フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
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◆前話
魔法チート転生者の肉体に混ぜこぜの魂がIN!!
ここは次元の狭間。
どことも知れない場所。
光もなく、大地もなく、大気もなく、闇すらもない。虚無だ。
そんなところを漂う男が一人。
―― そう、私だ。
「空気は酸素生成術式を常駐化してカバー。ストレスやパニックは精神恒常性維持術式でカバー」
まあこれで当面の危機は去った。
ある程度この状況に陥った経緯も分かったことだし、次はこの状況からの脱出か。
「いや待てよ……?」
今いる場所は世界の狭間。
そして魔法は世界を歪める外法であり、世界からの修正を常に受ける。
であれば世界の狭間のこの場所では、世界の修復力というのはどうなっているのだろう?
「……これは脱出前にここで色々と試した方が良いかもしれんな」
この虚無の空間の方が、色々と無理が利くのかもしれない。
確かめねば。
私の中の魔導師の魂がざわめいている。いや、異世界人の魂と、邪神信仰者の魂もだ。
ははは、こいつら揃いも揃ってマッドかよ!
いやいや我がことながら笑えることだ。
だがまあ、それくらいにマッドでなければ、この身のチートは持て余すだろうからな。
“もったいないおばけ”の見立てであれば間違いもないのだろう。この魂の構成こそが、魔法チートを扱うのに最も適していると判断されたのだ。
いずれにせよ、性能の把握は必要だ。
そうと決まれば、まずは生命維持からか。
それを
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「これでよし。何なら酸素生成術式は切っても……問題ないみたいだな」
恒常性維持術式は思った以上に効果を発揮している。
チートな魔法の力は、この虚空での生存を可能にしたのだ。
おそらくは脳髄を吹き飛ばされても再生できるのではないかな?
「だがまあ本当に何が起こっているかわからん術式だな……。魔力の消費量が半端ないのは分かるが」
分からないのは、怖い。
動かない術式より、なんでか知らんが動いている術式の方が、百倍も怖い。
ええ……? なんでこれでこんな効果が出てるん? こわ……。
「術式を構成する魔導式が見えないと話にならんな……」
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この肉体も最低限の“眼”は持っているが、その方面の才能を磨いていなかったようで、術式の構成要素が詳しく見えない。素質は世界最高峰のはずなのだが……。
なので、構成要素たる魔導式が見えるように術式を噛ませる。
これで何が起こってるのか見えるはずだが……。
「う、うわぁ……」
ひ、ひどい。
どこかから別の術式を丸ごとコピペしてきたみたいに、使ってない
しかもモジュール化されていないから同じ記述がいろんなところで再記述されている……。
変数であるべきところが固定値で組み込まれている……その都度コードごと書き換えるのが前提なのか?
別の術式を無理やり規模拡大して使っているから消費が跳ね上がっているし(マッチを集めて火力発電してるようなものだ。無駄が多い)。
私の中の魔導師の魂が叫びをあげている。美しくないっ!
ついでに異世界人の魂も
そしてこんな術式に精神や身体の恒常性維持を任せているのが空恐ろしくなってきた。
「だが動いている
そのとき私の中の異世界人の魂が渾身の叫びを上げた。
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次の瞬間、この虚無の空間の一部が切り取られ、この虚無の世界の魔導的な環境を再現した高度なシミュレータを構成した。
切り取られた箱庭には、私を模したミニチュアが暢気そうに浮かんでいる。
「う、うーむ。これもどうやって動いているのか分からんが、とりあえずこの身のチート権能の直感では望んだとおりのものが出来上がっているらしい」
ほんと何なんだ、この
どういう理屈で動いているか全く分からんのに、きちんと思い通りに動作してることだけは直感的に確信できる。
なんなんだこれ……こわ……。
「とにかく検証だ……今ある術式も、これから新しく作る術式も、この
じゃなきゃ怖くて使えないぞ、こんなの。
現実世界に戻る前にいろいろ試すのは正解だぞ、これ。
あーでも検証するなら、他にもいろんなツールが欲しくなってきた……。
魔法チートの権能で作ればいいんだろうけど、こう、得体のしれない術式をどんどん増やすのも、こう、あれだ。
忌避感が……。
この身体の前の持ち主はある意味大物だったのでは……?
