フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
原作(WEB版)更新されてるぜ、いやっふぅー!!
最新話ではかっこいい
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◆前話
麗しい全ての少年少女の守護者にして精神魔法の権威であるわた、マグダレーネ・フォン・ライゼニッツ卿ほど、心が傷ついて壊れかけていた
生命礼賛主義者の集いに連れていかれたエーリヒ君を見送って
私とターニャは総合受付に戻り、落日派の最大派閥であるベヒトルスハイム閥へと繋ぎをとって貰っていた。
「ベヒトルスハイム閥へは、アポイントメントがおありですか?」
「はい。この時間に面談の予約をしております、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンと申します」
「確認いたします。少々お待ちください」
幸いにも門前払いをされることなく、先方は『非常に強い興味』を抱いてくれたとのこと。
アグリッピナ氏も将来有望な
「はい、確認が取れました。もうすぐ案内の者が来るそうです。少々お待ちいただければ」
「承知しました。ご確認ありがとう存じます」
無事に面会の予約は取れていたようだ。
……とはいえ、新入希望の聴講生志望をわざわざ五大学閥の長が面接するとも思えない。
今はようやく書類選考が終わったばかりといったところ。
であればまあ、次は研究生とか配下の教授たちによる面接だろう。
払暁派のトップであるライゼニッツ卿に会えたのは、アグリッピナ氏のおまけだったから例外だ。
総合受付のあるロビーで待っていると、昇降機が止まり、ローブ姿の一人の女性が降りてきた。
「……あなたがマックス・フォン・ミュンヒハウゼン?」
「はい。その通りです。マックス・フォン・ミュンヒハウゼンと申します」
「ではそちらがターニャちゃんね」
「お初にお目にかかりますわ、お姉さま。ターニャです」
「なるほど、間違いはなさそうね。そして……思ったよりも
恐らく落日派の魔導師だと思われる女性は、私とターニャを上から下まで値踏みすると、満足したのか笑みを浮かべた。
……これは、肉体改造の度合いを
「お2人とも我らが閥に案内されるに足る資格をお持ちのようですね。
どうぞこちらへ。面談を担当する教授のところまでご案内いたします。
ベヒトルスハイム卿は深淵の思索に耽っておいでですので、別の者になりますが」
先導するその女性の後をしずしずと追いかける。
魔導院で裾を蹴る勢いで歩くなどしてはならない。
あくまで優雅に、外面を完璧に保たねばならないのだ。
恐らく彼女は案内人 兼 第一の試験官だったのだろう。
どの程度の魔術・魔法を使えるのか、それを推し量ったのだろう。
そういう魔法が得意なのかもしれないし、あるいは肉体変性により何かの瞳を得ているのかもしれない。
「ああ、そうそう。申し遅れました。私は落日派ベヒトルスハイム閥で研究員を拝命しております、ヨセフカと申します」
――― 本日はお2人のご案内を仰せつかっております。よろしくお願いしますね。
そう言って、先輩研究員のヨセフカ女史―― 響きからして周辺国家の出身だろうか―― は優雅に腰を折った。
空間を超越して縦横に移動する昇降機が、目的とした部屋に到着したようだ。
この魔導院では、地下の岩盤を刳り貫いて、それぞれ研究員や教授たちの工房を
そんなことになっているのは、もちろん一つの工房が吹っ飛んでも他の工房が連鎖的に弾けないようにしたいという配慮のためだ。
「到着しました。どうか気を確かに……と言うまでもありませんわね」
「ええまあ。この程度の
「大変結構。それでは進みましょう」
果たして昇降機の開いた先に満ちていたのは
昇降機の中には入らないように制御されたそれは『落日派志望であるならこの程度は耐えてみせよ』という
私は当然ながら賦活術式と身体恒常性維持術式によってそのような毒ガスに倒れることはないし。
ターニャは半妖精故に肉体の相をずらせば基底現実世界の毒の影響など受けない。さらには極光で織られた蝶羽によって毒ガスを分解して無効化している。
ヨセフカ女史も何らかの魔法で毒ガスを無効化しているのだろう、平然としたものだ。
しばらく奥に行くと、一人の男が佇んでいた。
「パピヨン卿。当番でもないのに珍しいですね」
「ノン、ノン。―― パピ・ヨン。もっと愛をこめて呼んでくれたまえ、ヨセフカ君」
「パピヨン卿。同期のよしみで警告しますが、内臓を引っこ抜きますよ」
男はぴっちりとしたスーツを着ていた。
男は蝶の意匠を施した黒いスーツを着ていた。
男は蝶の仮面をつけていた。
男は明らかに変態だった……!
