フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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迷った結果、前回の話の余波(オチ)と造成魔導系講義を受けた発端である物流改善計画についての話にしましたー。

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◆前話
性別反転・理想容貌化の被験者たちと学内で次々にすれ違ってしまった某死霊曰く、不意打ちで性癖にクリティカル連打されたせいで「今までで一番昇天しそうな日でした。むしろいつの間にか天国に来たのかと……」とのこと。

ライゼニッツ卿(生命礼賛主義者)「……なんか今日は私好みのかわいい子たちがたくさん、しかも女の子は男の子の格好で、男の子は女の子の格好してて……ここは……桃源郷……????」

これを切っ掛けに閥に勧誘された聴講生も居るかもしれませんね。……現場からは以上です。
 


9/n 講義も受けよう!-3(とても壮大なる計画と同期聴講生アヌーク・フォン・クライスト(性別反転中))

 

 ミカ君に「エーリヒにはどうか内緒に……!」と縋り付かれた日から暫く。

 

 いやあ後から考えると「黙っていて欲しかったら……分かってるよね?(ニチャア)」というネタを挟んでも良かったんだが、あまりにもミカ君の顔が良すぎてそんな余裕はなかった……。

 顔が良い。あまりにも顔が良い……尊い……。ありがとうございました。

 

 んで、カッとなってやった性別反転の余波はそこそこ大きく、目論見どおりに中性人(ティーウィスコー)に対する一定の理解が芽生えたようだった。

 概ね「ふーん性別反転って言ってもそんな大したことないじゃん。中性人(ティーウィスコー)もそんなに怖がらなくていいのね」という反応が多かったので良かった良かった。

 むやみやたらとミカ君を嫌厭する空気は払拭されたといって良いだろう。

 

 

 

 ……え? もう一回TS体験したい、ってハマった奴らはいなかったのかって?

 

 そら()るよ。

 でもそこから先は別料金ということにしておいた。必要な分は見せたということだ。

 

 “それ以上は自分で研究するか、御用板経由で私に依頼してくれ。相場はコレこれで。”――― ってしたらホントに何件か依頼が来たんだもんな。理想容貌化のオプション付きで。

 割りとぼったくり価格にしたと思ったんだが。…………その子らの裏に出資者が別に居る可能性を少し疑ってるが。例えば某生命礼賛主義者(ライゼニッツ卿)とか。

 まあいいや、小遣い稼ぎになるし、熱心な子からは魔導具化の共同研究も持ちかけられてて興味深い。

 

 実は永続的な性別反転は難しいから、常に魔力を消費して魔法を維持するしかないのだよなあ。

 あるいは少しずつ馴染ませる施術をするか。

 

 性別反転に限らず、肉体を変性させる魔法はだいたいそう。

 世界の復元力が邪魔をするから永続する魔術にはしづらいことが多い。

 神々はあるがままを愛しているということだな。

 

 私の場合は膨大な魔力で常駐系の賦活術式(バフ魔法)を維持してるからその問題は力技でクリアしてるけど。

 あ、流石に性別はもう戻してるよ? それ以外の肉体賦活とかのことね。

 

 私みたいに常に魔力消費して維持しても、神の奇跡でディスペルされたら(たとえそれが成り立て神官による初級の奇跡でも)すぐバフを剥がされかねないんだけどね。

 こればっかりは相性の問題だ。世界の管理者権限の行使たる “神の奇跡” は、世界を誤魔化して歪める魔法魔術への優位性を有するがゆえに。

 

 

 ああ、あと御用板で依頼してきた熱心な子たちには、ひょっとしたら魂と脳と肉体の性同一性に齟齬がある子たちも含まれてるかもしれないね。

 性別反転術式を受けてはじめてしっくりくる性別に気づいて、その子たちが楽に生きられるきっかけになったとすれば、まあそれはそれで良い機会だったのかもしれんね。

 

 まああのときは、ついでに理想容貌化―― 多人数に拡散した分出力は低めだから性別反転後の(かお)をベースに微妙な調整でパーツが整う程度=『もし自分の性別が逆だった時に極限まで好みの(かお)になったら』を実現したもの―― の術式まで施したから、そのせいで目覚めちゃった子たちもいそうだけど。

 とはいえ流石に日がな一日鏡を見て過ごすほどに拗らせはしないと思う……しないんじゃないかな、たぶん。

 

 

 

 という訳であの日私に絡んできた同期聴講生こと、アヌーク・フォン・クライスト君ちゃん(性別反転中)です。

 ほら、ミカ君に謝って! 誠心誠意頭を下げて!