よくポンポン使えてたな。
私だったら絶対無理だ。
このエミュレーターも世界創造に近いことやってるようなもんだし。
半端ない権能だな、この魔法チートって。
この次元の狭間、虚無の空間で自らの身体に宿る魔法チートの権能を試すこと暫し。
いや基準になるものもない虚空で、腹時計も恒常性維持術式で用を為さない状態で、時間感覚も何もあったもんじゃないのだが。
さすがに十年は経っていないと思う。
でもまあそれもあまり関係ないのだろう。
この虚無の空間から、元居た位相に戻る目途はもう立っているし。
戻るときには時間軸を適当なところに合わせることも可能なのだから。
この空間で試せることは大体試した。
面白かったのは、このチートに対する理解が深まり、生み出される術式への知識が高まるにつれて、権能に
ホッとしたね。
いやマジで。
いつまで経ってもなぜ動くのか分からん術式ばっかり吐き出すようじゃ怖くて使えないからね。
精査したら、冗長な
ちょっと妨害噛ませられたら今まで使ってなかった部分の魔導式に切り替わって自爆しかねんという。コメントアウトしとけよせめて。
わけわからんものをコピペで持って来るからそうなる。いやどういう風にこの権能が術式を作ってるか知らんけどさ。
あとファインプレーだったのは、術式それ自体を解説し翻訳する術式を作ったことだろう。
逆アセンブラみたいなもの、とか私の中の異世界人の魂は言っていたが。
あとは “鑑定スキル万能! 万歳!”とかも言っていたか。
それでまあ、いよいよ現実世界へと帰還しようと思うわけだ。
「じゃあ最後に仕上げをしよう」
現実世界に戻るに当たって、幾つか目標を立てている。
・1.死なない。
これは分かりやすい。
中身の魂の方は、魂だけになってるということは、既に一度は死んでいるわけで。
また死にたくはないよな―― というのは、異世界人の魂も、魔導師の魂も、邪神信仰者の魂も共通するところだった。
・2.好奇心を満たす。
幸福の追求ということで考えた時に、異世界人の魂と、魔導師の魂で一致したのがこの点だった。
この世の未知の探求、究明。あるいは行ったことない場所に行き、見たことのない景色を見る。
それこそが、現世に舞い戻るモチベーションなのだ。
その過程で、私に内包される3つの魂のルーツを探したりすることもあるかもしれない。
・3.リサイクル推進。
邪神信仰者の魂が強硬に唱えたのが、これだ。
まあ要は、この魂に第2の生を与えてくれた“もったいないおばけ”に敬意を表して、捨てられたものたちを拾い、再生させよう、ということだ。どうやら宗旨替えしたらしい、前の神様は助けてくれなかったから、と。
異世界人の魂も、魔導師の魂も、“もったいないおばけ”への感謝の念はあるが、信仰の道についてはピンとこないので消極的賛成、というところだろうか。
それでまずは、死なないように、死ににくくなるように、できる限りのことをしてから現実世界へ舞い戻ることにしようと思う。
元手は、自らの肉体と服飾品くらいだから、限界はあるにしても。
魔法で一から物質を作るのは面倒くさいので、それ以上は現実世界で
「恒常性維持術式、限定閉止」
つまり今できる初手は肉体改造だ。
肉体を一定に維持する術式を一部止めて、改造を受け入れられるようにする。
身体のどこをどこまで改造していいかは、シミュレータで散々検証した。
ぶっつけ本番で試して逆に死ぬとかシャレにならない。
死ななくても改造のやりすぎで肉体が変質してチート権能を失うのも嫌だ。もったいないじゃないか。
「完全魔導式超小型魔導炉形成。同工程を複製。各魔力経絡に同化。ノード同期。キャパシタ増強」
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着ていたローブに付いていた護符やら呪具やらと自らの髪の一部を材料に、無限と言って良い魔力を生み出す炉を創り出す。
異世界人の魂が言うには質量を融かしてエネルギーにしてるようなもんだとかなんとか。
さらに魔法を使うための “焦点具” の機能も、突然変異的に宿していた生来のものを、より高機能にアップグレード。
出来上がった複数の魔導炉を体中の経絡に同化させ、さらにそれぞれの出力が同期するように調整を施す。
ついでに瞬間的な放出量を増強できるように、蓄積機構も増強する。
もともと魔法チートで無限といっていいほどの魔力があるが、それでもリソースは多いに越したことはない。
やはり魔法チートこそが自分の強み。であれば、その強みを伸ばすことは重要だ。
そうなれば後はもう蛇足のようなものだ。
魔導を視る眼や、肉体強度の上昇、反射速度の増強、並列思考の獲得なども行うが、素体の改造をせずとも体内に常駐化した術式でも賄えるため、せいぜい人類種の上限値いっぱいくらいまでに留めた。
具体的には
……というかシミュレータで検証してみたが、身体を弄り過ぎると魔法チート自体が消え失せるようだった。
やはり神の手によるチートボディは、絶妙なバランスで奇跡的に成り立っている代物らしい。
特に、元のチートの持ち主の魂のほとんどが洗い流された今では、そのバランスもシビアになってるのだろう。
魔法性能以外で素の性能が人類種を逸脱するレベルになるとアウトっぽい。
サイボーグ的な外付け装置との融合とか術式による強化とか整形とか若返りはいけるっぽいから、基準がいまいち分からないが……。
他の強化も考えているが、それは現実世界の情報を得てからの方が良いだろう。
稀少な呪物や他の魔導師が書いた論文に刺激を受けてからの方がアイデアも湧くだろうから。
あとそもそも資材も足りないし……。ほんとにここには何もないのだ。
「恒常性維持術式、基準値更新。これで馴染んだかな……よし。ではいざ帰還の時間だ。
この空間は便利だからまたそのうち利用するとして……」
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じゃあ、いこうか。
「隠蔽術式、流動妨害術式、常駐起動。
時空間遷移術式、起動!」
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リサイクルされた魔法使いが、虚無の空間に穴を開け。
そしてその穴を通って消え失せた。
◆魔法チート
大体何でもできる、っぽい。知識がなくても魔法や魔術が使えるが、知識があった方が有効活用できるようだ。
◆リサイクリタ・マギア
Recycelte Magier。適当なドイツ語。