ちくしょう、
「それでここで何をしているのです。パピヨン卿」
「可憐な蝶が我らの閥に加わるかもしれないと聞いてね。様子を見に来たのさ」
そう言ってターニャの方にバチンとウィンクするパピヨンマスクの変態。
……ターニャはギリギリ失礼にならない範囲で、礼を返した。
えらいぞ。私は君を誇りに思う。
「であればもう用は済んだでしょう。臓物をぶちまけられないうちに消えなさい」
「ああ、分かったよ、ヨセフカ君。再生するのも面倒だからな。そちらの蝶サイコーな妖精ちゃんもまたね」
そう言って
「……あれで研究者としては優秀なのよ」
「はあ」
「ターニャちゃんも気にしないでね。言動はアレだけど実害は無いから」
「ええと、はい。
「何かあったら私に言って。内臓引っこ抜いとくから」
眉間を押さえるヨセフカ女史は深いため息を吐くと、気を取り直して案内を再開した。
「おやおや、おやおやおやおや。ヨセフカ君じゃないですか」
「……バンドゥード卿」
不思議に長い廊下を進み、突き当りの扉―― 恐らくはこの工房の教授の執務室―― に着く直前。
その中からは黒いコートのようなローブに身を包み、それ以上に目を引く頭をすっぽり全部覆う仮面をつけた人物が現れた。
仮面は前面にスリットのようなものが縦に設けられており、視界補助のためかほのかに発光している。
「その2人が私たちの
「バンドゥード卿はいかがなさいましたか。この2人の面接のご担当ではなかったはずですが」
「おっと失礼。少々急ぎのご相談をしていたのですよ。確かにあまり引き留めてはいけませんね」
バンドゥード卿と呼ばれた彼は、さっと脇に避けると、私たちに道を譲ってくれた。
なんとも紳士な御仁だが……。
「君は……興味深いですね。私と似たアプローチをしているのでしょうか。いずれ語り合いたいものですね」
私の残機性の不死を見通したのか。
あるいは混ざり合った魂の有り様に共感を得たのか。
バンドゥード卿は擦れ違いざまに囁くように声をかけてきた。
「はい。いずれご指導ご鞭撻いただければ」
「そのときを楽しみにしていますよ」
――― 貴殿の今後の活躍をお祈りしています。そう言ってバンドゥード卿は舞台挨拶でもするように腰を折った。
でもそれは面接に落ちた時の定型句だからやめてくれ。
いやこっちの世界にはそんなネタはまだないんだろうけどさ。
バンドゥード卿が出てきた扉を潜ると、そこにいたのはここに来るまで会った落日派の魔導師とは違い、一目で
……仮面はつけていたが。そういえばヨセフカ女史以外はみんな仮面をつけているな……。
「ノヴァ教授。聴講生志望の2人をお連れしました」
「ご苦労様です。ヨセフカ君。適当なところに控えていてください。―― お2人もそちらに掛けてください」
眼鏡と頬から上を覆うマスクが一体となった金属製の仮面をつけた、ノヴァ教授と呼ばれた男性はこちらにも席を勧めてきた。
室内にはちょうど2脚の椅子がある。
礼をして座らせてもらう。
「まずは自己紹介から。私は落日派ベヒトルスハイム閥に属する教授で、名前はディーター・フォン・ノヴァと言います。よろしく」
「ノヴァ教授、丁寧なごあいさつ痛み入ります。私はマックス・フォン・ミュンヒハウゼンと申します」
「私はターニャと申します。よろしくお願いいたします、ノヴァ教授」
「楽にしてもらって構わないよ。ここまで来られた君たちの入門はもう決まっているからね」
「「 はっ。ありがとう存じます 」」
面接はもう終わっていた件。
ひょっとしたら偶然を装って遭遇したパピヨン卿やバンドゥード卿も試験官だったのだろうか。
ともあれこれであとは受付で学費の手続きをすれば私とターニャは晴れて
「君たちの論文の概要は見させてもらいました。
ミュンヒハウゼン卿の『微視的な構造を見るための超短波長光の回折によるアプローチ』、またそれによる『細胞内の二重螺旋構造の情報担体の発見』……。
