フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
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◆前話
ヨセフカ女史「マックス君、ターニャちゃん、これからよろしくね」
パピヨン卿「蝶サイコーな落日派ベヒトルスハイム閥へようこそ」
バンドゥード卿「歓迎いたしますよ、かわいい子たち」
ノヴァ教授「さあ! ともに魔導の深淵へと身を投げ、ヒトたる宿命から解脱しようではありませんか!」
マックス君(見た感じ紳士淑女だけど擬態なんだろうなあ)
ターニャちゃん(この人たちを束ねることができてる
※落日派:生命倫理のタガが外れたマッドがだいたい所属してる感じでイメージしてます。感想でいただいた涅マユリ(BLEACH)っぽい人とか、同作品のザエルアポロ・グランツっぽい人とかもきっと居るはず。あるいはTeam R-type的なイメージ。なお、ヨセフカ女史らもそうですが、あくまで「ぽい」だけの現地人です。……現地育ちの天然物だけでこれだけ揃う方がやべー気もしますね!
無事にライン三重帝国魔導院 落日派ベヒトルスハイム閥へと入門できた翌日のこと。
私とターニャは朝から魔導院の総合受付に来ていた。
正式な入門を許されたため、自前で編んだローブを身に纏っている。
魔導師の正装と言えばコレだからね。
外見は目立たない暗色のローブだが、内張りには私の髪を糸にした刺繍による術式陣をこれでもかと縫い込んでおり、術式付与により並みの板金鎧よりも防御能力が高く、快適を保ち、汚れもすぐに浄化されるようになっている。
ちなみにターニャと私のはお揃いだ。いいだろう。
魔法の
だが私は焦点具を宿して生まれた突然変異だし、ターニャもそもそも生得的に魔法を使える半妖精なので、2人とも魔法の
いまも正装なのでと適当なものを差しているだけだ。
……なおターニャの杖用にまた目玉を抉って宝石化させられる羽目になったことは申し添えておく……(その後再生した)。まあそれはターニャが嬉しそうだからいいか。
いずれも正式に指導教授がついて
「おはようございます。ご用件をお伺いします」
嫋やかな受付のお姉さんのご挨拶。こちらもきちんと礼を返し、手続きをお願いする。
「無事にベヒトルスハイム閥に入門が許されまして、学費諸々の手続きと、今期の受講希望表を提出しに来たのです」
「右に同じなのですわ」
「それはおめでとうございます。ではお預かりいたしますね」
受付嬢さんに入院入門関係の書類を渡し、学費を収めがてら、シラバスをもとに作成した受講希望表も提出する。
手元に残した受講希望表の写しには、まずは手始めにということで、『抗魔導概論』や『造成魔導概論』、『魔力学』、『薬草学』、『幻想種生態学』などの基礎教養系の講義が並ぶ。
せっかく学費を払ったのならばすべての知識を吸収せねば! と詰め込み過ぎた感は否めないが……。
まあ用事が入って出席が難しいときは
ターニャはターニャで光を飛ばす術式で、講義の様子を遠隔で自分の視界の片隅に持って来ることもできるようだし、お互い何とでもなるだろう。
……そのうち講義録画用の魔法でも開発するかな……。
高度な内容の講義だと、漏洩防止に対抗魔導が施されてる可能性もあるが、初等入門級の講義なら問題ないだろう。
でもそうすると記録媒体として魔晶がたくさん必要になるか……?
