フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
作中世界のステータスや
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◆前話
エーリヒ君「500ドラクマパーンチ!!」
※概ね1ドラクマ100万円として500ドラクマだと “5億円の拳”
褒賞金の窓口は国を跨いでいるし、他にも私的な討伐褒賞はいくつもの交易商会に分散している。
それらへひとつひとつ申請しなくてはならないのだが、こういう時に貴族籍があると話がスムーズに進みやすくて良い。信用が違うよ信用が。
そうじゃなきゃ私(見た目14歳くらい?)とエーリヒ君(12歳)だと未成年だからというので申請手続き自体ができるか怪しいところだった。
手続き関係で家の名前を使うから、あとでミュンヒハウゼン男爵家にも顛末を伝えておこう。
実態は名義貸しに近いが、一応私はそこの末席に名を連ねてもらっているし。
帝都にもミュンヒハウゼン男爵家の別邸はあったはずだからまずはそちらに連絡かな。
そういえば一度挨拶に伺ったきりだな……。
各国各商会の窓口へ申請が終わったら次は事実確認のための調査団が組まれるだろう。
それは各国個別かも知れないし、沿岸諸国で協力するかもしれない。あるいは魔導院にも相談があるだろうか。
調査団によって事実確認がされれば、それでようやく褒賞金の支払いだ。
どんなに早く見積もっても支払いまで半年はかかるんじゃないかな。金額も大きいし。
ただ今夏の内に(=冬に海氷が発達する前に)航路の開通調査自体はした方が良いだろうから、もっと審査と支払いが早まる可能性はあるね。
まあというわけでエーリヒ君を帝都に送り届けた後は、各地に飛んで、それらの申請書を書いたり、聴取を受けたり、証拠として現物をデンと取り出して見せたり、関係各所に連絡したりと、私は結構忙しかった。
しかもこの上、
新しい北海航路が一つ開通したことを知らせるためと、それを成したのが自国の貴種だということを知らしめて国威発揚と示威行為にするためらしい。
流石に帝都では私もパレードに参加しなくてはならないが、地方行脚は遠慮させてもらった。
ちょっと流石に遠いし、拘束時間がねえ……。
またその関係で、私の
デビュー前の者を功労者としてパレードの御輿に乗せるのは外聞が悪いらしい。
ちなみにエーリヒ君はその辺をスルーして私に丸投げしてきた。
「名誉点要らないの?」と聞いたら「それは冒険者になった後に自分で積み上げる。今回みたいにおんぶにだっこではなく自分自身の功績として」という答えだった。ひゅー!
……面倒ごと丸投げしただけでは? と思わなくもないが、いいさ、甘んじて受けよう。適材適所だ。
さてパレード関係は未来の自分に任せるとして、魔導院の御用板の方の依頼の顛末報告と報酬についても触れておこう。
まずは電子励起爆薬関係。
こちらは使用感の
「おお爆煙はちゃんと蝶サイコーな形になったんだな」
ぴっちりしたドレススーツに包まれた長い脚を組むパピヨン卿が満足げに頷く。
彼の背から生えている
ここはパピヨン卿の工房の応接室だ。
……出された紅茶/緋茶*1の茶器はもちろん蝶の模様が上品に施されたものだった。あと壁には蝶の仮面がたくさん飾ってあるし、蝶の標本も展翅して飾られている。
「パピヨン卿、気にするのはそこですの? 威力ではないのですか」
同席しているターニャが呆れ声を出した。
「フン、竜鱗も貫けないようではね」
「それは相手が悪かったとしか……」
私は一応、言い訳をしておく。
あっさり倒したが、
一般化はできないだろう。
……だから初手で電子励起爆薬で戦術級の爆発を浴びせまくって削り倒したんだけど。
どんな魔獣でも戦術核で連打してから首を飛ばしてやれば「ね? 簡単でしょ?」ってなもんよ。
一部の本当に極まった怪物は除くが。
「確かに並みの亜竜なら消滅させられていただろうね。危害半径も想定通り……か」