ターニャ君の『電場と磁場の相互作用による電磁波の発現』、『原子の構造―― 核の周囲に広がる電子とその階層、そして電子の階層遷移による極光の発生』。
いずれもきちんと証明できるのであれば、我々の基底現実世界への解像度を大きく引き上げる画期的な論文です」
――― 正直なところこれを仕上げるだけでも教授位に推薦できるほどです。
ノヴァ教授は感慨深くそう言った。
随分と評価されているようだ。
虚空の箱庭のエミュレータで仮想時間を加速して大急ぎで仕上げた甲斐はあった。
私としては異世界の偉人たちの巨人の肩に乗っているようでそこまで誇れるものでもないのだが……。まあ、使えるものは使わせてもらおう。
「しかもミュンヒハウゼン卿は他にも、『高性能な魔素遮断素材の製造法』や『使い魔技術を応用した農産物の品種改良』についても構想があると伺っています。
ターニャ君の電磁気に関するテーマも非常に広大にして深淵なるものだと想像できます。
これほどに期待されると
「一方でこれらはテーマ的には払暁派にも通じる民生利用の観点も既に盛り込まれているように感じます」
食糧増産やエネルギー革命、通信革命。
ある意味それは払暁派の、魔導の普及による社会発展に繋がる思想だ。
「……最終確認ですが、君たちは本当に私たちの落日派を希望するということで良いのですね」
ここが引き返す最後の分水嶺だと念を押してくるノヴァ教授。
「はい。私たちの意思は変わりませんわ」
「“深淵にこそ誉れあれ”。その会派哲学に深く賛同しておりますゆえ」
ターニャと私の答えは決まっていた。
「であれば結構! 私たち落日派ベヒトルスハイム閥は、新たな同志学徒として君たち2人を歓迎します」
ノヴァ教授が大仰に腕を広げて歓迎の意を示す。
「おめでとう、ミュンヒハウゼン卿。おめでとう、ターニャ。これからよろしくね」
控えていたヨセフカ女史もこちらを祝福してくれた。
「では今からは懇親の時間と行きましょう。無粋な毒ガスも浄化して、と―― ヨセフカ君、
「承知しました、ノヴァ教授」
ノヴァ教授がパンと手を叩けば、空気中に漂っていた毒ガスは全て分解されて消えてなくなったようだ。
そしてどうやらお茶会を開いてくれるらしい。
「ノヴァ教授。アレ、とは……?」
「私の好きなお茶請けのお菓子だよ、きっと君たちも気に入る」
「お菓子ですか!? とても楽しみです!」
「ターニャ。押さえなさい、はしたない」
「いいのです。いいのですよ、ミュンヒハウゼン卿。子供は元気が一番です」
「ああ、ノヴァ教授。私のことはどうかマックスとお呼びください」
「ではマックス君。かたっ苦しいのは抜きにしましょう。私も君たちからは色々と話を聞きたいのです」
そうこうしているうちにヨセフカ女史がお茶を用意してくれたようだ。
別の毒ガスのない部屋に控えていたのだろうノヴァ教授の従僕らしき者たちも続いている。
「ですがその前に一口食べさせてくださいね。私はこれに目がなくて……。ぜひ君たちもどうぞ」
そう言ってノヴァ教授はお茶請けのお菓子―― フルフルと震える黄色い柔らかそうなもの―― へとスプーンを刺した。
「歓迎のプリン! おいちいっ!!」
ノヴァ教授とヨセフカ女史とのお茶会では、私たち2人それぞれの研究に関する話をすることができて非常に有意義だった。大満足だ。
聴講生ということで、私とターニャの論文はまだ魔導よりも、基底現実世界の諸法則の解明という面が大きいが、その方針についても賛同を得た。
「武道においては守破離という考えがあると聞きます」
「守破離、ですか。マックス君、それが魔導に関係すると?」
「私なりの解釈なのですが、これを魔導に当てはめるとすれば、基底現実世界の諸法則を解明し墨守する“守”。
その諸法則を魔法や魔術により書き換える“破”。
やがては自らの内在世界を現実に固着させ、新たな法則を敷く“離”……というわけです」
