートの旦那に続け!」

馬肢人(ツェンタオア)に追いつけるわけねえだろ!!」

「追いつくんだよ! 気張れや! 駆け下りろ!」

 

 魔法を使える者たちがエーリヒが稼いだ時間を使って対抗魔導を構築していく。

 さすがに何度も術を見れば、その対策も可能となるというものだ。

 

 前衛部隊のうち、特に足の速い者たちは、馬肢人の凄腕であるマンフレート氏を先頭に突撃を仕掛けている。

 丘の下では、狂気が伝播したヨーナスの徒党が、方陣を組んで待ち構えようとしていた。

 

 

『埒が明かない、か。であれば、お次は〝()()〟だ!』

 

 首のないヨーナスが、大槌を掲げると、それは光を吸い込むかのように黒く沈んだ色を示した。

 

『捧げろ、部下ども! この俺様がっ、存在ごと、受け取ってやろう!』

 

 重力の権能を発露させる。

 ヨーナスはかつて従えた部下たちを、引き付け、ひしゃげさせ、局所的な高重力でスパゲッティみたいに引き延ばしつつ、鎚の中へと吸い込ませた。

 

「「「 ──── ぁぁぁあああぁぁ──── !! 」」」

 

『ふはははははっ!』

 

 せっかくの方陣が消滅し、数的有利も消し飛ぶが、ヨーナスは気にも留めない。

 彼は狂っているのだ。

 

 そして侮蔑の呪鎚【ベライディグゥング】の権能は、瘴気と呪詛の集積。

 既に瘴気に冒されていたせいもあり、配下の吸収はスムーズだった。

 そうして呪われた魂を集積し、さらに己の力を高める。部下どもも本望だろうと狂った彼はほくそ笑んだ。

 

 今のヨーナスは、殺せば殺すほど、死の際に生まれる呪詛を吸収して強くなる。

 死の象徴、死の先触れ、不吉な首無し(ヘッドレス)。コシュタ・バワー。

 

 ──── デュラハン。

 そういうものになっている。

 

『少しは足しになったか。そして────』

 

肉壁(ほうじん)を捨てるとは、貴様は阿呆か? おかげでこちらは助かるが、な」

 

『槍使いの馬肢人(ツェンタオア)。〝舌抜き〟か!』

 

「貴様には貫く舌もないようだがな首無し。どこから声を出しておるのやら」

 

 丘を駆け下って突撃したのは辺境の最強議論に必ず名を挙げられる槍の達人、マンフレート。

 彼の馬肢人の巨体を生かしての突撃。

 それを呪鎚で受けたヨーナスは、重い衝撃音とともに、斜め後ろの空へ落ちるようにふぅわりと飛んで距離を取った。

 

 マンフレートがさらに槍で連続突きをして追撃するが、それらは届かなかった。

 遠当てくらいは彼にもできる。だが、この時はそれが上手く出なかった。

 〝妙に身体が重い……いや、重心がぶれる……?〟 単に距離が遠いだけではない違和感が、常の槍捌きを僅かに鈍らせていたのだ。

 

「ちっ、面妖な」

 

『……ふむ、段々とこの身体(ベライディグゥング)にも馴染んできたぞ。乗騎を出すには………こう、か!』

 

 ヨーナスがぐるりと腕を回して鎚を振るう。

 

 すると、空中の何もない場所に、黒い霧のようなものが集まって、それが首無し馬の形をとった。

 首無しのヨーナスがまた重力を操り、ふわりとまるで後ろから糸に引かれたかのように飛び上がり、その馬の鞍に乗る。

 彼は呪詛として吸収した悪性情報の中から、望むものを選んで瘴気によって具現化する術を覚えたのだ。

 

突撃(チャージ)! 潰れろ〝舌抜き〟!』

 

「貴様こそな!」

 

 首無し騎馬と、馬肢人が、騎馬突撃で得物を打ち合い、跳ね退け、交錯して離れる。

 その間も首無騎士(デュラハン)ヨーナスは、呪鎚(おのれ)の権能で周囲に超重力を飛ばして牽制している。

 もちろん〝金の髪〟のエーリヒをはじめとして抗魔導の手管があるものは、それを妨害し続けているが。

 

 だが、脳に依らない思考を獲得したヨーナスは、思考の限界も取っ払われているのか、それら全てに対応し続けている。

 しかも新生した首無騎士(デュラハン)としての在り方に慣れてきたのか、段々と対応に余裕が生まれてきてすらいる。

 

()()はこれで十分か』

 

「アァ? 他所事(よそごと)考えながらとは余裕だな、首無し」

 

『ふっ、頭が高いぞ、愚民』

 

 

 ヨーナスが指揮棒のように呪いの鎚を振るう。

 丘の上に布陣する敵にも、重力の権能を発露させる。

 

「何度やっても同じこと」

 

『そう思うのか? なら受けてみろ』

 

「むっ?!」

 

 だがそれは、これまでのような、何万倍もの超重力の単発発動ではなかった。

 せいぜい数倍から十数倍の倍率の重力の、しかし、多重連続的な発動によるもの。

 だが威力ではなく、冒険者たちの抗魔導の対応能力を飽和させることを優先したそれは、完全な妨害はかなわなかった。

 

「「「 ぐっ、っぅ………!! 」」」

 