「ええ。分かりやすいように俯瞰視点の情報出しますわ」
そう言うとターニャが空中に光波の権能で爆発の様子を投影する。
ターニャが
悪竜討伐時にはターニャの輩である
「見事な再現だねえ。そして非常に精緻にして優雅な術式だよ、ターニャ嬢」
「光栄ですわ、パピヨン卿」
周辺の海域を含めて投影された俯瞰視点の爆発の映像を、私とターニャ、パピヨン卿は観察する。
海の真ん中で比較対象が無いため縮尺が分かりづらいが、国境の城塞程度なら呑み込めるだろう火球と爆発が連鎖する様子が映し出されている。
「問題は威力に対して制御が出来てないことだな」
「そうですね……光体による防護がなければこちらも被害を出していたでしょう」
そう、これは封入した爆薬を起爆するという性質上、発生した爆発が純粋物理現象に属するので指向性の制御が難しくなっているのだ。
海の上のような何もない場所で使うなら良いが(良くない)、街を目標に使用したら酷いことになる上に、術者も焼けるだろう。
従来の大規模魔導であれば、現象構築時に指向性を組み込み、一方向に爆発を集束させたり、味方に影響しないようにすることも能うが、この電子励起爆薬による爆発はそれが出来ていない。
「危害半径の外から投射するか、専用の指向性制御術式が必要だな。やはり製造過程で組み込む必要があるだろうか?」 とパピヨン卿。
「あるいは固定目標に設置後に時限式で爆発させるようにして、そのカウントダウンのあいだに離れておくとかですかね。まあ光体による防護みたいに装甲で耐える方法もなくはないですが」
<
……ターニャの真似をしようとしたが上手くいかない……。
イメージを脳直で投影できればと思ったのだが、ぼんやりした像しか結ばないな。
練習が必要か、それかアプローチが間違ってるかだな。……私のセンスがないという可能性もあるがな!
「……ん、
「ふふ、難しいですわよね? おかあさま。光の権能を持つ私でも少し練習が必要なくらいでしたから。
さておき、今回の悪竜退治では接触信管式と仰っていた方式を試したのでしたか? 他にも思念通話のような手段で遠隔起動する方法もあるのでは」
あーだこーだと他にも今回の試行で気付いた点を議論する。
……そもそもどういう状況で何を標的に使うことを想定するのかを置き去りにして。
この議論をまとめたレポートを
くっ、なかなか手強いな魔導院……!
……え? あれだけ派手にやったんだとしたら帝国から術式の開示請求が来たんじゃないかって?
来たけど未完成なので秘匿します、で通してるよそんなの。
下手に不具合がある可能性があるものを表に出せないというのは、建前でもあるけど真実でもあるからね。
なお完成した暁には開示するなどとは言っていない。
もう一つの御用板の依頼であるサンプル採取対象としての
依頼元はノヴァ教授にしてもらったが、実際は私が虚空の箱庭のエミュレータに突っ込むためのデータを欲しがったせいだったしな。なんという
討伐済みなので単位もゲットだ!
まあこれで虚空の箱庭の土地の広さを増すための土砂鉱物を得るための帝国各所トンネル開けまくり穴掘りまくり計画のための資材も揃ってきた。
特に
あとは私自身の造成魔導系の知識の習得が急務だな!
というわけで、やってきました魔導院―― のある南東方面の門から帝都の外へと出て暫く行ったところの丘陵へ。
何のためかというと、造成魔導系の講義の実習のためだ。
もちろんここに居るのは私一人ではない。
同じ講義を受ける聴講生がたくさん周りには居る。
ライン三重帝国のインフラを支える造成魔導師の希望者はそれだけ多いのだ。
――― 万が一研究員になれなくても喰いっぱぐれないしね。
造成魔導師はどこに行っても需要がある。
開墾したり街道を維持したり港を作ったり運河を掘ったりどこでも引く手数多だし、そもそも人手が足りていない。
辺境から苦学して魔導院に通い、地元で就職して地元の発展に努めるってパターンも多いらしい。
いやあ、夢に生きる若人って素晴らしいねえ!