「なるほど、そのためにもまずは基底現実世界における魔導が介在しない現象の究明に力点を置くのですね」
「そうなります」
「いい考えだと思いますよ」
そういった有意義な話もありつつ、一方でノヴァ教授はプリンに目がないということで、私が虚空の箱庭の砂糖麦から精製した白砂糖を100kgほどプレゼントしたらえらく感激された。
今後も献上しようと思う。
ノヴァ教授とは仲良くなれそうだ。
またこれはノヴァ教授だけではなく、ヨセフカ女史やパピヨン卿、バンドゥード卿にも感じていたことだが、やはり落日派の魔導師たちはどこか私と波長が合う気がする。
きっと彼らとは良い関係を築いていけるだろう。
辞去する際に明日以降の予定について、ヨセフカ女史が帰りの
「受付でシラバスを貰って講義受講希望を作って出してもらうことになるわね。
あとは申し訳ないけれど、他の聴講生と同じく、下っ端の雑用的な実習もこなしてもらうことになるわ。
例えば、使い魔関係のコースなら、使い魔化した伝書用の鳩の世話とかね」
ただし、講義の受講可否の判断が下りるまでは時間がかかるため、それまでは落日派での雑用もやってもらうことになるという。
まあ、施設案内や、他の落日派への面通しも兼ねているのだろう。
「とりあえず明日の朝から、君たちにはあそこに行ってもらうわ。……まあ裏試験というか何というか、最後の適性検査ね」
ヨセフカ女史、それは一体?
「――― 落日派が管理する、廃棄物留置区画よ」
そこを見て落日派への所属を辞退する聴講生も少数だが居るのだという。
だが私は既に今から心躍っていた。
……だっていかにもリサイクルのし甲斐がありそうな場所じゃないか!
落日派に相応しい魔導師を見繕うのは楽しかったです。
ベヒトルスハイム卿(原作では明確には五大閥とはされていませんが)は原作でも出るかもしれないのでお預けで。多分この他にもメンシスの檻を被った教授とかも居るはず。
◆ヨセフカ女史(研究員)
周辺国出身の女性研究員。
モチーフはフロムソフトウェアのゲーム『Bloodborne』の女医ヨセフカ。どっちのヨセフカかは声が実装されれば分かります。
平民出身なので姓は無い。ヨセフカという名前はジョゼフィーヌのチェコ語版なので、ドイツモチーフのライン三重帝国の周辺国出身という想定。
◆パピヨン卿(研究員)
隣国出身の貴族に連なる男。
元ネタは漫画『武装錬金』の蝶人パピヨン。
ライン三重帝国の隣国(アグリッピナ氏の出身国でもある)のモチーフはフランスだと思われ、実際、フランスの姓にパピヨンという姓はあるらしいので、名前はそのまま『パピヨン卿』に。原作的に隣国に蝶蛾人の貴族がいない場合は、蝶蛾人との混血のため祖国を出て魔導院に来た、みたいな背景になります。
元ネタ的にも人体実験を伴う研究研鑽の結果として不老不死の怪物に至ったため、落日派適性がかなり高いと思われる。本作においてもその不死性は健在と想定。たぶんマックス君の窒素固定魔道具を気に入ってくれるはず。
◆バンドゥード卿(教授)
頭をすっぽり覆う仮面の紳士。
元ネタは『メイドインアビス』よりボンドルド卿(Bondrewd)。ドイツ語っぽい読みにしてみた。音が合ってるかは微妙かもですが……。
肉体を乗り換える精神生命体じみた不死特性と、人倫を無視した研究姿勢が、落日派に実にマッチする。
◆ノヴァ教授(教授)
眼鏡と頬を覆うマスクを兼用したような金属製の仮面を着用した壮年の教授。
名乗りのディーター・フォン・ノヴァは、元ネタの『
彼も最終的には自身の情報のバックアップを世界に散らして虚空から復活できるようになるという不死性を獲得するし、人倫を無視した解剖したがりの研究者なので落日派適性が非常に高いと思われる。
◆ベヒトルスハイム卿(未登場)(教授、閥のトップ)
ヨセフカ女史、パピヨン卿、バンドゥード卿、ノヴァ教授らを従えるベヒトルスハイム閥のトップ。詳細不明。