減った残機の補充もしたいし、虚空の箱庭用の各種資源の回収についても考えないといけない。
最終的には工業地帯1つ分の生産能力を虚空の箱庭には持たせたいんだよなあ。
私が生きる上での目標である『死なない』、『好奇心を満たす』、『リサイクル推進』のためにも、ね。
『死なない』ためにも領地1つ分の生産能力・研究開発能力を個人で所有することは大いに有効だし。
『好奇心を満たす』ためにも、膨大な生産能力と研究開発能力は選択肢を増やしてくれるだろうし。
『リサイクル推進』には、生産能力の多寡がどこまで徹底的にやれるかに直結するだろう。
他にも例えば異世界人の魂が
魔法とのハイブリッドで幾つかの
ついでに資材の取得については、虚空の箱庭を広げるための土砂の取得だけでも、何かしらの研究と紐付けて、ライン三重帝国から研究費を貰いながら恒常化できればそれに越したことはないんだが―――。
土砂を得るにしても、どっかの山を崩すとか、穴を掘るとかそういうことをしないといけないけど、崩したり穴だらけにしていい場所なんて……そうそうは…………。
……。
…………ん。
ちょっといいアイディアを思いついた。
『帝国として穴掘りが必要』な場所ってのは、実は結構いろいろあるのかもしれない。
例えば、北海大運河*1やライン川の延伸ってのは掛かる費用の膨大さゆえに画餅と評されて久しいが、まさしく
あるいは南部との交通を遮断する峻険なる南剣連峰に
それか魔獣や盗人の存在により保線が難しいと計画が頓挫した鉄道馬車―― あるいは魔導機関車―― による鉄道についても、一足飛びに
帝国が欲しいのは『穴』で、私が欲しいのは『土砂』。
全部とは言わずとも排土の1割もアガリを貰えれば、虚空の箱庭の拡張には十分すぎる。
帝国は流通が改善してハッピー。
私は虚空の箱庭の拡張用に土砂・鉱物が手に入ってハッピー。
Win-Winの関係になるな。
……うん、真面目に必要なものを検討してみよう。
あと造成魔導師向けの講義ももっと取ろう。
効率的な造成方法や、そもそもの強度計算とかきちんと学んだ方が良い。
そしておおまかな計画が出来たら、落日派の先輩方や教授陣にも相談させてもらおう。
かなり大きな政治的な動きが必要だけど、もし落日派主導で進められたら動く金も入ってくる利益も莫大なものになるぞ~!
それに小麦の改良品種を世に出すタイミングや根回しも相談したいし忙しくなるぜ~!(主に虚空の箱庭のエミュレータ魔法内で計画立案のために時間加速されるだろう私の再現意識体が、ね)
「時間通りね、マックス君、ターニャちゃん」
「「 おはようございます!
「ええ。おはよう。今日もよろしく。廃棄区画までの案内と、今日やってほしいことについては、私が説明を担当するわ」
「「 よろしくお願いいたします! 」」
まあ、それはともかく、今日は昨日ヨセフカ女史に言われた、落日派の廃棄物留置区画の処理をしにきたのだった。
昨日に引き続き案内役としてやってきたヨセフカ女史の後に続き、受付ロビーから昇降機に乗り込む。
その移動の途中で、ヨセフカ女史から今日の仕事について軽く説明を受けた。
これから向かうのは、落日派の研究者が行った研究に伴い発生した様々な廃棄物のうち、特に処理が必要なものを一時的に保管する場所なのだという。
というのも、廃棄物とはいえ、それは各研究者の研究内容を類推するに手掛かりにもなり得るものだから、研究内容の秘匿のための処理をしてから、城外に廃棄する必要があるのだという。
当然、
だが逆に同じ閥の有望な学生ならば、そこから大いに学び取れるものがあるということでもある。
そういった事情もあり、廃棄区画の整理や分別・処理は、だいたいは入門したばかりの下っ端の仕事となるのだとか。
――― じゃあ後はよろしくね。
ヨセフカ女史は処理に必要な術式を大まかに説明し、私たちを廃棄物留置区画に送ると、彼女自身の研究のために戻っていった。
この廃棄物留置区画の座標と、ここへの出入りに必要な鍵となる術式について私とターニャは教えてもらったので、これからの出入りは自由だ。
「いやー、楽しみだなあ! ターニャ!」
私にとってはおそらくこの廃棄区画は宝の山だ。
何があるのかとても楽しみになっている自分が抑えられない。
