フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
あと、必須タグも「性転換」追加です。まあどのみちミカくんちゃん出したら必然、ね。
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◆前話
ぼっち虐殺呪文 <はーい、いまから2人組つくってー>
測量実習で組んだ中性的な美少年は『ミカ』という名前だそうだ。
顔だけじゃなくて名前まで中性的だ。
北方の地の出身で、家名の名乗りはなかったから彼は平民らしい。
しかし凄い美少年だなあ。
少し癖のある艶やかな黒髪は天使の輪ができるほど。
大きな瞳は琥珀のような透明感のある輝きを宿す。
精悍でもあり可憐でもあるその顔の造作は、やはり男女どちらともつきがたい。
どちらでもなく、どちらでもある。そういう妖しい美があった。
「いやあ助かったよ、ミカ君。私は何だか皆から避けられてしまっていてね」
いまは測量実習を終えて丘からの帰り道。
もうすぐ秋になろうというところだが、まだまだ暑い。ローブの気温調整魔法陣がなければつらいところだ。
それで、無事に実習を終えた私たちは、測量用の資材を持って帝都への道を帰っているところだ。
……まあ即座にペアが見つからなかったのは、イキって
礼を述べる私に、ミカ君は固い笑みで応える。
「……いえ、こちらこそ。ミュンヒハウゼン卿」
「あはは、マックスと呼んでくれよ。これからもよろしくお願いしたいからね」
「これからも、ですか」
「そうそう。ちょっと造成魔術系の講義を集中的に受けたくてね。こういうペアを組む機会も増えるだろうから、もしまた一緒の講義になったらよろしく頼むよ。君は造成魔導師志望なのだろう?」
それだけ真剣で、手を抜かずに丁寧な測量をやってくれたからね。
どうせ組むなら実力があり真面目な聴講生の方が良いものだ。
さらに能力も優秀なようだ。これは未来の教授様かな?
そして少し関わっただけでも分かるミカ君の人徳よ……徳が高い……。
「ということは、ミュンヒハウゼン卿も造成魔導師志望なのですか?」
「マックスと呼んでくれたまえー。質問に答えると、本職にするつもりはないのだが、論文を書くのにそれ系の知見が必要でね」
「論文を」
「そうそう。まあそのうち詳しく話す機会もあるかもしれないけど、流通の改善のための運河・都市間地下道の開削・掘削について構想していてね。
―― 帝国中を掘り返してやるんだ……!」
「それは……壮大ですね?」
あっ、
くそう、現実的なラインに落とし込む目途は立ってるんだからな!
そのための
「むむむ、生温い目で見おってからに。まあいずれ詳しく語ることもあろうさ……」
「あっ。いえ決してそのようなつもりでは」
慌てるミカ君を見てニヤリと笑う。
「許そう! ただし、私のことをマックスと呼んでくれたらな」
「……ええと。はい。マックス……くん?」
「ああよろしくな、ミカ君」
はにかむミカ君に、こちらも笑みを返す。尊い。
帝都の門まではあと少しだ。
「ところでミカ君、
「? いえ初対面かと」
「そうか。どこかで見覚えがあるような気が……」
うーん。何だろうな……。
まあ思い出せないなら大したことではないのだろう。
そしてその後も何度か実習や講義でミカ君と一緒になってそれなりに打ち解けてきたある日のことだった。
たまたまミカ君が彼の師匠の―― 名を聞くと黎明派の教授だった―― 用事に駆り出されて不在だった時の講義が終わった後のこと。
私がミカ君のためにと講義内容をノートに書きつけたものを自動筆記魔法で複製させていた時に、同期(確か同期のハズ)の聴講生の一人が話しかけてきたのだ。
――― 「ミュンヒハウゼン卿。
「ナニモノの何も、ミカ君はミカ君だろう? それとも何かい、実は彼はヒトの皮を被った異星の化け物で……とでも言うつもりかい。それなら面白いのだがね」
暗に “お前の話は面白くなさそうだから消えろ” と伝えるも、どうやら伝わらなかったらしい。
「あー、いやそんなことはないのだが。だがその様子だと知らないのだな。彼が――
それは北方の極圏に暮らす人類種のひとつで、非常に厳しい生息圏において、効率的にかつ安定的に生殖を行うために、女性→無性→男性→無性→女性……と振り子のように自らの生物学的性別を切り替えていくヒト種の近縁種のことだ。
性別シフトの間隔は1カ月程度だったか。
その間に彼ら
帝国に入植したのは近年のことで―― ヴァイキングの略奪や厳しすぎる自然を避けて南下するのは当然ではある―― 北方ではともかく帝都や南部では馴染みが薄い種族だ。
まあ帝国は他種族に寛容だからそのうち馴染むとは思うけど。
……ただまあ、魔種や獣人種とも違い、不気味の谷現象とでもいうのか、近いがゆえの違和感、というものがあるのだろう。
私に親切ぶって、ミカ君の出自を教えるこの同期聴講生もその口なのだろう。
は~~~~(クソでか溜息)
こういうやつ
どーせ私にミカのことを吹き込んでるのと同じ口で私の陰口も広めてるんだろ~~? 知ってたー。
「出自や種族が研究開発能力に関係するのか? 他人のことを詮索する前に論文のひとつも仕上げたまえよ」
「ああそれがな、
うーわ……。
ドヤ顔して何言ってんの……。
しかも講義室を見渡すと、結構な数の聴講生がコイツの意見に賛成っぽいのが伺えてげんなりする。
そりゃまあ未知の探求は
そういうのはちゃんと下げ渡された犯罪者の検体相手に留めときなさい(落日派並感)。
その上こいつら、ミカ君が用事を済ませて私に講義ノートを受け取りに来るのを見越して、わざと聞かせるように言ってるんだぜ?