 

「……すまなかった。今後は貴公のことを尊重し、2度と過日のような不躾な申し出はしない」

 

 はいよくできました。

 ここは課外活動用に借りた演習室の一室だ。

 そこに呼び出したミカ君に、アヌーク同期聴講生の頭を下げさせる。

 

「え、あ。えっと……」

 

 戸惑うミカ君。彼は人が良いから “謝られたら許さなきゃ” とでも思ってるのかもしれないが。

 

「うん。許す許さないは口にしなくていいからねー」

 

 別に今許す必要はないのだー。

 頭を下げたというポーズと、和解の意思を向こうから示したということが大事なのさ。

 

 ミカ君に隔意を持っていた筆頭のアヌーク同期聴講生が矛を下げたなら、他の人間も絡みづらくなるだろうから、講義の居心地もさらに良くなるだろうと思う。

 

 

 

 ちなみにアヌーク同期聴講生についてだが、性別反転術式の継続顧客になった内の一人である。

 ただ、実家からの仕送りだけでは常に性別を反転させることなんて出来ないので、私と一緒にいる間は術式をかけてやるという条件で、こっちの用を手伝ってもらってるのだ。

 また、アヌーク同期聴講生こそが、性別反転術式の魔導具化にも積極的で共同研究を持ちかけてきたガチ勢だったりもする。

 

 そういえば “アヌーク” という名は隣国のセーヌ王国*1では女性名のアンナの愛称のひとつだけど、北方離島圏のさらに先では(クマ)を意味する男性名でもあるとか。

 きっと彼(彼女)も、名前で揶揄われたりとかしたことがあったのでしょう……。

 

 あとそこまで性別反転に熱心ってことは、アヌーク同期聴講生自身が性同一性障害だったのかもしれないし、あるいは身内で何か性差の壁にぶつかって困ってる人でも居るのかもしれないね。

 わざわざ今の時点でそんなプライベートなことに踏み込もうとは思わないけれど。

 

 だからと言って似たような境遇のミカ君に礼を失して検体になれみたいなことを、貴族籍をかさに着て迫るのが免責されたりはしないが!

 それとこれとは別! 盗人にも三分の理があったとしても、そもそも窃盗が罪なように。

 ミカ君みたいないい子になんてことを……! と思うあたり、私もかなりミカ君に絆されてるよなあ。

 

「……ええと。そもそも僕とクライスト卿を呼び出したのはなんでだい? マックスくん」

 

 性別が反転したアヌーク同期聴講生のことは置いておいて―― 中性人(ティーウィスコー)にとっては隣人の性別が入れ替わることの方が普通だ―― 私に尋ねてくるミカ君。

 

「おお、よくぞ聞いてくれた!」

 

 ミカ君の言葉で現実に引き戻された私は、大きく身振りして袖口から企画書の写しをバサッと―― 実際は袖口に接続した虚空の箱庭の一室から―― 取り出した。

 

 

「いつだか私が言っただろう?

 造成魔導系の講義を受けるのは、帝国中に運河や地下道を張り巡らせる計画を企画するためだって。

 それについて詳しく話して、是非とも2人から意見をいただきたいと思ってね!」

 

 

 

§

 

 

 

 つーわけで真面目な時間だ。

 

 私は、ミカ君とアヌーク同期聴講生に現時点の企画書の写しを渡し、私の頭の中の構想を話す。

 

「例えば北海大運河とか、都市間鉄道とか、様々な問題から頓挫した計画は多々あるわけでーすーがー」

 

「あー。あるよねえ」 腕を組んで頷くミカ君。

 

「とはいえ頓挫したのも相応の理由があるだろう、いち学生がどうにかできるようなものでもあるまい」 そして意外と真っ当な感想を溢すアヌーク同期聴講生。

 

 

 

 運河開削や地下道掘削において問題になるのは、やはりコストだ。

 どこに通すかという用地取得の問題もあるが、それは政治が解決することであるので、とりあえず置いておこう。

 技術官僚である魔導師(マギア)としては、政策を技術的に解決する方法をこそ求められるからして、まずは技術面の課題を解決していこう。

 

 

「ああ、それは超低コストで巨大な横穴を開け続けられる魔法生物の目処が立ったので、何とかなるよ」

 

「え?」 「は?」

 

 

 人間を使っても、馬匹を使っても、魔導師を使ってもコスト的に折り合わない。

 コストを掛ければ運河も地下道も掘れるが、それよりも別にリソースを回す必要があるから手つかずだし、割に合わないと見られている。

 であれば、リソースは既存のものではないところから新たに捻出する―― というか、創り出す!

 

 

 

 そのために巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)のサンプルを北海まで採取に行ったりしたのだ!

 

 そしてかつての品種改良エミュレートの副産物である、魔素に馴染んだ蚯蚓(ミミズ)をベースに魔改造!

 巨大化因子の特定と注入により、運河や地下道の直径まで巨大化させることに成功!(まだ製造できてないのでエミュレータ上での話)

 亜空間に魔導炉を積載し動力源を確保!(あまりにオーパーツなのでここはブラックボックス化)

 

 先頭から溶解液や破砕魔法を出しながら!(そういう魔法を生得的に使えるように改造)

 ズラリと並んだ歯を賦活・再生しながら土砂鉱物を削る!(シールドマシンのように)

 食べた土砂は内部から別の亜空間に転送!(私の虚空の箱庭に送る)

 

 身体の後半は土質に応じてセメント様の分泌物や水ガラスを調製の上、魔術によって固定化し!(ただし分泌物の割合は最終的には指示が必要だ)

 出水やガスもものともせずに進む頑強性を持つ!(よって作業員が被害を受けることはないのだ)

 内蔵魔導炉の魔力を利用したメンテフリーで24時間駆動という高効率!(寝てる間に作業が進むって素敵ね)

 ランニングコストは基本的にゼロだ!(建造費? 今のところ私の胸先三寸だ!)