「私はあまり気が進みませんけれど……。澱んだ魂と腐った思考の電光がこびりついているに決まってますわ」
一方のターニャは妖精としての感受性のためかあまり乗り気ではない様子。
精神の相が強い妖精としては、落日派の廃棄区画など呪詛満載の劇物に他ならないだろう。
「確かに半妖精の身には毒かもしれないなあ。澱んだ魔素もありそうだし。……じゃあこうしよう」
<
私が施した
形而上の悪性要素を遮断する防護服代わりの術式だ。
「……またおかあさまはサラッと訳の分からない術式を……。それに過保護ではありませんこと?」
私だって同じ魔導師見習いですのに、と頬を膨らませるターニャに笑って答える。
「しなくていい苦労はしない方が良いさ。……あとその術式はプレゼントするから作用機序を解明したら私にも教えてくれ」
「本当に使ってて大丈夫なんですよね?」
「最低限の動作チェックは済ませてるよ」
……不安だわ、という顔をしながらもターニャは術式を解除はしなかった。
まあなんだかんだで便利ではあるのだ、魔法チート謹製の術式は。
術式に予期せぬリスクが潜んでいる可能性は常に考慮しなければならないが、それも備えていれば何とかなるはずだし、私の知識が上がるにつれて術式の精度も上がってきているから、使いこなせる日もきっと遠くない……はずだ。
「うわぁああ~!」(⤴)
「うわぁああ……」(⤵)
廃棄区画に入った私とターニャが挙げた声は、同じ音ながら対照的だった。
汚物と膿と血と漿液と、腐敗臭。
中身が分からないようにしてあるが、明らかに湿って水っぽい何かが詰まっている大きな袋が積み上がっている。
あるいは廃液の詰まった桶や、割れて壊れた容器や術具が入っていると思われるいびつなシルエットの袋もある。
他にも扉があり、幾つか“混ぜるな危険”とばかりにさらに区画が分けられているようだ。
「流石に生きてる検体はいないみたいだな」
「いやどうでしょうか、おかあさま。あの袋、何かが蠢いています」
「んん?」
ターニャが張り巡らせている生体電流感知に引っかかったのだろう。
取り出した瀟洒なハンカチで口と鼻を押さえたターニャが、しかめっ面を隠さずにとある不透水性の袋を指さす。
「これか。どぉれ」
「ひっ、いきなり裂く人がありますか!?」
「どのみち開けて分別して処理しなきゃなんだし一緒一緒」
果たして中からデロンと落ちてきたのは、何とも言い難い白濁した粘液を纏った
それ自体が生き物のようでもあり、あるいは何かの生き物の触手の破片のようでもあった。
弱弱しいが、確かに蠢いている。
「ほー。何だろうな、これは解剖で取り出した臓器から生まれたのか?」
「悪性新生物って感じですわね、文字通りの意味で」
「とりあえず情報を取得してエミュレータで再現できるようにしとくか。処理自体はしとかないといけないから処理するけど」
「わっ、動きますわよ!? 跳んで……っ?!」
こちらに寄生しようとしてきたのか、意外に素早い動きで飛び上がった大蛞蝓っぽいなにかだが、即座に撃墜する。
消滅させるとサンプル取れないから、純粋に物理的な攻撃で。
<
<見えざる手>に虚空の箱庭の巨大
跳んできていた蛞蝓のような何かはこれによって叩き落とされ、あまりの勢いで<見えざる手>をたたきつけられたためか空中で既に弾け飛んでしまい、そのままびしゃーん、と床の染みになった。
「結構生きが良かったな。肉片にしてしまったがサンプルは取れるだろうか……コンタミが心配だ……」
<
―― もったいないねえ。と言いながら、私はその後も、手際よくヨセフカ女史に指示された手順に沿って次々と中身を分別、処理していく。
<見えざる手>の術式はこういうときに便利だ。
とても2人だけで作業しているとは思えない速度で中身が分別され、積み上がっていく。
明らかに幻想種や竜種の組織を植え付けられたっぽいナニカの肉塊とかもあったりして、サンプル情報が増えていって私は大変うれしい。
いやー、助かるねえ。
ターニャも若干
この廃棄区画の整理は落日派適性検査の裏試験ということだが、これなら2人とも合格だろう。
「こっちの部屋は片付いたから、壁や床の汚れを電離気体で分解しといてくれるか?」
「はーい。全部よろしいですの?」