「あれが落日派の囲われっ子……」
「……帝城を吹き飛ばしかけたとか」
「なんで生きてるんだ? 爆心地に居たんだろ」
「実は死霊になってるとか」
「海竜殺し、か……」
「しかも転移魔法の使い手なんだろ?」
「遺失魔法だぞ。あの歳で
「見た目通りとは限らないわよ。だって落日派よ?」
「そういえば半妖精の女の子に“おかあさま”って呼ばれてたぞ」
「男に見えるが、じゃあ
「そういう種類の変態なのかもしれない……」
「ライゼニッツ卿とも親しいとか」
「あー。っぽいわー」
「俺は最近の農業同業者組合の活性化に関わってるって聞いた」
「ていうか魔力量やばっ」
「限界まで抑える術式噛ませてるっぽいのにそれってヒト種の魔力量じゃねえよ」
「常駐術式の数もえげつないっぽいわね」
「にじみ出る術式の余波を見てるだけで目が回りそうだ……」
「こわっ。近づかんとこ」
そんな素晴らしい若人たちに遠巻きにされてる件について……。
―― ちくしょう、泣いてなんかねえぞ……。
これは
まあホントは気にしてないけどね(ケロリ)。
ふふふ、あんまりに舐められるのも面倒だから魔力や常駐術式を少しだけ見やすくしてるのはワザとだし。
そしてその効果はあったようだな。
あとスクールカーストとか面倒だから関わりたくない……。
学生の内は研究だけしとけ、研究だけ。
いや、教授になった時のための政治闘争の予行演習と思えば不思議でもない、か?
でも結局
さて、こういう基礎教養を取るような聴講生は十代前半が多い。周りも思春期前くらいの少年少女ばかりだ。
もう少し歳がいけば、こんなに聞こえる距離で本人の噂を話すなんてことはせずに抑えめになるはずだし、あるいは利害関係から打算を持って近寄ってくる者も出てくるだろう。
いまは大半の聴講生たちは、理非も良く知らずに本能的に異物を排除しがちになってるだけだ。
それが分かっていればこちらは彼らの成長を見守る気持ちで生暖かく見てられようものだ。
とかやってるうちに、丘陵を登りきった。
「はい、本日は皆さんに、この丘の “測量” をやってもらいます」
講師の魔導師が言うとおり、ここには今日は測量の実習にやってきたのだ。
それぞれの聴講生が、印が付いた長い紐巻き尺に、一定間隔で塗り分けられた背丈ほどのポール十数本に、“下げ振り” と呼ばれる鉛直方向を定めるための錘に、測点を明示するために地面に刺す “ピンポール” もたくさん持っている。
いずれも今日使う備品だが結構な大荷物だ。
斜面の長さを計り、最終的にその斜面を平面図にした時の距離を割り出すという課題だな。
もちろん、記録用の
金がない奴は蝋板と
「測量用の魔法を使えばいいという考えもありますが、一度は魔法を使わないやり方を体感しておくべきです。
君たちが造成魔導師として赴任した先で魔法を使える部下が居なくても適切な指示をし、また、部下から上がってきた図の誤差を修正するためにもね。……そうでないと測量から何から全部自分たちでやる羽目になりますよ」
確かにな。
測量から何から全部魔法を使ってちゃ、魔力も足りないだろう。
……私は足りるが。むしろ余るが。
「では私は頂上付近に陣取ってポールを立てておきますので、そこから放射状に広がるように斜面の距離を測ってください」
なるほど。
「今日は参加者が偶数だから
ん?
「はーい、それじゃあ2人組作ってー」
ふぁっ!?
あっ、みんな動き出しが早い!?
ええと、他に残ってるのは……あ、1人の子おるやーん!
男か女か分からん中性的な美少年やね……って、眼が合った。逃がさんよ!
「そこの君! 今日の実習ではペアとしてよろしく頼む!」
「ええと……僕で、良ければ……」
――― これが、後にエーリヒ君の無二の親友となる造成魔導師志望の聴講生ミカと、エーリヒ君の腐れ縁である私こと落日派ベヒトルスハイム閥のマックス・フォン・ミュンヒハウゼンの、その邂逅の経緯である。
そこに生まれるのは好意か嫌悪か、友情か隔意か。
(※時系列的にはこの時点で、ミカくんちゃんとエーリヒ君は既に出会っており、ある程度親しくなっています。)
次回。
――― 必須タグ追加の予感――――!