性格悪ーい。
……そして私の常駐感知術式が捉えたところによると、ミカ君が折悪しくこの様子を廊下で聞いてしまっているというね……。
「そうか。諸君は
「! ああ。そうだ、ミュンヒハウゼン卿は落日派だというし、君も興味があるんじゃないかい? 協力してくれるか」
「ああいいとも。協力してやろう」
廊下でミカ君が絶望してるっぽい愕然とした気配が伝わってくるが、別に君との友誼を裏切るつもりはないのさ。
安心したまえ。
……『協力してやる』に対する
お前たちの思う協力と同じとは限らんがなァ――――ッ!!
「そんなに
「「「 !!!? 」」」
講義教室中の驚愕が伝わってくるが、もう遅いのだ。
雉も鳴かずば撃たれまい。藪をつついて蛇を出す。せめてこれで学ぶことだな!
<
<
落日派にとって肉の器の性別程度、どーでもいぃーいのだぁーー!
性別反転ついでに理想の恋人の姿になって性癖をさらけ出すといいさ! フゥハハハー!
私が行使した魔法によって、次々と教室中の人間の性別がピンクのもやもやしたエフェクトとともにPONと反転していく。
「なっ、何をした!?」
もちろん目の前の同期聴講生も。
へえ、君の好みはそういう感じかぁ。へー。
「見ればわかるだろう。私も、君たちも――― 性別が反転したのだ!!!」
ふむ。私は女性化するとこういう声になるのか。
髪とかは……ああ、これは
胸は……まあ、
そう。一応言い訳が利くように、私は自分も性別反転の対象にしている。
何か問われたとしたら、同期聴講生から請われて行使した自分を対象にした性別反転術式が過剰魔力のせいで周囲に伝播した、ということにするさ。
理論武装は出来ている。
あとは肉体を変性させるような
変化させるときに理想像になるように術式を構築したから、教室中が一気に華やかになった。
美男美女のオンパレードだぜ!
「ふん。そんなに研究したきゃ、自分の身体でやることだな」
「そ、そういうことは言ってないだろ!?」
「協力はしてやったぞ。必要なら術式の触りくらい開示してやるから。先行研究文献の探索手伝いもな」
同期として、向上心があるなら歓迎だからね。真面目な協力ならやぶさかではない。
それに性別反転術式程度なら、実際に先行研究もあるだろう。
宴会ジョークじみた余興の術式から、性同一性障害の治療まで幅広くな。
そう言ってシッシッと追い払うと、同期聴講生は憤然として去っていった。
……若干手鏡を気にしてるのが微笑ましい。
そこまで魔力込めてないから何もしなくても1日程度で解けるはずだし、かなり不自然な状態だから聖堂に参るだけでも場の魔導抵抗が強まるのに影響されてすぐに解呪されるだろう。
…………このうち何人かが新たな性癖に開眼するかもな?