「ああ。ここの環境に合わせて変異してたっぽい黴菌や病原体なんかの情報も、もう取得しちゃったからいいよ。やっちゃって」
「やっちまいますわ~」
ここの処理だが、基本的には消毒して焼却することになる。
今回はターニャの電離分解術式と<清拭>の合わせ技で徹底的に処理してもらうことにした。
あとで壁や床、天井には汚れが再びつかないような表面処理もしておこう。
のちのちまた処理当番になった時に楽するための布石だ。
物理的な汚れの処理の他にも、魔導的な浄化についても必要になる。
本来は聖堂の奇跡があれば効率が良いのだが―― 魔導という世界の歪みを神の奇跡はいとも簡単に叩き直す――、まあ冒涜的なことで有名な落日派に、基本的に魔導の類が嫌いな聖堂の勢力が、それもごみ掃除の後始末に人を派遣してくれるかというと……ありえないわけで。
なのでこの場の穢れた魔素を燃やして意味消失させてやる必要があるわけだが、それが閉鎖循環魔導炉の着想に繋がったというのだから、研究の世界は何が幸いするか分からない。
昨日のノヴァ教授との雑談では、かつてターニャが封じられていて私が見出した魔素遮断素材が、閉鎖循環魔導炉のブレイクスルーに繋がるのではないかと言われたし、そっちの論文も仕上げないとなあ。
それはそれとして、目の前の処理済みの山を見て笑みがこぼれる。
「へへへ。じゃあ処理済みの奴は私がいただいていくぜ……使い道は幾らでもあるものな……」
ここにあるのは廃棄品なので、情報が漏れない範囲で自由にしていいとの言質も取っている。
すでに城外に出せるレベルまでの処理を終えたものは頂戴することにし、
魔導的な意味を喪失して単なる蛋白塊なり、金属鉱物塊なりになっているが、リサイクルしてやる方法は幾らでもある。
他人にとってはここはゴミの山だろうが、私にとっては宝の山というわけだ。それでなくとも虚空の箱庭はいつだって資源不足だしな。
「壊れた魔導具や術具も結構あるからありがたいね。何に使うのか分からないものも結構あるけど」
恐らく研究内容の漏洩防止のためだろうが、元の機能が分らないように破壊されてから棄てられた魔導具も多い。
だがそれら廃品の残った構造や回路から、研究内容やもとの機能を想像するのもこれはこれで楽しい。
普通の照明の魔導具だったりも捨てられているし、玉石混交だな、まさに。
「おかあさま~、こっちの消毒終わりましたわ~」
「お疲れー。こっちも処理済みのを粗方は
「それでしたらあとは全体に染み付いた澱んだ魔素をどうにかしないとですわねー……」
ふふふ、呪詛の扱いはアグリッピナ氏との旅路で何度か小遣い稼ぎにやったから任せたまえよ。
これだけ薄く広がっているときは、まずは纏めて固めてやればいいのだ。
<
廃棄区画中の魔素を術式で吸い込んで
あとはその悪性を纏めた魔素を結晶化してやれば安定するという寸法よ。
<
……ちょうどいいから、できた宝玉は私の杖の先にでも付けとくか?
いや、閉鎖循環魔導炉の始動燃料も探してるとノヴァ教授は言ってたし、一応ヨセフカ女史経由でコレが使えるかどうか聞いてみるかな。
閉鎖循環魔導炉の詳細について、起源が落日派にあるとかいうのは独自設定ですの。
書けるタイミングがあるか分からない(魔導師は研究テーマを秘匿するものである)のでここに前話で紹介した落日派研究者たちの研究テーマと到達点を載せておきます。
なお、落日派は魔導を通じて上位存在に至ることを主眼に置いている派閥です。
◆前話の落日派の研究員・教授の研究テーマと到達点
・ヨセフカ女史:
獣の病(魔種の魔物化)の克服
→ 魔物の性質の良いとこだけを取得した存在への昇華
・パピヨン卿:
生得的な病と魂魄欠損の関係とその治療
→ より完全な肉体と魂魄を持った生命体への羽化
・バンドゥード卿:
魔宮の発生及び変遷に関する理論
→ 世界法則の自在な書換による種族全体の位階上昇
・ノヴァ教授:
“運命” や “宿命” の存在証明
→ それらを規定すると思われる上位存在からの決別と自立
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あと何話かは、聴講生向け
魔剣の迷宮? 行ってる暇は無いな!(巻き込まれないとは言ってない)