 一瞬で何倍にも強められた重力が、冒険者たちを押しつぶし、這いつくばらせる。

 

『いい眺めだ。愚民どもはそうやって首を垂れるのがお似合いだ』

 

 そして、抵抗を征圧したヨーナスは、さらに、有り余る瘴気のリソースの制御を緩めた。

 

『瘴気開放ォ』

 

 そうなれば、あふれた瘴気は自然の法則に従い────

 

『魔宮顕現!』

 

 ──── 基底現実の法則を浸食するのが道理であった。

 

 そして現れたのは、魔宮だ。

 野戦陣地を基礎に取り込んで、超重力の結界によって閉鎖されたそれ。

 赤方偏移によってまるで夕暮れのように染まる、黄昏の戦野(ツヴァイライ・フェルト)

 

『オレのこの陣地(ダンジョン)で、もてなしてやろう、冒険者ども!』

 

 重力の帳とともに、丘に布陣していた冒険者たちが魔宮に取り込まれ、分断される────!

 

 

 

§

 

 

 

 次元を越えた窓を開けて、それを見ている者たちが居た。

 まあ、魔導師たちだ。

 帝都魔導院は、落日派ベヒトルスハイム閥に所属する魔導師たち。

 

 そうだね、魔導院研究員であり、官職としては魔導副伯(マギア=フィーツェグラーフ)隧道方伯(トンネル=ラントグラーフ)を拝命しているこの私、マックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンの先達たちだね。

 

「これはある意味で人工的な魔宮の顕現と言えるでしょう」

「再現性がありそうですか?」

 師事しているノヴァ教授に、迷宮学専攻のバンドゥード卿。

 

「瘴気蓄積タイプの呪物を制御できればあるいは、と、おかあさまが」

 戸籍上の妹にして、我が脳髄が孕んで生まれた娘でもある極光の妖精女王(アウロラアールヴ)<みえざるひかり>のターニャ。

 

 他にもベヒトルスハイム閥に所属する魔導師たちが、ずらりと空間遷移を利用した観察窓を通じて、重力の魔宮が生まれる瞬間に目を輝かせて見入っている。

 

「なるほど。記録は取っていますか? 魔宮が生まれるその瞬間を記録できるなど、非常に稀有なことですよ」

「ええ、もちろん回しています、バンドゥード卿」

「そうですか、大変良いサンプルになりそうですね。実に興味深い」

 

 そうでしょうそうでしょう。

 あ、でも帝国西方で蠕動していることはどうかご内密に。

 無血帝マルティンⅠ世陛下(マルティンせんせい)に公私混同と怒られてしまいます。

 

「ええ」

「心得ていますよ」

 

 まあ、一応魔導誓約も結んでいますから情報漏洩は大丈夫だと思いますが。

 

「むしろ陛下は自分でも見たかったとおっしゃるかもしれませんよ」

 

 確かにあり得ますね。

 マルティン先生も優れた魔導師(マギア)でらっしゃいますし。

 

「むしろ、おかあさまは魔宮の攻略に参加しなくて良かったんですの? ヨーナス何某(あの叛徒は)、こちらの制御を振り切ったようですが」

 

 ターニャの問いに、私は笑みで答える。

 想定の範囲内だ、と。

 

「優れた冒険者に依頼しているから平気さ」

 

 それにいざとなれば巨蟹鬼セバスティアンヌ女史を突入させれば片が付く。

 

 まあ、まずは、エーリヒ君を中心とする冒険者たちのお手並み拝見といこう。

 

 内乱後の穏便な統治のためには、この地に根差した新たな物語が、そう、ナラティブが必要だからね。

 今回の悪逆騎士討伐は、それにうってつけというわけ。

 

「これも謀略の一環ということですのね」

 

 その通り。

 西方辺境の盤面整理。

 今後百年を見据えた大掃除と、地盤固めだ。

 

 まあ、人工魔宮作成に繋がるデータ取りだとかは、役得の一環だ。

 そうでもしないとやってられない。

 

 ああそして。

 あの呪いの鎚は是非とも手に入れたいね。

 

 それこそ巨蟹鬼スティーへの贈り物にしたい。

 重力を操る長柄武器、しかも成長するとなれば、彼女にぴったりだ。

 多少の調整は必要だろうけれどね。

 

 エーリヒ君が上手く回収して来てくれるといいんだけど。

 言い値で払うぞ!

 

 ─── などと思いつつ、私たちは観察を続行することにしたのだった。

 

*1
◆術式破壊の飛ぶ斬撃:スタミナ消費(中)の通常攻撃。賦活機能付きの革鎧(マックス何某による改造済み)を装備しているため、当SSのエーリヒ君はこれをナンボでも撃てる。




 
長らくお待たせしました。次回は分断された冒険者たちによる魔宮攻略()です。
さておき、前回から間が空いているうちに原作小説最新11巻下が発売されております!
WEB版よりもいろいろと描写が厚くなったり新キャラ出たりとサービス満載でこれはもう買うっきゃないですね!


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そんでもって原作者Schuld先生らのTRPG「WORLD END SCRAPYARD」も発売中(Booth→https://booth.pm/ja/items/8696648)だし、夏コミ参戦(8/15(土)【東2タ19ab】)とのことですのよ! → https://x.com/hastur_1/status/2085496361949253983 要チェック!
 
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