まあそこまでは責任持てないぜー。
さて。
『ミカくーん、早く入ってきたまえよ』
廊下で待っていたミカ君に思念通話術式で呼び掛けると、彼は周囲を気にしつつ講義室へと入ってきた。
だがいま、ミカ君に注意を払う者は居ない。
みんなそれどころではないし、いまこの講義室では
彼にも性別反転術式が浸透したと思うのだが、何も変化無しということは、無性の状態で性別反転しても無性のままなのだろう。理想容貌化は……通ってないか、初恋とかまだなんだろうな、変化無しだ。
………こっそり実験したみたいでバレると信頼失いそうだから魔法の範囲に入れちゃったことは黙っておこう。
「マックスくん……」
「御足労かけて済まないねー。これ講義メモのノート。ま、これからもよろしく頼むよ………ってことで」
そう言って羽ペン20本並列で高速写本した講義ノートを渡してやると、ミカ君はくしゃりと顔を歪めて泣き笑いのような表情になった。
「ああ、こちらこそ。マックスくん」
「これで君も教室で多少過ごしやすくなると良いんだけどね」
「その分マックスくんの評判が下がったんじゃないかい?」
「気にするほどの評判が元からあったとは思えないがねー」
「はは、そんなことはないと思うよ」
「どーだか」
ま、心遣いは受け取っておくよ。
あ。思い出した。
「どうかしたのかい、マックスくん」
講義室を出てミカ君と途中まで一緒に歩いていると、唐突にミカ君に既視感を覚えた原因について記憶が蘇った。
「ミカ君。君さ、前に私を助けようとしてくれたろう?」
「……思い当たる節はないんだけど……」
「まあ無理もないさ」
あれは確か少し前に私が下水道関係の御用板の依頼をこなしていた時のことだ。
油断したわけではないが、廃棄された薬品に込められた魔法同士が変に相互作用したのか、常駐術式を抜いて私の肉体まで作用してきたことがあったのだ。
興味深いからその時の廃棄混合魔法薬の組成や作用は記録したが、結構大変なことになったんだよな。
そのとき私は虹色の泡を吐きながら倒れて痙攣する羽目になった。
まったく、魔法チート製の障壁や恒常性維持術式を貫通するとかマジで勘弁してくれよ、どこのマッドの産物だよ。
魔法嫌いの極夜派の魔法消去系の廃棄物かなんかだったのか?
ああいや今は廃液の出所はどうでも良いんだ。ラーニング出来たから二度目は効かなくしてるし。
で、殺虫剤で死にかけの虫のようにピクピク痙攣してたところに、通り掛かる2人組が居てね。
多分私と同じように御用板の依頼を受けた聴講生だったんだろうけど。
そのうちの一人が君さ。
「あ!」
「思い出したかい? 虹色の泡を吐きながら倒れてたのが私さ」
「ああ~~! あの時の! 泡を吐くって言うか、身体がブクブクと虹色に泡立ってたけど……うっ」
そうその時の。
って、体感より酷い有り様だったんだな、私。
1回は死んでたんじゃないか?
ミカ君が思い出して青い顔してるが、そんな風な異様な風体なってた私を目撃したなら無理はないな。
「あのあと一度危険だから離れたけど、そのあと戻ってきたら居なくなってたから心配してたんだよ」
「その節はお見苦しい姿を……。お陰さまでピンピンしてるよ」
廃液に適応して復活して移動したから、その後は鉢合わせなかったんだよなあ。
あー、思い出してスッキリした!
「良かった……。その時の連れは『どうせ無事だから心配要らない』って言ってたんだけどやっぱり気がかりで……」
「ああ、エーリヒ君は私の再生能力をよく知ってるからねえ」
「…………」
「うん? どうかしたかい、ミカ君」
急に足を止めたミカ君に振り返る。
彼の顔は、さっきよりも尚も蒼白だった。
「ま、マックスくんは、エーリヒを知って……?」
「スタール卿の丁稚のエーリヒ君だろ? 金髪の剣士。帝都に来る途中で縁あって彼らに同行してたからよく知ってるよ」
この間の海竜殺しも手伝ってもらったし。
エーリヒ君の妹のエリザちゃんと、私のとこのターニャは半妖精繋がりもあって仲が良いし。
すると蒼白な顔のミカ君は私の手を引いて、人目のないところへと駆け出した。
「どうしたんだい、ミカ君。そんなに……泣きそうになって」
「……お願いします」
「んん??」
何を? というかさっきまでの会話に彼がこんなに追い詰められる要素あったか?
こちらにすがり付くように詰め寄るミカ君に疑問を覚える。
「どうか……! どうかエーリヒには、僕が
いや別に話したりしないってほらちょっと近い近い近い!
離れて! はーなーれーてー!
そんな涙目で上目遣いで迫らないで! ダメですお客様! あーあーあー! 開いちゃう! 変な扉開いちゃうからぁーー!!?
ちがう! 上目遣いを止めろってのは、壁ドンしろって意味じゃない!
いま性別反転してるから余計にトゥンクって来ちゃう!?
分かった! 分かったから! 喋らないよ! 誓うよ!
だから離れてぇ!!!!!!
【訃報】マックス君、画面外で死んでた【6話ぶり4回目】
そしてさらに危うくキュン死しそうになる。
なお特にマックス君がミカくんちゃんに惚れるとかいうことはありません。
でも色香がヤバいのでクラっとはする。ミカくんちゃんマジで魔性よ、ホント。好き。
時系列的には、エーリヒ君とミカくんちゃんが魔剣の迷宮に行く前くらいですね。エーリヒ君12歳の夏から、誕生日迎えて13歳の秋に移り変わるくらい。
つまりまだミカくんちゃんが中性人であることはエーリヒ君にバレてません。
次回はミカくんちゃん&同期聴講生ズと研究(運河・地下道計画の具体化)か、ヘルガ嬢の目覚め、かしら。