 

 万が一にも自我を持たないように環形動物であるミミズをベースにしてるから、暴走の心配はないぞ!

 そもそも生体維持にも賦活魔法を多用してるから魔導炉を落とせば死ぬ!

 

 

 私は自慢げに、その魔法生物の姿を空中に投影する。

 ふふん、練習したし補助演算術式を脳に掛けてるから今度は綺麗に映るはずだ!

 

 

 脳内記憶空間投影術式(わたしのろうさくをみよ!)

 

 

「これこそが穴掘りの革命を起こす魔法生物―― 穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター) である!!」*2

 

 

「うっ」 「げぇっ」

 

 おいなんだその名状しがたい化け物をみて正気度(SAN値)を喪失したような声は。

 確かに地質探査・地磁気知覚用の短い触手が巨大な口の周りに生えて、ぬべっとした全体に、円形に何重ものレンガか鱗みたいな歯が並んだ様子はちょっとこの世のものではない感じだが!

 

 …………うん。まあそうなるよね。私も気持ちは分かる。

 

 でも機能を突き詰めるとこうなるんだよ。

 

「これを量産して、同時多発的に掘削を行い、非常に短工期で地下道や運河を掘るという計画なのだ!」

 

「これを……」 「……量産?!」

 

 この<穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)>、理論上の速度はモグラと同等の速さが出せる。

 1分で人間の足の裏の長さ分くらい進むわけだな。

 だから<穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)>は24時間=1440分で、まあ1日辺り400mくらい進む……24時間稼働だからというのもあるが、西暦世界のシールドマシンの25倍くらいは早いのは魔法のおかげが大きい(西暦世界のシールドマシンも24時間駆動はできるし(騒音問題を考慮しない場合))。

 

 100か所に投入したら、1日で40キロメートルの穴が掘れる。理論上はだけど。

 実際は現地トラブルや調整によってそこまでの速度は出せないだろう。

 とはいえ画期的な速度なのだ、これは!

 

 でまあ、そうなると正確に向きを揃えて動かしてやらないと、各区間でズレが出てまともにまっすぐ繋がらないという事態も考えられるのだよな。

 

「だからさ、超高空から映像を取得して<穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)>の進行方向を操るためのナビゲーションシステムを考える必要があると思うんだよな。

 2人は他になにが必要だと思う?」

 

 つまりは航空地図あるいは衛星地図の作成と、測位システムの確立だな。GPS が理想だ!

 

 え?

 空から詳細な地図を作るのは国法に触れる?

 その<穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)>も坑道戦術に使えるから軍に接収されそう?

 

 へーきへーき!

 私たちは企画するだけだから!

 むしろ接収された方が実績になるから!

 

 だから協力して?

 それにもう話聞いたなら逃げられないし逃がさないよ?

 

 さあ、みんなで幸せになろ(出世しよ)うよ!

 ライン三重帝国物流ネットワーク研究会の発足だ~~!

 

*1
セーヌ王国:フランスモチーフと思われる西の隣国にして大国。アグリッピナ氏やパピヨン卿の出身地。

*2
穿地巨蟲(せんちきょちゅう)ヴュラ・ダォンター:モチーフはタイタスクロウサーガの『地を穿つ魔』((英)The Burrowers Beneath/(独)Sie Lauern in der Tiefe)より、クトーニアン。ただし当作においては水に対する耐性はあるし、知性はほぼないので名前だけ借用してるような状態。フリガナは、英名のBurrowers(バロワーズ) Beneath(ビニース)をそのままドイツ語にしたWühler darunterの耳コピ。




 
ミカ君「これひょっとしてマックス君の手綱を僕たちで握らなきゃいけないの……? さ、さすがに手に余る……助けてエーリヒ……!」
アヌーク同期聴講生「想像以上にやばい奴だった、逃げたい。やはり落日派に関わるべきではなかったのか……? だがうまくやれればリターンも……それに性別反転も……」

◆アヌーク・フォン・クライスト君ちゃん(オリキャラ)
前話で突っ掛かってきた同期聴講生。ただのヒト種。しかし性別反転にかける情熱は本物。また造成魔導師志望でもある。
だが魔法チート転生者(マックス君)に関わったばかりに非常に政治的軍事的経済的に重要度が高い研究に否応なく巻き込まれていく(予定)。関わったのが運の尽きだ。

次回以降はヘルガ嬢の目覚めなので、エーリヒ君とエリザちゃんとライゼニッツ卿も出番かな。

追記:おっと、貼り忘れてました。原作web版も更新されてるよ! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/218/ ……これアグリッピナ氏、丁稚時代のエーリヒ君との何気ない日々の会話から余計な着想得たりしてそう?
 

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